仲良くなりたい彼女の話。
「ねぇヒラウチ師匠、知ってますぅ?」
小説を書いていたサンゴの前に、誰かが立ってそう言った。前も見ずに、うんざりとしたような声で答える。
「・・何が」
「シイナクルミの、様々な噂」
また、その話か。
サンゴはため息をつき、鉛筆で自分の頭を突っつく。
「知ってるよ」
相手はしゃがみこみ、サンゴの顔を覗きこむ。
「どう思ってます?」
「どうって?」
「一緒にいて、イヤになりません?」
「別に」
窓の外を見る。空は一面、灰色の雲で覆われていた。
―――――帰り、雨が降らなければいいケド。
ボーッとそんなことを考えていると、相手も自分が向いている方を見た。サンゴが何を見ているのかわからないのか、首をかしげている。
相手が自分と同じ方向を見ていることに気付き、気持ちワルいと思ったのか目線を机に戻した。
「ただの噂でしょ 根も葉もないし、キョーミもない」
「でも・・ シイナクルミと関わってても イイコトないと思いますよ」
「それは、アタシの勝手 口出しされるイワレはないね」
やれやれと肩をすくめ、バカにしたような笑みを浮かべる。すると、相手は机を軽く叩いて立ち上がった。
「どーせだったら、あたしの方がいいですよ?」
「は?」
彼女の言っている意味が全くわからず、サンゴは眉をひそめた。
「とりあえずは、フツーですし?」
自信ありげに胸を張った彼女に、サンゴはいつものように尖った言葉を返す。
「男と男の恋愛で 頭イカれてる奴が、よく言うよ」
見事に言葉が刺さったのか、相手は驚いたような顔をした。だが、すぐに体勢を立て直す。
「違うんですよー、一度ハマると抜け出せないんですって」
「ハマる時点で終わってるね」
「あーん、そんなこと言わないでくださいよ~」
ドタバタと地団駄を踏む相手にしびれを切らし、サンゴが舌打ちをする。
「あーもー、うっさい 帰れ帰れ」
うう、と唸ると彼女は素直に外へ出ていく。その時、鼻歌を歌いながら誰かが近付いてきた。
「・・!」
シイナクルミである。
「あ! イナガキマリオちゃんなのね」
ウワーイと嬉しそうに両手をあげてから、こちらに手を振ってきた。一体、何が楽しいのかわからない。
「近付かないで、ヘンなのが移るから」
「どしてかな? クルミ、風邪引いてないのね」
頭に手を当てながら、ウ~ンと考え込む。その一つ一つの動作が、イナガキにとっては腹が立つ原因となっていた。
なんでこんなヤツが、ヒラウチさんと。
「いいから、こっち来ないで」
シッシッ、と手を振ると、クルミは何故かにっこりと笑った。彼女の表情に、イナガキは思わず後ずさる。
「マリオちゃんは、フシギな子~♪」
ふんふんと歌いながら、教室の中へ入っていく。
(フシギなのは、そっちだろ)
彼女が入っていった扉をにらみつけながら、イナガキは小声で言い放った。
「ほんと、ウザい宇宙人」
―了―