「……どう見る、アイン」
「どうもこうも、やっぱりまだ連携に綻びがありますね。あれじゃ恐らく、ボーデヴィッヒは倒せません」
第三アリーナ管制室、映し出されているアリーナの様子を眺めながら、俺は織斑先生の声にそう返事をした。彼女も同じ考えだったのか、一度こくりと頷くとすぐにモニターへと視線を戻す。
現在このアリーナではオルコットと凰、そしてボーデヴィッヒの三人による模擬戦が行われている。本来ならばアリーナ一つを丸々開けて模擬戦をやらせることなんて滅多にないのだが、今回はアリーナの利用者が少ないといった幾つかの条件が満たされたことで、俺が交渉した結果、特別に監督役の織斑先生より許可が下りたのである。
正直に言って俺としてはとてもありがたいことだ。俺と織斑先生という審判役がいるキチンとした模擬戦である以上、ボーデヴィッヒも過剰な攻撃を二人に加えるなんてことにはならない筈。俺の記憶では確か、ここで敗北した二人は後に控える学年別トーナメントへの参加が出来なくなっていたからな。こうして場を整えてくれた織斑先生には感謝しなくてはならない。
「ふむ、ワイヤーブレードで凰を捕らえたか。そしてそれを──」
「あ、オルコットにぶつけましたね。残りのシールドエネルギーは……凰が86、オルコットが129ですか。これはちょっとまずいですかね」
「対するラウラは267……まだ余裕がありそうだな」
モニターの端に表示されたエネルギー残量を見た俺達は口々に己の考えを述べる。いくらボーデヴィッヒの技量が高かろうと、流石に二人掛かりならば倒すことも可能だろうに。やはりまだまだ未熟で改善の余地ありである。
それにしても……オルコットと凰、そしてボーデヴィッヒの模擬戦か。これがセシリアと鈴、そしてラウラという未来での三人による戦いだったら大変なことになるんだろうな。俺はふとそんな考えを頭に浮かべた。
そしてそれを流れるように捌き、不敵な笑みを浮かべるラウラ。その回りには停止結界で止められた三十二基のビットが。
……うわ怖っ、俺の恋人怖っ。今の三人の模擬戦を見ていれば、如何に未来の三人が恐ろしいことをしていたのかがよく分かった。目の前の光景なんて可愛いものである。人のことを言えた義理じゃないがこれは酷いな。
特にラウラの停止結界、あれは反則だ。なんで試合開始と同時に捕まって動けなくなるんだよ、鬼か。刀奈の開幕
相性が悪すぎると言えばシャルや簪も悪いな。合計192発のミサイルは全て簪のマニュアル操作なので基本的に避け難いし、一発でも食らえば怯んでいる隙に後続が来るから当たれば終わりだ。避けるには全力で振り切るしかない。シャルの
と、まぁそんな過去の理不尽な仕打ちに一人黄昏ていると、どうやら模擬戦を終わり間際まで進んだらしい。オルコットが至近距離でミサイルを爆発させてダメージを負わせるも倒しきれず、迫るワイヤーブレードに二人は絡め取られて動きを封じられてしまう。そこへプラズマ手刀による連続攻撃を受け……とうとうシールドエネルギーが尽きた。喧しいブザーの音がアリーナに響いて試合終了を告げる。
『そこまでだ。ブルー・ティアーズ、甲龍共にシールドエンプティ。よってボーデヴィッヒの勝利とする』
直後に木霊する織斑先生の声。それを聞いたボーデヴィッヒは何かを喋った後、すぐにピットの方へと戻っていった。彼女の性格からするに期待外れだとか、この程度かとか、そんな感じなんだろうな。残されたオルコットと凰は悔しそうに表情を歪ませており、合流した織斑とデュノアもどう声を掛けるべきか迷っているようだ。
「ふむ、やはり単純な実力ではボーデヴィッヒに軍配が上がるか」
「みたいですね。強いですよ彼女、少なくとも一年生のこの時期であれだけの実力を持っていたのは、精々去年の更識くらいじゃありませんか?」
まぁ実際には去年の更識の方が強いんだろうけど。手元にあったインスタントのコーヒーを一口啜ると、まだ残った熱がほんのりと口の中に広がった。それと同時にブラック特有の苦味もだ。少しだけ頭が冴えたような気がする。
「確かに。だがあいつは強さと攻撃力をイコールで見ている。あれではこの先の学年別トーナメントは勝ち抜けまい」
「しかも今年は先月の無人機騒動の関係でタッグマッチになりましたからねえ……性格的に彼女はペアと協力する気はなさそうですし、連携の上手いペア相手だときっとキツいでしょう」
そこまで言って俺はふと動きを止めた。そういえば今回の模擬戦でオルコットと凰の二人が負傷していないということは、当然彼女達も学年別トーナメントに参加するだろう。しかも今年はタッグマッチ、つまり二人一組だ。織斑に惚れている二人がこの機会を見逃すような真似をする訳がない。となると──
「(もしかして、織斑がデュノア以外と組むかもしれない……?)」
そんな考えが頭を過るが、俺はすぐに首を横に振る。あいつが、あの織斑が迫ってくる二人を相手にして素直にどちらかを選ぶだろうか。間違いなくデュノアに助けを求め、そしてその流れで彼女とペアを組むに違いない。織斑一夏とは、そういう男なのだ。
