皇国の魔法と少女たち――或いはとある人殺し   作:蟹ノ鋏

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試しにオリジナルを書いてみた。
続くかどうかは反響と暇次第。

ゆっくり書くのであしからず。
ヒロインも何もかも未定。
ほのぼのを目指して頑張りたかった。


01 ニビイロナイフ

 深く雪積もるトウ皇国には上流階級の者たちの間にまことしやかに囁かれる噂があった。

 

 そのキーワードは

 

『04』

 

 曰く陛下の直轄である秘密部隊。

 曰く騎士団の暗部。

 曰く諜報部隊の闇。

 曰く国家管理の暗殺集団。

 

 謂れは様々だが分かっていることは最近皇都で立て続け発見される華族の殺人死体が多いこと。そしてその殺人にどうやら『04』と呼ばれる組織或いは個人が関わっているのではないかと噂されていることだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 皇国の冬はとにかく雪がよく降る。それこそ都市機能が麻痺するほどに降り積もる。毎年のことで慣れているにしても皇国に住む人々は冬の間はほとんど何も出来ない。家が潰れないように屋根の雪を降ろし、偶に地下街へと生活用品を買いに行く程度だ。 

 しかしながら、そんな道という道が雪で埋もれ、人の背丈を超える雪の壁が出来上がる街道と言えない雪道を止むことのない雪の中黙々と歩き続ける者もいる。

 宮中勤めのものである。

 いくら積雪で人の往来がなくなろうと、流通が滞ろうと、国家運営を休めるわけにはいかない。国民たちはやることがほとんど無くなるが国に勤めている者たちの仕事はむしろ増える。

 トウ皇国特有の番傘と呼ばれる和傘をさし、丈の長い黒のコートに鼠色のマフラーを巻いて静かに歩き続ける彼もまた国に仕えている役人だった。

 細身で170cmを少し超えた程度の体躯は傍目から見ると華奢で大人しそうな印象を与える。

 顔つきも幼く少年のように見られる彼は実際まだ十七で、本来学業に打ち込んでいるような歳なのだが、才能を見込まれ軍学校のとき国からスカウトを受け引き抜かれた。

 

「おはようございます」

 

 そんな若者に声をかけるのは軍用コートに見を包んだ衛兵で、厚手の手袋で紺の番傘を握っていた。

 侍所。

 昔はそう呼ばれていたが国際的に進出していく折に軍事署と改名した読んで字のごとく軍の詰め所である。

 武士団と呼ばれていた軍隊は騎士団と改名され、問注所と呼ばれていた判決所は裁判所と改名される時代である。

 軍事所の正門の前に立つその衛兵は若者より少し年上だ。しかしそれでも敬礼されて挨拶を若者に送るところを見るに階級はどうやら若者のほうが上のようだ。

 

「待たせましたか?」

 

「いえ、定刻通りです。何も問題ありません」

 

「申し訳ありません。もう少し早めに出るべきでしたね」

 

「お気遣いなく、仕事ですので」

 

 お互い初対面ではないが腰が低いのはどちらも温和な人柄だからだろう。武人らしさ軍人らしさは感じられない二人である。

 前途有望な少年と柔和な好青年。

 そう見られるような二人だった。

 

「俺を待っていたということは」

 

「本日も特務が入っております」

 

 そう言って、衛兵が取り出したのは一通の手紙だった。封もされず何も書かれていない。

 この衛兵は小一時間この手紙を渡すためだけに待っていたのだとすると若者は気が引けた。同時に軍は面倒なものだと思った。

 

「昨日、報告書提出したばかりですよね?」

 

「新しい任務ということです」

 

「この頃多いですね」

 

 ため息をつく若者だが、いくら連日のように働けど指令を受ければ従う他ない。社畜とはこういうものかと実感する。

 

 とある大臣が罷免されてからこういったごたごたが続いていることは若者も気づいている。宮中は不安定なのだろう。仕事が増えるのは道理である。だが何もこんな真冬に事を起こさなくてもいいのではと思わずにいられない。無駄な思考だが。

 

「タイムカード押しといてもらえます?」

 

「ちゃんと出張札が掛けてありますよ。手当も出ます」

 

