夕闇フィーバータイム ―短編集―   作:字だけを載せる。

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スナカワ「放課中にT字ホウキ出さないで あとで給食の時ほこりが入るでしょ」





ある日の2年2組。








ビスケットの噂

「~♪」

クルミは鼻歌を口ずさみながら、大手を振って歩いて行く。

そして、机に突っ伏している一人の生徒のところまで来ると、大きな声で名前を呼んだ。

「サ~ンゴちゃん!」

「・・・・・・」

名前を呼ばれた生徒は、微動だにしない。

「サンゴちゃん、サンゴちゃん 面白い話、しておくれよー」

ねーねー、と自分の体を揺らして話しかけるクルミ。

「・・悪いケド、シイナ」

サンゴはモゾリ、と体を動かした。

「アタシ、今疲れてるんだ 頼むから、放っといて くんない?」

クルミは、その答えに首を傾げる。

「どして 疲れてるのかな?」

「いいから どっかいけ」

軽く手をシッシッと振るサンゴ。

しかし、クルミはまだ話し続ける。

「あのね、あのね そういうときはねー、オイシイ物 食べるといいのよ」

相手の言葉に、サンゴはハハ、と力なく笑った。

「食えりゃ 食ってるっつーの」

「じゃあクルミの とっておき、あげる!」

そう言うと、ポケットを探り始めるクルミ。

「はい!」

彼女の右手に握られていたのは、一枚のビスケットだった。

サンゴはうずめていた顔を相手側に動かすと、ちらりとそれを見る。

「・・どっから出てきたんだよ」

「ポケット!」

「ムキダシのまま 入れるなよなー」

あーあ、とため息をつく。

「いらない」

「エーッ! ナンデ!?」

クルミは驚いた声をあげた。

「ゼッタイ、汚いから」

その声に、サンゴは淡々と答える。

「あと、ビスケットって ガキっぽいじゃん」

「クルミ、ガキじゃないモン お姉さんだモン」

「つーかさ、それ いつの?」

「んとね~・・ ん~と・・」

ひとしきり悩むと、クルミはエヘヘと笑った。

「・・この前かな?」

「だから それが、いつだって 聞いてんだよ」

呆れたようにサンゴがツッコんでいると。

「・・ちょっと、シイナさん、それ・・」

後ろから、か細い声。

クルミが振り向くと、そこには学級委員長のスナカワが立っていた。

「あ」

しまった、というような声をもらすクルミ。

「あーあ、委員長にバレちゃった アタシ 知ーらない」

声で後ろの相手がわかったのか、サンゴはクルミに向けていた顔を腕へうずめた。

「サンゴちゃん、意地悪い!」

ム~ッと頬を膨らます、クルミ。

「ダメじゃない、学校にお菓子持ってきたら」

スナカワは、そんな二人の間を割って入るように注意をし始めた。

「お菓子の持ち込みは、禁止されてるんだよ」

「でも、オイシイのよ」

「それでもダメなものは ダメ」

「うー」

クルミがうなっていると、スナカワは手を差し出した。

「・・サエちゃん、コレ、欲しいの?」

「違うよ、シイナさんが 持ってきてたって言って、先生に渡すの」

「エーッ そしたらクルミ、怒られちゃうのよ」

「でも、いけないことしたのは シイナさんだよ」

ほら、ちょうだいとスナカワは催促する。

ビスケットを見ながら、クルミは困ったような顔をした。

「クルミ、怒られちゃう・・」

悲しそうに呟く声に、サンゴが顔を上げる。

「委員長、それぐらいでいいって」

「ヒラウチさん」

「コイツ、珍しく アタシに気を使ったみたいで ソレ、出してきたんだよ」

サンゴはゆっくりと体を起こすと、窓側に腕を組んでよりかかった。

「アタシからも 言っとくからさ」

「でも・・ シイナさん、言っても分かってくれないし・・」

掃除用具入れへ目を向ける、スナカワ。

「いっつもやめてって 言ってるのに、Tホウキ 出してくるじゃない」

「まあ・・ 言っても聞かないのは いつものコトだし」

「そうだけど・・」

渋るスナカワ。段々と、サンゴは面倒になってきた。

「あーもー、分かった」

視線をスナカワからクルミに向けると、ビスケットを指差した。

「シイナ、それ 食っちゃいな」

「うん!」

クルミが、元気よく返事をする。

「えっ」

スナカワがクルミの方を振り向いたときには、もう遅かった。

モグモグ、とすでにクルミの口が動いていたのである。

「・・ンマーイ!」

嬉しそうに両手を上げるクルミを見て、呆然とするスナカワ。

そんな彼女に、サンゴが声をかける。

「どう? これで、証拠インメツ シイナはお菓子なんて 持ってきてませんでしたー、はい 終わり」

「・・食べるのも、禁止なのに」

相手の震え声に、彼女は乾いた笑いを返した。

「それが? こいつ、パッケージもなしに そのままポケットに 突っ込んでたんだよ 証拠なんて、ひとつもないじゃん」

「・・でも・・」

「どーせこんな規則、守ってるヤツなんて いないっていうの」

「・・・・・・」

黙るスナカワ。

サンゴはその様子を見て、大きく伸びをした。

「あーあ・・ 何かヘンに疲れちゃったな じゃあシイナ、アタシ寝るから」

「うん! おやすみなさい」

サンゴが机に突っ伏したのを見て、クルミはその場から離れようとする。

「・・ねぇ」

だが、スナカワの声が彼女の足を止めた。

「なーに、サエちゃん」

「・・今度から お菓子、持ってこないでね」

「はーい」

笑顔で手を上げる、クルミ。そのまま、彼女は鼻歌を歌いながら教室を出ていった。

スナカワも、少しヨロヨロとしながら自分の席に歩いていく。

 

 

 

 

 

 

彼女が自分の役割に疲れるまで、あと数日。

 

 

 

 

 

―了―

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