……あぁ、そういえば学年別トーナメントで優勝すれば織斑と付き合える、なんて噂もあったっけ。しかしあの朴念神のことだ、どうせ言われたところで「おう、買い物に付き合うくらいならお安いご用だぜ」とか言うんだろうけど。一体何をどう勘違いしたらそうなるのか教えてくれよ、昔の俺。
ま、そんなことは置いておいて──
「楽しみですね、織斑先生」
「あぁ」
生徒達が集まり始めたアリーナを眺めながら、俺達はふっと笑ってそれぞれの持ち場へ戻った。
▽△▽△
六月も残り僅かとなり学年別トーナメントが近付くIS学園アリーナでは、先月の五月半ばに行われたクラス対抗戦の時と同じく改修作業が行われていた。同時に学園に配備された訓練機と武装の整備もである。
クラス対抗戦と学年別トーナメント、この二つの行事の違いを挙げるとすればやはり参加する人数だろう。何しろ前者が各クラスの代表のみで行われるのに対し、後者は二年時より分かれる整備科を除いた全生徒が参加するのだ。その数は約二百八十、勿論棄権する者もいるだろうがそれでも二百人は軽く越える一大行事なのである。
それだけの人数がISバトルを行うのだ、必然的に使われる訓練機の数も多くなるし、使われるということはしっかり整備をして万全の状態に仕上げておかなければならない。試合中に不備のせいで事故が起きましたなんてことは、絶対にあってはならないことなのだから。
「ちょっとこのラファール、スラスターがおかしいわよ!急いで直して!」
「駆動系の一部に動作の遅れ有り……誰か少し手を貸してくれない?」
「レンチ足りないわ!後ボルトも、どんどん持ってきて!」
「高周波カッターって誰か使ってる?終わったら回して~!」
そんな訳で現在、この第二整備室では整備科の教師や生徒で構成されたチームの一つが、何十とある訓練機の一機ずつを入念にチェックしていた。全員が真剣そのものであり、期限までに間に合わせようと必死になって動いている。恐らく、他の整備室でも同じようになっている筈だ。
そしてその中には整備の腕が立つということで、整備科担当ではない俺の姿もあった。複数の空中投影ディスプレイに映し出されるデータに目を通しながら、カタカタとメカニカル・キーボードを叩いて修正と調整をしていく。簪ならこの三倍は速く、そして正確に処理していけるんだろうが、生憎俺にはそこまで出来る技術はない。それでも可能な限りスピードを上げ、かつミスのないようにする。
「ラファール二十二番機、二十三番機、打鉄十八番機!動作、機能、及び武装に問題ありませんでした!」
「ありがとう!大丈夫なISは指定された倉庫に運んですぐ次のを用意して!時間は限られてるわよ皆!」
「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」
どうやらアリーナの方へ実際にISの動作テストを行っていたメンバーが戻ってきたようだ。バタバタと整備室内が一層慌ただしくなる。しかしこの整備室には危険な工具や機材が大量にあり、躓き転んで怪我をしたなんてことだけにはならないよう切実に祈りつつ、俺は意識を目の前のディスプレイへと戻した。とりあえず、今は頑張らなくちゃな……
「~♪~~……ん?」
その夜、万事に備えて専用機の整備をしようと再び整備室を訪れた俺だったが、そこにいた意外な先客に少々驚かされることになる。いや、よく考えてみれば今の時期に整備室を使おうとする子は、彼女以外にはきっと存在するまい。つまり今、この片付けを終えてなお散らかった整備室で俺と彼女──更識簪が出会うのは必然とも言っていいだろう。
更識簪。未来における俺の大切な恋人の一人で、空のようなセミロングの髪にISのヘッドギアに似た装飾、そして紅の瞳に掛けられた眼鏡が特徴の少女だ。因みに好きなものは勧善懲悪のヒーローもの。俺もかつてはよく彼女に付き合って一緒に眺めたものである。
「……」
そんな彼女は現在、白い装甲をしたISの前で空中投影ディスプレイと睨めっこをしており、此方に気付いた様子はない。今の俺からは見えないが恐らくあれは彼女の専用機、打鉄弐式のデータなのだろう。確かまだ未完成なんだよな、倉持技研が途中で投げ出したせいで。
「更識」
「ひっ……!?」
ビクッと彼女の肩が跳ねる。そんなに驚かなくてもいいじゃないかと思うが、よく考えたら俺と彼女は初対面だったな。それに俺って男だし……突然知らない異性に話し掛けられる、なるほど、これは驚くなという方が無理か。俺は軽く頭を下げた。
「あぁ……すまない、少し俺もここを使わせてもらってもいいだろうか?」
「え……えっと……ど、どうぞ」
助かる。俺は小さな声で答えてくれた更識に礼を言うと、部屋の片隅に移動して白式・零を展開させた。いくらここには更識しかいないとはいえ、この機体は無闇に晒していいものではない。やることをやってさっさと終わらせてしまおう。目の前に鎮座する純白のISの装甲に触れれば、キィンと音がした後に懐かしい
──久しぶり、イチカ。前月以来だね
──あぁ。どこか具合の悪いところはないか?直すから遠慮なく言ってくれ
──ん~……ある程度は自分で直せるからそんなにないんだけど。でも、スラスター周りとか駆動系はいつも通りしっかり見ておいて欲しいかな?