 そう聞いて若者は安心する。前は有給を溶かされた。更にその前は無断欠席扱いだ。横暴だと言ってもどうにもならない。

 

「……それでは行ってきます」

 

「ご武運を」

 

 騎士団らしい敬礼。

 ご武運とは理解していっているのだから、皮肉めいている。送り出す言葉には適しているのだろう。

 

 ほう、何気なく吐いた息は雪景色に埋もれるほど白くほんのりと宙に漂う。

 

 空は鉛のように灰色だった。

 

 

 

 

 

 

 ストーブに幾つか薪をいれ仕事用の机でせっせと書類を処理するこの書斎の主である男は身分の低い華族であった。

 老け顔だがまだまだ若造で年は四十を過ぎてない。白髪混じりの頭髪を小綺麗にまとめ、口元の髭を形良く整えるその姿はトウ皇国の政治家によく見られる姿でもある。

 彼は華族だかその特権に浸ることなく一端の役人として国仕えしていた。ほんの一週間前まで。

 とある大臣の失脚が彼の得ていた役職を奪い、この冬の間は他の役人の用に宮中に出仕することなく一連の事件の後始末に追われている。

 この雪の中外を出歩く事がなくなったのは喜ばしいことだが、名声と安くない給料を失ったのは痛手である。

 雪の中出仕するのはトウ皇国では尊敬の念を抱かれるようなステータスである。それでいて冬の間の給料は他の職に比べかなり多い。それが役人が人気のある理由であった。

 ただ男が今回の件で失ったものは痛手ではあるが微々たるもので、お家取り潰しとなった他の華族に比べれば大したことではなかった。

 彼が頭を悩ませているのは職を失ったことではなく事件の後始末についてであった。

 簡単な話を言えば彼は信頼を損ねた。

 その回復のためにコネクションのある様々な人へ手紙を片っ端から送っているような状況である。

 

 一通の手紙を認め終わったあと、男は万年筆を置き一息ついた。

 もう廿を超えるような枚数を書き付けているが、少なくとも今日中にはあと三十以上の手紙を書かなければならない。

 なかなか終わりの来ない作業に男は精神を大きく摩耗する。

 思わず手を止めたくなるのも納得であった。

 

 トサっと屋根の雪が落ちたような音が聞こえる。

 その音を聞いて男は今日は雪下ろしをしていないことに気づく。

 家の女中に任せてもいいが割と力仕事となるため任せると時間がかかるため椅子から腰を上げた。

 

「――お疲れ様です。ファウト男爵」

 

 唐突にかけられた声は酷く無機質な淡々とした声だった。

 

「――ッ!!」

 

 咄嗟に振り向いた男爵の目に映るのは小柄な人影と、小さくも分かり易い人間の殺意を象ったような鉄塊――すなわち銃。吸い込まれるように暗く深い銃口はその標準を男爵の額に向いているのは嫌でもわかった。

 言葉を交わすまでもなく何が起きているのかを男爵は悟る。

 目は口ほどに物を言うが突きつけられた銃口の意味がわからないものなどいない。もしわからぬのならそれは戦争など知らないような平和ボケした人間か、ただの阿呆だけ。そしてこの男爵――ファウト・フォン・クローラーはそのどちらでもない。

 

「お、お前は、何者だ!!」

 

 ファウトも数年前までは戦場で指揮を採るような軍人であったが、功績を認められ華族と成って以来銃口を突きつけられることなど一度もなかった。

 動揺したのは、しかしながらその人影に全く気が付かなかったことにある。書斎の入り口は一つしかない開かれれば気がつく。では気が付かなかったということは――。

 チラリと見た窓は閉まっている。ただ、ほんの僅かに窓にへばりついていた雪が落ちた跡がある。

 

「『04』。――そう呼ばれている、ただの人殺しさ」

 

 『04』、そのフレーズをファウトは聞いたことがあった。巷を騒がせている華族を中心に起こった一連の殺人事件。一月で十数人が死んだあるいは行方不明となっているその事件、常に噂されるのは『04』という結社か一人個人か。わけの分からぬ正体不明の存在。

 嘘か真か。

 そんなことは今の状況にはどうでもいいことだった。

 

