いやぁ長かったなぁ。最近は戦闘描写が書けてないから福音戦が書きたくて書きたくて仕方ない。頑張れ俺。
駅前ショッピングモール、レゾナンス。
『ここでなければ市内のどこにもない』とまで言われるこのショッピングモールは、とにかく様々な種類の店が所狭しと並んでいるのが特徴だ。衣服やアクセサリーを扱っている店もあれば食事を提供するレストランもあり、更には雑貨屋からドラッグストアなどの店もある。なるほど、流石はここら一帯で一番大きなショッピングモールだ。これだけ大きければ気を抜いた途端に迷子になってしまうかもしれない。
「あっ、あそこが水着のコーナーみたいですね」
三人で並んで歩いていると山田先生が一つの店を指差した。どうやらもう目的地に到着したらしい。水着を着けたマネキンが所々に立ち並んでいるのが見えた。こういう店に来るのも随分と久しぶりだ、最後に行ったのは果たしていつの頃だっただろうか。もしかすると俺が一夏だった頃にまで遡るかもしれない。ぼんやりとしている朧気な記憶を一人辿りつつ、男性用の水着コーナーへと足を向ける。
「アイン、この水着なんてどうだ?お前には似合うと思うが?」
そう言って千冬さん──織斑先生と呼んでいたら、「プライベートなのだから普通に呼べ」と怒られてしまった──が選んだのは、水泳選手が着ていそうなピチピチの競泳水着だ。しかも布面積がかなり少なくて際どい。こんなものを俺が着て一体誰が得するというのだろうか。これを着ていく臨海学校には当然生徒達の目もある、下手をすればセクハラで訴えられるレベルだぞ。現に山田先生は既に顔が真っ赤になっている。
「お、織斑先生……流石にこれは……ちょっと……」
「あの……千冬さん、もっと普通の水着にしません?ほら、あそこにあるネイビーのとか」
「なんだアイン。私の選んだ水着が着れないと言うのか?」
ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべる千冬さん。しかし彼女はやがてふっと一息ついた後に、「冗談だ」と言ってもう一度笑った。なんとも心臓に悪い冗談だ、思わず安堵の溜め息が溢れる。
「しかしこれが駄目だとすると……ふむ、これならどうだ?お前の髪の色と良く合うんじゃないか?」
そんな言葉と共に差し出されたのはシンプルでグレーの水着だ。丈の長さもそれなりにあるチェックのそれは本当に普通というか、無難という言葉が良く似合う代物である。少なくとも先程の際どいタイプよりは此方の方が遥かにいい。
「じゃあ……これにします。ありがとうございますね、千冬さん」
「そ、即決なんですね。あ、別に悪いって言ってる訳じゃないんですよ!ただ他にもありますけどいいんですか?」
「構いませんよ。せっかく千冬さんが選んでくれたんですから、断って他のにするなんて馬鹿な真似はしませんって」
千冬さんが選んでくれた水着を片手に俺はレジの方へと向かう。これで自分のものは確保出来たし次は女性陣かなぁ、と。並びながらズボンの上からポケットの財布を確かめていたそんな時、一人の見知らぬ女性が俺に向かって買い物籠を突き付けてきた。そしてこんなことを言い始める。
「アンタ並んでるんでしょう?ならついでにこれも買っておきなさい」
あぁ……と俺は全てを察した。どうやらこの女性はIS登場に伴って生まれた世間の風潮、女尊男卑に染まった人であるらしい。女尊男卑か、俺からすれば随分と懐かしい響きの言葉だ。未来ではもう完全に死語と化していて耳にすることもなかったからなぁ。あんな状況では男女なんて関係なく協力しなければならず、自然と女尊男卑なんて風潮は廃れていったのだ。とにかく、目の前の女性のような存在と出会うのは、俺にとってかなり久しぶりのこととなる訳である。今だって周りには偏見を持たない立派な先生方しかいないし。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「まぁ……聞いてますけどお断りしますよ。自分の買い物くらい自分でやってください。お金くらいあるんでしょう?まさか財布がないのにこんなところに来た訳ありませんよね」
