遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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台湾沖海戦Ⅰ

 

 

 沖縄基地へ最後の参加艦隊が到着したのは、もう三十分程で日が沈もうとする刻であり、海は赤から黒に染まり亡者たる深海棲艦が跋扈する刻でもある。

 港は日の入り十分ほどで分厚い腐食処理をされた鋼板で封鎖され、コンクリートと鋼鉄に防護された元は艦載砲である固定砲台が探照灯に照らされた海を睨み付け沖縄本島を守備していた。

 勿論、現地鎮守府の水上戦力もいるが真っ暗闇の沖合いへ哨戒に出すのは、“沈め”と命令するような物なので出ていないが、万一襲撃が発生した場合には真っ先に出ていける様に海から三分以内の地点に守衛所を作り詰めていた。

 

 そんな半分要塞の防御力に等しい守りの沖縄の更に陸軍により街より隔離された沖縄基地の一角、殆ど全ての部屋に明かりが灯るそこは明後日に発動される台湾海域解放戦に参加艦娘が宿泊する為に建てられたコンクリートとレンガにより作られた二階建ての寮の一室、君塚艦隊の空母艦娘“加賀”“大鳳”に宛がわれた二段ベットと簡素な机、簡単なクローゼットだけの部屋で装甲空母大鳳は自らの発艦機能が凝縮されたクロスボウを慎重に分解し整備していた。

 洋弓銃とも呼ばれる精密武具であるクロスボウは歪みや弦の不調により、本来の力を発揮出来なくなる可能性があり前線で調整など行える筈もないので、普段の倍気を使って作業に勤しんでいる。

 

「…あまり根を詰めない方が良いわ、大鳳」

 

「加賀さん、おかえりなさい。…はい、丁度終わるところです」

 

「そう…なら良いわ」

 

 作業に熱中しいつの間にか部屋に戻ってきた加賀に声をかけられ、時間を確認すれば一時間は経過しており額の汗を軽く拭い机の上にクロスボウを置き、両手を高く上げ背中を伸ばし関節を鳴らし溜まっていた疲労を解す。

 

 君塚には英気を養えと指示されたものの、ここに到着した以降彼女に直接指導を受けながら、硫黄島とは違う南方特有の“風”に艦載隊を馴らす飛行訓練を行い、それが終わってからは食事を挟んだもののずっとクロスボウを整備していたのだった。

 夕食後別行動をとっていた加賀は風呂に入っていたのか扉を閉め、まだ若干濡れている髪をしており右手に半分飲まれた牛乳瓶を、左手には桶を持ち浴衣を纏う姿は正しく銭湯帰りでベットに向い歩き、横を通れば洗髪剤の残り香が大鳳の鼻に届く。

 視線で加賀を追えば残った牛乳も飲み干し、机の上に置き軽く体を解すように全身を動かす。

 三分程肩を中心に解した後はくるりと大鳳の方を向き、半分ほど閉じた瞳で大鳳を見詰めた。

 

「大鳳」

 

「はい」

 

「その…おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

 見る人が見れば体が硬直してしまう様な射殺さんばかりの眼光に見えるが、ここ最近共に過ごした後輩としては彼女の現状が手に取るように理解できる。

 

 眠いのだ、とてもとても眠いのだ彼女は。

 

 それでも先に眠る時に声をかけるのは流石礼節を重んじる君塚艦隊の空母筆頭であっが、先程の挨拶はそんな彼女にしてはややぎこちなさを感じさせるものである。

 これは単純な話で鎮守府の時は一人一部屋という状況だったので言う機会がなかった為であり、軽く気恥ずかしさを感じた為でもある。

 ベットに潜り込み仕切りカーテンを閉めれば直ぐに寝息がし始める、ここに来るまで常に“外部の視線”に気を張っていた加賀が、漸く緩める事が出来たようで安眠を邪魔しないように、最後の仕上げを終らせ、大鳳も明日に供え就寝すべく持ってきた入浴セットと着替えを手に大浴場へ向かう。

 

 翌日は流石の大鳳も演習は行わず、英気を養う事に集中するが、新型推進補助装置改…ギリギリまで明石が改良し最高速は落ちたものの操舵性能を島風に追従しえる艦娘である天津風でも何とか扱える様にリミッターを着けたもので、双方とも50ノット程で航行可能である、とはいえ61ノットの世界を味わった島風は不満気であったが艦隊行動をとる上で過剰な速力はほぼ無意味であることも理解していたので渋々といった形で受け入れていた。

 

 そんな代物を装備し最初の試作型すら多少制御して見せた島風と、それと息を合わせ肩を並べ攻撃する天津風は武装の変更も加わった事により時間を惜しみギリギリまで二人による演習を行っていた。

 昼前まで行っていた演習であるがいつの間にか他鎮守府の“島風”も岸壁や固定砲台の上からその様子を伺い“瞳を輝かせ”はっやーい、の大合唱を奏でた姿を両名とも確認し、その直後よりおよそ10の島風とおいかけっこに発展する事となりかなり異様な光景となる。

