「ねえねえ、今日は何して遊ぼっか?」
古びた洋館に少女の声が響く。朝食を終えた少女は伸びをし、リビングから出る。
「たまにはお外にお散歩でも行く? パパ、ママ!」
彼女の呼びかけに答えるものはいない。洋館には少女以外の人の気配はなく、その声は虚空に吸い込まれていった。
しかしながら、少女には聞こえる言葉があった。それに少女は年相応の笑顔を浮かべ、喜びの声を上げる。
「じゃあ決まりね! やった~!」
ぴょんと飛び跳ねると、少女は出かける支度をし始める。
「えへへ、お散歩楽しみ!」
そう言いながら、支度を終えた少女はお気に入りのぬいぐるみを手に取り玄関へと向かう。そこで思いついたように少女は声を上げる。
「そうだ! もっと大勢の方がお出かけ楽しいよね?」
誰かに求めた同意は少女にだけ聞こえる回答によって得ることができたのだろう。少女は一人、満足げに頷いた。
「お散歩しながら、お友達作ろ! ルナは別に、パパとママがいれば十分だけど……でも、もっと賑やかな方がパパとママも楽しいでしょ?」
そう問いかけると、何かしらの返事を聞きとったのか、満足げな笑みを浮かべ少女は扉の前まで歩を進める。
「じゃ、出発っ!」
扉を明け放ち、少女は外へ出る。その小さな背中を絵画に描かれた若い夫婦は見送るのだった。
少女は楽しげに歩く。その足取りは弾むようなもので枯れ木が立ち並ぶこの森に不釣り合いなものであった。
「ん? 誰かいる?」
突然あたりを見回し始める少女。薄暗い森の中の視界はあまりに良くなく、少女には自分以外の存在を視認することができなかった。
「こっちに誰かいるの? ほんとに?」
そう誰かに尋ねた少女だったが、少しすると不安そうな表情を一転させ、満面の笑みを浮かべた。
「えへへっ、思わないよ~! じゃあさ、その人をお友達にしよっか!」
少女の中に何らかの根拠が生まれたようで、迷うことなく歩き始めた。
「でも、ルナ、仲良くなれるかな……」
少女は不安げに呟く。それはどこか緊張しているようにも見えるのだが、
「お友達作るのって、ちょっとドキドキしちゃうよね」
「ほんとだ! いたいた~! さすがママ!」
そんな少女の視線の先にはどうやら森に迷い込んでしまったようで、きょろきょろと辺りを見回す青年の姿があった。
「えへへっ! 分かってるよ! ルナのママは世界一だもん!」
少女は嬉しそうに青年の元へと駈け出した。
「ねえねえ……お兄さん、ルナと一緒にお散歩しようよ」
「えっ?」
突然少女に声をかけられて驚いた様子の青年であったが、不気味な森でようやく人に会えたことに安心したようで、穏やかな表情で少女の方を向いた。
「えっと、こんにちは、お嬢さん。あの町ってどっちに行けばいいか分かるかな?」
そう青年に尋ねられると、ルナは首を傾げ、少し考えるように唸る。しかし、少女は青年の問いに答えられなかった。
「ルナ、ちょっと分かんない」
「そっか……」
少女が知らなかったことに少し残念そうな顔をする青年であったが、思い出したように少女の方を見て、彼女が一人であることに気づく。
「えっと、君は一人なの?」
「? 一人じゃないよ。パパとママも一緒だよ」
少女の言葉に青年は辺りを見回すもそれらしき人物は認められなかった。
「そんなことより、ルナと一緒にお散歩しようよ」
「いや、僕は帰らないといけないから」
青年が断ると、少女は悲しそうな表情を浮かべ俯き加減に問いかける。
「ルナのお友達になってくれないの?」
そう問いかけられて、青年の中で何か結論が出る。この子の両親は忙しいのか何なのか、あまりこの子に構ってあげられず、この子はその寂しさを紛らわすために自分の頭の中に両親を創ってしまった可哀想な子なのだと。
あながち間違ってもいない結論を出してしまった青年は同情の念を抱き、少女を無下にすることができなくなってしまった。
「いや、なろう。ルナちゃん、僕は君の友達だよ!」
そう言い切る青年に少女は心底嬉しそうな顔をする。
「やった~! パパ、ママ、このお兄さんがお友達になってくれるんだって!」
そんな風に喜ぶ少女を見ていると、なんだか青年の方も嬉しくなってしまったようで、口角が上がるのを抑えられないのか、微笑みを浮かべ少女を見ていた。
「ずっと一緒に居たい人って、なかなか見つからないと思ってた。でもね、ルナ、お兄さんとは一緒に居たいって思うの!」
跳ねるような声色から少女がとても喜んでいるのだとわかった。
「そうか。それは良かったよ」
少女の心からの言葉を受け止め、青年は恥ずかしそうに頭を掻く。しかし、ふと合わせた少女の目から、只ならぬ冷たい感情を受け取ってしまうと、その頬の火照りは一気に冷めた。
少女は笑顔だ。しかし、それは先ほどの純真な少女の年相応に浮かべられたものではなく、ネクロマンサーとしての彼女の本懐を成すための狂気が張り付けた笑顔だった。