「はぁ、何言ってるのよ?男なら黙って私達に従ってたらいいんだから、つべこべ言わずにさっさと買いなさいって!」
金切り声を上げ始めた女性に思わず溜め息をつく。さて、ここから一体どうしたものか。この手の輩には正論が通じないから鎮めるのがなかなかに難しい。どれだけ話をしても男なら黙って従いなさいの一点張りだろう。一応物理的に解決することも出来ないことはないが、そんなことをするのは流石にまずい。となれば、だ。
「すみません、警備員の方を呼んでもらってもいいですか?」
大人しく然るべき立場の人に頼る、これに尽きる。レジ打ちをしていた店員が頼んだ瞬間に動き出してくれたことから、こういうことは頻繁にあることなんだろうなぁと少し悲しくなった。やはり女尊男卑は早くなくなるべき風潮だな。こういう目に遭うとあらためて思い知らされる。
「災難でしたね、お客様」
「ええ、全くです。ああいう問題はよく起こるんですか?」
「……そうですね。我々としてもいい迷惑ですよ。当事者だけでなく他の方まで不快にさせてしまいますから」
屈強な男性警備員二人に連れていかれる女性を見送ってから再度レジに並べば、先程通報してくれた店員の人から苦笑と共に同情の言葉を受け取った。どうやら店側の人も大変らしい。軽く一言二言交わしてから会計を済ませ、次は千冬さん達でも探そうかと辺りを見回した、ちょうどその時だった。
「……何やってんだあいつら」
見覚えのある金髪ロールとツインテールという二人組の後ろ姿に、なんだか頭痛がしてきたような気がする。いや、普通に二人の後ろ姿を見たくらいならばこんな風にはならないのだが、彼女達はコソコソと柱の陰に隠れながら小声で言い合いをしているのである。あれは尾行でもしてるつもりなのだろうか?バレバレの上に端から見ると完全に怪しい二人組だ。更に彼女達が相当な美人であることも残念さに拍車を掛けている。もうなんか、教え子のあんな姿は見たくなかったなぁ……
しかしいつまでも現実逃避していたって仕方がない。怪しい二人組──オルコットと凰に気付かれないように気配を消し、一歩一歩足音を立てずに近付いていく。そして十分に近付いたところで──ポンと二人の肩を叩いた。ビクリと、面白いようにその肩が跳ねる。
「ひゃあ!?」
「だ、誰──って、ア、アイン先生!?」
「おう。とりあえず端から見るとまるっきり不審者だから、コソコソ隠れるのはやめような?」
それに、と俺は一旦言葉を区切って視線を別の方へと向ける。つられるようにオルコットと凰もそちらを向いて──その先にいた呆れ顔をしている織斑とやや俯き気味のデュノア、そして溜め息をつく千冬さんと驚いたような山田先生と目が合った。打ち合わせた訳でもないのにこれらの面子が揃うとは、世界とは存外に狭いものらしい。
「セシリア……鈴……何やってんだ?」
「か、買い物よ。男子には秘密のね……」
「そ、そうですわ。わざわざ聞かなくとも察してください」
織斑の問いにオルコットと凰の二人が目を泳がせながら答えるが、そんな態度では嘘ですと言ってるようなものだ。なんとも微妙な空気が俺達の間に流れる。
「……はぁ。とりあえずさっさと買い物を済ませて退散するぞ。こんなところで騒いでいては他の客の迷惑になる」
「あっ……ではオルコットさんに凰さん、それにデュノアさんも。良かったら一緒に行きませんか?私、まだ見て回りたいものがあるのんですよ~」
そんな言葉と共に山田先生はオルコット達三人を連れて奥の方へ消えていってしまった。なるほど、これはきっと織斑姉弟に対する彼女なりの配慮なのだろう。姉弟水入らずの時間を、と。つまりはそういうことなんだろう。しきりにアイコンタクトも送られてきたことだし、俺もそれに乗って少々姿を消した方が良さそうだ。そんな空気を読んでその場から立ち去ろうとした俺だが、どういう訳か踵を返した瞬間に肩を何者かにがっちりと掴まれてしまった。おかしいな、捕まる要素なんてなくない?
