遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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台湾沖海戦Ⅳ

 深海勢と艦娘勢との戦端を開いたのは圧倒的展開力と速度を誇る航空母艦娘、及び深海棲艦の空母の装備する航空隊であった。

 

 先程までと違い大鳳隊の戦闘機と、加賀隊の戦闘機が協調しつつ、相手から制空権を奪うべく深海棲艦の航空隊と交戦すべく距離を詰める。

 会敵すれば風に舞う木の葉の如く、芸術的とも言える整然てした隊列を崩し、相手の後ろを取り、必殺の一撃を浴びせるための機動戦が始まる。

 

 正規空母たるヲ級は、その被った帽子のような部位から吐き出すように次々と発艦。

 総旗艦のような立ち回りをすら南方棲戦姫もヲ級と比べれば、少数ではあるものの迎撃機を上げ劣勢ながらも脅威的な粘りをみせる。

 6隻の空母…正確に言えば加賀隊の戦闘機は艦攻隊運用の為に数が減っていた。

 しかし、3隻の空母は自部隊の運用する能力を凌駕する敵艦娘航空隊に対し、深海棲艦の精鋭と称するに相応しい実力をもって出血を強いる。

 更に前衛に配された深海側の重巡と軽巡隊も計3隻とは思えぬほどの火線を打ち上げ、数に勝る艦娘側の戦闘機を着実に撃ち減らす。

 

 更に損害に拍車をかけるのは、倍以上の数の敵艦娘戦闘機隊に対し、一歩も引かぬ制空戦闘能力を発揮する深海側の航空部隊であった。

 不利を理解しており、艦娘艦隊へ対艦攻撃を仕掛けるのではなく、完全に守りに入りあえて‘受け’に徹することで艦娘側の艦隊を叩こうと伸ばされる手を懸命に弾く。

 

 戦力上で優位なはずの自部隊が押されて居る事に、感覚を艦載機と繋ぎながら劣勢の有り様に苦々しい顔を浮かべた加賀はすっと目を開く。

 思った以上に手強い敵艦隊に、相手の制空権を奪おうと何とする指揮下の空母達を横目でチラリと確認し、長らく共闘したであろう相手と比べここ2~3日、組んだばかりの急造の連携で突破する事は無理と判断する。

 先程役割の交換を具申したのは間違っていたと後悔するも 、同時にこの分だと変えてなくても同様の結果になる事になるだろう事は予想できるほどに敵部隊は手強いものであった。

 故に燃料弾薬の面から艦攻隊を満足に動かせなくなる事を考慮し一瞬悔しげに顔を歪めるもすぐに消し戦闘機隊を出撃させることを決め、指揮下の空母艦娘へその意思を伝え、不満の声が少々出るものの現状でそれを打開できる様子もなくそれを承認、君塚へも同様の具申を行う。

 

「……提督、予想以上に頑強な抵抗に防空線を抜けられないわ」

 

《…ふむ、あれがこの辺りの親玉、と言ったところだね》

 

「折角の機会を失うのはかなり悔しいです、しかし燃料弾薬無しで戦えない、なので…」

 

《わかってるよ、姫級との交戦は少々想定外の事だ。本来ならこんな遭遇戦に出張るような個体では無いからな…準備に準備を重ねても勝てるかどうか解らんのが姫級だ。そんな姫級を沈めるのに…いや撃退出来れば御の字だ。それに貢献したとなれば、不満はそこまで出ないだろう》

 

 無事にこの難儀を終えれたらな、と君塚は内心に浮かぶ言葉を飲み込んで加賀の具申を受け入れ加賀が出す“残存する戦闘機隊を出す”と言う指示に対して無線機の向こうの艦娘達からの了解、と聞き届け水平線の向こうでの戦いをどう勝つかと思考を巡らせる。

 

 島風と天津風はまもなく交戦距離に入るが彼女ら二人で重巡と軽巡を牽制は出来ても撃破は難しいだろう、長門大和の到着と共に本格的に叩くべきか…、そんな事を考えつつも相手の航空戦力がどこまで残るかにかかっている。

 有力な打撃艦隊だろうと優勢な航空攻撃には反撃手段が限られるのだ、極一部を除けば…あの“蜃気楼”を筆頭にした超兵器ならば

 

 「木曽」であれこれ考えるも無い物ねだりが出来ないことは君塚はよく理解しており、とにかく現有戦力で最低でも撤退に追いやる必要がある中、交戦相手の深海側は極短時間の優勢を発揮し自部隊上空への侵入を艦載機の壁により防いでいたが、加賀隊が艦攻隊の出撃を諦め戦闘機隊を発艦させ航空戦に本格的に参加すれば一気にと言う訳ではないが少しずつ、しかし確実に艦娘側へ傾き出していた。

 