 そんな島風と天津風であるが昼過ぎには陸へ上がり、明日日の出と共に発動される台湾海域解放作戦に向けて休息をとることとなる。

 

 君塚の指揮下の艦隊へ与えられた任務は圧倒的な砲打撃力と高速艦艇による切り込み役、つまり最前線で台湾守備艦隊である南雲艦隊を直接援護する役目を担うことになっていた。

 史実では第一航空艦隊を預けられる事になっていたが、深海棲艦の出没により台湾は水雷艦隊の南雲忠一大将と小沢治三郎中将の航空艦隊を配備しており極めて強力な艦隊として台湾守備の任務に着いていた。

 しかし、沖縄周辺海域に深海棲艦が出没し始めると輸送艦襲撃が相次ぎ、また顕現する以前より分断されかけていた為、艦娘の配備は極めて少なく通常艦艇による防衛戦を強いられており押されっぱなし、という苦杯を味わっており今回の台湾海域解放作戦の秘密通信を受けた両将は大いに安堵する。

 

 勿論、彼らも母港である高尾軍港に籠っているつもりもなく稼働艦艇のほぼすべてを出撃させ出迎えの準備をする事となっている。

 南雲艦隊旗艦「山城」、護衛に巡洋艦2、駆逐艦5。計8隻

 小沢艦隊旗艦「赤城」、護衛に巡洋艦1、駆逐艦6。計8隻

 これが彼らの総数なのだ、当然これ以外の艦艇も有るがすべてをドック送りにされていた。

 しかし、数は少なくともそのすべてが南方より湧く深海棲艦とやりあっていた為、極めて錬度は高く史実よりも精強となっている。

 

「…よし、我々が第一陣だ。島風、天津風、艦隊の“目”は任せるぞ。君たちにこの皇国の未来が懸かっていると言っても過言ではない、だが気負いすぎず何時もの訓練の力を発揮して欲しい」

 

《当然だよ!まっかせて!》

 

《緊張させたいの?それともリラックスさせたいの?…別に良いわよ。好きな方で解釈するし…》

 

 俊足の駆逐艦の中でもさらに俊足になった両艦はまもなく日が開ける、白んでくる空の下大海の上を進みながら電探をフル稼働させ警戒に当たる。

 ポツリポツリと反応は有るが総数は多くなく、会敵コースに布陣する艦隊のみ撃退し、残りは大まかな位置を後方の艦隊へ「木曽」経由で報告される。

 

 不幸にも島風と天津風と会敵した深海棲艦達の部隊は、一発の砲弾を当てる事なく余りにも早い速度に翻弄され海に没していく、特に武装変更を受けた天津風は砲口を3つ束に纏めた88mmバルカン砲を装備、試作型の127mmより威力は低いが弾数を大量に持てると言う点で優れており対空戦にも強く軽巡洋艦未満ならば火力も充分であり、取り回しもきくそれが敵艦隊を文字通りズタズタに引き裂いて、海面を深海棲艦の血と残骸で染めていく。

 

「…やっぱり馴れない…うぇぇ…」

 

《前方、戦艦ル級!先に行くね!》

 

《あぁ、待ちなさいよ!戦艦は二人でって…》

 

 島風のごとく、彼女の言は正にそれを表し天津風の言葉が届く前に交戦距離に肉薄、ル級は直ちに砲を放つが検討違いな所へ着弾。

 ル級の背後の駆逐イ級達の砲撃や雷撃もヒラリヒラリと回避し、逆に島風の雷撃が突き刺さり爆炎が花開く。

 島風を追う天津風は島風が自分から見て右に行けば、取り舵を選択し左側へ行き島風へ砲撃を浴びせようとしたル級へ88mmを浴びせる、致命傷には成らないが両手の艤装の幾つかは砲身がネジ曲がり火力が低下する、横合いからの乱入者にイ級達へ迎撃せよと指示を出そうとするが

 

《させないよ!》

 

 島風がどちらを攻撃すればいいか迷っていたイ級を雷撃、続いて砲撃を浴びせればイ級達は大破か撃沈となり、ル級が腰を据えて天津風を沈めるべく背後を見せれば島風はグッと、体勢を低くし一本の魚雷を艤装から引き抜き一気に加速、リミッターギリギリの僅かな時間55ノットまで機関全速でル級に接近、背後からの殺気に振り向こうとするが到底間に合うわけもなく、“飛んでくる魚雷”が眼前に迫っているのと、投擲した島風の姿。

 そして彼女が短距離通信であえてル級に告げた言葉が一瞬後に魚雷が炸裂し沈むであろうル級が聴く最後の物となった。

 

《おっそーい》





蹴りか魚雷でぶん殴るかで悩んだ結果、投げました。
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