今作も皆様のお陰でお気に入り登録数2000が見えて参りました。そんなわけでまた何かしらの特別編でも書けたらいいなぁと思ってます。活動報告の方にアイデアを募集致しますので、「こんなのが見たいなぁ」と思うことがあれば是非お願い致します
長くなりましたが、本編をどうぞ
学年別トーナメント当日、IS学園はとんでもない慌ただしさに包まれていた。教師だけでなく生徒の手を借りてまで行われる雑務や会場の整理、そして来賓の誘導。そんな中、俺は一年生の試合がされるアリーナの整備室で、出場しない整備科の子達と共に最後となる訓練機の確認をしている。世界初の男性IS操縦者ということで表に出れば騒ぎになるのは明らか、故にこうした外からの人目につかない所で役目を果たすように言われたのだ。しかし今日までに皆で時間を掛けて丁寧にやったお陰か、今のところ深刻な問題は起こっていない。そのため、室内の空気も随分と緩いものになっていた。
「お疲れ様です、アイン先生」
「ん、布仏か」
点検を終えて休んでいると、学生用の作業着を着込んだ布仏が隣にやって来た。ニコリと微笑むその姿からはいつも生徒会室で纏っているようなお堅い雰囲気は感じられず、むしろ妹のように接しやすさすら覚えるくらいである。そんな彼女に少しだけ驚いた俺は、誤魔化すようにペットボトルのお茶を煽った。
「何も起こらなければいいですね、今回は」
「あぁ、そうだな。そうなればいいんだが……」
小さく呟いたその含みのある言葉に布仏は眉を潜める。更識や十蔵さん同様、彼女も俺が未来から来たということを知る数少ない人物だ。更識が二年生のトーナメントに出場する関係で不在の今、腹心である彼女には話しておいた方がいいかもしれない。
「布仏、VTシステムって知ってるか?」
「……はい。ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソ部門受賞者の戦闘方法をデータ化し、それを再現、実行するシステムです。搭乗者に能力以上の動きを要求するため肉体に莫大な負荷が掛かり、最悪命に関わるという危険性から開発は禁止された代物だと記憶していますが……」
「……それが、ボーデヴィッヒのISに搭載されている」
彼女以外の誰にも聞こえないよう小声でそう告げた瞬間、布仏の表情が強張る。が、すぐにいつもの様子に戻って恐る恐るといった具合に口を開いた。
「……事実ですか?」
「確証はないが可能性は高い。どこまで俺の記憶通りに進むかは分からないが、このままいけばボーデヴィッヒは一回戦で織斑達と当たって敗北し、そしてVTシステムが起動させる」
尤も『シュヴァルツェア・レーゲン』を確認した訳ではないので、可能性は限りなく高いというだけなのたが。何も起きなければそれで良し、しかし何かあれば真っ先に動かなくてはならないのは、この整備室で待機している俺に他ならないのである。故に──
「布仏、この試合に限らず俺が出ていくような事態になった時は皆の指揮を任せたい。後、適当な訓練機を一機ピットへ運んでおいてほしい。頼めるか?」
「はい、分かりました」
助かる、と。俺はしっかりと頷いた布仏に礼を言った。そんな俺に彼女は気にしないでくださいとばかりに微笑む。なんというか、彼女にはいつまで経っても頭が上がらないらしい。そんな気遣いがとてもありがたく、釣られて笑みを作った、ちょうどその時だった。
「あ、出たよ~!トーナメントの試合順!」
整備室内に響く声に皆の視線がモニターへと集まる。俺もまた同じようにゆっくりと顔を上げ──
「(やっぱり、そうなるんだな)」
記憶通りの第一試合に、今度は深く溜め息をついた。隣から布仏のやはり、とでも言いたげな視線を感じる。そして直後に通信の入る懐の端末、掛けてきているのは確認しなくとも分かる。間違いなく織斑先生だ。何事かと生徒達が此方に振り向くのを横目に取り出した端末を耳に当てると、直後に聞き馴れた彼女の声が飛び込んできた。
『私だ、今トーナメントの試合順が開示されたが確認したか?』
