IS ~空から落ちてきた少女~   作:3148

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三人称視点で書いてるつもりだったけど、やっぱり読みにくいのかな。とりあえず、完成はしてるのでいっき投稿中。推敲? ねぇよ、んなもん。


非日常編

 すっかり日が暮れた更衣室帰りの廊下、女子の皆は全員先に行ってしまって、珍しく一夏一人で歩いている。どこか寂しい気はするが、誰にも気を使わない時間というのは自分の部屋以外ではあまりない。スキップをしたくなるような気分を抑えて、自分の部屋に向かっていると、苦しそうにへたり込んでいる姿が見えた。

「……サイネ?」

数週間前に出会ったばかりの少女がへたり込んでいる。どう見ても彼女なのだが、何故か少し雰囲気が違った気がして駆け寄るのを躊躇ってしまった。

「……ひっ」

手を差し伸べると、怯えたように手を引っ込める。いつもは天真爛漫な彼女が、こうなるなんて考えられない。何かあったと言っても、更衣室を出て十数分経つかどうかといったところだ。何かあったとは思えない。

「何か……あったのか?」

手を掴むのは諦めた。しゃがみ込んで同じ目線で彼女を覗きこむ。もしかしたら記憶を思い出したのかもしれない、と今更ながら思い至った。そう考えると、そうしかないのではないか、とも思う。

「……思いだした、のか?」

ビクッ、と震える。自分の腕を抱えて震えているその姿は、とても痛ましくて見ていられない。どうすればいいか考えている間に、恐る恐る彼女が顔を上げた。

「……助けて」

断れない、一夏はそう思った。

 

「緑茶しかないけど、いいかな?」

サイネにあまり使っていない毛布を渡し、ベッドの上に座らせる。コクリと頷くのをみると茶葉を入れた急須に熱いお湯を注ぎ、湯呑みに注ぐ。

「そろそろ話してくれるか?」

湯呑みを手渡し、自分の分も淹れる。話すのを躊躇っているのか、話す内容を考えているのか、どちらにしても長い沈黙は一夏にとって辛いものだ。

「詳しい事は、話せない」

ようやく口に出したのは、そんな言葉だった。

「どういうことだ?」

「言っても信じてもらえないだろうし、なにより……」

そこからまた黙り込んでしまう。信じてもらえないとはまた酷い話だ。先日自分が助けた事を忘れてしまったのだろうか、これまで仲良くしていた分だけ、裏切られた様な気分にもなる。

「……分かった、言いたくない事もあるよな」

サイネは驚いた。目を見開いて、一夏の顔を見つめた後、後ろめたそうに顔を伏せる。

「……明日の正午、ラウラ・ボーデヴィッヒが襲われるわ」

「な、なんだって?」

突然の内容に頭が付いていかない一夏。それに構わず話は続く。

「それについては、私が何とかする。協力は必要ない、心配しないで」

「心配しないでって……じゃあなにを助ければいいんだ?」

動揺する一夏と、一度だけ口を付けた湯呑みを持つ手が震えているサイネ。長い沈黙の後、再び口を開いたのはサイネだった。

「私を……殺して欲しい」

それから、一夏が次の日の午後まで彼女に出会う事はなかった。

 

 今は正午、講義の終わって昼休みに入ったところだが、整備の為にラウラは単身整備室に向かう。途中の廊下で違和感を感じた。

「誰だ?」

そう言って身構える。正確な数は分からないが、待ち構えられているようだ。ISを展開させてもいいのだが、手加減がきかない上に整備前だ、一人や二人なら素手でもやれるし、焦る必要はないだろうと考える。

「……ラウラ・ボーデヴィッヒだな」

軍隊を想像させるような迷彩色を身にまとった人影が現れる。数は3、日の差さない位置の廊下のため薄暗く、どこか輪郭がぼやけるその姿は不気味だ。

「お前らじゃない、そこの後ろに隠れてる方だ」

三人が気を逸らした瞬間、一番手前にいた顎に掌底を当てる。バランスを崩したところに体を組み入れて、もう一人にぶつける。崩れたら重畳と考えていたが、そう上手くはいってくれない。二人がナイフを取り出すと同時に来る。

