――想いというものは、きっと何よりも、ずっと何よりも、大切にして行かなければならない。
それを忘れずに、そして胸に深く刻んでいるのならば。
またきっと、大切なあの人に会えるのだから。
「もう五年か……時ってのは残酷に、早く流れちまうもんだな……なーんて。ったくいつまで引きずってんだろうな、俺も」
ナッシーアイランドから、地平線の彼方まで伸びる蒼い海原を眺める。
穏やかな浜風が、波が、太陽が。
あの時の、思い出の日のここと同じ様に吹く。
目を瞑れば、あの少女との出逢いから別れまでが鮮明に思い出される。
リーリエという少女と出逢ったのは、俺がカントー地方から引っ越してきてすぐの事だった。
オニスズメに襲われていた彼女の『ほしぐもちゃん』を助けたのが始まりで、その時点で俺は若干彼女に一目惚れに近い気持ちを抱いていた。
ただこの時点ではまだ、明確に決定的な好意という訳では無かった。
そしてどうやら彼女は訳ありらしく、ククイ博士の元で働いていたが、ククイ博士の助手としてほんの数ヶ月前に雇われたというのに、仕事風景がとても板についていたのが印象深かった。
そこから色々あり、リーリエは俺のサポート役として島巡りに同行する事となった。
正直、ククイ博士には当時感謝してもしきれない想いになったのを思い出す。
口実ありとは言え、人生初の女の子とのデートがリーリエで、しかも長旅なんて嬉しくて自宅で舞い上がった程だ。
島巡りスタート当日に、心配そうに俺の服の裾を摘まんできた彼女に、控えめな彼女は俺が守るんだ、なんてナイト紛いな気持ちも深夜のテンション的な感じであったっけか。
それからはもう、彼女の魅力に本気で惚れた旅になった。
一つ目、俺が引っ越してきてきた島での島巡りでは彼女の怖がり屋なところと優しさに触れ
二つ目の島で良く笑う様になって
三つ目の島の時点で、俺はリーリエに本気で惚れていた。
最初は憧れに近かったけど、いつの間にかずっと近くにいてほしくて、大好きな存在になっていた。
でもその事をリーリエに言う事は出来なかった。
その時は純粋に、この心地好い関係を崩すのが嫌だったから。
そしてエーテル財団代表でもあり、リーリエと俺のライバルの一人のグラジオ、その母親でもあるルザミーネのウルトラビースト捕獲の陰謀に巻き込まれた時には、リーリエの芯の強さに触れた。
気持ちを変えるには形から、という言葉通りにお下げで清楚な面持ちだったリーリエが急にポニーテールにしてきた時は凄く驚いた。
でも、それもそれで有りだなと勝手に納得していた自分がいたり。
自分の理想に心酔していたルザミーネに、ガツンと物言い出来ていたリーリエを見た時は思わず雰囲気に似合わず笑ってしまっていた。
まさかあそこまで芯が強かったとは。
俺が必死こいて守ろうとしていた少女は、俺何かよりずっとずっと真っ直ぐで強くて。
近くにいたと思った彼女は、やっぱりどこか遠くにいて。
四つ目の島、その近くにあるここナッシーアイランドで一緒に雨宿りして、月夜を眺めたあの夜も、彼女の目は、顔は、俺じゃなくどこか遠くの未来を見据えていた様に思えた。
そしてそれから暫くして、俺がアローラ初のチャンピオンに登り詰めてカプ・コケコとの激闘を終えた翌日。
――彼女はカントー地方に旅立っていった。
「こんな気持ち、早く捨てた方が良い。そんな事は分かりきってんだ」
目を開け、静かな海原へと呟く。
左右にいた俺のポケモン達が心配そうな目で見てくる。
……ダメだな、今日はコイツ等の休暇も兼ねてここに来たのに。
「悪りぃな、ディーノ、キュキュ、ジャン、ベティ、ロード、ランズラー。……それに『ほしぐもちゃん』」
この地方に来る前、アローラから来たと話すオーキド博士そっくりなオーキド博士のいとこの博士からたまごを二つ貰い孵化させ、一番の相棒として付き合いも一番長いダダリンのディーノとジャラランガのジャン。
序盤で捕まえ、これまた長い付き合いのベトベトンのベティとスピアーのランズラー。
中盤、頼もしい仲間として加わったミミッキュのキュキュとゴローニャのロード。
コイツ等もまた、リーリエとも、ほしぐもちゃんとも仲が良かった。
見た目こそゴツい感じのポケモンが多い俺の手持ちだが、リーリエは度々コイツ等の為にそれぞれの好みに合うポケモンフーズを作ってくれたり、触れ合って遊んでくれていたりした。
だから分かる。
コイツ等も寂しいんだと。
特にディーノは素人目には表情が分りにくいが、一番寂しがってるのが見てとれる。
「俺は大丈夫だよ、心配すんなって」
俺だけが寂しい訳じゃない、ずっと旅してきた仲間全員が、寂しいんだ。