「だから、お兄さんのこと……殺すね!」
「……え?」
青年は驚きのあまり間の抜けた声を出す。それもそのはずだ。この状況で少女の口から紡がれる言葉にしては物騒すぎる上に、明確な殺意を向けられた経験など一度たりともないのだから。
「どうして、僕を殺すんだい?」
「だって」
何故そんな当たり前のことを聞くのかと困り顔になる少女。
「死なないと一緒に居られないんだよ?」
その言葉に青年は少女の狂気の根源を垣間見た。そして同時に、少女の両親がどうなったのかを悟ったのだ。
「パパとママは死んじゃったから、ルナとずっと一緒にいてくれるの」
そう語る少女の張り付いた笑顔に青年は恐怖心を押し殺して向き合おうと思った。
だが、少女と向き合うということはつまり自分の死と向き合うということ。どういう説得を試みたところで、今の少女と付き合うには死は避けられない。
「だから、ルナのお友達になってくれる?」
故に、青年は死を受け入れるのだ。
「……うん。分かった。僕は君のお友達になる」
「ほんと? じゃあ、ころ……」
「けれど、待ってほしい」
少女が青年に手をかけようとするのを青年は精一杯の虚勢で静止する。
「なに、お兄さん。ルナ、早くお友達になりたいんだけど」
少女は青年の静止に従う。少女にとっては多少待ったところで結果は変わらない。それに少女は青年のことが好きなのだ。青年の言葉を無視する気はさらさらなかった。
「お友達にはなる。だけど、死に方は選ばせてほしいんだ」
青年がそう言うと、少女は年相応の表情に戻り、少しの間思案する。その結果、青年がどんな死に方を選んだとしても、少女の友達になるという結果が変わらないことに気が付き、笑顔で青年に返事をする。
「うん。いいよっ! お兄さん、どんな死に方がいいの?」
そう少女が尋ねると、青年はほっと胸を撫で下ろした後に、少女の問いに答えた。
1 ルナちゃんに看取られて老衰がいいな
2 テクノブレイクで死なせて!
「老衰?」
青年の提案に少女は首を傾げる。少女が期待していた答えはもっと直接的な死因の選択であった。しかし、青年の答えはどうにも抽象的で、少女はピンとこなかった様子である。
「老衰って言うのはね、年老いて体が弱っていった末に死ぬことだよ」
そう青年が説明すると、少女は理解したようで青年の顔をまじまじと見つめた。それは青年の歳を確認するためであったが、どう見ても若い青年が老衰で死ぬなんて少女には思えなかった。
「お兄さん、死んでくれないの?」
「いや、ちゃんと死ぬさ」
今すぐにじゃないけど、と言う注釈を心の中で青年は付け足した。しかし、少女はそれで納得するわけもなく、先ほどのように冷たい表情を浮かべ始めた。
「今すぐ死んでくれないと、一緒にお散歩できないよ? お兄さん、ルナと一緒にいてくれないの?」
今すぐにでも青年を殺さんとする少女をなんとか青年は思いとどまらせようとする。
「待って、僕はどこにも行かないよ」
その言葉に少女の心は動かされない。少女の消えぬ殺気に、青年は精一杯の言葉をぶつける。
「ただ、ベッドの上でルナちゃんに手を握られて、その上で生命力を吸い取られてアンデッドになってそれから君とお散歩したいだけなんだ!」
「すごい具体的でルナ、ちょっと怖いよ」
青年の熱弁に少し引き気味の少女であったが、死んでくれるというのであれば文句はないので少女は青年の提案をのむことにする。
「ルナちゃんの家って近い?」
「うん。森の奥にルナのお屋敷があるよ!」
少女は指を差し、自分の家の方向を伝える。お屋敷という言葉に青年は「ほう」と感嘆の声を上げる。死ぬにあたって広い部屋の中の小さなベッドという儚さを演出する空間を期待し、青年は楽しみになるのだった。
「いいね、それ。もちろん、ベッドに天蓋はついてるんだよね?」
「ルナのお部屋のベッドはついてるよ」
「よし。じゃあ、ルナちゃんのベッドで死のう」
青年は少女の手を取り、先ほど示された方向へと歩き出した。
その時、少女は自分の手に触れた青年の手の温もりを感じ取った。それは少女が今まで求めていたものだったのだが少女は気づかず、胸のざわつきに不思議そうに首を傾げた。
少女は手を握る青年の方を見上げ、思い出したように問いを投げかける。
「お兄さん、なんていうの?」
そう問われて、青年は少女を見つめて声高らかに宣言する。
「僕は供物、万魔の供物さ!」
こうして歪んだ少女と、歪んだ青年の共同生活が始まったのだ。
過酷あふれる世界でネクロはどうにも勝てないのです
そんな中で唯一の救いはリーダーが可愛いということでしょう
私はネクロ一筋で、いつもハゲに悪行を咎められています
新弾のネフティスは楽しそうなデザインで大好きなので、新弾楽しみですね(白目
ちなみに供物さんの名前はヘルズリリーサーと言います
選択肢で2を選んだあなた!
某吸血鬼「素晴らしい!」
たぶんR18版が書かれると思います