「ちっ……気が散るな」

元より高い身体能力はナイフを避けるのに十分貢献していた。しかし、リーチの短さゆえに反撃には回れない。

「……っかーさん!」

陰に隠れていた人影が飛び出してきた。一瞬それに気をとられた所為か、投擲されたナイフに気付くのが遅れた。とっさにかばった右腕に刺さり、隙を見せてしまう。

「このっ!」

それでも、迷彩服二人の攻撃は来なかった。飛び出した人影に強烈なとび蹴りを喰らって倒れてしまったからだ。

「……サイネ?」

「手を出して、早く!」

危機迫る形相に驚いて、為されるがままナイフの刺さった手を差し出す。二の腕の部分をきつく締めあげる。

「ナイフ、抜きますよ!」

「っぐぅうあぁ!」

激痛に顔を顰める。焼けるように痛むが、血管は避けていたらしく出血はそれほどでもない。適切な処置もあってか、それほど酷くはならなそうだ。

「応急処置ですから、出来れば早めに治療してください」

「あ、ああ……それにしても、よく襲撃が分かったな。助かったよ」

突然の事態に少し戸惑ったが、助けられたのは事実だ。警備の厳しいIS学園ということで気が弛んでいたのかもしれない。

「……そのために、来たんだから」

「えっ?」

治療を済ませると、足早に去ろうとするサイネ。

「待てサイネ、どうして昨日は戻らなかったんだ?」

サイネは立ち止まる。

「戻らなかった……?」

どこか噛み合っていない会話、普段と違う様子の彼女は襲撃の所為だと思っていたが、違うのだろうか。

「……シャルと私とお前で相部屋だっただろう。シャルも他の皆も心配していたんだ、何もなかったならちゃんと戻ってこい」

少しの間無言だった。薄暗いのも手伝って、ラウラからはサイネの顔は見えない。

「そっか……ごめんね」

そう言い残して、去ってしまう。サイネの豹変ぶりに、追えばいいのか分からない。頭に浮かぶ幾つもの言葉は、すぐに消えてしまう。かける言葉が見つからなくて、去っていくその背中を見送ることしか出来なかった。

「サイネ……」

呟いた言葉は、きっと届いていないのだろう。どれくらい茫然としていたのか、腕の痛みでようやく我に返った。

「メンテは後回しにするか、先に保健室に行こう」

根掘り葉掘り聞かれてこの後の予定がご破算するのを考えると足取りが重くなったが、放っておくのは更に面倒になる。そんなことを考えながら道を曲がったら一夏と出会った。

「ラウラ! 無事だったのか!?」

「……ど、どうしてここに!?」

その手には日記帳の様なもの抱えて、走り回ったのか汗だくで声も上ずっている。

「ちょっと来てくれ!」

一夏が手を伸ばしたのは、空いている左手。掴もうとしたのは私の右腕、となると反射的に足が出てしまう。

「……あ」

綺麗にミドルキックが腕の上から決まると、荷物を落として床に倒れ込む一夏。

「ごふぁ」

「す、すまない一夏。これには事情があって……ん?」

 

 正午を過ぎて午後の講義が始まる。ISの操縦訓練で1年のIS専用機持ちは全員一か所に集まっている。ISを展開し、模擬訓練を行っていて、織斑千冬もオペレーターとしてモニタを見ている。

「ペルス・ネージュ起動」

白い光がサイネを包み込み、ISが展開される。スノードロップの名にふさわしい儚い白だ。

「カー・ブラックホールシステム待機、スラスター展開!」

目標は二つ、遠距離からのビームライフルで闘いの幕が開ける。

 