だから俺ばっかり寂しい気持ちを、押し付けちゃいけない。
ふと、いつも強くて勇ましい雄叫びを上げるほしぐもちゃんからは想像も出来ないくらいの弱々しい声が漏れる。
幾ら伝説のポケモンと言えども、人並みの感情があるのだ。
一番リーリエとずっと一緒にいて、ずっと仲良しで。
本当は俺以上にリーリエから離れたくなかったんだろう、そんな事言わずとも分かる話だ。
いつもバトルの時は、格好良い姿だと言うのに。
こうしてバトルから、人の目から外れるとほしぐもちゃんはこうして寂しそうに鳴く事がある。
それだけ、紡いだ絆は深く強い、そんなものだった。
「……さて、そろそろ帰るかな」
気付けば海には、オレンジ色に燃え盛る太陽がいた。
どうやら何時間も思い出に耽っていたらしい、全く我ながら未練がましいものである。
はぁ、と一息溜め息を付き、帽子を深く被り直し俺は船場へとゆっくり歩みを進め始めた。
「……やる事ねえな」
数週間後、メレメレ島の自宅まで戻り過ごしているが、本当にやる事が無い。
なら母さん達の手伝いでもしようとしたが、母さん達も別段手伝う事は無いと言い、本格的に暇だった。
暇序でに少し、リーリエがいなくなった後のアローラ地方の話を語っていく。
まず、あれからアローラリーグの制度は年一度、アローラ出身若しくはアローラに現住所があるもののみによる予選を、あらかじめ登録しておいた6体から一戦ずつ自由3体選出でのブロック別総当たり戦をし、勝ち残った選手で本戦を、登録した6体によるフルバトルトーナメントとしたルールで行われる。
四天王に関しては意外とシビアであり、本戦シード枠での参加となっている。
まず、何故アローラ出身若しくはアローラに現住所が無いと参加出来ないかについてだが、これはまだ新規のリーグであり、アローラ地方のレベルの底上げと向上心増加を狙う為だとククイ博士は話した。
次に四天王の本戦シード枠参加だが、これは四天王の更なる強化目的と興行を兼ねている。
出来てすぐのリーグであるならば、勿論の事四天王全員が、四天王経験が浅い。
島キング、クイーンやキャプテン等、勝負の世界に日々いる面子もいるが、その勝負と四天王としての勝負とでは感覚が違う。
そして何より、他の地方にアローラリーグの存在を知らしめる事も重要である。
元より観光客は多いが、更に増え賑わう事で経済の更なる発展を目指しているらしい。
で、次に四天王の話だが、ハラさんが去年のリーグを最後に島キング、四天王を共に引退した。
去年のアローラリーグでも貫禄の強さを誇っていたハラさんだが、体調不良で準決勝を棄権していた。
それが引き金と言うか、決定的な理由の一つとなったか、四天王も島キングも後継ぎをあっさり指名してしまい、これまたあっさりと引退宣言をし表舞台からいなくなってしまった。
とは言えリリィタウンに行けば、隠居生活を満喫し相撲を楽しむハラさんが見れるが。
で、だ。
その後釜となった島キングと四天王と言うのは――
「あら、貴方にお客さんよ」
っと、ここでどうやら来客の様だ。
「ん、分かった今行く」
暇過ぎて鈍っていた身体を起こし、軽く腰を仰け反らせる運動をした後玄関のある一階へと降りる。
しかしこんな時に来客とは、一体誰なのやら。
「はいはい、どなたですか、っと」
玄関を開けると、そこには意外な組み合わせだと個人的には思う二人の男が立っていた。
「久しぶりだね~」
「っつっても前のリーグからまだ一ヶ月と少しだけどなァ」
前者、気の抜けた様な言葉で色黒なこの少年ハウと後者、白い髪の頭に太陽と月を模したサングラスを掛け、黒色のジャンパーで決めてきている青年グズマこそが、ハラさんが指名した二人である。
ハラさんの孫であるハウは、毎年の様にベスト8まで勝ち上がり、去年遂にベスト4にまで登り詰めた。
そして、その功績とそこに至るまでの精神の成長が認められたのか、去年のリーグ終了後にカプ・コケコが直々に出向き、次期島キングとして任命した。
俺もその場にいたが、ハラさんの顔はとても穏やかなものであった。
まるでこの事を予知していたかの様に、その日の内にハウを正式な島キングとして任命した。
あれから一年、この前のリーグ戦では遂に挑戦者決定戦にまで勝ち上がってきた。
その時の顔は、いつものワクワクした様な顔だったが、目だけは島キングのそれであり、今に貫禄でも付きそうな感じに見てとれた。
そしてハラさんの後続四天王に任命されたのは、意外にも元スカル団リーダーであったグズマだった。
