ジョジョの奇妙な冒険 第5部外伝〜真実への探求〜   作:京都府南部民

31 / 38
第29話 伊仏直行便①

「失礼。当選番号を」

 

「20-15-18-9-14-15」

 

「……ふむ、確認しました。受け取りはあちらで行われます」

 

「ん」

 

堅苦しいのは苦手なようだ

喪服はすでに着崩されて、葬儀に来る者の態度ではない

教会のキリスト像の裏には似つかわしくないが、雰囲気を醸し出す階段があった

背徳とは言わないまでも、不信心だ

 

「……ゴシックだな」

 

ホル・ホースの博学ぶりは見事なもの

この前のテレビ番組でもそうだが、西部の見た目をタキシードに変えたほうが女性にモテると思うのだが……

そこはポリシーというやつか

 

 

この教会はある時、言葉は相応しくないかもしれないが経営不振という状態だった

地元の人間はそれを知ってか積極的にこの教会を利用してくれた

だが、それで賄えるような状況ではなかった

屋根の隅には蜘蛛の巣ができていたり、告解室の壁は汚れている

ひどいときはステンドグラスに変な靄のような何かが覆っているときも……

修理できないわけではないが、それには多額の費用が掛かる

更に言うなら、この教会が建てられたのは今から400年前。選ぶ相手も限られ、当時の建築技術を純粋に受け継いでいる大工はヨーロッパでも極少数

これ以上はダメかと神父が考えているときに手を差し伸べたのがパッショーネ

費用は全て工面し、あろうことか政府からの補償まで取り付けた

裏の荒れ地を墓場として拓き、図書館も小規模ながら設けた

そしてもう一つ……この地下聖堂である

ここではパッショーネ主催のイベントを主な目的として使用されている

聖職者である神父もこれには頭を抱えたが、費用を負担してくれた手前大きく抗議することはできなかった

パッショーネ側も変ないざこざは起こしたくないらしく、この聖堂を使用するのは極力控えており、身内での闇競売や幹部の葬式ぐらいにしかここを使うことはない

 

「…………」

 

「こりゃまた…すごい数だ」

 

目の前に広がる喪服の男たちは、イタリア各業界のトップクラスの人間ばかり

宝石商としてではなく、ギャングとして付き合ってきた者たちだ

ステージ下手側にいる司会にスポットライトが当てられる

 

『皆さん、ご多忙の中お集まりいただき誠にありがとうございます』

 

「ご多忙?」

 

「すんごい暇でした」

 

『それではこれより……ヌンツィオ・ペリーコロ氏の葬儀を執り行います』

 

緞帳が上がると、ステージには宝石が一つ

パパラチア・サファイア 36.7カラット

マダガスカルで大量産出されたものではなく、銘地スリランカで得られたものだ

保証書もついている

 

『では、まず遺産の分配から!産地スリランカ、パパラチア・サファイア。価格は50万から!』

 

―62万!―

 

―まだ、買うときじゃないなー

 

―フェルメールは……3個目かー

 

「なるほど……葬儀の名目で遺産の競売か」

 

「一応は合法だぜ。ニュースで聞いたが、ペリーコロさんの遺産は何割かを博物館や知り合いの宝石商に譲るって形になったそうだ。尤も、その宝石商・博物館を経由してこの競場にあるって寸法だが…」

 

「怖いねぇ……ルーブルも押さえてんのか?」

 

「フレンチにまで手を伸ばそうとは思わねぇよ」

 

パッショーネはあくまでイタリアのギャング

それに現在内乱とも言える状態で他所に首を突っ込むのは非常に危険だ

他にも、敵対ギャングの残党や、最近台頭の兆しを見せ始めているロシア系ファミリーの存在も忘れてはならない

 

「んで、お目当ての品は?」

 

『では次!古くは中国、宋の第2代皇帝太宗の書簡!お値段は89万から!』

 

「品じゃない、人って言った方が良いな」

 

「人身売買か……人道上の云々を疑うぞ」

 

「反社会的な人間に人道を説かれてもねぇ……待ち合わせだよ」

 

噂をすればなんとやら

2名の黒服がボニートの前に立った

 

「ボニート・E・ゼルビーニ様でございますね」

 

「ご明察」

 

「では、私達の後に続いてください。…お連れの方は?」

 

「気にしなくていいよ、ちょっとここの品揃えを見てみたいからな」

 

「そうか、じゃあこれ使ってくれ」

 

ポケットから出てきたのは紙切れ1枚

いや、ただの紙切れと思うなかれ

中央に輝く数字は250万ユーロ

円換算3億5000万相当の価値だ

 

「報酬とは別個だよな?」

 

「どうせだからパーッと使い切れよ」

 

「お大尽!良いこと言ってくれる」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

特別室には車いすに座った一人の老人

その周りには、側近とみられる者たちが囲むように立ちふさがっている

 

「ボニート君……か」

 

「お久しぶりです。Mr.ピエモンテ」

 

Mr.ピエモンテ

ヨーロッパで行われる主要な闇競売には必ず現れるという、その道の大御所だ

パッショーネの所属でもなく、どの組織にも属さず、しかしその存在は認められている。数々の競売イベントを主催・プロデュースしてきた手腕が見事なものだからだろう

対立が無かったと言えば嘘だ

ある仏画を巡って、死者38人の事件を引き起こした事があるほどに

双方ともこれ以上争うと警察からの監視がきつくなると判断し、一応の和解はしたそうだ

それ以降は、比較的良好な関係を保っている?という具合(あくまで比較的)