「はい。しかし一試合目からいきなり織斑達ですか……全く、こんな偶然ってあるもんなんですね」
少しわざとらしく驚いて見せるがこれは紛れもない俺の本心である。一般の生徒達がくじで作った筈の表である筈なのに、何か仕組まれているのではと思わずにはいられない。あるいは、これが決められた運命だとでもいうのだろうか。
『驚いているのはお前だけではないさ。今何人か他の先生方といるが言うことは皆同じらしい』
どこか楽しそうな織斑先生の声から、ふと俺の頭にニヤリと笑う彼女の姿が浮かんだ。やはり弟の晴れ舞台となると嬉しいものなのだろうか?そう考えるとなかなかどうして微笑ましい。まぁ織斑先生は身内ネタを言われることが嫌いなので黙っておくが。
『そうだ、アイン先生はどちらのペアが勝つと思う?』
「……織斑達、ですかね」
あまり間を置かずにさっと答える。因みに今の答えはこれから起こるであろうことを知っているが故のものではない。ただの一教師アインとしての答えだ。そして織斑先生はそれに満足したのか、ふむと楽しげな調子を変えずに唸った。今頃アリーナの管制室でこくこくと頷いているに違いない。
『なるほどな、了解した。ではまた何かあれば連絡する』
「分かりました、失礼します」
通信を終えた端末を仕舞いながら俺はふっと微笑む。わざわざ今のことを聞きに連絡を寄越したとすれば、恐らく他の先生方とどちらが勝つかで勝負でもしているんだろう。此方は大人が俺しかいないからそういうことが出来るのが少しだけ羨ましい。
視線をモニターへと戻せばちょうど織斑達のペアが姿を現したところだった。試合開始は間もなくだろう。そんな時、近くにいた一人の生徒が俺に向かってこう問うた。
「先生、なんで織斑君達が勝つと思うんですか?」
うんうんと、周りにいた他の子達も同意するように頷く。なるほど、なら教師らしく一つ説明でもしようか。俺は一度こほんとわざとらしく咳払いをした。
「じゃあまず全員のISを見てみようか。この段階でどちらが有利だと思う?」
「えっと……専用機持ち同士の織斑君達です」
「そうだ。専用機持ち同士のペア対専用機と訓練機のペア、この時点で単純に戦力として差がある。訓練機の篠ノ之には可哀想だが最初に墜ちるとすれば彼女だろうな」
これが経験を積んだ二年生、三年生ともなれば訓練機でも専用機に勝ったり接戦を繰り広げたりするのだが、これから行われるのはまだ経験の浅い一年生の試合だ。余程のことがない限り訓練機に乗る生徒が専用機持ちを倒すことは出来ないだろう。搭乗時間が機体の動きに比例するISにとって、これはある意味で仕方のない問題なのである。
「で、でもアイン先生、ボーデヴィッヒさんって凄く強いんですよね?確か、イギリスと中国の代表候補生を同時に相手して勝ったって……」
「あぁ、彼女は強い。今の一年生の中じゃ一番かもしれないくらいには」
でも、と俺は言葉を切った。
「ここで重要になってくるのが織斑とデュノアの相性だ」
「相性……ですか……?」
ピッと人差し指を立てた俺に皆は首を傾げるが、そんな中で布仏だけは分かったような顔をしている。流石三年生首席で更識の従者と言うべきか。
「あくまでこれは俺の考えなんだけど、一撃必殺の技を持ってる織斑とオールラウンダーで多彩な手数が武器のデュノアの相性はかなりいい。それこそ、さっき言ってた二人とは比べ物にならないくらいにな。ついでに彼等は仲がいいからコンビネーションも問題ない。だから流石のボーデヴィッヒでも織斑達二人を相手するのはキツいんじゃないかと思ったんだ」
何せデュノアには織斑に足りない部分の大半があると言っても過言ではない程だ。そして彼女の決定打不足は織斑の零落白夜で補える。お互いに欠点をいい感じに埋め合っていて非常にバランスがいい。俺としてはあんまり相手にしたくない部類のペアだな。
……ん、一番相手にしたくない二人組?箒とラウラ、それか箒と刀奈は絶対無理だ。絢爛舞踏でシールドエネルギーは回復されるわ、停止結界や
「ま、最後に一つ言っておくとな──」
──タッグマッチで協力しないペアが勝ち残れる訳ないだろう?