スカル団解散後、構成員は各々更生して働いていたり、まだ周りからの目が怖くポータウンでダラダラ過ごしていたりとバラバラであり、全員の社会復帰はまだまだ時間が掛かる問題だろう。
唯一の幹部プルメリは、そんな下っ端達の社会復帰を支援する会社に勤めている。
やはりプルメリにとって、スカル団は全員が家族みたいな存在らしい。
そして当のグズマ。
色々文句は言いながらもハラさんの元で修行を積み、二年前よりリーグに参戦する事をハラさんに認められた。
二年前こそベスト32止まりだったが、去年ベスト8に大躍進を果たした。
ベスト4を懸けた試合ではハラさんに敗れたものの、スカル団として出会っていた頃のグズマの時みたいな顔ではなく、悪態こそ付いていたがそこには確かな師弟関係が垣間見えた。
その後、ハラさんの引退宣言の時には一番に喰って掛かったが、最後には納得は行ってないだろうが渋々諦めた。
四天王を継ぐ事に関しては、今でもまだ自分自身納得行ってないらしいが、今年ベスト4という結果を見るに、ちゃんと四天王としての器は出来ていると判断した上でハラさんも正式に指名したのだと思う。
「よ、この組み合わせは珍しいな」
「偶然1番道路で会ってね~。どうせならって事で」
「……まァ、俺の実家ハウオリの近くにあるし。どうせ暇してるだろうって事でオメーも呼んだんだよ」
アローラリーグは年一回、半月程行われるだけである。
勿論、島キング、四天王やチャンピオンともなるとアローラの地元局や他地方メディア出演も多くなるが、今は丁度落ち着いてきたところだ。
まあ、つまりは完全に暇だと言う事だ。
「んで、どこ行くってんだ?」
「ん~とね、取り敢えずたまには旅してた頃みたいにマラサダでも食べに行こうかなって思ってるんだ~」
「ってのは建前で、テメーのその辛気臭い顔を吹き飛ばすくれえの激辛マラサダ見付けたから食いに行くって話になってんだよ。因みに拒否権はねえ、このグズマ様の奢りだからな!」
「……そんなヤバい顔してるか」
「僕、かなり心配なんだよね~……」
「そのままリーグ戦やろうもんなら、あっさり負けそうなくれえにはな」
正直、あの日一日でリセット出来ていたと思っていた。
何せあの精神状態、リーグ終了後少しの間毎年起こっていた事だ、対処法も分かりきっていたはずだし、対処出来なかったのはリーリエがカントーに旅立ったその年だけだった。
あの時はまだ11歳、そう言う感情コントロールに関しては点で年齢相応だったが今俺は16歳だ。
多少なりとも成長出来ていたものだと思っていたんだが、少し16歳と言う歳を過大評価していたらしい。
まあ何が言いたいかと言えば、俺もまだまだ子どもだったと言う事だ。
「マジか……」
「だから、少しリフレッシュしようよ~」
「へっ、その悩み俺に話してみろよ。悩みなんてブッ壊してやっからよ!」
「……改めて、グズマの変わり様ってすげえよな」
「うん、僕も凄く思うよ」
「ケッ、昔のこたあ良いんだよ! オラ行くぞ!」
グズマに関して、初めて会った時のバトル後から元より根っからの悪者じゃないとは勘づいてはいた。
負けをポケモンのせいにせず、自分のせいにして。
ポケモンの事を何気に気に掛けたりして。
だから嫌いになれなかったし、世の中からはみ出して行き場を失ってた奴等を集めて目を掛けたりと、面倒見の良さ何かは好きだったから実質敵対してた頃も、何回か個人的にスカル団本部みたいになってたポータウンには遊びに行ってたりしていた。
はみ出し者やら迷惑とか言われてた連中だが、間近で見てると本気でポケモンを傷付けたり、盗ったりする事は無かった。
島巡りや人生に失敗して、周りから見放されて、それで見返したくてちょっとバカやってただけだったという事だ。
まあ、アローラ地方に伝わる『島巡り』の問題に関してはまた別の機会に語るとしよう。
結局のところ、あの時からずっとグズマは、下っ端やポケモンに対する接し方を見るに本質は変わって無かったって事だろうな。
「はいはい、んじゃ行きますか。母さん、そう言う訳だからちょいと行ってくるわ。父さんに宜しく」
「いってらっしゃい。ハウくん、グズマくん、ありがとね」
「うん、大事な友達の為だからね~」
「……お、俺は別に」
ただ、グズマが照れてるのはいつ見ても慣れないし、合わない気がした。
本人には絶対言えないが。
「で、お前まだあのリーリエの事で落ち込んでんのか?」
「……悪いかよ」
「ん~ん、僕もグズマも、心配してるんだよ~」
「そんな事、分かってるって。ただ……思えば、五年も経ってるともう忘れられてんじゃねえかって、無いとは思いたいがどうしても不安になるんだよ」
