「ま、ま、ま、待て待て!落ち着け、御坂!!」
両腕で上条の左腕を抱くようにしがみついた美琴は、少し熱を帯びて潤んだ瞳で上条を見上げた。
「私、落ち着いてるよ?と・う・ま」
「なんですとーーっっ!?オマエそんなキャラじゃないだろうがああああっっ!!」
「ひっどーい。当麻が『素直なら可愛い』って言ったから素直になってるのにっ」
文句を言いながら美琴はぷくっと頬を膨らませた。それを見た当麻の頬が仄かに赤くなる。
「…あ。当麻、もしかして照れてる?」
「そ、そ、そんなこと無いですよ!?」
「慌てちゃって。…当麻が素直になったら、いいことさせてあ・げ・る」
「な、なんだよそれ!?」
慌てふためく上条を熱い眼差しで見つめたまま、美琴は小さく微笑んで、それから顎を上げて瞳を閉じた。
「…ん」
「み、さ、か…」
上条の視線が美琴の唇に固定され、まるで重力に引かれるかのように、上条の顔はゆっくりと美琴の顔に近づいてきた。
―――――
「お姉様、そろそろ起きてくださいまし」
ルームメイトであり、憧れの存在でもある御坂美琴の身体の上から掛け布団を剥ぎ取り、白井黒子は美琴の顔を覗き込む。
「ああ、お姉様。今日も相変わらず麗しいお姿ですわ」
「…………と・う・まぁ」
「…なにやら聞いてはならない単語をお姉様が口にしたような…」
「…とうまぁ……ん…」
「ぎょええええええっっ!!なんで殿方の名前を呼んでから唇を突き出していますの!?お姉様!お姉様ああ!!」
白井は肩を掴み、前後に美琴の肩を揺すった。
「んぁ!?ちょっと、なによ黒子!痛いじゃないの!」
「………ただの夢、ですわよね?お姉様」
「…なにがよ?」
「………殿方との接吻(ベーゼ)」
「うにゃあああっ!?な、な、な、なに言ってるのアンタ!?」///
「そのままの意味ですの。お姉様」
「キ、キ、キ、キ、キ、キスなんてしてないし!?ってかアイツとはそういう関係じゃないし!!」///
―――――
(これで何度目ですの?)
最初のうちは動揺して叩き起こしていた自分を懐かしみながら、白井は携帯電話を操作し、モニター越しにルームメイトの姿を捉えてから、タッチパネルを押す。
モニターの左上に赤丸が現れるのを確認し、自分のベッドに腰を下ろしてルームメイトを観察した。
「…とうまぁ…。ん…」
(…毎日毎日よく飽きませんこと)ハァ
冷めた眼差しでモニター越しにルームメイトを見つめながら、常盤台中学の制服に身を包んだ白井は小さくため息をついた。
「…お姉様。黒子は、もう、限界ですの」
「ん、ふふ…とぉまぁ」
幸せそうに微笑むルームメイトの前で、白井はそっとタッチパネルを押して携帯電話を収納すると、ポケットにそれを放り込んでから部屋の外へと続く扉へと歩いて行く。
「これもお姉様のため…。しいては黒子の幸せのため。黒子は鬼になりますの」
エントランスホールを通り寮の外へ出ると、白井は小さく息を吸い、次の瞬間にはその場から消えていた。
(口惜しいけれど、あの方のあの言葉を信じるしかありませんの)シュンッ
空間移動を繰り返し、しばらくしてから差し掛かったとある公園の自動販売機の横で立ち止まる。
「この時間でしたら、まだ間に合うと思いますけれども」ピピピッ
携帯電話を取り出して軽く操作し、自動販売機に軽く寄りかかる。
『もしもし』
「おはようございます。上条さん。常盤台の白井ですの」
『あー、御坂のルームメイトだっけ?風紀委員の』
「そうですの。朝早く申し訳ありませんが、お姉様のことでご相談したいことがありますの」
『御坂が何かヤバいことに顔を突っ込んでるのか?』
「ある意味ヤバいですわね」(主にわたくしの精神衛生上)
『変な事件に巻き込まれているとかではないんだな?』
「ええ。それは安心なさって結構ですの。ただ上条さんのお力が必要ですの。わたくしでは解決できませんの」
『わかった。どこに行けばいい?』
「とある公園でお待ちしておりますの」
―――――
「なっ!お前、これ…」///
早朝、白井黒子にとある公園に呼び出され、携帯電話に映し出される映像を見せられた上条当麻は絶句した。
「見てのとおりですの。あの時の約束、果たしていただけますわよね?上条当麻さん」
「いや、しかしこれ、ヤバいだろ、白井」
「なにがですの?」
「…これって、俺のことが好きってことだよな?」
「ええ、そうですの」
「いきなりそんなこと言われてもだな…」
視線を泳がせる上条を睥睨しながら、白井は言葉を続ける。
「『御坂美琴とその周りの世界を守る』とは、口から出まかせでございましたの?」
「いや、それは本心だけど」
「なら問題ありませんの」
「しかしなあ…」
「しかしもかかしもありませんの。約束、果たしていただきますの」
「…お前はそれでいいのか?」
「わたくしの幸せのため、ですの」
「…そうか」
「ええ」
上条は大きなため息を付くと、ぼそっと呟いた。
「御坂が目覚めたとき、上条さん、無事でいられる自信ないですよ」
「その右手があれば大丈夫ですの」
「なるべく離さないようにするしかないな。よし、じゃあ行くとしますかね」