ニヤリと笑う俺の言葉に、聞いていた生徒達は皆納得したように頷いた。そして、ちょうどそのタイミングで試合開始を告げるブザーが鳴り響く。一回戦の始まりだ。俺を含めた全員の視線がアリーナを映すモニターへと集まる。
「(さて……どうなるか……)」
開幕早々に斬り込んだ織斑の姿を眺めながら、俺は一人心の中でポツリと呟いた。
△▽△▽
あれから試合は概ね俺の予測した通りに進行していった。篠ノ之が墜ちたことによって二対一となった戦況だが、ボーデヴィッヒはプラズマ手刀、ワイヤーブレード、レールカノン、そして停止結界といった様々な武器を使いこなす圧倒的な強さを見せ、織斑とデュノアの二人を攻め立てる。
しかしそんな彼女も徐々にだが二人のコンビネーションに翻弄され、そのシールドエネルギーを減らしていく。そして接戦の末、とうとう織斑がデュノアの銃を借りて撃つという予想外の攻撃にボーデヴィッヒは気を取られ──その隙にデュノアの切り札、
『ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
スピーカーから響く音が割れる程の絶叫。同時にボーデヴィッヒのISからバチバチと火花が散って
「すまない布仏、後は任せるぞ」
「はい。御武運を、アイン先生」
短く言葉を交わしてから整備室を後にし、最寄りのピットに向かって走る。その途中、懐に仕舞っておいた端末に通信が入り、焦りの色が滲む織斑先生の声が聞こえた。
『私だ。アイン先生、今どこにいる?』
「ちょうどピットに向かってますね。布仏が手伝ってくれたお陰ですぐに出られますよ」
『よし、ならお前は一足先にアリーナに突入し織斑達の安全を確保、その後可能ならボーデヴィッヒの暴走を止めろ。まだ分からんがあれは恐らくVTシステム……しかも私のデータだ、放置すれば最悪の事態になりかねん』
確かにその通りだ。いくらデータとはいえあれの原型は世界最強の織斑先生、その危険性は先月の無人機とは比べ物にならない。俺がいた未来では
しかし所詮はデータ、その挙動は本人のそれとは似ても似つかぬお粗末な出来であり、一度でも織斑先生本人と刃を交えた者ならば対処は容易だ。
『……すまない。援軍もすぐに送る。頼んだぞ、アイン先生』
心苦しげな織斑先生の声。このアリーナを仕切る指揮官だけに迂闊には動けないのだろう。大切な弟が自分のデータに襲われる様子を見ていることしか出来ない、姉としてこれ以上辛いことはあるまい。
なら、俺に出来ることは一つ。彼女の代わりに動くだけだ。
「任せてください織斑先生。あんな偽者には負けませんから」
そうして辿り着いたピットには注文通り、整備済みの訓練機である打鉄が隅っこに鎮座していた。俺はそれに黒のスーツ姿のまま触れて装甲を纏い、カタパルトを使ってアリーナへと飛び出した。ISスーツでない分挙動に誤差が生まれるがそんなものを気にしている余裕はない。誤差があるならそれを考慮して早く動く、それだけだ。
飛び出した俺はすぐさま初期装備として乗せられていたアサルトライフル、焔備をコール。
「あ……アイン……先生……!」
「織斑、大丈夫──かっ!」
ギィン、と甲高い金属音を立てて暮桜の雪片と打鉄のシールドがぶつかり合う。この野郎、話の途中で斬り掛かるとかなんて奴だ。近くに織斑が、そして他にも篠ノ之やデュノアがいる以上、下手に動くのは危険か。
「くそっ!ふざけやがってこの偽者野郎!ぶっ飛ばしてやる!」
「一夏、無茶をするな!危険だ!」
「そうだよ一夏!落ち着いてって!」
「ちっ、三人とも下がれ!巻き込まれるぞ!」
声を張り上げながら左目の眼帯を剥ぎ取り、武器を焔備から近接ブレードの葵に切り替えて暮桜の斬撃を全て受け止めた。凄まじい速度で振るわれるその一撃一撃はまさに必殺、並大抵のIS乗りでは五秒と耐えることは出来ないだろう。
だが未来において壮絶な戦争を経験し、更に人間離れした恋人達との訓練を積み重ね、そして織斑千冬という人間を誰よりも見てきたこの身からすれば、その一撃はあまりに遅く、そして軽い。義眼を用いているとはいえ、
「甘い……」
ハイパーセンサーで織斑達が十分に離れたことを確認してから行ったフェイント、仕組まれた動きしか出来ないプログラムはそれにまんまと引っ掛かった。そこに生まれるのは一秒にも満たない僅かな隙、しかし研ぎ澄まされた一閃を叩き込むには十分すぎる隙だ。カチャリと装甲に包まれた手に握られた葵が音を立てる。