「全く、山田先生は余計な気を遣う。そうは思わないか?アイン」
「いや、別に余計だとは思いませんけど。ていうか、なんで俺は捕まってるんです?一応空気を読んだつもりなんですが……」
「何、ただ聞きたいことがあるだけだ。答えたならすぐに解放してやる」
そう言いながら千冬さんは専用のハンガーに掛けられた二着のビギニを見せてきた。片方は黒、もう片方は白のそれらは、どちらも肌の露出具合はかなり高そうである。特に黒い方は胸元の部分がメッシュ状にクロスしていて非常にセクシー……そう、セクシーだ。
「さて、正直に答えてもらおう。お前はどっちの水着がいいと思う?」
「黒ですね、はい」
「ふむ、理由は?」
「白と黒なら黒の方が千冬さんには似合うと思いまして。後は……単純に俺の好みですかね」
正直にと言われたので正直に答える。勿論、織斑が近くにいるので小声でではあるが。というか千冬さん、よく弟が近くにいる状況で男に水着を選ばせるような真似をしたな。答える此方の方がドキドキしたぞ。万が一、織斑に聞こえていたらどうなっていたことか。ほら、
「なるほど……黒が好みか……ご苦労、もう行っていいぞ。何かあれば連絡する」
「了解です。では」
ニヤリと笑う千冬さんに軽く頭を下げて今度こそ踵を返す。レゾナンスは大きいから適当に見て回るだけでも退屈はしないだろう。明確な目的地を決めないまま、俺は水着コーナーから抜け出した。
△▽△▽
「ふぅ……」
誰もいない喫煙コーナーでベンチに腰掛け、一服しながら少しばかり考え事に頭を使う。数日後に始まる臨海学校、そこでも大きなトラブルが俺達を待っている。詳しいことはもう思い出せばしないが、それでもはっきりと覚えている出来事が一つだけあるのだ。そしてそれを辿れば、徐々にだが曇っていた記憶が鮮明さを取り戻していく。
第四世代機、紅椿の登場。
そして──篠ノ之束の来襲。
僅か二泊三日の間にこれだけの騒ぎが詰まっているとは、もう驚くを通り越して呆れるレベルだ。俺達って何かする度にトラブルに見舞われるな。本当に頼むからじっとしててくれ、後始末するのは俺達教師なんだから。溜め息と共に煙を吐き出し、トントンと灰皿に灰を落とす。
福音に関しては俺が動けるか否かが大きく関わってくるだろう。俺と白式・零が出れば、かつて苦戦したあの機体であろうとも確実に圧倒することが出来る。ただ、果たしてそう自由に俺が動けるものだろうか。学園の許可がなくては専用機は使えないし、何よりあの天災が俺の行動を許す筈がない。何せ、
「意外ね、煙草なんて吸わないと思っていたのだけれど」
突然掛けられた声にゾクリと悪寒が走る。目の前にいたのは一人の女性だった。一目で高級そうと分かるドレスを纏う、金髪で長身の女性。見間違える筈がない、この女性は……この女は……
「あら、そんな顔が出来るということは既に私のことは知っているようね。一人目の男性IS操縦者さん?」
「……俺になんの用だ?スコール・ミューゼル」
沸々と沸き上がる激情にそっと蓋をしてスコール・ミューゼルへと尋ねる。
「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。本当に偶然、あなたを見つけたからこうやってわざわざ会いに来たのよ」
「悪いがそう簡単に信じる訳にはいかないな。それで、一体俺になんの用だ?ただ挨拶をしに来たなんて訳じゃないだろ」
「そうね。率直に言うと……勧誘、かしら。あなた、亡国機業に入る気はない?この馬鹿げた世界を変えるために……」
はっと俺はスコール・ミューゼルの言葉を鼻で笑った。ベンチからすっと立ち上がって彼女を見下す。
「俺が亡国機業にだと?論外だな。例え天地がひっくり返るようなことがあっても、俺はお前達だけには従わねえって決めてんだよ」
「随分な物言いね。あなたにそこまで恨まれるような真似をした覚えはないんだけど」
そう言ってスコール・ミューゼルはわざとらしく肩を竦めて見せる。そりゃ覚えなんてないだろうよ、俺がお前達を恨む理由はこれから起こるんだからな。尤も、それをもう一度起こさせる気なんて全くないが。
「まぁいいわ、最初から上手くいくなんて思ってなかったことだし。また会いましょう、その時には返事が変わっていることを願うわ」
「ならその時はアンタの最後だろうよ。覚えておけ、俺がいる限りお前達の好きにはさせない」
スコール・ミューゼルが最後に見せたのは不敵な笑みだった。人混みに紛れていく彼女の後ろ姿を見て俺はあらためて思う、絶対に皆を守らなくてはと。それがきっと一度死んだ俺に与えられた義務であり、そして存在する理由なのだろうから。
「(頼りにしてるぜ……相棒)」
左手の中指にはめられた白式をそっと撫でる。するとそれに呼応するように、指輪がキラリと一度輝いたような気がした。