「ビーム兵器確認! サイネ機、来ます」

模擬訓練に乱入するサイネ、モニタを見ていた千冬と山田先生が慌てる。

「な、なんなんですか一体!?」

「分からん、だが……」

明確な攻撃意思、現場にいる五人が危険である事は確かだ。

「散開しろっ!」

ラウラの掛け声でいち早く対処する。まとめて狙われない様に、相手を中心に扇状に広がる。

「腕が鳴りますわ!」

「ふふふ、昨日の十倍返しなんだから!」

「二人とも張り切ってるね」

「五対一だからって油断するなよ」

「……それをお前がいうのか?」

まるでこうなるのが分かっていたかのように、それぞれが構える。

「事情は分からんが、戦えるんだな?」

「任せてください、教官殿」

「千冬姉、大丈夫だから信じて欲しい」

準備も何もない状態では、手を貸す事も難しい。サイネが敵にまわることも予想してはいたが、裏を書かれる様なタイミングではどうしようもない。

「……分かった、信じよう」

「ち、千冬先生!?」

驚く山田先生。自分の愚かさに対する怒りをコンソールに叩きつけそうになる衝動を抑えて、通信を続ける。

「織斑先生、だ。戻ったらグラウンド20周だな」

「……了解であります」

「……そんなぁ」

締まらない返事をどうにかしたいところだが、あまり時間もない。悠長にしていられるのは、サイネが動きだすまでだ。

「山田先生、楯無との連絡は取れますか?」

「……現場に到着するまでに5分は掛かるかと」

千冬が現場に行くよりもずっと早い。

「5分持たせろ、援軍が行く」

戦闘が始まる。

 

 にらみ合いが始まって30秒、千冬の通信が終わった瞬間、サイネが動きだす。狙うは白式、流れるような動きでロングブレードを二刀構える。

「一夏っ!」

「分かってる!」

一本を雪羅で受け止める。二刀目を振りかぶる瞬間にシャルの援護射撃が放たれる。

「!?」

白式との近接戦闘のために照準が甘くなっていたのか、二刀目を邪魔する事も出来ない。雪片弐型で二刀目を受け止める。

「邪魔しないで、狙いは紅椿と白式だけなんだから」

サイネからの通信、その場にいる全員に聞こえている。

「しないわけ、ないでしょうが!」

甲龍の青龍刀がペルス・ネージュがいた空間を切り裂く。紙一重で当たらない。

「迂闊だぞ、馬鹿もの!」

シュヴァルツェア・レーゲンのAICが甲龍とペルス・ネージュの間に作用する。僅かに空間が歪んだように見えたが、甲龍が立てなおすとそれは消える。

「……傷が痛みますか?」

「お生憎様だな。この程度でへばる鍛え方はしていない」

AICは多大な集中力を必要とするため、腕にけがをした現在では万全とはいえない。しかし、発動できない程でない。

「ブルー・ティアーズ!」

6基のビットがペルス・ネージュの周囲を囲むように高速で飛びまわる。銃口が向けられているが、6基全てを目で追うことは不可能だろう。次々と放たれるレーザーとミサイル放ち、死角はないように見えたが、そのすべてを擦れ擦れで避けきってみせる。

「……くっ!」

決定打が打てずに焦れてくる。

「これでどうです!」

4基のレーザーが交差し、2基のミサイルを爆発させる。爆発の煙で一瞬姿をくらませるが、すぐさまブルー・ティアーズ本体へと向かってくる。

「だろうな!」

「させない!」

紅椿の空裂と雨月の交差切りとラファール・リヴァイブ・カスタムⅡのパイルバンカーの挟み撃ち、それを急制動で避ける。前髪が当たるかどうかという距離を、二刀と一突きが抜ける。器用にシールドに爪先を引っ掛け、突っ込んだ勢いのままに紅椿とぶつかる。

「あわわっ!」

「な、なにをしている!?」

甲龍の龍咆が牽制に吠えるが、距離を詰めようとせずにレールガンタイプのライフルを腰だめに構えているペルス・ネージュには当たらない。爆音とともに吐き出された弾丸は音速の倍以上のスピードで的確に紅椿の左腕部装甲をえぐる。

