遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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ワレアオバ!
アオバワレェ!

追記
誤字修正、指摘ありがとうございました!


君塚艦隊VS蜃気楼 演習戦Ⅰ

 翌朝はやくルフトシュピーゲルングは目を覚ます。

時計を見れば午前7時、地下のため天候はわからないが予報によれば快晴である筈である。

 

「…風呂入ろ」

 

 どうやら川内救援以前の放浪生活は、この体本来の持ち主にとっても不本意であったようで暇があれば寝てるか入浴するか、になっていた。

無論、話し相手が居ないというのが最大の理由であるが。

 

 

 

「うむ、いい天気だ。そして絶好の海戦日和でもある」

 

 ルフトシュピーゲルングが陽の刺さぬ地下で風呂に入りながら、顔半分を沈めブクブクと泡を作る作業をしているのと同時刻、彼女へ演習を申し込んだ相手である長門は海を波立てる風に、服装と髪を揺らしながら艤装を展開し洋上に出てとある一角を眺めていた。

 

 そこは演習の為に作られた区域で、模擬弾とは言え相応の破壊力のある流れ弾が港湾施設に着弾し、被害を与えぬ為に鎮守府のある島から程近い無人島、に“ここから先許可なく進入禁止”と記されたプレートと腐蝕対策のなされた合金製の柵がたっており、その向こうに奥行きは実に1.5㎞、幅1km程ある巨大な演習場が作られていた。

 これはかつてこの島に、人が住んでいた頃に作られた防波堤を利用して作られた物であり、島側の壁はそのままに浅い海側を柵で囲った物であるが、浅い場所もあれば深くなる場所も作ってあるので、潜水艦の演習と広さもある為、航空戦の演習も同時に可能という海洋国家である日本帝国でも、中々無い深海棲艦出現以降に作られたそうはない貴重な施設でもあった。

 

 演習場の中を見つめ、どうなるか。と長門が思いを巡らせている間にも演習場内部へ続々と、艦娘達が入場していく、場内の浮遊物を撤去する任務を負った艦娘もいるが、大半はそのまま島へ上陸し仲の良い者と防波堤の上や埠頭の上に陣取る、許可を得たのか食べ物の出店を出す、祭り好きの艦娘すらいる始末である。

 思い思いに過ごし、開始時刻を待つ艦娘達のおおよそ三割の手には“鎮守府広報”と書かれた紙が持たれており、やや不鮮明ながらカラーの写真が真ん中に載せられており、皿を持っている大和の後ろ姿の向こうに扉を開けた“肌も髪も白い少女”が瞳を大きく見開いた瞬間であった。

 

 それだけならば、新たな艦娘顕現として話題には上がるがこのようなお祭り騒ぎには至らなかったであろう、原因はその紙面を飾る読んだ者の射幸心を煽る文字である。

 

“新艦娘着任!初日に第一艦隊戦艦長門を激怒させる!?”

 

 

 君塚艦隊の長門と言えばこの鎮守府の顔役とも言える存在であった、その理由は実力はもちろん、分かりやすい様々な“逸話”を持っているからである。

 その中でももっとも有名なのは大和との一騎討ちである。

 

 これは戦艦大和が着任し暫くしてから発生したもので、彼女の着任以降、鎮守府内で“どちらが強いのか”という当人達にしてみれば、何とも傍迷惑な話題が始まりで、言い始めた人物はついに解らず仕舞いであるが当人達の耳に届く程度に多くの艦娘、職員が話題にしており不運な事に大和長門の両人に“言葉には出来ないしこり”の様なものも手伝い、疎遠気味な状態な事も話題に拍車をかけた。

 

 このまま行けば艦隊への悪影響も考えられる状態に困った両人…基長門が出した結論が“ならはっきりさせれば良い”という単純明快な物である。

錬度に勝る長門と装備の質に勝る大和、決着は長門優位であるがほぼ相打ち、という結果に終わる。

 この結果に鎮守府でのどちらが強いか、という話は急速に落ち着き同時に両人の“言葉には出来ないしこり”も解消され、現在両人とも背中を任せる事が出来る人物に、互いをあげるほどの信頼を築くにいたっている。

 

 もちろん、このような物騒な逸話だけではなくもっと別の逸話もあるが少なくとも悩み事があれば戦う、という行動の原点ではあるのは間違いないだろう、例えそれがとうてい勝ち目の無いおぞましいまでの戦闘能力を持っていることが予想されようと。

 

 

 時刻は廻り、午前9時少し前。

遠征や護衛任務に着くか夜間哨戒任務に着いていた艦娘以外の殆どが隣の無人島の演習場の観覧席という防波堤の上や波止場に腰掛け、おにぎりを頬張るもの、出店で出されていた焼きそば等を食べるもの、冷えたラムネを飲むもの、演習そっちのけで酒盛りをするものこそ居ないものの、演習より食事を目当てに集まっている者も若干見受けられるが大半の視線は、金剛の手前に立つ遠目で見れば白黒の少女へ向けられていた。

