大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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8話 クラス対抗戦に向けて

 五月の頭、いつものごとく理事長室に呼び出された俺はカツカツと歩き馴れた廊下を進んでいた。普段なら退屈しのぎは俺以外の誰かでやってくれと文句の一つを言いたいところだが、今回ばかりは俺も十蔵さんに用があるのでこの呼び出しはまさにグッドタイミングと言うべきだろう。

 

 「アインです」

 

 理事長室に辿り着き、二度のノックの後に名乗れば、扉の奥からどうぞと入室の許可が下りる。さて、お邪魔しますよっと

 

 「どうも、十蔵さん」

 

 「こんにちは。さぁ、座ってください。あなたには及びませんが紅茶もありますよ」

 

 ありがたい。俺は頭を下げてから見るからに高級そうなソファーに腰を掛けた。ズブズブと沈んでいくような感触がなんとも心地いい。続いて目の前に置かれた紅茶のカップに手を伸ばすと、その芳醇な香りが鼻孔を擽った。一口含めば……うん、流石だ。

 

 「それで、なんの用でしょうか?」

 

 「今月に行われるクラス対抗戦(リーグマッチ)について、アイン先生に伺いたいことがありましてね」

 

 正確には織斑一夏君にですが、と言って十蔵さんは目を細める。そのただならぬ雰囲気に俺もまた余計なことを考えないよう、一度呼吸を整えてから彼と向き合った。俺もこの人に同じことを言いたいと思ってたところだ、ちょうどいい。

 

 「すばり聞きましょう。このクラス対抗戦、何か起こりますね?」

 

 俺はその言葉にこくりと頷き、織斑一夏として生きていた頃に経験したことを話した。

 

 

 

 俺と鈴の試合中に乱入するISがあったこと。

 

 そのISによってアリーナの遮断シールドのレベルが4程度となり、生徒達の避難やアリーナへの部隊突入が遅れたこと。

 

 箒の無謀な行為によって、彼女が危険に晒されたこと。

 

 乱入したISは倒されるも最後に油断した俺が撃墜されたこと。

 

 そして──そのISが無人機であったこと。

 

 

 

 「……無人機、ですか」

 

 十蔵さんが驚くのも無理はないだろう。俺がいた未来なら無人機など何も珍しい存在ではなかったが、今この世の中では実現の目処すら立っていない代物なのだから。俺は渇いた喉を潤すべく紅茶を啜った。

 

 「俺の経験したことはそれくらいです。ただ、俺というイレギュラーが存在する以上、無人機の送り主がどう動くかは不明です。最悪、一機だけでなく複数体の無人機が送り込まれる可能性もありますね」

 

 「送り主……篠ノ之束ですね」

 

 篠ノ之束。ISを生み出した稀代の大天才であり、また常人には理解不能な思考をしている良くも悪くも天才らしい女性だ。無人機『ゴーレム』の開発だけでなく第四世代機の『紅椿』、未来では『白式・零』を初めとする第五世代機まで作り上げていた。確か最後は戦争によって荒廃した地球を見限り、夢見ていた宇宙へと姿を消した筈だが……まぁ今は関係のない話か。

 

 俺は束さん──もとい篠ノ之博士とは一応面識がある。俺が過去に戻ってきたばかりの頃、突然現れたIS(白式・零の)コア反応を追って彼女は俺のところにやって来たのだ。その際に過去同様、興味を持たれたのは幸か不幸か。いずれにせよ、彼女の狙いに織斑だけでなく俺も含まれる可能性は十分にあるだろう。

 

 「とにかく用心に越したことはありません。我々には生徒を守る義務がありますからね。もしもの事態には──俺も出ます」

 

 その言葉に十蔵さんの視線が俺の左手にある、七色に輝く指輪へと向けられた。本来ならば薬指にあるべきそれは、現在中指の方にはめられている。

 

 

 

 第五世代機、白式・零。その待機形態の結婚指輪である。

 

 

 

 はっきり言ってこれはあまり使いたくないというのが本音だ。第五世代機なんていうオーバーテクノロジーの塊は全ての者の目に止まる。それは無能で欲深い政府の連中であったり、薄汚い女性権利団体であったり、そして倒すべき亡国機業(ファントム・タスク)であったり。面倒事が増えるのは目に見えているし、何より切り札をこんなところで晒すのは愚の骨頂でしかない。