ハウオリシティに着くまでの道中、もう最初からグズマにすら核心を突かれていた。
正直な話リーリエが俺を忘れてるとは、自意識過剰かも知れないが無いとは99%いつも思っている。
だが、どうしても残りの1%が拭いきれなくて、時折その1が肥大して。
この時期は平年であるなら、その肥大した1は元通り1に戻っているはずなのだが、今年はタガが外れてしまったのか、未だに戻らないどころか時間を追う毎に、それこそ数時間置きに膨れ上がってきている。
会いたい想いが、止まらなくて。
でも、ここまで来ると苦しくて。
この想いは俺の中で、リーリエと同化させ、綺麗なままで眠らせるべきなのか、それとも否、か。
ここまでリーリエを想っている理由を挙げるなら、それはただ一つ。
俺が恋した唯一無二の人であり、今でもずっとずっと想い続けているから。
ナッシーアイランドで交わした『トレーナーになったら、また一緒に旅がしたい。今度は私も、貴方の後ろじゃなくて、隣で』その言葉は鮮明に俺の心の中に刻み込まれている。
だからこそ、だからこそなんだ。
想い出が、想いが強かったのが俺だけだったんじゃないかとふと頭を過る。
そんな訳無いと、どれだけ言い聞かせても。
大丈夫だ、リーリエはそんな子じゃなかったと自分で自問自答を幾度と繰り返せど。
あの想い出は、リーリエの中でも大切なものだったはずと幾ら思っていても。
あれは夢、幻では無く現実の出来事だった証拠が合っても。
そんな事あるかも知れないと。
もしかしたら、カントーでもっと良い思い出を作って、あの想い出は記憶の片隅にすら無いかも知れないと。
あの想い出は、リーリエの中じゃ所詮子どもの日の記憶程度と思われてるかも知れないと。
もしかして、あの旅の想い出は、全て夢幻だったのではないかと。
思えば思う程、ドツボに嵌まる。
思えば思う程、頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
「俺はなァ、そいつの事少ししか見た事ねえけど。お前の後ろでお前の事、しっかりと想い出に残す様に、一挙一動っての? 見てた様に思えたけどな」
「うんうん、グズマの本当の性格も~、しっかり見てて。だから悪く言う事無かったんじゃないかな~?」
「オイ、それ初耳だぞゴラ」
「聞かれなかったからね~。まあだからさ~、心配しなくても大丈夫だって思うんだけどね」
「軽く流すなよ! ……俺もハウと同じだけどな」
「……ありがとよ」
たかが何の変哲も無い、シンプルなだけのそのままの言葉。
そんなんで何が変わる。
否。少なくとも、俺の心のモヤは多少なりとも消えていた。
◆
「ハウオリシティ、まあ意外と久々だな」
「僕達も~、結構久し振りだよね~」
「ま、そうだなァ」
その後ハウオリシティに着いた俺達は、店までまだ道中散策を続けていた。
海辺も、ショッピングモール街も、ポケモンセンター辺りも全く変わらない。
旅の最初の頃、本当に俺がポケモン初心者を抜け出したかどうかだった頃、リーリエになけなしの金でペンダントを買ったのが懐かしい。
何せリーリエ、とある店のペンダントを凝視したまま動かなくって。
俺の気配に気付いて誤魔化してたけれど、そのペンダントが欲しいのはバレバレだった。
その当時は金が無くて断念せざるをえなかったが、メレメレ島での島巡りを終え、当時の島キングハラさんに勝利してアーカラ島に行くとなり再び来たハウオリで、極力使わず貯めに貯めた金を全部叩いてプレゼントした。
本人物凄い勢いであたふたしてたけど、俺が、リーリエが色々してくれたお礼にプレゼントしたいから買ったと言ったら、またあたふたしながらも若干顔を赤く染めながらお礼を言ってくれた。
その時のリーリエは夕日に照らされていたからかも知れないが、そのオレンジよりも更に数段、リーリエが綺麗だと。
純粋にそう思った。
そんなあの頃と変わらない街並みを見て、静かに想い出を噛み締める。
「最近バトルツリーに入り浸ってるからってのもあるかもな」
「色んな地方のチャンピオン経験者、現チャンピオンや四天王が参戦してっからな」
「たまにしか当たれないけど~、それ引き当てた時はワクワクするよね~」
あまり想い出に浸りすぎるのもどうかとは思うので話を変えるが、バトルツリーが俺達が一番勝負勘を鈍らせないのに最適な場所だと考えている。
グズマの言葉通り、他地方のチャンピオン、四天王やシンオウ地方、ホウエン地方のフロンティアブレーンなんかも参戦しているからである。
それまでに、アローラの実力が注目されていると言う事だろう。
