少しずつ頑張って投稿したいと思います(`・ω・´)ゞ
あ、今回は○○○に対する壮大なアンチ・ヘイトがあります。
「そんじゃバイト行ってくるわー」
「おつかれぇーい」
紫苑君が溜め息を吐きながら部室を後にしていくのを見守った後、私は兼定君とトントン相撲をしている未来君に話しかけた。今日は龍慧先輩も顔を出しておらず、兼部しているもう一方の『秘封倶楽部』に足を運んだと聞いた。
「未来君、紫苑君は何のバイトをしているのでしょうか?」
「あれ……っと、早苗ちゃん知らなかったっけ?」
トントン相撲に集中している未来君は、こちらに顔を向けずに私の質問の回答を述べる。
二人とも手を小刻みに動かすことに専念しており、素人の私から見ても接戦を繰り広げていた。トントン相撲のプロとは?
「アイツは近所の定食屋で働いてるよ。割りと大きな企業の系列だったはずだから、名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?」
未来君が口にした店は、確かに私も知っている名前だった。守矢神社の近くにも同じ系列の店があったから、行ったことはないが名前だけは知っていた。
店の名前を繰り返していると、「それがどうしたの?」と疑問が帰ってくる。
「そこで紫苑君は頑張っているんだなと思いまして。今度行ってみようかと」
「止めとけ止めとけ。店来た日にゃ紫苑ブチ切れンぞ」
「ゑ? ど、どうしてですか!?」
どうして店に行っただけで紫苑君が怒るのか。
その程度で紫苑君が怒るとは思えないが、もしかして琴線に触れる話題なのか定かではない。
私には想像もつかないが、まるで体験したことがあるかのように、兼定君はトントン相撲に集中しながら答える。
「早苗はバイトしたことねェだろ? 神社除いて」
「は、はい」
「まず止めとけっつたのは、紫苑は接客の担当じゃねェから、行ったところで紫苑が気づくわけがねェ。つまり行ったところで奴には会えねェってこった」
そして――と言葉を一旦切る。
「バイト生……特に飲食店やコンビニのバイトしてる奴等ァ決まって同じことを口にする。まぁ、
トントン相撲を中断して同時に私の方を向く二人。
妙に劇画タッチの表情で。
「「忙しかろうが暇だろうが、給料もらえる額は変わらんから楽したい」」
要するに紫苑君の仕事を増やすなってことだろう。
♦♦♦
飲食店のバイトはクソである。
もう一度言おう。
飲食店のバイトはクソである。
これは俺個人的な見解であり、店によって様々であることは明白なのだが、それを差し引いても、俺は今働いてる飲食店のバイトが嫌いである。現在の店長に恩がなければ当の昔に辞めていただろう。
料理を作ることが趣味な俺だが、だから飲食店のバイトが合っているわけじゃない。
現在進行形でバイトの休憩室で制服に着替えてるが、まだ始まってないのに帰りたい気分だ。学校から直接来て、オーダーストップまで働かないといけないとか洒落にならん。
なぜ飲食店のバイトがクソなのか。
まず我が県の最低賃金は全国でもトップクラスの低さを誇る。まぁ、都心から離れたド田舎だから仕方ないとして、飲食店が忌避される理由の一つになっている。
そして上の背景もあり、飲食店のバイトは労力と賃金が恐ろしく割りに合わない。土日などキッチンは阿鼻叫喚の地獄絵図より酷い。
故にバイト生は飲食店のバイトを選ばないので、飲食店の人員は少なく、勤務している社員やバイト生の負担が大きくなり、余計に飲食店で働こう!って人が居なくなる。素晴らしい悪循環だネ。
というか田舎は基本的に個人経営以外の食べ物に精通するバイトはゴミの傾向がある。あと二十四時間営業のコンビニとか。
龍慧にも飲食店とコンビニのバイトはブラックだからやめとけって言われたし。働く人がいないからシフトの途中変更が難しいとか何とか。
酷い例をあげるとすれば、未来が一ヶ月だけ働いていた某弁当屋のバイトだろうか?
