「成程。あの赤黒い雲の正体はそう云う事だったのか」
「私が選ばれるとはこれっぽっちも思わなかったよ~」
「奇妙な事が起きていて、只ならぬ気配もしたのに羅針盤は無反応だから
可笑しいと思ってたんだ。其れで、どんなカードを生み出したんだ?」
「其れが未だ・・・。私がしたい事を強く願えばカードが
魔法円から出てくるらしいけど、如何して良いか分らなくて」
前日、神社で思いがけずカードを新たに生み出す力を授かったさくら。
事が事なので、申し送りをしない訳にはいかない。
「精々、フランケンシュタイン博士と同じ末路を辿らない様にな」
何処となく苦々しそうな表情の李小狼。
彼は香港から来た転校生・・・と云うのは表の顔。実際は、さくらとは別にクロウカードを
探し回っている、言うなれば“もう1人のカードキャプター”だ。
彼はクロウ・リードの親類に当り、魔力を持っているのだが、さくらには及ばない。
代りに、剣術の腕前に長けている。
「何やあの小僧。自分が選ばれへんかったからって、嫉妬かいな」
「でも李君の言う事も正しいよ?使い方を間違えたら私自身が酷い目に遭うから」
「さくらちゃんは優しいですわね」
何時も通り一緒に下校するさくらと知世とケロちゃん。知世が撮影していた
映像を見せたので、本当とは分って貰えたものの、納得し難いと云う心理なのは
明白だった。少し前迄、不向きと思っていた相手が自分より大幅に進化したのだ。
何も感じない方が寧ろ不自然だ。
「其れにしても、強く願えば叶うって事だけど、如何すれば良いのかな?」
「さくらちゃんの清らかな心が有る限り、何も怖れるに足りませんわ」
自信が無い訳ではないが、強く願わなければならない事案が思い浮かばない。
然し、直ぐにも“事案”は生じた。
「予想以上に悪運が強いな。正直、御前を余りに甘く見過ぎていた。
認識を改めないといけない様だ。だが、浮かれていると酷い大怪我するぞ」
其の日、クロウカード争奪戦が勃発したのだが、小狼の一瞬の油断と、カード自体の
頭の悪さが重なり、カードはさくらの物となった。
認めるのは嫌だが、現実は動かし様が無い。辛辣な事を口にするのが関の山だ。
「李君、何で何時もあんなに刺々しいのかな。私はもっと仲良くなりたいのに」
「さくらは御人好し過ぎや。あんな小僧の何処がえぇねん」
「李君は私のピンチを助けてくれた事も有る、恩人だよ。悪口は駄目」
「さくらちゃんも矢張りそう思いますか?御二人が手を組んだ方が効率良く
カードを集められますのに。もっと優しい心が有れば・・・」
知世の何気無い一言が、さくらに大きなヒントを与えた。
「其れだよ!知世ちゃん、ナイス! 御願い、李君に優しい心を芽生えさせて・・・!」
地に膝を着き、必死に祈るさくら。其れに呼応する様に、以前と同様、空が赤黒くなる。
「闇の力よ、契約の名の下、さくらの命により新たなカードを生み出せ。“
封印の杖を横一直線の状態で頭上で振回し、縦に天高く掲げると、杖が避雷針となり
赤い稲妻がさくらの体に直撃し、骨格が見えるが、幻の稲妻なので本人はショックを受けない。
程無く、金色に輝く魔法円が足元に現れ、下から真新しいカードが現れ、白く光る。
赤黒い雲と魔法円が消えた後、其処には、赤毛の幼女が居た。彼女の真っ白な衣装と翼
其れから金色の輪は、天使の出で立ちそのものだった。
「貴女は・・・?」
「成程、カードが実体化したんやな。見たとこ大人しそうやから大丈夫や」
