取り返しの付かない状況へと陥ったセレナは
たまたま室内に入って来た看護師に見つけて貰って
窮地を脱する事が出来た。
「全く信じられません!怪我が少し良くなったからって一人で出歩こうと考えるなんて、もし…あなたを見付けるのが遅かったらどうなっていたと思うのですか?傷口が開いたりしたら再手術の可能性だってあるのですよ!」
「はい、すみません…」
メガネを掛けた中年女性の看護師にセレナは既に30分以上も説教されている。顔を俯き、説教が終わるのを待っていた。
つい先程、部屋に入って来た若い看護師に助けられて、ベッドの上まで戻して貰ったセレナは痛み止めの薬を貰って一安心したばかりであったが…婦長と思われる人物が鬼の様な形相で入って来てから、この有り様であった。
「良いですか?あなたは患者です、うちの先生に命を救われた恩もあるし…この様な勝手な行動は謹んで下さい」
「分かりました…」
「まあ…その位でいいでしょう、この子だって分かっていると思うので…」
「そうね」
腕を組んで、婦長は部屋を出て行く。少し間を開けて若い看護師がセレナに向かって言う。
「さて…と、そろそろ名前を聞いて置かないといけないけど…教えてくれる?」
「私はセレナと言います」
「セレナちゃんね、良い名前ね。私はカリンと言うわ宜しくね」
カリンと言う看護師は、紙に彼女の名前を書き込む。
「はい、宜しくです」
「お住まいはどちらかしら?」
「カロス地方のアサメタウンです」
「また随分遠くから来たのね…」
「はい…」
「こちらでのトレーナー登録等は済ませてあるの?」
「いえ…まだです…」
「そう…分かったわ、ところで…あなたが、うちの先生に助けられて今日まで、うちの医院にどの位入院しているか分かりますか?」
「イイエ…」
セレナは髪を横に振った、彼女自身知りたい情報の一つだった。
「実はセレナちゃん、あなたは一カ月もうちの医院に入院しているのよ」
それを聞いてセレナ愕然とした。ほんの数日と思われた日数の筈が一カ月も経過していた事に驚いた。
「そんなに時間が経っていたの⁉」
それ以上に一カ月経過しても怪我が完治しておらず、歩行さえままならない状態だと気付くと、自分は相当の怪我をしていたのだと改めて思わされる。
「先生の見解だと…早くても、あと半年は療養が必要と言っているわ」
「半年…」
それを聞いてセレナは深い溜め息を吐いた。
「あと…セレナちゃん、トレーナーパスポートは持っているかしら?あなたの身元確認をしなければならないけど…」
「はい、バッグの中に入ってます。中身が無事ならある筈です」
トレーナーパスポートとは、ポケモン図鑑と並んでポケモントレーナーにとって必需品の一つでもあった。
基本…ポケモン図鑑であらゆる認識登録や手続き行うのが一般であるが、トレーナーとしての登録にはトレーナーパスポートと呼ばれる認証が必要だった。
そのトレーナーパスポートを手に入れるには基本10才以上になった者で、基礎テストを合格した者のみに配布される事が義務付けられていた。近年、悪質なやり口でポケモンを密猟したり、売買の手口に利用する輩が多く増えて来た為、トレーナーとしての基礎テストを行う義務が各地方で実施されたのであった。
テストに合格しパスポートが手に入ればポケモン図鑑無しでも各地方のジム巡り、及びポケモンリーグへの出場権、それ以外の地域限定のコンテストやレース等にも出場出来るのであった。
セレナは10才になって直ぐに母サキに勉強を教えられて、テストに合格出来た。
ポケモン図鑑は、各地方限定に定められてしまう為、今回の様な場合はトレーナーパスポートで身分証を確認した上で手続きを行うのであった。
「実は…あなたのバッグ、キーロックが掛けられているのよね、だから…あなたの身元を確認する術が無くて、保護者等への連絡がまだ伝えていない状況なのよ」
それを聞いてセレナは事前に盗難防止にキーロックを掛けていた事を忘れていた。
セレナは自分のバッグを受け取ると貴重品がある部分に付けてあるキーロックの番号を合わせてキーを外す。カチャと鍵が外れる音がして中からトレーナーパスポートのカードを取り出した。
「ありがとう、先生にパスポートを届けてくるわね」
「はい」
カリンが室内から出て行くとセレナは手鏡をバッグから取り出して自分の顔を見つめた。
顔が無事であるのを確かめると、安心して息をつく。
ただ…額部分に包帯がしてあるのが少し気掛かりだった。
改めて自分の顔を見てセレナは、毎日自分お手入れしていた頃の顔とは少し違う様な感じがした。それは…つまり一カ月の間に、眠っている間でも身体が成長していて、気付かない間に、自分が大人へと近付いて来ていた事だった。
身体を見ると胸も少し膨らんでいた。髪も切った頃と比べると、少し伸びた感じがして、手で自分のクセッ毛の髪を撫でて整えた。
自分の髪を整える時、ふと…ポケモン達の毛並みもブラッシングさせなければ…と思って、バッグの中を覗くとモンスターボールが見つから無かった。
(あれ?何時もバッグの中にモンスターボールを入れてあったのに…まさか、崖から落ちた時に皆と逸れてしまったの?)
自分にとって心の支えである大切な仲間達がいない事に気付いたセレナは、胸が張り裂けそうに辛く悲しい想いが込み上げ、口元に手を当てながら涙を流し出す。
(どうしよう…私…)
「失礼、入るよ」
男性が病室の中へと入って来た。男性はセレナが泣いている姿を見て驚いた。
「どうしたの、何か悲しい事でもあったの?」
当初3話で終わらせる予定でしたが…
予想以上に話が間延びしてしまっています。
今週中に次の話を掲載する予定でいます。