 

 しかしそれでも、この力で誰かを守れるのなら、俺は躊躇わずに再び刃を手に取ろう。誰かの手が汚れるならば、代わりになって汚れよう。この身は一度死した亡者のそれだ、今更何を恐れようか。

 

 「……分かりました。状況次第ではアイン先生も敵機の撃退に当たってください。クラス対抗戦まではまだ時間がありますからね、それまでに打てる対策を考えておきましょう」

 

 「ですね。それと更識にも協力してもらいましょうか。彼女にも生徒会長として働いてもらわないと、ね?」

 

 この学園で教師の次に権力を持っているのは──もしかすると普通の教師より強い──生徒会長の更識だ、話を通せばその手腕を存分に発揮してくれることだろう。彼女は信用出来る。何せ、千冬姉を失ったIS学園で指揮を執っていたのは真耶さんと、そして刀奈だったのだから。

 

 多分意地悪な笑みになるんだろうなぁと思いながら、それでも俺はニヤリと笑った。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「アイン先生!私と一夏さんの訓練に付き合ってくださいまし!」

 

 笑顔のオルコットにそう誘われたのは十蔵さんと話をつけた数日後のことだ。慕ってくれるのはありがたいんだが俺は教師なんだよな。因みに私と一夏さん、というところに篠ノ之が反応したのは言うまでもなかろう。そしてそこから二人の口喧嘩に発展し、織斑先生の出席簿を受けて沈黙するのがお約束の流れだ。

 

 幸いにもその日は会議もなく、また明日の準備や資料の整理といった仕事もある程度終わらせていたので、問題なく三人に付き合うことが出来た。やっぱり出来ることは早い段階から済ませておくに限る。恨めしそうな視線を此方にぶつけながら去っていく織斑先生の背中を見つめながら、俺はあらためてそう思った。後で手伝ってあげよう。

 

 そんな訳で第三アリーナの方へと移動する俺、織斑、オルコット、篠ノ之の四人。篠ノ之に剣道部はどうしたと言いたくなったのは秘密だ。想い人を取られたくないって気持ちは分からんでもないが、それでも入部した以上参加するのが最低限の礼儀ってもんだろうに。ま、この恋する乙女には言っても無駄なことだろう。彼女の頑固さは俺も良く知っていることだしな。

 

 「待っていたわよ一夏!」

 

 アリーナの扉が開いた瞬間、そこからなんと凰が姿を現した。腕を組んだ仁王立ちで不敵な笑みを浮かべている。相変わらず彼女にはこういう姿が様になるなぁと、俺はそんな場違いな感想を抱く。

 

 「き、貴様!何故ここに──」

 

 「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」

 

 突如現れた恋のライバルに少女二人が吼える。オルコット、一体なんの関係者なのか教えてもらいたいものだな。

 

 「何言ってんの?私は関係者よ。一夏の関係者、全然問題なんてないじゃない」

 

 「ほう?一体どういう関係か教えてもらいたいものだな……!」

 

 「盗人猛々しいとはまさにこのことですわね……!」

 

 挑発的な凰の一言に篠ノ之、そしてオルコットが怒りを露にする。あぁ……帰りたいな。別に訓練に付き合うくらいならなんともないが、こんな不毛な争いに巻き込まれるのは話が違う。でも、だからといって約束を反故にする訳にはいかないし……結局、このなかなか終わらない痴話喧嘩を見届けるしかなさそうだ。これが箒やセシリア、鈴の三人だったらなぁ……

 

 

 

 ──あら一夏。それに箒とセシリアも。これから訓練?一緒に行っていいかしら?

 

 ──勿論だ、鈴がいてくれるなら訓練の質も高まるというもの。構わないか一夏、セシリア?

 

 ──あぁ、大丈夫だぜ。

 

 ──問題ありませんわ。さぁ、皆さん行きましょう。ふふっ、楽しくなりそうですわね。

 

 

 

 うん、実に平和だ。素晴らしい。

 

 「煩いわね!アンタこそクラス対抗戦までに謝る練習をしておきなさいよ!」

 

 「はぁ?なんでだよ馬鹿!」

 

 「馬鹿とは何よ!この朴念仁!間抜け!アホ!」

 

 「くっ……!煩い貧乳!!」

 

 

 

 あっ……お前、なんてことを!