 管制人格の外見は駆逐艦相当の大きさであるが、背負った艤装は戦艦である金剛の艤装と比較しても可笑しいサイズで“あの艦は何者?”“姉妹艦で覚えのある子いる?”などのざわめきが観覧席を包み、その声を聞いたルフトシュピーゲルングは視線は前に向けたまま喉が渇いた様な感覚にごくり、と生唾を飲み込み

 

「…緊張しますね、こんなに見られてるなんて」

 

「みんな、newfaceに興味津々ネー!テートクは何かworkがあるから来れないけど、正々堂々と戦えばみんな認めてくれる筈デース!」

 

「そうですね、ありがとうございます」

 

「no problem♪」

 

 横に並び、ルフトシュピーゲルングの肩に優しく手を添え金剛はにこやかに微笑み、慣れない大勢に見られながら演習とは言え戦う事に緊張している彼女へ努めて明るく、振る舞う。

 直接触れるというのは言葉以上に緊張を解す効果もあり、一旦目を瞑り深呼吸をして再び目を開けば緊張の色も薄れ、視線を直線上に布陣する長門率いる艦隊へ集中する。

 

《思ったより観客も多いが…各艦大丈夫か?》

 

《こちら大和、あの時を思い出しましたが大丈夫です。問題なし》

 

《こちら榛名、榛名は大丈夫です!》

 

《こちら比叡、うぅ観艦式を思い出します…大丈夫、気合いっ入れます!》

 

《こちら霧島、あちらも緊張の真っ直中ですね。大丈夫です》

 

《こちら加賀、…問題なし。》

 

 一方、演習相手の彼女からも視線を向けられた君塚艦隊の面々は、最後の陣形維持に掛かっている、前衛には比較的機動力に秀でる榛名、比叡、霧島を逆V字に配置、彼女らは試作三連装41cm砲を装備しており、彼女らの後ろに大和と並び立つ長門も試作連装46cm砲を装備に変更されている。

 これは多少の命中率の低減へ目を瞑り、火力を向上させる事に主眼をおいた装備で、各艦とも着弾観測機すら搭載し砲火力の底上げを図っている。

 空母加賀は艦隊の最後尾に着いており、相手に航空隊が居ないため演習仕様とは言え艦攻、艦爆双方を搭載限界数ギリギリまで詰め込んでこの演習に臨んでいる、こんな打撃偏重編成に意味は有るのかと最初に長門に声をかけられた時は思ったものの、相手が此方の常識の通じぬ相手とスペックの説明をされ、然しもの加賀も絶句してしまう程であった。

 観客席に“あの小生意気な後輩”が居ることは察しては居たが、今はそれらを心の奥に閉じ込め目を閉じ波音すら聞こえぬ静寂な世界に自分を立たせ、基本、基本だ。艦載機の一機一機と心を通わせ、それらを大空へ飛び立たせる。

 

 “初めて”教わった事を堅持し、その上で戦果を挙げる。

その姿勢は君塚艦隊の空母機動部隊の纏め役の矜持があった、それ故彼女へ事あるごとに噛みつく“あの小生意気な後輩”ですら敬意を表していた。

 

 彼女が閉じていた瞳をゆっくりと開く、さざ波も立っていない様な静かな瞳は標的をしっかり見詰める、ゴテゴテした巨砲に囲まれた彼女へ。

何を考えているのか、何をするのか。

 どんな強大な艦だろうと航空戦に成れば負ける、対抗手段が限られる水上艦ゆえの宿命である。

 

 しかし、彼女はその常識を捨て全力で叩く積もりでいた。

驕り慢心し負けるのは一度で充分だから。

彼女への約束でもあるから…。

 

 演習監督艦として両艦隊の丁度中間地点の位置に川内が陣取り、双方の準備が整ったと判断し両足は防波堤の上をしっかりと踏みしめ両手は後ろに回し、大きく息を吸いそれを宣言する。

 

「これよりッ!演習戦を開始を宣言するッ!両艦隊礼ッ!」

 

 声を張り上げ川内が宣言すると同時に双方は声に従い頭を下げ、その頭がすべて上がった所で穏やかな色の瞳を戦意に染め、加賀は弓をギリギリと引絞り矢を、艦載機を発艦させる。

 

 ルフトシュピーゲルングにとっては轡を並べ戦う者達との、ファーストコンタクトとなる戦いの幕開けでもあった。




制約ありの演習戦です。
いくら相手が沈まないと聞かされても

波動砲は使いません。
レールガンも使いません。
光学兵装もっての他。
ミサイル?特殊弾頭多弾頭とか自重。
反物質兵器使うほど彼女らを嫌ってません。

結果
ほぼ100cm80cm砲のみの使用となりました。
…縛り?
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