「その地方ならではの戦いってのが見れて、視野が広がるし。当たれなくとも勉強になるな」
「俺様の名前を全国に轟かせるのにも最適だしなァ!」
「僕も負けてられないね~」
三人三様に闘志を燃やす。
勿論だがそのオーラは異様なもので、俺達を知らなくとも思わず振り返り戦慄するくらいにはあるんじゃないかと、客観的に思っている。
因みにだが、変装等は一切していない為正体に関しては直でバレている。
但しアローラの人間はその辺有名人のプライベート事情とかを察しているのか、時折コッソリと話し掛けてきたり稀にサインを求めてくる以外に大きく騒ぎ立てられる事は無かったりする。
まあ、他地方の芸能人が良くお忍びで遊びに来てたりするから慣れてるって事なのだろうか。
「あ、ここだよここ~! 新しくオープンした激辛マラサダ専門店~!」
「その名も『バクガラッス!』だぜえ!」
「絶対バクガメスから捩ってるなこの店……」
そんな雑談を繰り返してる内に、どうやら辿り着いたらしい。
しかし激辛マラサダ専門店とは、また物珍しい事だな。
しかも名前が完全にネタ、看板もバクガメスが火炎放射を放ってるイメージだろう絵、更に外装も赤一色という無駄に凝った事になっている。
周りが海の色や、合ったイメージの色で塗装されている店ばかりなのを見ると余計に浮いているというか、中々に独自色豊かな店……に見える。
「僕は面白いと思うし~、結構良いと思うよ~」
「ま、モノは試しよ。ほら入るぞ」
「へいへい。……まあ、海沿いの街に赤一色の店を作ろうと思ったセンスと度胸は称えたいわ、うん」
確かに、モノは試しと良く言われる。
まずは入ってみるとするか。
「ヘイらっしゃ……グズマさん!!」
「ん? ……おお! お前確かスカといつもコンビ組んでた奴じゃねえか!!」
「まさかのお前かよ」
「久し振り~」
入った先で待ち構えていたのは、元スカル団であり毎度毎度コンビを組んではバトルを仕掛けてきた下っ端の片割れだった。
あの時と比べて、何だか少し爽やかな雰囲気になった様に思う。
「俺、漸く夢見つけられたんすよ。料理で、落ち込んでる奴等とか、昔の俺みたいに人生失敗した奴のそんな気持ちとかを吹き飛ばせられたら良いなって。俺不器用っすけど、何とかこうして一歩前進出来たんすよ」
「そうか……良かったじゃねえかよ。応援してるぜえ」
「そっかあ~。目標が出来ると、人ってこんなに変わるんだね~」
「何だか少し格好良く見えるぜ、因みに本音な」
「二人共……俺が変われたのだって、お前らの輝きに憧れちまったからな、性懲りも無くまた夢追い掛けちまってんだ。ただ、今度は上手く行きそうだぜ」
何だろうか、コイツを見ていると何だか眩しくて。
過去を乗り越えて前進して、それでもってその大きな一歩を見える形で踏み出せていて。
そんなコイツに、コイツの輝きがヤケに眩しすぎて。
何処かで立ち止まってしまっていた心のあった俺は、直視出来なかった。
「っと、それじゃ長話もあれっすし席に案内するっす」
まあ、自分もまだまだ全然若いって言う事で無理矢理自己完結させ、思考を店内の風景に移す。
明らかなネタ系統の店とは思ったが、意外に客足は多いらしく、さほど大きくない店内は賑わっていた。
特に観光客らしき人達の姿が多く見受けられる辺り、近い内に大ヒットすると予感した。
そしてスタッフは、元スカル団員が殆んどだった。
ちゃんとこうして、知り合いが更生する為に働いてるんだと思うと、何だか嬉しく思う。
「あれー、もしかしてグラジオ?」
「……お前ら、それにグズマか。奇偶だな」
席に案内される途中、ハウの声にその方向を見やると、見知った顔を見つけた。
クリーム色の長髪に黒い服とクールな雰囲気が女子に大人気であり、更には不在の母であり代表ルザミーネに代わり若社長としてエーテル財団を纏め上げている俺達のライバルの一人グラジオ。
代表としての手腕は上々、幹部達からも次期正式跡取りとして文句なしの太鼓判を押されている。
ポケモンの腕はハウやグズマと同等以上であり、今まで復数回チャンピオン防衛戦で当たったのはコイツだけだ。
今年でチャンピオン防衛戦に置いては三回目の対戦となって、かなりギリギリだった事をここに付け加えておく。
「よっ、お前がハウオリにいるなんて珍しいな」
「今日は久々に有給を取った。そして気分の赴くままにここに来た、それだけの話だ」
「丁度良い、席はここにするぜえ」
「ウッス! 了解しやした!」
しかし、アローラリーグの中でも次期チャンピオン候補筆頭と言われる三人と、自分で言うのもあれだが、まあ所謂チャンピオンの四人。
