バカと愚者と答えの無いテスト   作:夢の鷹

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 今回初めて小説を投稿する「夢の鷹」です。至らぬ点が多々あると思いますが、なるたけ面白いものを書いていくよう頑張るので、よろしくお願いします。


あめのひ

 新学期、桜咲き乱れる歩道を曇天の空の下歩く。気分は言わずがもがなの青色。理由は来る途中ににわか雨にあったから、以上。……だったら良いのだが。

 「ついてないのか、ついているのか……」

 ブレザーはおろか、下着のトランクスまでぐっしゃり濡れた状態で坂道を上っていく。俺の名は紀伊國友康と言い、今日から--いや、正確には今年の春休みの時点で文月学園、二年生に進級した者だ。本来、新学期というのは、休み明けの友人や、これから出会うことになる人達との最初の交流会というべきものであり、めでたいものだ。そうあるべきだ。あって欲しい。まかり間違っても、偶発的にでも学校に遅れる事実に感謝するような事態など起きてはならない。いや、現に起きているのだが……

 なぜ、俺がここまで今日というこの日を、避け、忌避し、呪っているかは、丁度坂を上りきって直ぐの校門前に立つ、筋骨隆々の教師が語ってくれることだろう。

 「紀伊國!完全に遅刻だぞ!」

 地獄の坂上がり(*注・誤字にあらず。この学園は地代をケチりにケチって、校舎を利便性最悪な丘の上に置きやがった。シット)を終え、夏の猛暑時にこの苦行を行うという事実に気分を滅入らせていたところ、さらに地球温暖化を加速しそうな野太い声が耳に入った。

 「西村、教諭……」

 目の前にそびえるのは、比喩ではなく、文字通りの鉄人だった。

 「いや、俺は鉄製ではないぞ。あと、俺に対する考えも改めろ」

 「地の文に突っ込むとは……流石ですね、あと後半は思想の自由に反するのであしからず」

 西村宗一、通称「鉄人」。それがこの教師の通称だ。流石に鉄製ではないが、そんなバカげた比喩表現が真実味を帯びるほど、この教師はおかしい。いや、誤解を招かないように言うが、西村教諭は人として確実に人格者の部類に入る。所謂、熱血教師というやつだ。ただ、問題解決の手段が……

 「はあ……相変わらずだな、お前は。いや、感傷に浸っている暇はないな…」

 そう言うと挨拶もそこそこに、懐から茶色い、雨天の為か少し湿った封筒を取り出した。

 「受け取れ、その中にお前のクラス振り分けテストの結果が入っている」

 差し出された封筒を、俺は受け取るや否や鞄の奥底に押し込んだ。結果など、見なくても解っている。

 本来なら、この人の目の前ではあり得ない行為だが、そうでもしないとやりきれなかった。しかし、曇り空に似た俺の心情を察してくれたのか、西村教諭は何も言わず軽く頭を叩く程度に留めてくれた。

 「……すまなかったな。まさか、神崎どころかお前すら守れなかったとはな」

 「いや、心遣いだけでも嬉しいですよ。正直、あの状況で俺だけ他クラスに行っても屈辱しか残りませんでしたから」

 文月学園では第二学期終了時に1.2年生がクラス振り分けテストを受けることを義務付けている。クラスはA~Fまであり、文字が下がる毎にクラスのレベルが下がっていく。重要なのはここからで、この学園には平等という概念が忘れ去られて久しい。あるのは学力主義にもとるヒエラルキーだ。ありていに言えば、学力が高い生徒ほど、高いクラスに行き、高い設備を享受することが可能という事だ。聞くところによると、Aクラスは個人にノートパソコンが支給されるほか、空調管理のための機具すら各々に与えられるらしい。

 話を戻すが、このテストを受けなかった、若しくは途中退席した者は強制的に無得点扱いとなりFクラスに墜ちることが決定する。試験途中、俺は少しやらかしてしまい、職員会議の結果無得点扱いとなった。後は、先の説明通りFクラス行きと相成った訳だ。あの日は思い出すだけで腹立たしく、思わず天を仰ぐ。と、不意に空から光が降り注ぐように、ある友人の顔が浮かんだ。良くも悪くも愚直な友人の顔を……

 「そう言えば、明久はどうなりました?」

 振り分けテストで思い出したが、アイツも規則にギリギリ抵触しかねない行為をしてしまったはずだ。試験中に監督役の教師の制止を無視して、風邪で倒れた女子を保健室に運び込んだ、いや運び込んでしまったか。

 俺の質問に、しかし西村教諭はただ首を振るだけで応えた。

 「そう、でしたか」

 不思議と怒りが込み上げてくる。が、その怒りは行き場のないモノ。そんな事はとっくに知っているし、教えて貰った。この、目の前の先生から。

 「失礼しました」

 一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 「そろそろお暇します。一限目のホームクラスが遅刻ではなく、欠席になりかねませんから」

 それだけ告げると、俺は学校の敷居をまたいだ。

 「頑張れよ、紀伊國。俺では駄目だった……」

 背中から、そんな追い打ちにも似た激励が心臓を貫いた。

 そんな針のように体を貫く信頼から逃げるように、急いで下駄箱で靴を履き替え、誰もいない廊下を無音で走る。ああ、

 

 

「無理ですよ、西村先生……だって、こんなに足が震えて……ここまで来ることすら苦痛を伴うような愚者なんですよ」

 

 




 短いですが、切がいいので今回はここまでです。2話以降はテキスト量が増えるので、今回はご容赦下さい。何か問題点があれば教えて下さい。
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