大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

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しぐれてゆくか。2

 厚く張った雲の下にエンジン音が響く。九七式艦攻の編隊である。搭乗している妖精が互いに合図を送り合い、一斉に高度を下げてゆく。眼下に見えるのは深海棲艦の艦隊。やがて高度が下がると、隊長機を先頭に敵艦隊の横っつらからアプローチをかける。深海棲艦の対空射撃をかいくぐり、九七式艦攻の雷撃が放たれた。魚雷はまっすぐに敵艦隊へと突き進み、やがて敵駆逐艦に直撃した。九七式艦攻の編隊は戦果を確認すると、一斉に離脱してゆく。

 帰還した編隊は、次々と龍驤の甲板へと着艦してゆく。妖精たちも戦果を上げてどこか誇らしげだ。

「敵駆逐艦一隻撃沈、未帰還機なし。上出来やね」

「これで残存戦力は重巡洋艦が一隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦二隻ですね。敵艦隊は依然こちらへ接近中です、お姉さま!」

 金剛は報告を聞き、すぐに返答を返した。

「このまま反航戦に突入しマース!各員、砲戦用意はいいですネー?」

 各々の返答を聞き、前方に見えてきた敵艦隊に向かって金剛は照準を合わせる。

「お姉さま、霧島いつでも撃てます!」

「いきますヨー!Fire!」

 金剛、霧島の41cm連装砲が火を噴き、敵艦隊の頭上に降り注いでゆく。そのうち一発が敵の軽巡に直撃し、そのまま海中へ屠っていった。更に一発が重巡を掠め、小破させる。

「弾着を確認!お姉さま、やりました!」

「Good jobネー!続いて駆逐艦隊、砲雷撃戦の用意デース!」

 敵艦隊が駆逐艦の射程に入り、吹雪、夕立、時雨の三人も砲を構える。しかしそれは敵の射程に入ったという意味でもあり。

 深海棲艦側からの砲撃が始まる。各艦が回避行動を取り、砲弾を避けてゆく。

「っ!夕立、砲弾が掠ったっぽい~!」

「夕立っ!」

 砲弾を掠らせた夕立に、時雨が少し狼狽している。それに構うことなく、深海棲艦の砲撃は続いている。

「こら時雨ぇ!気ぃ張ってへんと自分が被弾するで!・・・このぉ、あんまり調子のっとったらあかんで!攻撃隊、発進!」

 龍驤の飛行甲板から九九式艦爆が発艦し、敵艦隊の頭上めがけて飛び立っていく。

「急降下爆撃、いくでぇ!」

 敵艦隊上空に到達した九九式艦爆が敵めがけ一気に急降下してゆく。深海棲艦も対空砲火を張るが、それも抜けて爆弾が投下される。そのまま爆弾は軽巡の頭上で炸裂し、爆炎が敵を包む。おそらく生きてはいないだろう。海面近くで反転した九九式艦爆を深海棲艦の対空砲の追撃が襲う。何機かはエンジンをやられ、水面に墜落してゆく。

「今や!雷撃、やったって!」

「はいっ!三連装酸素魚雷、発射っ!」

 龍驤の合図を受けて吹雪が、続いて夕立、時雨の二人が魚雷を放つ。魚雷は敵の重巡を的確に捉え、轟沈させる。残った駆逐艦二隻が戦況を見て、戦闘海域からの離脱を目指し急速に離れてゆく。

「敵が逃げてくっぽい!」

「砲撃するよっ!」

 夕立と時雨が敵に向け砲撃する。砲弾は手前にいた駆逐艦に着弾し、轟沈させたが、もう一隻の駆逐艦は射程範囲外へと離脱する。

「逃げられた・・・!」

 思わず追撃しようとする時雨を、霧島が引き止める。

「時雨!もう射程圏外です!」

「でも!」

 時雨は柄にもなく焦燥感に駆られているようで、反射的に霧島に反論しようとする。

「いい加減にしいや!艦隊は集団行動や!自分の都合で行動したらあかん!」

「でも、ここで撃ち漏らした敵が誰かを襲うかもしれない!そんなの見過ごせないよ!」

 

 パァン!という快音が海原に響いた。

 

「自分も守れんやつに守られる筋合いはないわ!命あっての物種や!頭冷やせや!」

 龍驤の平手が時雨の頬を打った。戦場が水を打ったように静まり返る。

「どんな大層なことゆうててもなあ、死んだらそれまでやねん!それくらい自分もわかってるやろ!?」

 時雨は呆然としたまま腫れた頬を抑えている。

「Oh・・・龍驤、時雨も悪気があったわけではないですネー。今回は大目に見て欲しいデース・・・?」

「いーや、一回はっきり言ったらなあかん!命のやり取りしとる出撃なんや!」

 

 

 

「おいおい、戦場で喧嘩を始めてしまったぞ」

「も、申し訳ありません、提督。やはり私がもう少し編成を考えるべきでした。私の想定が甘く・・・」

 少佐が右手を上げ、大淀の言葉を静止する。

「何も問題はない。新兵の強攻は戦争に付きものだ。そして古参兵の統率も虚しく戦場は新兵の血で塗られてゆく。その中で生き残ったもののみが古参となり、再び戦場へと舞い戻ってくる。迷い、惑い、生き急げ。闘争に見出すものが生であろうと、死であろうと、そこに戻らずにはいられないのだ。闘争の中で生きるために、闘争の中で死ぬために!」

 どうして、この状況でまだ笑っていられるのだろう。この人は一体何を見てきたのだろう。提督が抱える狂気に、大淀は寒気すら感じた。

「さあ、この大戦争の中で彼女たちが何を見出すのか、鑑賞しようではないか・・・ん?」

 混乱する大淀を尻目に、少佐はモニターをバンバンと叩いたり、揺らしたりしている。

「おい大淀、俯瞰の映像が消えたぞ」

 

 

 

 龍驤の説教が続く中、最初に、唯一それに気がつけたのは夕立だった。微かに、身を震わせるような低い音が耳に届く。ふと空を見上げると、そこには見慣れぬ複数の影が。

「敵の航空機っぽい!」

 そのときにはもう遅く、直後敵の戦闘機に観測機が叩き落された。更に爆弾を抱えた爆撃機が迫ってくる。

「全員対空射撃開始!航空機を迎撃して敵空母及び敵艦隊を捕捉しマース!Hurry!」

 各艦が急ぎ対空砲火を展開しようとするが、すでに直上から迫る一機が飛び込んでくる。

「ッ!龍驤さん、時雨ちゃん!敵の爆撃機が!」

 吹雪が叫ぶ。虚しくも放つ対空砲は敵を仕留められない。

「くっ!迎撃機・・・あかん、間に合わん!」

 龍驤は飛行甲板の巻物を広げるが、明らかに発艦は間に合わない。無情にも爆弾は投下され―――

 

 

―――龍驤と時雨の上で、炸裂した。




回を重ねるごとに少佐成分が薄まってきている気がします。大丈夫でしょうか・・・。

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