大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

7 / 34
しぐれてゆくか。1

 朝から曇天模様の鎮守府の執務室には、モニターや通信機を始めとした機器や海図など、様々なものがごった返していた。

「おい、まだつながらないのか?もうそろそろ会敵する頃のはずだろう?ああ、楽しみだな!素晴らしい舞台だ。バルバロッサを思い出しすらするなあ!」

「あの、提督、ちょっと落ち着いていただけないでしょうか」

 そこにいるのは提督である少佐と、大淀の二人である。少佐はクリスマスのプレゼントを待つ少年のように興奮し、燥いでいる。

「・・・おっ!映ったぞ!」

 モニターに大海原と、海面を滑るように駆ける艦娘が数人。

「戦闘海域に艦隊が到達したようですね。もう少しで深海棲艦と接敵するはずです」

「ああ早く見せてくれたまえよ、艦娘の戦争を、次なる私の戦争を!!」

 

 

 

 遡ること数時間、少佐は大淀より説明を受けていた。出撃任務に関する説明だ。

「というわけで、そろそろ我が鎮守府も出撃を行いたいと思います。提督はまだ着任したばかりなので、比較的危険度の低い海域に出撃し、基本的な艦娘の戦闘を知っていただこうと思うのですが」

「うむ、そうしてくれ。万事抜かりなく頼むぞ」

 相変わらず少佐はその顔に愉悦をたたえている。そして今日は一層とそれが濃い。

「艦隊編成については事前にお伝えした通り提督の意見を組み入れながらこちらで決定させて頂きましたが・・・本当にあの子を入れてよかったんですか?」

「良い。普通の手が通用しないのならば少々強引な手を使わねば仕方があるまい」

「そうですか、では出撃する子たちを呼びますね」

 大淀が執務室から出てから数分、大淀と六人の艦娘が執務室にやってきた。

「では提督、わかっているとは思いますけど、各艦娘のご確認お願いします」

 うむ、と言って少佐は手元の資料を眺める。

「旗艦、戦艦金剛!」

「ハーイ!英国で産まれた帰国子女の金剛デース!提督の初めての出撃のFlag shipに選ばれて光栄デース!ヨロシクオネガイシマース!」

 少佐は英国、という言葉に一瞬反応したようだったが、金剛は気が付かなかったようだ。知らぬが仏ということもある。

「艦隊旗艦として前線指揮は君に一任する。重要な任務だ。期待しているぞ」

「任せてくだサーイ!Perfectな指揮で提督のHeartも掴んじゃうヨー!」

 親指を立ててウインクする金剛に少佐も親指を立てて返した。かつてこれほど邪悪な雰囲気のサムズアップがあっただろうか。

「二番艦、戦艦霧島!」

「はい、私霧島です!艦隊の頭脳として金剛お姉さまを補佐致します!」

 本人の言葉通り霧島は頭脳派の艦娘らしい。金剛型四姉妹の中でも一番知性的な顔立ちだといえる。噂では金剛型随一の武闘派でもあるらしいが。

「三番艦、えーッと・・・君は駆逐艦だったかね?」

「そうそう、うちは珍しーい航空駆逐艦の・・・って、なんでや!どう見ても航空母艦やろ!軽空母の龍驤や!ちゃんと覚えてや!」

 ノリツッコミする龍驤に少佐は呵々と笑っている。

「四番艦、駆逐艦吹雪!」

「はい、吹雪です!私頑張ります!」

「五番艦、駆逐艦夕立!」

「頑張るっぽい!」

 この二人は言わずもがな、少佐がこの鎮守府に流れ着いたとき、はじめにであった二人である。あれからしばらくは警戒されたりしたものだが、今は二人とも少佐になついている様子だ。

「六番艦、駆逐艦時雨!」

「・・・僕を加えるなんて、提督は不思議なことをするね」

「戦闘には支障を出さないのだろう?ならば問題はない」

 明らかに時雨は不服そうであるが、少佐は意に介さない。実際編成を担当した大淀も本当に時雨を加えて良いものか悩んだが、少佐の意向ということで加えたのだ。なにせこれから行われるのは演習ではなく、実戦なのだから。