「(──斬る)」
雲曜のごとき速さ、とはいかないまでもそれなりの速さを誇る一太刀が、まるで豆腐を裂くようにあっさりと雪片の刃を斬り飛ばす。立て続けに放たれる蹴り。それを食らった暮桜は轟音と共にアリーナの壁際へと吹き飛んでいった。が、足に残る感触はやけに軽い。どうやら蹴りと同じ方向に飛ぶことで受けた衝撃を軽減したらしい。なかなかに器用な奴だ。残りのエネルギーも少ない筈だが……あの分じゃまだ動けそうか。しかし奴の唯一の武器である雪片は刀身を落とされている。纏う泥でもう一度作り直すことも出来るだろうが、それでもこれで少しは時間が稼げる。アリーナ中に木霊する避難誘導のアナウンスを聞き流しながら素早く後退し、織斑達の元へと移動した。
「頭は冷えたか、織斑?」
「……少しは」
先程までの怒りはすっかり落ち着いてぐったりと項垂れる織斑に、それを心配そうに見つめる篠ノ之とデュノア。尊敬する姉の技を無機質なデータに真似されたのだ、彼の怒りは至極当然と言えよう。ただ、流石に生身であの暮桜に挑もうとしたのは無謀以外の何物でもないが……
「アイン先生、あれは一体なんなんですか……?ボーデヴィッヒはどうなったんですか……?」
「ヴァルキリー・トレース・システム。詳しく話してる暇はないんだが、とりあえず操縦者をモンド・グロッソにおける
篠ノ之の問いに俺は視線を壁際に吹き飛ばした暮桜から離さずに答える。ゆっくりと起き上がって言葉ですらない咆哮を上げるそれは、最早人ではなく獣と言った方がしっくりくるのではないだろうか。あんなのでも振るわれる剣撃は織斑先生のそれなのだから、織斑からすれば腹立たしいことこの上あるまい。案の定、彼はふらつく足取りでだがゆっくりと立ち上がり、何かを決意したような目を此方に向けた。
「アイン先生……俺に、あいつをやらせてください!あいつは俺が、織斑一夏がやらなくちゃいけないんです!」
「白式もない状態でか?馬鹿を言うなよ織斑。ISのないお前に何が出来る?本当に死ぬぞ」
ぐっと言葉を詰まらせる織斑。自分が何もしなくともこの状況は解決する、むざむざ命を危険に晒すような真似はしなくてもいい、そんな理屈は彼も分かってるんだろう。ただやはりそれでも剣を取ろうとするのは、単に怒りを中心として渦巻く激情故か。
一つ溜め息をつきながらも、俺は暮桜を見張ることを止めない。案の定、奴は短くなった雪片に全身の泥を集めるようにして修復しており、それが終わり次第此方へ向かって来そうだった。俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出して身体から余計な力を抜く。
「っ……それでも、俺は……!」
「エネルギーがないなら、他から持ってくればいいんです」
そう言ったのはオレンジ色のラファールを纏うデュノアだ。曰く、普通のISには不可能だがデュノアのラファールならエネルギーを全て白式に移すことが出来、全身とはいかないまでも一部なら展開することが可能とのこと。確かにそれからあの暮桜とも戦うことは出来る。だが展開出来るのは武器などの一部のみ、それ以外は生身なのだ。受ければ即死な上、恐らくまともに回避することすらままならないだろう。
「──それでもやるのか、織斑」
「……やります!絶対に、俺があいつを!」
危険を承知で織斑は力強く頷いた。そして視線の先には既に雪片の修復を終えて臨戦態勢に入った暮桜の姿が。そりゃ、あっちは待ってはくれないよな。閉じていた左目を開きつつ、右手に握られた葵の真っ先を奴に向ける。
「なら、時間稼ぎくらいはさせてもらうさ。少し付き合ってもらうぞ、VTシステム」
最後に後ろで集まる三人を一瞥し、俺は迫り来る暮桜へと向かってスラスターを噴かした。
原作じゃ相手からの攻撃や動作に反応して迎撃するだけだったVTシステムですが、今作では普通に攻撃してきます。せっかくのプログラムなのに相手の動作に依存する迎撃タイプってどうなんですかね?個人的には暴走系の方がしっくりくるような気がしました
『下』の方は明日投稿させていただきます。VS暮桜、そしてその後くらいまでいきます