 深海側も動くには燃料も、砲戦するにも砲弾の補給も必要である。

 主力艦隊の後方――勿論艦娘達に見つからぬよう離れた地点――には補給部隊を待機させており、前線で六隻の空母が運用する戦闘機隊に次々と叩き落とされていく艦載隊の補充分の機体も存分に用意されていた。

 だが、自達らも精鋭という自負を持っていた深海側航空戦力は数に勝り、想定以上に食い下がる艦娘側の航空戦力により戦闘力をかなり損失していた。

 補充用の機体はあるが補給艦として後方に待機している“ワ級”が発艦させる能力が無いため母艦である空母が直接受け取りにいかなくてはならず、“巣の集積地”からたんまり持ってきた物資であるが絶え間ない艦娘の攻撃に宝の持ち腐れになってしまっているのだった。

 

 とは言え、じり貧なのは艦娘側も同じ事で加賀隊の戦闘機の参戦により制空戦では優位にあるが会敵時より全力戦闘をしていた大鳳隊の戦闘機も深海側との航空戦によりその数を減らし、疲労も溜まったのか動きの機敏さが若干落ちている。

 

 

《戦闘始めるよっ!私が一番なんだから!》

 

《ブンブン五月蝿いわね、逃がさないわよ!》

 

 

 航空戦が最終的に艦娘側優位であるが、ほぼ痛み分けで終わりそうな所へ、機関出力のリミッターを短時間限定で解除し直進60ノットの速力で射程内に突入しそのまま主砲をぶっぱなし、傑作対空砲として名高い88mmをバルカン砲の砲弾として空中へばらまく。

 敵味方を識別し巻き込まぬように気を使いながらの攻撃になってしまうが、折しも補給の為に背を見せ飛行していた部隊を直撃、運の悪い3~4機が海へ叩き落とされる。

 

 

《島風!前の軽巡は任せたわよ!》

 

「りょーかい、じゃあ上はあまつんが守ってね!」

 

《………たくっ、わかってるわよ!》

 

 

 先行している島風と天津風は一応は味方制空権下に戦っている状態ではあるが、相手は最低でも旗艦級の軽巡であり数を減らしたとは言え、未だ敵艦載機が飛び交う場所でもある為に対空攻撃向きの装備をしている天津風が上を、軽巡への攻撃を島風が…更に言えば敵航空隊への“分かりやすい的”を演じる役目を担うのだった。

 双方ともに補助推進装置により本来の速力を越えているが、ある程度順応し使いこなせる島風が言わば囮として動くのは当然と言えた。

 

 深海側は軽巡を先頭に、「姫」のやや前方を重巡が固めその背後へ空母三隻を配している、故に艦娘側の防御を抜く為に配された鏃の尖端である軽巡を叩けば多少の時間を稼ぐ事は出来る。

 そう島風は判断し、機銃掃射や爆弾などを不意に投下してくる敵機の対処を天津風に任せ、自らはその比類なき速力を存分に生かし“牽制”に注力する事を選択した。

 

「あなたって、遅いのね!…てぇっ!」

 

 勿論、当人としては自力で撃沈したかったが速力は兎も角として、火力面での補助は自動装填装置のみである。

 その為、背負った魚雷発射菅からの雷撃は強力無比であるものの、相手が駆逐艦クラスであるなら未だしも一隻だけである限りたかが知れている。

 主砲による砲撃も連装12.7cm砲では相手側の装甲を抜くことは―――やはり困難である。

 

 本来の連射速度を越え、リズミカルに撃ち出される砲弾が敵艦隊向けられ海面を、或いは先頭を行くの軽巡を直撃する。

 その程度で沈むわけがないが、五本の雷撃が接近していることも手伝い猛進するかに見えた強大な艦隊はそれをやり過ごすように大きく回避運動を行う。

 

《あはは、ハズレハズレぇー!》

 

 進路を妨害された鬱憤を晴らすように、敵艦隊から砲弾が打ち出される。

 味方の艦載機を巻き込まぬように控えていた攻撃であるが皮肉にも大鳳、加賀両隊の攻撃により数が減じていたため可能になった事であった。

 しかし、人型であることを十二分に生かすことの出来る島風の速力40ノットを越える50ノット程の回避機動を行う相手へマトモに命中弾を出すことなど出ることもなく

 その度に、深海棲艦に向けて挑発的な笑みと通信を入れる余裕すら見せ――思いの外、至近弾であり、僅かに心に流した冷や汗を隠し――スッと腕を伸ばしバルカン砲を唸らせる。

 

 砲弾にかき混ぜられ荒れる水面に、敵艦隊を視認しつつレーダーによる補助も得て命中弾を浴びせる。

 

 構造上の脆弱部位に命中したのか苦悶の悲鳴のような声と、青い血のような体液を撒き散らす。

 しかし、行き足は止まらない。

 

強大な意思の元に、前へ―君塚艦隊へ―日本へ邁進する。

 




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