 

 

 

 織斑が凰に禁断の一言を言ってしまった瞬間、爆発音と共に部屋全体が衝撃で揺れた。発信地の特殊合金製の壁には直径三十センチ程のクレーターが生まれており、引き起こした凰の右腕にはISが展開されていた。しかし彼女は壁を殴っていない。ならば何がクレーターを生み出したのか、俺はその正体を『甲龍』の衝撃砲だと推測する。

 

 「い……言ったわね!手加減してやろうかと思ったけどやめたわ!全力でアンタを潰してやるんだから!」

 

 そう言って凰が織斑を睨んだ瞬間、彼の肩がビクッと跳ねた。馬鹿野郎が。男が胸のサイズについて言っていいのは褒める時だけだ、断じて悪口として胸を使ってはならない。特に凰が自身の胸をコンプレックスにしてることくらい分かってただろうに……俺は溢れる溜め息を抑えることが出来なかった。パシュン、と凰が出ていって閉まる扉の音がやけに寂しく聞こえる。

 

 「パワータイプですわね。それも一夏さんと同じ……」

 

 まじまじと壁のクレーターを眺めていたオルコットがポツリと呟いた。織斑は今になって自分の愚かさに気付いたのか、顔を真っ青にして俯いて、そんな彼の様子を篠ノ之が心配そうな顔をして見つめる。そして……

 

 「(……壁の修理代、幾らになるんだろうな)」

 

 そんな中で一人だけ現実的なことを考えていた自分を、なんとなく悲しく思った。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 試合当日、第二アリーナは数多の観客によって埋め尽くされていた。生徒達は皆、試合が始まるのを今か今かと待ちわびており、その熱気は段々と高まってきている。俺はそんな会場の様子を中継室より眺めながら無線を起動させ、外へ出ながら人混みの中にいる筈の更識へと繋いだ。

 

 「アインだ。何か変化はないか?」

 

 『楯無よ。今のところ特に大きな変化はないわね。皆織斑君と凰さんの試合を楽しみにしているみたい』

 

 「世界で二番目の男性IS操縦者と代表候補生の戦いだ、そりゃ楽しみにもなるだろうさ」

 

 それより、と俺は話題を変える。

 

 「避難の手順は問題ないか?今朝俺も確認したが左側のゲート二つはキチンと()()されていたが……」

 

 『それなら大丈夫よ、私もさっき確認したから。あれなら完全に閉じ込められる心配はないわ』

 

 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。これなら生徒達の避難は上手くいきそうだな。チラリとアリーナへと視線を移せば、ちょうど片側のピットから凰が飛び出して来たのが見える。試合開始の時間が刻々と近付いているのだ。

 

 『ていうか無人機なんてにわかには信じ難いんだけど……本当に来るの?』

 

 「来てくれないに越したことはないんだがな。何も起こらないのが一番いい」

 

 しかしそういう訳にはいかないだろう。俺と織斑、二人の男性操縦者が集まるこの舞台を、あの天災が黙って見ているだけとは思えない。十中八九手を出して来るだろう。なんとも頭の痛い話だ。

 

 「とにかくすぐに避難誘導を行えるようにはしておいてくれ。俺からは以上だ。頼りにしてるぞ、生徒会長」

 

 『はいは~い、お任せあれ♪』

 

 ノイズ混じりの声が途切れて通信が終わる。直後にどっと沸く会場、どうやら主役の織斑が登場したようだ。俺は中継室へと入り直し待機していた放送部の生徒に合図を送る。さて、思惑だらけのクラス対抗戦を始めようじゃないか。

 

 

 

 『それでは両者、試合を開始してください!』

 

 

 

 鳴り響くブザーと共に、二機のISが勢い良く飛び出した。

 




 楯無さんはアインが未来から来たことは知ってますが、正体が一夏であるということは知りません
 次回ではアインと白式・零が動きます。お楽しみに

 アイン 旧名織斑一夏。専用機は『白式・零』。機材や設備の被害に頭を悩ませる今日この頃。巨乳も貧乳も守備範囲

 箒(未来)&セシリア(未来)&鈴(未来) 戦友であり親友。とっても仲良し

 刀奈(未来) 生徒会長。亡国機業によって日本が壊滅したことにより暗部も消滅、以来アイン以外にも真名を名乗るようになる。圧倒的なカリスマと実力を持ち、千冬亡き後のIS学園をまとめた
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