大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

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 人類は海を失った。突如現れた未知なる敵『深海棲艦』はたちまちに世界の海を支配し、人類を海から駆逐してゆく。人類に太刀打ちするすべはなく、人類は海を永遠に失った。――永遠に?否。深海棲艦の登場と時を同じくして、本来この世界に存在するはずのないモノが、現れていた。人類の反攻は、世界から忌み嫌われた、彼らがこの世界で戦乱の演壇へと上ることから始まる。




本編
プロローグ


 

「ああ素晴らしい。戦争だ。また戦争ができるぞ。窮途末路の極まるこの世界で、大戦争が!!」

 

 

 

 二十世紀末、ロンドンで一人の狂人の、長い夢が終わりを迎えた。

「ああ、これは良い、良い戦争だった。戦争・・・良い・・・戦争だった」

 彼は薄れ行く意識の中でこれ以上ないほどの幸福感を感じていた。憎き化物を屠り、ロンドンを焼いてやった。ああ、勝利。良い響きだ。願わくば、ヴァルハラでも勝ちたいものだ。

 とうとう意識は途絶え、戦争狂モンティナ・マックス少佐は、ヴァルハラへと向かう。・・・かに思われた。

 途絶えたはずの意識が、再び戻ってくる。死に損ねたか、とも思ったがどうやら違うらしい。目に飛び込んできた情景は、左右に無数の扉が並ぶ無機質な通路と、その真ん中に、事務机に向かう眼鏡をかけた男。

「ここは・・・どうやらヴァルハラではなさそうだが」

 男がこちらを向き、なにやら書類を広げる。

「次」

「まさかこんな場所が地獄というわけではあるまい?通してくれたまえよ、私が逝くべき次の戦場へ」

 男はもう一度こちらを一瞥した後、書類に何かを書き込んだ。その刹那、体が壁へと引き込まれてゆく。なるほど、ここが審判の場ということか。再び、意識が落ちてゆく。

「・・・次」

 

 次に目を覚ました時、彼は波打ち際に横たわっていた。暑い。デブを日光に長時間さらしてはいけないのだ。私が言うのだから間違いはない。

「ここもヴァルハラではないようだが、地獄でもなさそうだ。・・・少なくとも英国ではなかろう」

 遠くには軍港らしき施設が見えるが、艦艇は停泊していない。

「あそこに向かうしかあるまいな」

 軍港に向かって歩く間、少佐は思考する。あの戦いの後自らに何が起こったか。負っていたはずの負傷は無くなり、見知らぬ場所へ現れた。死後の世界としてはえらくお粗末なものだ。地獄も、煉獄も、永遠の戦争も無いのだから。

「!・・・あれは人か」

 前方の砂浜に人影を見つける。どうやら子供のようだ。じりじりと照りつけてくる直射日光のせいで噴出す汗をぬぐいながら近づいてゆく。少女が二人、波打ち際で遊んでいる。

「すまないお嬢様方。ここはどこなのか教えてもらえるかね?」

 黒髪の少女とピンクの髪の少女は、こちらを訝しむように見ている。まあ当然だろう。

「・・・吹雪ちゃん、変質者っぽい?」

「へ、変質者なんて突然失礼だよ!夕立ちゃん!」

 どうやら黒髪の少女は吹雪、ピンクの少女は夕立というらしい。

「変質者とは、手厳しいね。そこにあるのはどこの国の軍港なのか知っているかい?君達は水兵服を着用しているが、関係者かなにかかね?」

 彼女らはまた目を見合わせてから、吹雪という名の少女が説明してくれた。

「ここは日本の海軍泊地で、私達はこの泊地所属の艦娘です」

「日本だと?地球を半周したというのか・・・?それに艦娘とはなんだね?日本の兵科の一種か何かかね?」

「吹雪ちゃん、やっぱりこの人ヤバイ人っぽい?」

「だ、だから夕立ちゃん失礼だよぉ!」

 ふむ、一方的に問い詰めすぎただろうか。しかし、ここは日本だというが、第二次世界大戦後の日本が離島にこのような海軍基地を設営していただろうか?それに艦娘とは?

「だってこの島に普通の人がいるなんておかしいっぽいよ?長門さんに言ったほうがいいっぽい?」

「た、確かにそうかも・・・」

 明らかに変質者を見る目に変わっている。

「聞くに、その長門という御仁が君達の上官なのであろう?是非お目通りを願いたいね」

 それにアーカード亡き今、最早英国に固執することもあるまい。戦争、ああ甘美な響きだ。この世界がヴァルハラでないとしても、戦争がある限り、私は戦い続けなくてはならぬ。

「ひぃ、邪悪な笑みを浮かべてるっぽい~!!」

 

 


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