「では以上六名、鎮守府近海に置いて出撃任務を開始いたします!」

「よろしい、敵を打ち倒し、暁の水平線に勝利を刻むのだ!」

 

 

 

 時は進み、再び場面は海上へと戻る。旗艦金剛を戦闘に、六人の艦娘が戦闘海域を目指して進んでいる。

「しっかしあの司令官も呆れたもんや!うちのどこ見て駆逐艦なんてゆうてんねや!どこからどう見ても空母に決まってるやろ!なあ吹雪?」

「えっ!?あ、そうですね、龍驤さんは立派な空母です」

「なんか含みがあるなあ?ま、ええわ」

 龍驤は速度を落として吹雪の横につき、顔を近づけてくる。吹雪は怒られるかと思い少し怯んだが、どうやら違うようだ。

「あの司令官が変わりもんなんはようわかってるけど、時雨をこの出撃のメンバーに入れたのはようわからん采配や。どう思う?」

「どうって・・・姉妹艦の夕立ちゃんもいますし、時雨ちゃんがいるのもおかしくないんじゃないですか?」

 しかし龍驤は腑に落ちない様子で、ちらりと最後尾の時雨を見やってからまた小声で語りかけてくる。

「普通最初の出撃なんてもんは何事もなく終えたいもんやろ?そこに、言っちゃ悪いけど不安要素の時雨を入れるのは道理に合わんってもんやで」

 実際時雨は任務は卒なくこなしているものの、積極的に他者と関わり合おうとしている様子ではない。命を預け合うもの同士、お互いを理解することは重要なことである。せめてもう少し消極的すぎる性格が改善されてからの出撃でも遅くはないと、龍驤は思う。

「とにかく今日のところは無事に帰るで!もしかしたら戦闘経験が時雨にプラスになるかも知れんからね」

 そう言って龍驤は元の位置に戻っていった。なんだかんだ言って面倒見のいい人だ、と吹雪は思った。

「もうじき戦闘海域に到達しマース!龍驤!観測機の発艦、頼みますネー!」

「あいよ!任せといて!」

 龍驤は巻物のようなものを広げると、そこから艦載機を発艦させた。この観測機は鎮守府のモニターに映像を送信できるようになっており、俯瞰的な視点を得ることができる仕組みだ。

「霧島、視覚情報を同期します!」

 龍驤の観測機と同様、霧島のメガネにも仕掛けがしてある。こちらはメガネがカメラの役割をしており、艦隊の主観的な映像を送信できる。この2つの視点を送信している先が、鎮守府の少佐がかじりつくように見ているモニターというわけだ。

「マイクチェック、ワン、ツー!提督、戦場からの音声は私霧島がお送りいたしますね!」

『素晴らしい!これが艦娘の視点かね!?こんな戦争行動の形が現実に存在するとは!ああ、私も出撃してみたいぞ!!』

 鎮守府からの音声は、異常に興奮する少佐と、それをなだめる大淀の声が聞こえてくる。相変わらずの変わり者ぶりに霧島も思わず苦笑いがこぼれた。

「提督ぅー!聞こえますカー!?間もなく深海棲艦との接敵が予想されマース!」

『ああ、そのようだな!さあ、私に各員の奮戦を見せてくれたまえ!!』

「任せてくだサーイ!提督に勝利をPresentsするヨー!」

「金剛!観測機が敵艦隊を発見したで!十一時の方向、およそ五分で有効射程圏内に突入や!」

 龍驤の声が届く。金剛は龍驤に頷いて、艦隊に指示を飛ばす。

「皆サーン!左舷、砲雷撃戦用意デース!提督の初陣、勝利で飾るヨー!Follow me!」




新年一発目の投稿です、次回はなるべく三が日のうちに投稿したいと思ってます(必ず投稿できるとは言ってない)。

艦娘同士の呼び方が心配なところがありますので、間違っているところがあれば指摘していただけると幸いです。

海域やら編成やらは特に気にして書いているわけではないので戦術・戦略上おかしなところがあるかもしれませんがお許し下さい!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。