「っ、問題ない!」

もつれた二機ともが体勢を立て直す。その間に白式が再び接近戦へ、雪片弐型とロングブレードで切り結ぶ。

「サイネ、目を覚ませ!」

二度、三度擦れ違いざまに互いに剣先をぶつけ合う。

「織斑一夏、君は!」

更に回数を増すごとに激しくなる打ち合い、加速していく衝突は緊張を増していく。

「存在してはいけないんだ!」

何度目だろうか、擦れ違い、衝突の末に白式が弾き飛ばされる。その衝撃で僅かな減速した隙を、シュバルツェア・レーゲンのAICが捉えた。

「……しまった!?」

「五対一で良く持った方だ……やれ、一夏!」

「うおおぉぉぉぉ!」

大上段に構えた雪片弐型が展開し、全てのエネルギーを消滅させる零落白夜を発動させる。

 

 白式とペルス・ネージュの距離が詰まって、零落白夜の射程距離になる前のほんの僅か一瞬、その機体が動き始めた。

「―――かかった」

ペルス・ネージュにはAICは通用しない。完全に無効化出来るという訳ではないが、IS全てに搭載されているPICの応用なのだから、対策してさえいればAICの力場の中でも動く事が出来る。要するに動けないフリをしていた、ということだ。振り下ろす前のガラ空きの胴体にロングブレードの横薙ぎが振るわれる。

「なっ!?」

妙な手ごたえ、胸の装甲の一部をはぎ取って皮を切ったが、それだけだ。白式の突進は急制動出来る様なものではなかったはず。

「間一髪、だな」

動きを止めたのはシュバルツェア・レーゲンのAICだ。分かってから止められるような反射速度だったのか、いやまるで、最初からこうなることが分かっていたかのように。

「……そんな、はずが」

必殺の一撃を避けられた衝撃が生んだその隙に、白式の背後から現れた紅椿の雨月が振り下ろされる。

「うぅあああぁぁぁぁ!?」

演習場の端まで吹き飛ばされ、壁に激突する。

「……やったか?」

「そういうのはフラグっていうんじゃないかな」

追撃こそしないが、全員が全員警戒態勢を保っている。体感時間としては随分と長く感じたが、実際には3分ほどしか経っていない。土煙が次第に晴れ、ペルス・ネージュの姿が現れる。そう大きな損傷は見えない。

「どうして……?」

 

 サイネの日記帳のことは、この場にいる五人が知っている。全員が半信半疑で、千冬に伝える事も、とうとう出来なかった。もう少し時間があれば、相談する事も出来たかもしれないが、不自然な動きをして、彼女が考えを変えれば唯一のチャンスを逃しかねないと一夏達は考えていた。

「AICの中で動ける事を……知っていた? どこまで、私の事……ばれてるの?」

サイネの目の焦点はもう合っていない。混乱が混乱を呼び、正常な思考が出来ていないのだろう。

「サイネ! お前を死なせは、しない!」

一夏が叫ぶ。その言葉を、サイネは理解できない。既に敵に回っているのに、今日初めて出会った人間に、そんな言葉を向けられる意味が分からない。サイネの心は疲弊していた、この訓練場で五人に敗北する度にタイムリープを行ってきた。5分を過ぎれば、成功確率は更に下がる。クモの糸の様な、ほんの僅かな可能性を頼りに辿り着いた可能性に、何百回、何千回と繰り返した5分間は無駄だったのだ。その事実は、サイネの心を完全に打ち砕いた。

―――能力が暴走した。

「……あ、ああぁ、あああぁぁあああ!?」

タイムリープを行うために必要なカー・ブラックホールの制御に失敗した。本来なら相殺されるはずのエネルギーが、放出され、己も巻き込む。

「こう……なったら! 篠ノ乃箒、お前だけでも!」

制御できないならせめて、一人だけでも道連れにして見せる。そのつもりだった、間違いなくその矛先は篠ノ乃箒に向いていた。だが、それにシュバルツェア・ボーゲンが割り込む。

「……母さん?」

「っ、サイネ! お前は、生きろ! 生きるんだ!」

カー・ブラックホールの重力場が、彼女たちを襲う。

 

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