最強のキャスター呼んだら最強の人形師がやって来た 作:雪希絵
なんとか立ち直りかけてはいるので、投稿頑張ります
それでは、ごゆっくりどうぞ
「ランサーが……死んだ……!?」
キャスターから告げられた衝撃の事実に、俺は手にしていた紅茶を落としてしまった。
幸いカップは割れなかったが、紅茶が床にぶちまけられた。
「……本当のことよ。今回収した使い魔から聞いたことだもの」
「そうっスよ!自分が嘘つくわけないじゃないっスか!旦那!」
そう騒がしく言うのは、一匹のでっぷりと太った青色の駒鳥。
プロイキッシャー、『ロスト・ロビン・ロンド』。
古参のプロイらしく、相当前から久遠寺の家に仕えているそうだ。
「この駄鳥のことはさておき、」
「ちょ、酷いっす、マイ天使アリス様!」
「他の偵察用プロイが見たようね。ついでにそこの駄鳥も」
「じ、自分はついでっスか……」
相変わらず無表情に、キャスターは続ける。
ちなみに、ロビンのことは完全に無視らしい。
「昨日の夜、ランサーが戦闘をしていたらしいは。場所は都市部側の港。その戦闘の結果……ランサーは敗北したらしいわ」
「嘘だろ……?あのランサーが……カルナが……?」
思い出すのは、廃工場での戦闘。
すまない、と言って望まぬ宝具を使ったランサー。
あの時の表情が、何故か頭に浮かんだ。
「……マスター?」
「ああ、いや、大丈夫だ……」
頭を振って考えるのを止める。
ランサーはたしかに伝承通りの、いや伝承以上の素晴らしい人格者だった。
けれど、そのランサーはもういない。
今あるのは、そのランサーを超える桁違いの英雄がいるということだ。
「……キャスター。ランサーと戦っていたサーヴァントについて、何か分かってることはあるか?」
「それなら自分が覚えてるっスよ!旦那!」
「駄鳥のあなたにしては珍しいわね」
「き、キャスター……そう言ってやるなって。というかロビン、その『旦那』ってのやめないか?」
「マイ天使アリス嬢のマスターなら、自分にとってもマスター!なら旦那で間違ってないっス!」
「あ、そう……」
どうやら変える気はないらしい。
微妙に恥ずかしいというかこそばゆいんだがな……。
「で、どんなサーヴァントだったんだ?」
「あー、ハイハイ。その事っスね。えーっとっスねぇ……」
そう言い、ロビンは深く考え込む。
いつの間にか青子さんも隣にやって来て、話を待っている。
母さんと香は零れた紅茶を片付けてくれた。
任せてしまって申し訳ない……。
しばらくして、ロビンはハッとしたような顔をして、
「……デカかったっス!!!」
と大声で叫んだ。
「……そりゃ、お前から見たらだいたいのサーヴァントはでかいだろうな」
「……相変わらず鳥頭は変わんないわね、あんた」
俺と青子さんはため息をつき、キャスターは絶対零度の瞳でロビンを睨んでいる。
「ま、ま、待って欲しいっス!えーっと、えーっと、あとはぁ……!」
少し考え込み、ロビンが再び叫ぶ。
「あ!弓持ってたっす!!!」
「それを先に言えよ!」
そっちの方が明らかに大事だろうが!
「弓……ってことはアーチャーか」
「剣ならまだしも、アーチャー以外が弓を持っているとは思えませんからね」
腕を組む青子さんに、俺は頷く。
「けど、アーチャーってだけじゃな……」
「少なくとも、とっくにサーヴァントは揃ったというのは間違いないわね」
「キャスター呼んでから、もう五日は経ってるからな……」
ランサーが脱落したということは、残るは六騎のサーヴァント。
セイバーは協力関係なわけだから、とりあえず戦うべきは四騎か……。
「ライダーはイスカンダル、バーサーカーはあの黒いモヤ、分かってないのはアーチャーとアサシンか……」
「ロビン、なんか他に覚えてないの?戦闘中の様子とかさ」
大して期待してもいないかのように、青子さんがそう言う。
ロビンの記憶力の無さは良くわかっている、という様子だ。
「そうっスね………あとは、戦闘中に傷が治ってたってことっすかね……」
「傷が……治った?」
「そうっス」
頷くロビン。
「けど、サーヴァントの傷なんて、魔術で治せるんじゃない?なんなら令呪とかも使えそうだけど」
「令呪はともかく、魔術で治すのは可能よ。マスターも私の傷を治してたもの」
……あれは、佐伯さんと母さんのおかげだね。
俺は何もしてないね。
「けど、一応、サーヴァントの宝具って可能性もあるんだよな……」
「そうね。傷を癒す宝具は多いもの」
「程度に差はあるけどね」
残念ながら、傷を治すという現象だけでは、サーヴァントの特定はできない。
「とりあえず、探れるだけ探るしかないか……」
「ええ。偵察に行きましょう」
「面白そうじゃない。私も着いてこ」
ちょうど朝食も終わった時なので、俺たちは装備を整える。
「およ?お兄ちゃん達、もう出かけるの?」
洗い物を終えた香がそう言う。
「ああ。少し事態が動いたから」
「そっか。気をつけてねー」
「怪我しないでよー」
「おうよ」
香と母さんに見送られ、俺達三人は家を出た。
「おはようございます、薫さん」
「おはよう、薫」
「ああ、おはよう」
門の前のセイバーと佐伯さんとも合流し、街へと向かう。
そしてこれが、長い長い一日の始まりでもあった。
お読み頂きありがとうございました
それでは、また来週お会いしましょう