 人殺し、つまりは目の前にいるコイツが敵だと分かれば、いくら戦場から離れて久しいとは言っても軍人だったファウトには十分だった。

 

 行動は迅速に。

 体に染み付いた動きは数年の年月では忘れられない。

 戦う必要はない。

 書斎の脱出経路は一つのみ。

 入り口に近いのはファウトで窓近くにその敵はいる。

 思いつくのは一つの詠唱。

 ファウトは魔術師ではないが軍学校で教えられる初等魔術はすべて扱える。

 障壁。

 結界系統の基礎の基礎。

 一面のみの魔術の壁を作る。

 強度はせいぜい小銃の弾を数発防ぐ程度だがほぼ一瞬で展開できる速効性がある。

 書斎に敵と自分とを別ける仕切りを作るのは容易い。

 軽く百は唱えたその魔術を銃撃よりも早く展開するのは朝飯前。

 

「【ウォ――」

 

 足を動かすと同時に一言詠唱(ワンワード)を口走るファウトの行動は―― 

 

(【カラスウリ】だとっ!!)

 

 足元に転がされた卵より一回り大きい楕円の物体――手榴弾によって変更を余儀なくされる。

 こんな密閉空間で手榴弾を喰らえばひとたまりもない。

 咄嗟の判断で手榴弾と自身の間に障壁を展開する。

 策は狂い、書斎を仕切るような壁は作れなかったが、迂回するために数秒の時間を要するはず。

 銃声が響き、ガラスを割るような障壁に弾が阻まれる音がする。

 結果を見る暇などなく、背を向けて入り口へ転がり込むように駆ける。

 扉を開け、自らを加速させる魔術を発動させれば――

 

 と、扉を勢いよく開いた先には、

 

 

 彼が愛してやまない、

 

 

 妻だった物が置かれていた。

 

「ま、マーレ……」

 

 寝ているような安らかな顔だった。

 切り裂かれた首の傷と血溜まりを作る流血がなければ。

 一つの命の終わりを明白に示している。

 

 

 そこで、思わず、ファウトは、動きを止めた。

 仕方なかった。

 止まらざるを得なかった。

 一秒もない間であった。

 

 その一秒でファウトの喉から、鈍く光るナイフが生えた。

 

 声は出ない。

 代わりに喉から血が溢れ出る。

 

 突き刺さったナイフはそのまま横に動いて首を掻っ切る。

 

 血が飛ぶ。

 

 数秒して、ファウトだった物の膝が崩れる。

 

 ガクンと、そのまま力なく倒れていく。

 

 

「魔術は厄介だが欠点も多い。連続で同じ系統の魔術を使うと干渉し消滅するし、何よりも術者の精神的な影響をモロに受ける。――ショックを受ければ、発動すら困難になる」

 

 その人影は、ナイフの二度三度振るい、血糊を落とす。

 ナイフの柄にはトウ皇国の紋章である三脚の鴉が刻まれている。

 

「ただの役人だったら、誰もあなたを気にしませんでしたけど、商売に――武器の密輸なんかに関わっていれば、目をつけられるのは道理だ」

 

 黒髪黒目。

 鼠色のマフラー。

 黒いコート。

 何よりも生気を感じさせないような凍える雰囲気。

 

「いずれにせよ、とんだ災難でしたね。来世では頑張って下さい」

 

 人殺し、04。

 国の依頼をこなす、諜報部隊で軍の暗部で国家のひいては陛下の直属。

 誰も知らない秘密部隊。

 その一人の彼は、04と呼ばれている。

 

「……さて、帰るか」

 

 明日は有給をもらって休むとしよう、そう考える彼の目の前。

 廊下の奥の部屋の扉が開く。

 

「お兄ちゃん、だれ?」

 

 現れたのは幼い少女。

 何も知らない無垢な少女。

 

「俺は、

 

 

 

 

     

 

 

 

 ――人殺しさ」

 

 ニコリともせず淡々とした告げる彼は、ゆっくりと少女に近寄りながら鈍色に輝くナイフを構える。

 

 

 トウ皇国の雪は気がつけば止んでいた。

 今日の夜は久方ぶりの晴天である。




読者の皆さんの反応で続きは考えます。
もう一つに作品の合間に書いているので更新は遅め。
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