しかも三人は今季全員ベスト4以上、そんな面子が一同に、偶然集まると言うのは中々に運が良いと言える。
「……しかし、何とも無様な顔をしているな」
「あっ早速それ言っちゃうか……ったく、全員おんなじ事言うのな」
「取り敢えず僕超激辛ハバネロマラサダね~」
「オメーはもう少し空気を読めや。……俺も同じので」
ハウはハウで良い意味で空気読めてないな。
まあ、こうやって空気をほぐせる様な存在というのは、本当に貴重な存在だとは思う。
「……話を続けさせてもらう。何年も凌ぎを削りあってきた、俺にとって最高のライバルの一人だからな。いつもお前がポケモンへの指示を勝てる確信を持って、自信に満ち溢れた顔でやっているのは誰よりも理解しているつもりだ、ほんの多少見ただけでも分かる。だからこそ、そんな顔をされていると張り合い甲斐が無くなるじゃないか。俺が憧れたチャンピオンは、もっと輝いていた」
「……もう迷わないって決めたはずなんだけどなあ。気付いたら、俺一人だけ期待してんじゃないかって、俺一人だけ、あの時から時間が止まってて、取り残されてんじゃないかって。情けねえわなぁ」
「会いに行け……と言って、はいそうですかと素直に聞く様な奴ならとっくの昔にこんな事解決している、か」
『会いに行く』その選択は勿論無かった訳じゃない、寧ろ会いたくて、会いたくて、堪らない。
この気持ちは誰にも負けない自信がある。
だが、それはリーリエの決意に反していると思った。
リーリエは、間違いなくカントーでトレーナーとなり修行を少なからず積んでいる。
漸く一人で踏み出せたそれを、俺が会いに行っては無駄にしかねない、そう結論付けている。
そして何より、俺が離れたくなくなってしまう。
俺はやはり、どれだけバトルが強くなろうと心は弱かったのだ。
「俺の心がもっと強ければ、少しくらい会いに行くってのも出来たと思う」
「人は誰しも、弱い部分を持つ。自分を責めるな」
「……そう、だな」
「何時までも辛気くさい顔をするな。ほらさっさと注文でもして、辛さでそんな気持ち吹き飛ばしてしまえ」
やはりグラジオは、ぶっきらぼうな物言いではあるが優しさと細かな気遣いが出来る、良い奴だ。
生粋の兄気質というものなのだろう、昔から良くリーリエの心配をしていたりしていた時の顔は、正しく兄であった。
俺にも兄がいたら、こんな感じだったのだろうか。
「じゃ、俺4辛で」
「ならば俺は5辛だ」
その後、激辛マラサダで悩みは多少吹き飛んだが、最大の半分以下の辛さの割に、想像以上に激辛だった事を付け加えておく。
「……物凄い辛さだったなオイ」
「あ、ああ。ありゃ想像以上にクレイジーなやつだったぜえ……」
「す、少し胃が痛む……」
「僕は平気だよ~」
「一体お前はどんな味覚してんだ」
激辛マラサダを食べ、身体が暑くなったという事で俺達は海岸を歩いている。
ここはグズマが、考えを改める切っ掛けになった少し特別な思い入れがある。
「ところでよォ、お前これからどうすんだ?」
「んー、個人的にはお前らと駄弁ってるか帰るかの二択しか無い訳だが」
「やっぱり暇だよね~」
「ならば、今行きたい場所がある。着いてくるか?」
目的のマラサダも食べ終えた事で、予定はまたまっ白になってしまった訳だが、グラジオが何やら行きたい場所があるというのでここは乗っかっておこう。
帰ってもこれといってやる事があるでも無いしな。
「俺はやる事ないし、良いけど」
「ハウとグズマも、それで良いな?」
「良いよ~」
「俺も暇だしなァ」
全員が全員、このままグラジオに着いて行く事になった。
暇すぎるのも考えものではあるが、まあ今日くらいのんびり過ごしても罰は当たらないだろう。
少なくとも、今の俺達の生き方ならば問題ない。
……しかし、一体グラジオは何処に行こうとしているのやら。
この方角はもう、港しか無いはずなんだが。
「グラジオ、一体何処に向かってんだこりゃ?」
「着いてくれば分かる」
「いや着いてこいったって、もう港しか無いと思うんですがそれは」
因みにグズマとハウは普通に着いてきている。
コイツ等は疑問とか何か、浮かばないのだろうか。
他の島に行くにしてはもう時間もあまり無い訳だが……まさかコイツ等全員俺を嵌めようとしているとか?
……いや無いか。
しかしグラジオは、俺の思考の間に港の入口すらも通り越して行った。
残るはもう、島の先端しか無い。
本当に何がしたいのやら。
「さ、行ってこい」
そして俺は、その言葉でとうとう頭までもが混乱してきた。
俺一人に行かせる意図が全く分からない、気でも狂ったのか?
