「空から女の子が!?」
IS学園中庭、突然眩しく光った中空には女の子がいた。そして、自由落下に任せて地に落ちてくる。幸か不幸か、走り出せば間にあう距離だ。手を伸ばす、自分の体がクッションになる様に滑り込ませる。
「っかは!」
肺の中にある空気全部をはきだしたような感覚。下腹部辺りに落ちたのが良かったのか、悪かったのか、とりあえず肋骨が折れているような感覚はない。
「……で、誰なんだろう」
一向に目を覚ます気配のない彼女は、どこか見覚えのある銀色の髪をしていた。
壁も天井も真っ白い保健室では、ベッドが二つ並べられ、教員用の机、様々な薬が置かれた棚がある。そこには教師が一人、生徒が一人、意識不明者が一人という構成だ。
「全く、どこのどいつとも分からん女をつれこむとは……」
黒のスーツをパリッっと着こなしている女教師、織斑千冬がぼやき、腫れものに扱うような目でベッドに寝かせられた少女を見る。四肢はすらりと長い、しかし顔つきは少女のモノで、体の膨らみは発展途上と思わせるものだった。
「そう言われても、まさか部外者とは思わないよ」
気まずそうに縮こまるのは織斑一夏、先ほど空から落ちてくる少女を助けたのも彼だ。とりあえずと千冬と連絡を取り、保健室のベッドに寝かせたはいいが、この学園の所属でなく、処遇も決めかねない。状況が状況なだけに、下手をうてば一夏に手引きの疑いがかけられてもおかしくはない。
「……んっ」
ピクリ、少女が小さく呻く。これまで動きがなかったからか、二人は敏感に反応する。目を覚ましたのかと身構えるが、それから動く気配を見せない。
「おい、起きろ」
千冬が肩を揺すると、徐々に目を覚ます。
「……こ、こは?」
「やっと目を覚ましたか。お前は誰だ」
無理に起きたせいか頭を押さえる。頭痛は一時のものですぐに収まったようだが、なかなか返事がない。
「大丈夫か……?」
「……サイネ」
「さ、さいね?」
ぼそり呟いた、少女の言葉に戸惑う一夏。どうしたものかとあたふたしていると、千冬が尋ねる。
「サイネ、がお前の名前だな?」
こくり、と頷く。雪のように白い肌と銀髪がどこか人形のようにすら思わせる雰囲気を持っている。
「サイネ・B・織斑、それが私の名前」
まるで世界が止まった様に動きを失う二人。
「お、おりむらぁ!?」
「せ、先生! どういう事なんですか!?」
一年一組の教室、転校生という体で紹介された少女に生徒各々が驚きの表情を隠せない。
「えぇい、静かにしろ! 特別な事情があって一時的だがここで預かる事になった。それより、自己紹介の続きをさせろ」
そういってサイネと名乗った少女に続きを促すと、名前しか言わなかった自己紹介の続きが始まる。
「えっと、皆さんはじめまして、記憶喪失だからどういう経緯でここに来たのかわからないけど、事情がはっきりするまでここでお世話になる事になりました。ご迷惑をかけると思いますが、皆さんよろしくお願いします」
挨拶の最後を締めくくるはじけるような笑顔は、記憶喪失といった事情が嘘のように思える。一瞬ぽかんと静まる教室だったが、
「……わかったら講義を始めるぞ。席は一番後ろ、事情がわかったならそれなりの対応をしてやってくれ」
珍しく溜め息をついてから講義を始める。一部がまだ動揺してはいるけれども、半ば無視して日常が始まる。
「……記憶喪失というのは、何も聞くなという事ですの?」