愛のカードから現れた天使は微笑むと、スコープの付いた厳ついクロスボウの手入れを始めた。
「な、何か凄く大きい弓矢だね;」
「最近の天使は随分ハイテクですわね。実に面白いですわ」
知世がカメラを回しているのも気にせず、赤と黒の矢を束ねる天使。
「あれ?この2色は如何違うのかな?」
「ワイが聞いたる。ちょっと御嬢ちゃん、これやねんけどな・・・あぁ、そう云う事かいな。
さくら、至って単純な事や。赤い矢が刺さったもんは、誰かを愛する気持ちが爆発的に増えるんや。
黒い矢は其の反対。無関心になるんや」
ケロちゃんが、簡単に内容を纏める。すると、知世が或る疑問を投じる。
「愛情を育てる筈のカードなのに、何故逆の作用を齎す矢も有るのでしょうか?」
「あ、そう云うたらそうやな。御嬢ちゃん、説明してくれへんか。・・・ふむふむ・・・
・・・・・・そう云う事かいな。そない言われたら納得や」
要約すると以下の通り。
*タロットカードを参照して作られたカードが有るので自分の様な存在も居て可笑しくない
*赤と黒の矢は正位置と逆位置に相当する。
*タロットカードで一番近いのを挙げるとしたらLovers
*正位置の場合→情熱・共感・絆・深い結び付き・結婚
*逆位置の場合→失恋・空回り・無視・空虚・結婚生活の破綻
*意味に関しては他にも色々有るけど、一先ず今のが最も一般的
「難しい・・・;」
「当面、こんだけ分れば十分や。其れで、このカードで何をしたいんや?」
一瞬戸惑った。人の心を書き換えたら、其れは悪用に当る。だから慎重に言葉を選んだ。
「私、李君ともっと心を通い合わせ、カード探しの時も手を組み合いたい!」
「さくらちゃんならそう仰ると思いましたわ。カードさん、力を貸して下さいますか?」
天使は、何の躊躇も無く頷くと、赤い矢をセットし、飛び上がった。
「あ、待って!」
慌てて
目的は1つ。小狼の“狙撃”だ。やがて、視界に探していた標的が映る。
“All-correct”
徐々に高度を下げつつ天使が呟く。
「え!?喋れたんかいな。元々口数少ないタイプなんやろか」
「い、今何て?」
突然英語で呟いた事は、話せるという事実以上にさくらを混乱させた。
「“準備良し”ですわ」
英語に限らず世界の様々な言語を習っている知世にとっては容易かった。
“Master arm, on.”
天使は、徐に安全装置を解除する。
「“安全装置解除”ですわね。さくらちゃんの“封印解除”に相当しますわ」
何か違う様な気もしたが、突っ込む暇は無かった。
“Fire!”
流石に今度は通訳は不要だった。目の前で矢が飛んで行って、小狼の脳天に突き刺さったのだから。
「ほぇぇ~~!矢が、頭に刺さったよ!痛い痛い!」
「大丈夫やって。あれは幻。ほんまに刺さったんとちゃう。一種のエネルギー波や」
胸を撫で下ろすさくら。小狼は全く気付いてない。
「カードさんの活躍と云う、思わぬおまけまで付くとは、大収穫ですわ」
歓喜の念を隠せない知世に、さくらとケロちゃんは苦笑するしかなかった。
翌日の放課後、またも新たなクロウカードの気配を探知するケロちゃん。
小狼も気付かない訳がない。2人のカードキャプターは同時に現場に辿り着いた。
「今度のはかなり厄介やな。賢い暴れ者。一番難しいタイプや」
「如何しよう・・・」
遮蔽物の裏から隙を伺うさくら。其の時だった。
“雷帝招来 急々如律令!”