平日六時間、休日十時間時間の週七勤務。休みは一ヶ月前から申請しなければ、重度の病気(風邪・熱などは含まない)でなければ休むことができない。サービス残業は当たり前……なんて学生のするようなバイトじゃなかった。
『それ労働基準法違反だろ?』
『紫苑、いいこと教えてあげる』
『ん?』
『……バレなきゃ犯罪じゃないんだよ!』
本当にブラックのバイトだと未来のケースが当たり前みたいな飲食店が存在する。尚、未来はバイト辞めるときにオーナーから随分と渋られたらしい。つか最後は脅してきたとか言ってたぞ。
そのときのアイツのブチ切れた様子は言葉にできないほど荒れていた。たぶん早苗とかに話しても絶対に信じないであろうと断言できるほど。だって日を重ねるごとに
それに比べれば俺のバイトはホワイトと言えるだろう。休もうと思えば店長が計らってくれるし、残業代も支払ってくれるし。
でも割りに合わん。
っと、そろそろキッチン入んないと。
俺はスマホをマナーモードにしてポケットに入れ、料理に髪の毛が入らないようバンダナを頭巾のように巻き、一回背伸びをして気合いを入れた。
「うっし、頑張るか!」
「「いえーい!」」
「………」
その気合いは
「天ぷら揚がりました!」
「鍋まだ来てないんだけど!?」
「御膳の茶碗蒸し残り3個です!」
そのようなホール(接客する人)とキッチン(料理作る人)の指示や注文が飛び交う中、俺は黙々とホールから運ばれてきた食器を洗っていた。この飲食店での俺の仕事は皿を洗うことなので、キッチンとは少し離れた場所で死んだ魚のような目で働いているのだ。
だからキッチンで料理を作ってる人たちと話すことは少ないし、幻想郷からのゲストが好き勝手に歩き回れる。
「紫苑、これ貰ってくね!」
「うーっす……」
洗い終わった皿などを回収しに来ることもあるけど。
それも俺の仕事のはずなのだが、なんせ俺の仕事は多い。
ホールから帰ってきた皿を流しに放り込んだり、御盆を拭いて片づけたり、米を炊いたり、茶碗蒸しを作ったり……社員さんが「
どうして俺がしてるのかって?
人がいねぇんだよ。
調理場担当の社員さん(34歳・独身)がダッシュで持ち場に戻っていくのと同時に、俺は高速皿洗いを再開する。軽く皿の汚れを擦り流せば、あとは洗浄機にかけるだけで殺菌消毒もできるので、各皿を一秒以内に洗っては籠に立てかけて、いっぱいになったら洗浄機にシュートしていく作業を続ける。
その間、手を動かすだけの脳死作業は暇なので、
「今日の晩御飯はなっにかな~」
「お兄様、さっきの『ろーすかつ』っての食べてみたい!」
「あのお客さんハゲてるね!」
「茶碗蒸しがあと二十秒で出来上がるよ?」
両肩に乗っている二人の話に耳を傾ける。それに頷きで返したり、時には小声で告げたりと、いつものつまらなく忙しい作業に華が生まれた。
それにしても両肩の幼女たち。俺の肩に乗っていることが多くなったせいか、急な俺の身体の移動や旋回にも自然に対応するようになってきた。例えば俺が百八十度急に回って走ったとしても、上手く俺の服にしがみついて振り落とされない。
ほら、今身体を急停止させたけど、熟練の如き要領でそれぞれ反応している。
これが他の幻想郷民なら落ちてるところだ。この動きを先日レミリアを肩に乗せたまま行ったところ、急ブレーキをかけた瞬間に前へ吹っ飛んで行ったのは悲惨な事故だったね。メイド長に怒られた。
フランに指摘されて茶碗蒸しの様子を見に行く。
業務用の蒸し器を慎重に開けて、二重に軍手を右手にはめて中を確認する。二重にしないと軽く大やけどをするのは触ったらわかることだし、これが慣れた社員さんだと蒸したばかりの茶碗蒸しを素手で取って行くもんだから驚きだ。
もちろん俺は指先に感覚神経が通っているので素手で触るような愚行は犯さない。
ふたを開けた感じ……うん、ちゃんと蒸されてるな。
「「わ~!」」
