俺の家が幻想郷   作:十六夜やと

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『肝臓の病気じゃね?』って白髪が大幅に増えたこと以外は元気です。


13話 忠告はちゃんと聞こう

「何かないかな……なんもねーなー」

「「「あー……」」」

「全部食べちゃったからねっ!」

 

 冷蔵庫を覗き込む五人。

 俺は想定通りだったので肩をすくめ、事情を知っている三人娘は気まずそうに目を逸らし、無意識少女は隠すことなく暴露した。

 冷蔵庫や冷凍庫すらも綺麗さっぱり空だと、逆に清々しいと俺は思う。

 

 台所の棚も漁ってみたが、ここ新築じゃないかってくらい何もない。かろうじでカップ麺が残っているくらいか? 幻想郷の住人には作り方が分からなかったらしい。

 久方ぶりにキッチンに立った俺はやかんに水を入れてIHヒーターにスイッチを入れる。台所の変な店――香霖堂の横に蓋を半分開いたカップ麺を開いて、お湯が沸騰するのを待つ。その間は本当に暇なのでスマホを適当にいじろうとしたのだが――

 

「なにこれ!? なにこれ!?」

「おい、ちょ!? 蓋ん上で飛び跳ねるな! ……それはお湯を注いで三分すればラーメンが食えるんだよ」

「へぇ……そんな風にして作るのね」

 

 危なっかしいこいしに注意しつつ説明すると、博麗の巫女様が興味深そうに頷く。やっぱり知らんかったか。

 カップ麺の隣に立ってパンパンと叩く魔理沙と、中身を覗くアリス。ちょうど白黒魔法使いが隣に立つと微妙にカップ麺の方が高い感じ。霊夢は俺から少し離れたところで魔理沙とアリスの様子を眺めている。

 俺はそんな好奇心の塊の行動を監視しつつ、その光景を微笑ましく眺めていた。ついでに茶葉を急須(きゅうす)に注ぎ込む。

 

 いつもなら手軽にできる一品を作る時間なのだが、なんせ材料がないから簡単なものすら作れないぜ。料理は趣味を拗らせて土日祝日に作っていたのが懐かしい。たかが一週間そこら厨房に立ってないだけで懐古するとは思わなかったが。

 まぁ、それも難しい話だろう。家の管理の主権を実質握ってるのは彼女等なのだから。

 今度どっかの誰かさんの家にでもキッチン借りに行こうかな?

 

「ぜってー栄養面的に悪いよな……」

「どうしたんだ、ちゃんと食ってないのか?」

 

 俺の呟きに反応したのは白黒魔法使いの少女。

 

「別に食ってないわけじゃないんだが……なんつーか自分で作った料理を最近食べてないから落ち着かないってか、外で買ってきたやつだとバランス取れてんのか心配になるというか……」

「え、紫苑って料理作れんのか!?」

「当たり前だろ? 基本学校ある昼とか以外は自炊してっぞ」

「「「ゑ」」」

 

 どうしてそこで声揃えて驚く?

 そこまで珍しいことでもないだろうに。

 

 驚いてる少女達とは裏腹に、カップ麺の蓋を破って下に落ちたらしい幼女が容器から這い上がって……ちょっと待てやコラ。

 何落ちとんねん。

 

「おにーさんって料理作れたんだ! 食べてみたいなぁ」

「つっても食材ないしキッチン使えないしでロクに作れんけど」

「大丈夫だよ、美味しいものは皆大好きだからキッチン使っても怒られないって」

 

 ふむ、そういうことなら今からでも食材を買いに行ってもいいかもな。趣味を封じられるのは苦痛でしかなく、幻想郷メンバーにOKもらえるのなら今からでも行くのも悪くはない。

 もしかして晩飯を久々に作れるんじゃね?

 そう考えるとテンションが上がる俺。

 

「私も紫苑の料理食ってみたいぜ!」

「そうね、外の世界の料理がどんなものなのか気になるわ。是非ともご馳走してほしいわ」

「……別にアンタの家なんでしょ。台所くらい好きに使ったら?」

 

 魔理沙は満面の笑みを浮かべながら無邪気に、アリスは学ぶ姿勢を見せながら優雅に、霊夢はそっぽを向きながらも好奇心を隠せないかのように、それぞれの反応を見せる。

 いい流れだ。こいしに親指を立てると、彼女も同じようにポーズを取る。

 

「これ食ったら買出しだな。……何ならデザートもつけるぜ?」

「「「「――っ!?」」」」

 

 ないとは思うが気が変わって「やっぱダメ」と言われないための保険のために、デザートをチラつかせると目を光らせる女子勢。ここで龍慧の言である『大抵の女子はスイーツやデザートが大好き』のアドバイスが役立つ。オカルトサークルで女子に囲まれてきたアイツの経験談が生きた。