木の上から小狼が魔法を掛け、カードは感電して派手に転倒する。
当り所が悪かった所為か、目を回した状態で気絶している。
「早く封印するんだ!」
何故か積極的に援護してくれた小狼。昨日脳天を射抜かれた結果とは言え
今迄と余りに違い過ぎる。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウカード!」
手慣れた動作で難無く封印するさくら。カードは、一時2人の間を彷徨っていたが
最終的にさくらを選んだ。
「よくやったぞ。流石だな」
今迄見せた事の無い満面の笑顔を見せる小狼。心なしか顔が赤い。
「李君が手伝ってくれたからだよ。本当に有難う」
「良いんだ。俺達は同志なんだから、力を合せてこれからも頑張ろう」
20年来の付き合いの親友の如く、手を取りさくらを見つめる小狼。
「不死鳥がモチーフの衣装か? 美しいなぁ」
無愛想と思っていた小狼からの、率直な賛辞はさくらだけでなく
冷静な知世をも驚かせた。
「まぁ・・・」
「其れじゃ、撤収する。気を付けて帰るんだぞ」
「あれ、ほんまに小僧やんな?双子の兄弟居てるとは聞いてへんで」
「まるで別人ですわ」
「カードの力、予想以上に強いね」
帰路についた3人は、180度変貌した小狼の話題で持ちきりだった。
無理もない。自分達の予想を上回る効果なのだから。
だが、騒ぎはこの程度では済まなかった。
「ほぇぇ~~~!急がないと~~!」
懲りずに朝寝坊するさくら。
「おはよう、さくら。怖い夢の所為で眠れなかったのか?」
「そんな覚えは無い・・・って、あれ?今日は怪獣呼ばわりしない」
「桃矢君、一体如何して?」
「何処の世界に、可愛い妹にそんな酷い事言う奴が居るんだ?兄貴なら、
妹を心から可愛いと思うのは至極当然じゃないか」
何も間違ってない筈なのだが、何時も憎まれ口を叩く桃矢が言うと調子が狂う。
「???・・・って、其れどころじゃないーーー!!!」日頃の行いが模範的だから・・・
程無く、桃矢も家を出て、1人になった藤隆は、頭上に疑問符が浮かんだままだった。
「皆の様子が可笑しいよ。何故か誰も彼も異常に私に優しいもの」
「さくらちゃんの日頃の行いが模範的・・・で片付くレベルではありませんね」
「どうやら、主人の為にと関係者を皆射抜いた様やな」
「何か調子狂っちゃうよぉ・・・」
迷惑かと問われたら、答えは“Nein”だが、流石にやり過ぎだ。
「嫌な予感がするけど、この際仕方ないね。御願いカードさん、皆に黒い矢を撃ち込んで・・・!」
必死の思いで祈るさくら。其れを知ってか知らずか、天使は既に黒い矢を番えていた。
「ほぇえ~~~!遅刻する~~!」
「・・・・・・」
またも懲りずに慌てるさくら。ところが、今日の桃矢は一瞥しただけで
其れ以上は関心を示さなかった。
「・・・?」
何か別の事を考えている様にも見えたが、気にしている暇は無い。
「あれから皆、私に意地悪とか冷たい訳じゃないけど、まるで今日初めて会うみたいな態度・・・」
「逆位置の作用やな。さくら、これでええんか?」
先日迄矢鱈好意を寄せてくれていた皆が一転、無関心になっていた。
「・・・私は本当は、李君ともっと協力し合いたかったのに・・・」
本音を口にしたのを知世は聞き逃さなかった。
「矢張り願いは自分の力で叶えるものですわね」
人道から逸れたとは流石に思えなかったが、泣き所を突かれ、ぐうの音も出なかった。
「カードを封印すれば全て終わるのかな・・・」
「他に思い付かんし、其れでいこか」
其処へ折良く当の天使が戻って来た。
「カードさん・・・御免なさい!私の為に働いて貰ったのに、私の予想と全然違う事になって・・・」
怒り出すと思われたが、意外にも、天使はあるべき姿へ戻る事を求めていた。
「汝のあるべき姿に戻れ!クロウカード!」
生み出したのはさくらだが、其の源である力は闇属性なので、都合上そう呼ぶのが
妥当・・・だと云う事にしておく。
「先日は悪かった。俺もカード集め必死なのに、大きく差を付けられ
頭に血が上ってたんだな。これからは、協力し合える様にする」
「李君・・・私も、これからは手を取り合いカード集める!」
「素敵ですわさくらちゃん。普段とは違う御姿も愛くるしいことこの上ないです☆」
手に手を取り、改めて結束を固めるさくらと小狼。そんな様子をケロちゃんは
満足そうに見ていた。
さくら:クロウカード篇に似ているね。この御話の中での出来事。
知世:私は、可愛いさくらちゃんの雄姿を拝めるなら不服は有りませんわ
ケロちゃん:其れにしても、初回から扱い辛いのが来おったな。
小狼:全く、俺がカードの影響を受ける事になるとは思わなかったぞ。
さくら:猛烈に私を好きになってた時の小狼君、別人だったよ。苺鈴ちゃんが見たら何て言ったかな;
ケロちゃん:あの小娘の事や。テーブルひっくり返す位では済まんのちゃうか?
小狼:東京都港区麻布十番在住、Lune Lapinさん(14歳)、御便り有難う。
さくら:あ、でも、お兄ちゃんはあのままでも良かったかな?
ケロちゃん:調子狂う言うとったのはさくらやないか;
さくら:はぅう~・・・;
知世:あらあら・・・これからも皆様からの御便り御待ち申し上げておりますわ。