「わたくしは一足先に行って、通路を確保しておきますの」シュンッ
そう言い残して瞬間移動で消えた白井の居たあたりに視線を置いたまま、上条は小さく呟いた。
「幸せのため、か」
―――――
「とうまぁ……ん」
常盤台中学学生寮208号室のベッドの中で、御坂美琴は頬を赤く染めて唇を少し前に突き出していた。
それをベッドサイドから覗き込んで、ベッドの中の少女と同じように頬を染めているツンツン頭の高校生、上条当麻は向かい側のベッドに腰掛けているツインテールの少女に話しかける。
「おいっ!ホントにやっちゃっていいのか?」
「男らしくいっちゃってくださいまし」
「あとでドロップキックとか鉄矢とか無しだぞ!」
「お望みならばいくらでも喰らわせて差し上げますの」
「いや、遠慮させていただきます」
「なら、さっさとやっちゃってくださいまし。肩に右手を置くのをお忘れなきよう」ピッ
「なに携帯構えてるんだテメエ」
「お姉さまの現実でのファーストキスを記録するだけですの」
「上条さんもファーストキスですよ!?」
「あら、おめでとうございますの」
「ちくしょう、覚えてやがれ…」
「忘れましたの」
「…おい、御坂…っと、んんっ、美琴」ユサユサ
ためらいがちに美琴の肩に手を置き、軽く揺さぶる。
「…んぅ?なぁに?」ムニャムニャ
「一回、目を開けてくれ、美琴」
「…ん。なんで目を開けなきゃいけないのよ」
「いいから」
「なによぉ?」パチパチ
「一応言っておきたくてな。…好きだぞ、美琴」
「わたしも、好き。当麻…」ウルウル
「…目、閉じて」
「…ん」チュッ
そっと唇を重ねると、次の瞬間には両手で頭を押さえられ、思いきり口腔内を蹂躙される。
「…ジュルッ、チュクッ、チュパッ……」
「んんんんっっ!!!!!」
「……さすがお姉様ですの」(情熱的な接吻ですの)
「ジュルッ…っんぅ」
「ぶはっ!!はぁっ、はぁっ…」(激しすぎですよ!?美琴さん!!)
銀色の糸を垂らしながら真っ赤になって目を見開いて美琴を見る上条。対照的に恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくりと目を開ける美琴。
「当麻…」
「お、おはよう?」
「おはよう………って、えええええええええっっ!!なんでアンタがここに居るのよ!!」///
「上条さん、右手を!!」
「お、おう!!落ち着け御坂!!」
「落ち着けるかあああああああっっ!!」パキーン
「ふう、間一髪」ギュッ
「抱き締められてるっ!!」///
右手で肩に触れた後、美琴が暴れるそぶりを見せたため、上条は咄嗟に美琴を抱きしめた。
「あー、なんつーか、よろしくな、みさ…んんっ、美琴」ギュッ
「ど、どういうことよっ!?」
「白井、撮ってたの見せてやれ」
「はいですの。上条さん、そのままお姉様をおさえていてくださいまし」ピッ
白井は携帯を操作すると、美琴の目の前に自らの携帯の画面を突き付けた。
「何なのよいったい………」
『なに携帯構えてるんだテメエ』
『お姉さまの現実でのファーストキスを記録するだけですの』
『上条さんもファーストキスですよ!?』
『あら、おめでとうございますの』
『ちくしょう、覚えてやがれ…』
『忘れましたの』
『…おい、御坂…っと、んんっ、美琴』
『…んぅ?なぁに?』
『一回、目を開けてくれ、美琴』
『…ん。なんで目を開けなきゃいけないのよ』
『いいから』
『なによぉ?』
『一応言っておきたくてな。…好きだぞ、美琴』
『わたしも、好き。当麻…』
『…目、閉じて』
『…ん』
『…ジュルッ、チュクッ、チュパッ……』
『んんんんっっ!!!!!』
自らの痴態を見せられて声も出せずに画面を凝視していたが、キスの段階で美琴の口から悲鳴が漏れた。
「いやああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「落ち着け御坂。その、やっちまったもんはしょうがねえだろ」
「でも、でも…」
「こんな形での告白になっちまったけどさ、俺、本当に御坂美琴のことが好きだから。だから、御坂、俺と付き合ってくれ」
「………うん。わたしもアンタが、上条当麻が好き。よろしくお願いします」
「御坂」
「いやっ、名前で呼んで」
「わかったよ、美琴」
「わたしも、当麻って呼んでいい?」
「ああ…」
「当麻…」
お互いを見つめ合い、そっと美琴が目を閉じる。それに吸い寄せられるかのように上条の顔が美琴へと近づいていく。
そんな二人に背を向けて、白井は能力を使って部屋から出る。
「今回は貸しにしておきますの。お姉様」
―――――
「えへへぇ…とうまぁ……ん」
常盤台中学学生寮208号室のベッドの中で、御坂美琴は頬を赤く染めて唇を少し前に突き出していた。
「………まさか悪化するとは。思いもよりませんでしたの」
がっくりと肩を落とし、白井黒子は輝きを失った瞳でルームメイトを眺める。
「……今日は、ましですわね」(酷いときは情事の内容を聞かされますの)
素早く制服に着替えると、白井はそそくさと部屋を後にする。それから廊下で、ぽつりと呟いた。
「はぁ。不幸ですの」