 さて、デザートと言っても何を作ろうか。

 買い物に彼女等を連れて行けば何か思いつくだろう。

 デザート話で盛り上がる女子を尻目に、沸騰したやかんのお湯をカップ麺の容器に注ぐ。

 ボコボコと音を立てながら容器を満たしていく湯が線の内側まで貯まったところで、今度は急須にお湯を注ぐ。急須の中を、茶葉が踊るように充満していく様に頷きつつ、それを湯呑に注いで右手に持つ。

 もう一方の手はカップ麺だ。

 

 二つの神器を持って移動すると、姦しかった少女達もついて来た。

 さて、リビングの様子なのだが――

 

 

 

 

 

「お姉様の分からずや!!」

「心配させといてそのセリフを吐くの!?」

 

 

 

 

 

 外見幼女の吸血鬼姉妹が空中で仲良く弾幕ごっこを行っていた。

 紅魔館の横にカップ麺を置いて座りながら、机の上にいる弾幕ごっこに微塵も興味のなさそうな紫色の寝間着を着た少女に軽く尋ねる。彼女は地べた(テーブル)に腰をおろして本を読んでいた。

 今日の天気を聞くような軽さで。

 

「今どんな感じ?」

「ずっとこのままよ。飽きもせず弾幕を無駄に撃ってる」

「へー」

 

 反対にメイド姿の女性は不安そうに二人の弾幕ごっこを見守り、門番らしい女性は灰色に燃え尽きてる。

 

「つか一時間は経過してるだろ? なんつーか、こう、色んな意味でスゲーな」

「元々元気なお子様なのよ、二人は。太陽が照ってないから自由に活動できるわけだし、いつもより余計に騒がしいんじゃないかしらね。理解できないわ……私としては静かな方が落ち着くのだけれど」

「それな。別に体を動かすのが嫌いってわけじゃないが、静かに本読んでる方が俺も好きだぜ」

「……ふーん、貴方、話が分かるわね」

 

 持久力的な意味でも、精神的な意味でも、同じことやってて飽きないのは凄い。

 インドア派の俺と紫色の女性は肩をすくめる。

 そして同じタイミングでそれぞれ茶、コーヒーをズズズッと飲む。

 

「ふぅ、この後買い物かー。何作ろっかなー」

「……あの、そんなのんびりしないで止めて頂けると助かるのですが」

 

 控えめにカップ麺の横に立つメイド服の女性。

 止めて、というのは空中で展開される弾幕ごっこという名の姉妹喧嘩なのだろう。

 

「人様の家庭の事情にわざわざ首を突っ込むほど、俺はお人好しじゃないよ。喧嘩くらい好きにやらせたら? ほら、殴り合って分かりあうことだってあると思うし」

「そうだな!」

「殴り合うの域を超えてる気がするんだけど……」

 

 夜刀神家とスカーレット家なんて交流なんざ微塵もない。

 どうして俺が他者の家の厄介ごとに首を突っ込まなきゃならんのか。余計に話がこじれて、新しい面倒事が生まれる気かしない。

 

 そういう意味を込めて、俺は3分たったカップ麺の蓋を上げながら拒絶する。

 弾幕ごっこ大好きらしい魔理沙は、俺の言葉の真意をくみ取ったわけでもないのに肯定し、アリスは空中で繰り広げられる弾幕ごっこを冷や汗かきながらツッコミを入れる。霊夢も机の上からスカーレット姉妹の弾幕ごっこを黙って眺める。

 三者三様の態度を示しつつも、誰も介入はしないらしいな。

 俺はズズズッと麺を啜る。

 

「醤油ラーメンうめぇ」

「うめぇ」

「勝手に横から食ってんじゃねぇよ無意識幼女」

 

 麺の一本を横から吸引するこいし。

 これ彼女等からの視点ならう〇い棒ぐらいの太さになるんじゃないだろうか? 極太ラーメンとかいうレベルじゃねぇぞ。

 

「そうそう、紫の魔女さん。あのレミリアって娘は何で異変を起こしたの? わざわざミラーボールまで天井からぶら下げてさ」

「パチュリー――いや、貴方なら『パチェ』って呼んでいいわ。あのおこちゃま吸血鬼はね、この家に紅茶がないから異変を起こしたのよ。あぁ、あの光ってるアレはレミィが持ってきたの。月みたいだって」

「「「えぇ……」」」

 

 本好きを暴露したためか妙な親近感を持たれてしまったことは置いといて、異変を起こした理由のしょぼさに俺と金髪娘×2がドン引きする。俺は特にキラキラ光ってる、カラオケなどで見られるミラーボールを残念そうに見上げる。吸血鬼にとってアレは月として代用していいの?

 

 今は亡き(生きてるけど)紫に聞きたいくらい。異変って、んなしょーもない事で起きるものかと。どおりで霊夢が異変解決を面倒くさがるわけだ。

 小さいことで変なことされたんじゃ、解決する気も起きない。

 

 そして『紅茶』という単語で思い出した。

 

「あ、そうだ。俺の部屋に紅茶の葉は持っていったんだった。そりゃないわけだよ。言ってくれれば買ったのにさ」

「つまり……お嬢様の行動は」

「無駄だったな」

 

 何とも言えない顔をするメイドに、噴き出すのを一生懸命堪えるパチェ。

 魔女さん、いい性格してるじゃないか。嫌いじゃないぜ。

 

 そんな事を露とも知らず、妹と弾幕ごっこしてる姉。もう喧嘩しか頭になさそうだし、異変って根本的には解決してるんじゃね?

 レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの出す赤や青を始めとするカラフルな弾幕やスペルカードを背景に、俺はこいしと昼飯のラーメンを食す。そして、汁を飲む頃には両方が肩で息をするくらいに膠着していた。

 

「はぁ……はぁ……お姉様……しつこすぎ……」

「ぜぇ……ぜぇ……アンタねぇ……!」

「はいはいはいはい、そこまでにしとけよお二方」

 

 フランの鬱陶しそうに吐き捨てたセリフに、レミリアが再び怒りを見せようとしたところで、俺は机の上に空のカップ麺を置く。ちなみに俺は座りながらスカーレット姉妹を見上げて発言している形になる。

 止めたのが人間だと分かると、レミリアはふんと鼻を鳴らす。

 

「下賤な人間が私達に指図するな」

「お兄様に向かって失礼でしょ!?」

「ちょっとフラン! 何時からこれを兄って呼ぶようになったの!」

「姉妹喧嘩はどーだっていいからさ、二人も疲れてんだし弾幕ごっこは終りにしたら?」

 

 メイドのじーっと見つめる視線に耐えきれなくなった俺は、溜息をつきながらも停戦を提案する。

 立ち上がった俺は近くにあった脚立を持って来て、ミラーボールを取り外すために上る。今度は彼女等が高さ的に俺を見上げていた。

 

「レミリアさんは紅茶なくて異変起こしたんだろ? ったく、言ってくれれば紅茶の葉くらい買ってきたのに」

「私は誇り高き吸血鬼よ。人間風情に頭を下げるなんて――」

「あ、いらん?」

「上質なものを所望するわ」

 

 そう、この会話だけで終わるはずだった異変。

 机の上にいた面々は『何コイツ、ちょろすぎ』とでも言いたげに遠い視線を吸血鬼に向けていた。とても誇りある吸血鬼には見えない。

 

「そしてフラン。迷惑かけたんだから姉ちゃんに謝っとけ。心配してくれるなんて妹想いの素晴らしい姉ちゃんじゃねーか。……え、ちょっと待って。ボルトで止めてあるんかよ」

「――お兄様も私が悪いって言うの?」

「そーゆー訳じゃないが、迷惑かけた自覚があるって学校で言ってたじゃん。あっれー、工具どこに置いたっけ」

 

 後々の俺の行動を考えれば本当にバカだったと思う。

 彼女の話は学校で聞いた。あのアホ共と一緒だったり、こいしと一緒だったりもしたが、俺は本当の意味で彼女のことを理解していなかったのだろう。

 他の作業しながらフランのことを聞くのとか阿保かと。

 

「戸棚かな? 俺の部屋かな? うーん、魔理沙とアリス。プラスドライバー……って言っても分からんか。いいや、一度降りて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘つきっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この悲痛な台詞で俺はようやく状況を理解した。遅すぎたが。

 フランが肩を震わせていることも、小さな機微だったため気付かなかった。

 

「お兄様ならっ、お兄様なら分かってくれると思ってたのに! お兄様も私のことが悪いって言うの!?」

「いや、だから――」

「お兄様なんて……お兄様なんて……!」

 

 彼女は子供だ。

 年齢的には遥かに俺よりも年上なのだが、この際はどうでもいい。重要なのはそこじゃない。

 これを他のアホ共は気づいていたのだろうか? 忠告してきた面々の『フランドール・スカーレットが危険な存在』という言葉が、能力を指していたのではなく、精神的なものだったと。〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕を持つが故に、彼女が情緒不安定だったことを。

 俺はこの日この時まで、彼女が『狂っている』ことを理解していなかったのだ。

 

 所詮、俺も彼女等から見れば外の世界の住人。

 常識という物差しだけで計っていたのだろう。今後の教訓になる。

 代償と言っては何だが――

 

 

 

 

 

「大っ嫌いっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 パァン!!

 何が弾けたのか俺は分からんかったが、急に俺の前に落下してくるミラーボールだけが視界に映った。

 条件反射で受け止めたのだが、不運なことにバランスが悪かった。ぐらりと大きく揺れる脚立は重力によって倒れ、もちろん俺も床に落下する。

 

 さらに不運なことが重なるものだ。俺は頭から落ちたため、ゴスっと嫌な音と共に気を失う。

 

 

 

 

 

「お兄さ――」

 

 

 

 




裏話

霊夢「ばーか……」
魔理沙「ちょ、あれ大丈夫なのか!?」
霊夢「知らないわよ」
魔理沙「いや、それで済ませることじゃないだろ!?」
霊夢「………」

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