「本当に何の意味があるんだよ……元はと言えばお前が行きたかったんじゃねえのかよ」
「フッ……行けば分かる。騙されたと思って、俺を信じてみろ」
「……はぁ」
全く、悪意の無い澄んだ表情且つドヤ顔でそんな事言われたら、断れない。
旅してる時と、何だか立場が入れ換わってる様にも思えた。
俺は疑心暗鬼になりながらも、一歩、一歩と歩みを進める。
「分かった分かった、騙されてやるよ」
「じゃあ僕達は待ってるね~」
「さっさと行ってきやがれや」
ハウとグズマも、ニヤニヤしながら送り出す。
そしてその少し後ろでも、グラジオが薄く笑みを浮かべていた。
ああ、これは嵌められたな。
そう思いつつも、一度行くと言ってしまった以上歩みは止められない。
何が待ってるか知らないが、こうなればヤケだ。
そうして歩いている内、終着点が見えてくる。
「……人?」
その終着点には、一人だけ人が佇んでいた。
夕焼け色に染まる、静かなメレメレの海をジッと眺める様に、誰か人を待ち焦がれているかの様に。
――その姿が、少しずつ見えてくる。
一歩一歩、進める内にその姿に、とある人物が重なり始める。
まさか、そんな訳は、いや、でも。
歩むを進める度に、それは色濃く重なっていた。
「あ、あぁ…………」
そしてそれは、確信となった。
「嘘じゃ、ないのか?」
「嘘じゃないです」
もうその少女に、普通に声が届く位置にいた。
「夢じゃ、ないのか?」
「夢じゃないです」
大きな帽子と、綺麗な金色の長い髪を密網に結ってあるその姿。
「俺の事、覚えていてくれたのか」
「忘れる訳、ないじゃないですか」
最後別れた時より、随分と背も伸びスタイルも良くなった様に思える。
「ああ……本当に、本当に。正真正銘、君なんだな」
「はい。本当に本当、正真正銘私です」
それでも。
あの時と変わらぬ、柔らかい声と雰囲気。
ああ。それは間違い様も無い、俺が五年間一時たりとも忘れる事の無かった人物。
涙が、止まらない。
それでも、俺は声を絞り出す。
ずっとその人の名前を言いたかったから、ずっとこの言葉を言うのを待ち焦がれていたから。
「お帰り、リーリエ」
「はい――ただいま、です」
振り向いた少女の顔もまた、俺の様に涙で濡れていた。
しかし二人とも、その涙は悲しさからではなく。
正真正銘の嬉しさから来るものであった。
「えっと、その……」
今すぐにでも、聞きたい事言いたい事は山の様にある。
だが、その全てが溢れて止まらなくて。
声に、言葉にならない。
「お久し振り、ですね」
俺の意図を察してくれたのか、リーリエがそっと俺に言葉を掛ける。
そのお陰か、幾分かは冷静になれた気がした。
「あ、ああ。……リーリエ、綺麗になったな」
冷静になれた気がしたと言ったが撤回しよう、今発言してしまった言葉を聞けば分かるが、心の声が思わず外に溢れだしてしまった。
「へ!? あうぅ……は、恥ずかしいです……」
「わ、悪りい」
「あ、そのっ、別に嫌だった訳ではなくて……」
顔を、後ろに映る海の色の様に紅潮させるリーリエ。
その、可愛さと美しさを兼ね備えた彼女の姿に、胸が一層高鳴る。
俺は確信する。
俺の気持ちは、五年前とやはり変わらないでいたと。
俺はやはり彼女に、リーリエに未だに恋心を抱いているという事に。
でも、怖くて。
その感情を表に出せずに、自分の中で抑え込んで話を続ける。
「そ、それよりもさ。来るなら来るって、連絡してくれれば良かったのに。そしたら色々と盛大に準備したのに」
「貴方が驚いて、より一層喜ぶ顔が見たかったから、兄様達とこの計画を立てたんです」
悪戯っぽい笑顔で答えるリーリエ。
そんな顔をされたら、アイツ等への文句も消えてしまうってものだ。
しかし、俺の喜ぶ顔が見たかったから、か……
そんな事を言われたら、そこにどんな気持ちが含まれているのか、何を思ってそう発言したのか、気になってしまうじゃないか。
「……なあ、リーリエ」
「はい、なんでしょう?」
「五年前、俺と旅してて。その時の想い出がさ、もしかしてリーリエの中じゃ過去の出来事として記憶の片隅になっているんじゃないかって、俺の事覚えていてくれているかって、信じたかったのに、そう言う事ばっかり考えてた」
そう、一度思ってしまうと。
怖くても、リーリエへの想いは抑えられなかった。
「……私も。待っていてくれているか、私の事はしっかり覚えていてくれているか、ふと心配になってしまう事がありました」
「……なんだ、俺一人だけが心配してるんじゃなかったのか。ハ、ハハハ……」
同じ気持ちでいてくれた事を聞いて、力が抜ける。
自分だけがおかしくなっていたんじゃない、自分だけが会いたい感情に押し潰されそうになっていたんじゃなかったんだって。
涙が再び零れ落ちる。
そして、怖さで怯えて、伝えられなかった弱い自分も落ちた。
余計な事は、今の涙に全て流した。
苦しくて苦しくて堪らないこの感情に、嘘偽りなんて微塵も無い。
今のこの関係が壊れるかもしれない、もう後戻り出来ないかもしれない。
それでも、もう迷わない。
この気持ちに踏ん切りを付け、俺は前に進むと決めた。
「…………リーリエ」
「こ、今度はなんですか?」
リーリエの瞳を一点に見据える。
顔が熱くなる、だからどうした。
鼓動が早くなる、だからどうした。
口が、唇が震える、だからどうした。
俺は、リーリエが何よりも、誰よりも大好きなんだ。
「俺は、リーリエの事がずっとずっと。五年前から一人の女の子として、異性として」
「大好きです」
ああ、言った、言ってしまった。
その後の対処なんて全く想定していない、勢いだけで発言した。
今自分は、多分緊張でおかしくなっている事だろう。
しかし後悔だけは、確実に無いと言い切れた。
最早玉砕特攻、砕けようとも後悔だけは絶対に無い。
「………………」
リーリエは俯いたまま、何も喋らない。
やはりダメだったか。
そりゃそうだ、計画性も何も無い、勝算のしょの字も無い行動だったのだから。
俺は目を瞑り、死刑宣告――つまりはお断りの言葉を待つ。
――瞬間。
俺の鼻にフワッと、良い香りがふっと漂った。
ほんの一瞬だったが、それはシャンプーの香りだと分かった。
どんなシャンプーか、誰の匂いか、そこまでは考えられなかった。
否、俺の全神経全思考は、その直後に自身の唇に感じた柔らかい感触に集中せざるおえなかった。
(嘘、だろ……?)