液体状だったものを作る前に見せただけに、こいしとフランはプリンのように柔らかくプルプル震える茶碗蒸しに目を輝かせる。こうやって小さなことにも感動できるのって子供の特権だよなぁ。思春期の小生意気な高校生だと「これのどこに感動する要素あんの?」と思ってしまう。あの頃は若かった。
これを保温機に持って行くまでが茶碗蒸しを作る俺の仕事。
二人には悪いけどコレは食べさせてあげられないのだよ。……んな物欲しそうな目で見るな。今度作ってやるから我慢してくれ。
話は変わるがウチの飲食店は七時から八時半が一番忙しくなる。
客の流れは諸行無常の理を表すが、唐突に団体様などが入ってくることがあるから、今日のように予約してねーのに十二名の客が来やがることもある。許さん。
来るのはいい。帰ったときに皿が一斉に戻ってくるのはマジで洒落にならない。
そして七時少し回って幼女二人の話に頷いていられないほど忙しくなると、
「「~♪」」
こいしとフランは歌を合唱する。
それは学校の音楽の授業で流れていた曲であったり、夕方に彼女等がよく見る子供向けTV番組のオープニングテーマだったり、動画サイトで耳にするボカロ曲だったり。
別に他者にバレなきゃ構わんが、シューベルト作曲の『魔王』を歌い始めたときはさすがに笑った。
「……紫苑君、大丈夫?」
「っ!? だ、大丈夫デス……」
ほら、パートのおばちゃんに心配された。頭を。
あんまりにも忙しいと他の担当している社員さんやパートのおばちゃんが助けてくれることがある。まぁ、一人でするような仕事じゃないからね。バイト生が食器の山に埋もれてるのは外聞的にもマズいしな。
「あ、そういえば紫苑君に言っとかなきゃいけないことがあったね」
「何ですか?」
若干引きつったパートのおばちゃんは、あんまり言いたくないけど言わないと可哀そう……という表情をしながら、ホールの呼び出し音を背景に述べるのだった。
「――十五名の団体様が来たってさ」
フランに「お兄様!? 生きてる!? 返事して!?」と叫ばれるまで、俺の思考は彼方へと誘われていた。
♦♦♦
電車に揺られながら窓の外を眺める俺。
この時間帯は終電じゃないけど帰るには中途半端すぎるせいか、基本的に電車内に人が少ない。……そこ、田舎だからじゃねーの?って言わないの。四十分に一本は電車来るわ。
なので窓際のちょっとしたスペースに無意識幼女と金髪吸血鬼が並んで座り、電車内を悠々と見学している。ちょっと古い電車だからガタガタと大きく揺れたりすることもあるが、そんなことで動じるなら仕事中に俺の肩に乗れない。
この電車の椅子配置は車両の長手方向に並んで座る座席……俗に言うロングシートではなく、車両の長手方向と交差する方向に並んで着席する配置の座席だ。通常2人掛けの座席を中央の通路を挟んで複数列配置するので、他に人が来たとしても彼女等が見える危険性が少ない。元々こいしがいるから大丈夫だろうけど。
うーん、眠い。
バイト帰りで疲れてることに加えて、この電車の振動が眠気を増長させる。
前みたいに乗り過ごさないためにも気合で目を開けとかないと。
「ねえねえ、おにーさん」
「――んぁ? どした?」
「仕事してるおにーさんって格好良かったよ!」
ニコニコと笑いながら無意識に俺を褒める古明地こいし。
俺は一瞬だけ阿保みたいに目を見開いた後、苦笑しながら「そうかよ……」と誤魔化すのだった。
未来「アンチ・ヘイトタグ希望」
紫苑「ちなみに未来のブラックバイトの件と俺のバイトの仕事内容は作者の実体験だから」
未来「だから妙にリアルだったんだね」
紫苑「そしてリアルに肩乗り幼女はいない。つまりクソ」
紫苑「あ、それと一周年記念コラボとして活動報告に『東方神殺伝~八雲紫の師~』とのコラボを延長募集してるぜ。下のリンクから飛べるぞ」
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