御年82歳、しかし驚くことに56歳年下のウェイトレスと結婚するなど、老体に見合わぬ精力ぶりを見せている

 

「ポルポは死んだそうな……いやぁ、良いことだ。奴には特に思いがあってなぁ」

 

「同じく」

 

「カーハッハッ!小僧が偉そうに」

 

この人物はどうも苦手だ

ポルポと同じニオイがする

自分は動かないくせに、動いている奴以上に仕事ができる性質だ

 

「ペリーコロもこのザマ。良い良い、社会はこうして秩序を取り戻すべきなのだ。そして、いずれは君や君のボスもね」

 

「生憎とご老体のぼやきを聞くために、ここに来たわけじゃないんですが…」

 

「覚えておきたまえ、老体のぼやきは大統領の演説より価値があるぞ。……色々と稼業をやってきたが、全部足せば5000万ユーロはある。そう、私のそれは5000万ユーロなのだ」

 

「羨ましいものですな、精々250万の自分も学びたいものです」

 

「受講料は5000万ユーロだぞ」

 

「ミスター、そろそろ出なければ奥方との食事に…」

 

「そんな時間か……では、行かなければな」

 

パチン!

ピエモンテの指が鳴ると同時に、側近の1人がボニートに1冊のファイルを渡した

 

「君の目当ての品だ。代金はこちらから受け取っておこう」

 

「助かります」

 

 

 

―――――

 

『それではぁ~…その名はワイルド・ビル!保安官ヒコックが被ったといわれる帽子!DNA証明書付き!ですが、ちょっと痛んでおりますので……10万から』

 

―15万!-

 

―いや、18万…18万5000!-

 

「ヒコック!250万!おーい、ここに250万があるぞー!」

 

「…確かに、250万。ファイル代きっちりと受け取りました」

 

「えっ?」

 

握りしめていたはずの小切手が、するりと手から離れた

 

「ちょ、ちょっと。俺の250万、返せー!ドロボー!」

 

 

 

―――――

 

 

「そうだ、まだ言いたいことがあった」

 

「?」

 

ピエモンテが車に乗りかけたところで、ボニートに振り返った

側近から早く乗るよう催促されるが、鼻で笑い拒絶する

 

「社会の秩序の回復…それはどうでもいいが、現にこうしてポルポもペリーコロも死んだわけだ」

 

「……ご冥福を」

 

「思わないことは口にしない方が良い。だが、それはね?私達にも言えることだと思う」

 

ピエモンテの脳裏にはある風景が描かれていた

走馬灯とも言えるような、自分の半生を描いたものだ

肉屋での下働き、ショバ代を巡り闇社会に足を踏み入れ、時にはファシスト党と争うこともあった

 

「覚悟しておきたまえよ、ボニート君。我々のような…良くない人間はね、生き死にを繰り返すだけの、それだけのものだ。あまり詳しくないが半永久的なものだ」

 

「半永久……」

 

「うん、半永久にね。ペリーコロやポルポが死んでも代わりの奴ができるんだ。君も私も、それこそ君のボスも」

 

「ピエモンテ、もうこれ以上は…」

 

「分かったよ、面白味のない奴だ」

 

車に乗り込むが窓は開け、にやけ面をボニートに見せつける

嫌な顔だ。悪魔というには優しすぎ、天使というにはキツすぎるその笑顔

 

「最後に、今の時代我々のような人間はもう本業で死ぬことはない。カポネやルチアーノは別格だが、我々はもう無理だ……ペリーコロはそれを分かっていたんだろうね。今やメディアは宝石商として彼を扱っている」

 

「ピエモンテ、だったらあなたは何なんだ?パッショーネの中にはあなたを尊敬する奴だっているんですよ」

 

ボニートは苦手な人物ではあるがピエモンテを尊敬していた

どこの組織にも属さず、たった1人でイタリアの闇にその存在を示した男は後にも先にも彼だけだと信じている

敵対していたとはいえ、そうピエモンテはたった1人で立ち向った

誰も頼りにせず、側近たちを別の国に避難させた上で『パッショーネ』と戦いを繰り広げた

 

「嬉しいね、若者にそう言われると。この薄汚い82年もやりがいがあったということだ」

 

「ピエモンテ……」

 

「だが、嫌な時代だ。ギャングはギャングとして死ぬことが許されないんだから……!」

 

車の急発進にボニートは反応できなかった

いや、反応しなかったというのが正しい

「ギャングがギャングとして死ねない」

大御所が抱え持つ葛藤にボニートは共感した

ピエモンテ自身は裏の人間であるがギャングではない

それどころか、ギャングと対峙する職業だ

 

「(ピエモンテ……もう、あなたとは会えんのだろうな)」

 

「(だが、色々学ばせてもらったぜ)」

 

ファイルの中から1枚の紙が飛び出す

今日の風はやけに強い

 

「(目指すはフランス……そこに奴がいる!)」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

暫定成立名簿

 

ルッチア・パルド氏 ベルリンの壁の破片 38万ユーロで落札 

アレクシア・アモロス夫人 タトラt97 400万ユーロで後払い  

ミスター・モンコ氏 チャイコフスキーの手紙 137万ユーロで落札 

アンドレイ・ブルシアーノ氏 ナポレオン肖像画 200万ユーロで落札 

………………………………………………

カルロ・アバーテ氏 ロッキード・コンステレーション 3000万ユーロで落札 

 







誤字・脱字、おかしな表現がありましたら感想にてお願いします

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。