信じられなかった。
何が起こったか、それは脳内が瞬時に判断した。
どんな状況であるかも、理解した。
しかし、これが現実だというその一点が、理解出来なかった。
少し時間が経ち、その感触が離れる。
相手の顔が見える、その時にこれが現実なんだという事を始めて実感した。
「リー……リエ……?」
「……私のファーストキス、です」
「……え? えっと、それじゃあ、このキスの意味って……」
このキスの意味を聞こうとし、リーリエの人差し指でそれが遮られる。
静かに、顔を紅潮させ笑顔で首を縦に振るリーリエ。
それが、全ての答えであった。
◆
「全くもうっ。私、ずっとその言葉を待っていたんですよっ」
「いや、アハハ……ずっとリーリエも想ってくれていたとは……」
夜、メレメレの海は夜空の如く黒く染まっている。
それが満月に照らされ、何処か幻想的な雰囲気を醸し出している。
そんなメレメレの海を一望出来る港に、俺とリーリエは未だいた。
ハウ、グズマ、グラジオはいつの間にかいなくなっていたが、メールで一言ずつお祝いの言葉を貰った。
まあ、アイツ等のお陰でもある訳だ。
今度何か飯でも奢ってやるか。
それにしても、だ。
あの後話を聞く限り、リーリエの方も五年前既に俺の事が好きだったとか。
そのせいで今は少しお小言みたいなものを貰っているが、仕方の無い事だろう。
「離れ離れになる、そう思っただけで私も苦しくて、一時たりとも貴方を忘れた事なんて、無かったんですよ?」
「俺だって、忘れる事なんて出来ねえよ」
海を一望出来るベンチに二人座り、寄り添い合う。
それは、今まで会えなかった時間を埋める様に、これから決して離れないという意思の表れの様に。
「……覚えてるか。あの日ナッシーアイランドでリーリエの決意を聞いた時も、こんな澄んだ夜空だった」
「覚えています。雨上がりの夜空に決意を、貴方の隣に立ちたいと語った時の事」
「……強く、なれたか?」
あの日、あそこでのリーリエの決意を聞いた時も満月の輝く綺麗な夜空だった。
今、リーリエの目は雨宿りの為に入った洞窟で見たリーリエの目と同じものだった。
「貴方程とは、行きませんけれど」
苦笑するが、そこには確かな実力を匂わせる雰囲気を纏っていた。
リーリエもこんなに成長していたんだ、俺が立ち止まってちゃ行けない。
もう絶対に立ち止まらない。
リーリエの目標で、憧れであり続けられる様に。
「……もう少し、貴方の近くに寄り添っても良いですか?」
突然リーリエが、不安そうな顔でそう聞いてくる。
漸く会えたとは言え、一旦彼女は母ルザミーネの帰国準備の為にカントーに戻る。
それは短い間と言えばそうだが、それだけで不安になるのも分かる。
もう会えないんじゃないかと、その想いが積もって行く。
だが、俺は信じている。
「大丈夫、絶対また会える。ほんの少しでも離れるのは辛いけど、俺は信じているから」
「……そう、ですね。私も、貴方を信じます」
「俺も、リーリエを信じる」
目と目が見つめ合う。
二人の顔は、次第に近く、近くなっていく。
それはまるで、二人の出逢いからこれまでを表すかの様に。
メレメレの港に祝福の風が一つ、吹いた。
‐fin‐
2018 1/6 実に386日掛けて1万UA達成
1/5 5000UA達成
12/21~22 日間短編ランキング一位獲得
12/24 週間短編ランキング最高三位獲得
12/20~21 五回連続(表示期間外含め総計七回)総合日間ランキング獲得、最高11位
12/23 総合週間ランキング最高33位獲得
12/23~ 短編累計ランキング獲得、2018年3月、遂に陥落を確認、1年2ヶ月くらいの間良い夢をありがとうございました。最高72位
皆様のお陰で、言葉では表せない程の素晴らしい記録を打ち立てる事が出来ました
更には短編累計入りと言う、とんでもない偉業を成し遂げる事が出来ました
本当にありがとうございます