──分かった、任せてくれ
ふぅと軽く息をついて白式・零から手を離し、すぐに準備に取り掛かる。一応彼女との付き合いも長いお陰か、こういった整備調整は馴れたものである。白式・零の方から直す部分を教えてくれるというのも大きい。テキパキと手際良く、それでいて丁寧に。ハイパーセンサーやシールドバリアー、PICといった機能の類いにも万が一がないよう、複数のディスプレイに出されたデータをしっかりと確認していく。
「(システム系や駆動系に異常はない。スラスター出力、安定。問題はなし……と。関節部分、装甲部分も共にいけそうだ。なら、もう大丈夫かな。これをこうして……終わりっと)」
最後に全てが正常であることを見届けてから、空中投影ディスプレイとキーボードを閉じ、待機形態の結婚指輪となった白式・零を元の位置へと戻した。上からの照明に照らされたそれは、光を反射してキラリと七色の輝きを放つ。綺麗だ、柄にもなく俺はそう思ってふっと表情を綻ばせた。
が、しかし今日は結構長い間ISに携わってたせいか、いつも以上に疲れが溜まってしまったようだ。頭と、そして目が痛い。チラリと更識の様子を伺ってみれば、真剣な面持ちのままカタカタとキーボードを叩いている。どうやらまだやる気があるようだった。
出来れば早く部屋に戻ってゆっくりしたいところだが、流石に女の子を一人残して俺だけ帰る訳にはいかない。壁に掛けられた時計から、現在は八時を少し過ぎたところ。まぁ後小一時間くらいなら大丈夫かと考えた、ちょうどその時だった。
グゥ~……
「「……」」
二人しかいない整備室に可愛らしい腹の虫が鳴く音が響いた。勿論、発生源は俺ではない。ちゃんと夕飯は済ませてきた。ということは必然的に音の主はあそこで顔を真っ赤にして俯き、「あぅ……」とか呟きながらチラチラと此方の様子を伺っている少女ということになる。うん、凄まじく気まずい。
「……更識、夕飯食べてないのか?」
その言葉に彼女は小さく首を縦に振る。なんというか……思わず溜め息が出た。IS作りにのめり込む気持ちは分かるがそれでも食事くらいは摂らないのか?案外自分に無頓着なんだな、この子。
「……どうするんだ?もう寮の食堂は閉まってる時間だぞ?購買だって八時までだからもう使えない」
「え……と……うぅ……」
「……はぁ」
二回目の溜め息。俺は素早く冷蔵庫の中身を思い出し、簡単に作れそうな料理に検討をつけた。麺を茹でればうどんが出来るし、増やしたワカメとミョウガ、それにキュウリで酢の物もいけるか。後、必要なら卵焼きとか。結構食材が減ってきたしまた買い出しに行かないとな……って、違う違う。話が逸れた。
「簡単なもので良かったら作るし寮長室に来るか?別にただのお節介だから断ってくれても構わないけど……」
「え?え、えぇ……」
まぁお腹を空かしている女の子を放置出来る程俺も非情な男ではない。尤も、それに更識が乗ってくるかは分からないのだけど。何せ彼女にとって俺は初対面の怪しい男であり、そんな者から部屋に来ないかと誘われているのだ。十中八九断られるのがオチなのたが……
グゥ~……
「あぅぅ……じゃ、じゃあ……お、お願い、します……」
この後、パクパクと料理を頬張る彼女を見てほっこりしたり、ISや特撮ヒーローの話で盛り上がったり、その結果少しだけ彼女と仲良くなれたり、翌日になって姉の方の更識から親の仇を見るような目で睨まれたりするのだが、それはまた別の話である。
アイン 旧名織斑一夏。専用機は『白式・零』。忘れがちだが灰の長髪に眼帯、そして火傷痕と端から見れば完全な不審者。特撮ヒーローの中でも変身する仮面のライダーが好みである。推しは○ウガと○騎
箒(未来) 専用機は『紅飛沫』。
セシリア(未来) 専用機は『
鈴(未来) 専用機は『
シャル(未来) 専用機は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅤ』。高速切替を生かして無限の武器を使いこなす。必殺技は連続パイルバンカー(パイルバンカー①→装填済みのパイルバンカー②→装填済みのパイルバンカー③→……)。タイムラグがほとんどなく、リアル釘パ○チとなる。理不尽その四
ラウラ(未来) 専用機は『
簪(未来) 専用機は『練鉄』。合計192発のミサイルをマニュアルで操作するため、回避は限りなく難しい。ミサイルを操作しながらでも本人は動けるため、ミサイルに気を取られていると負ける。理不尽その六
刀奈(未来) 専用機は『