「ふ、『超電磁砲』と『重力掌握』か.......学園都市が誇るレベル5の2人と闘うことになるとはね。正直、不安になってきたよ 」
「だったらサッサと降伏したら? アンタが逃げ切れるわけないわ 」
「そうは、いかない。私にはまだやらねばならぬことがある。それが終わりさえすれば幻想御手(レベルアッパー)事件で巻き込んだ人たちは解放する。だれも傷つけるつもりはない 」
淡々と語る木山の言い草に美琴の中の怒りが爆発する。
「誰も傷つけない? こんだけたくさんの人を......佐天さんまで傷つけておいて傷つけてないとよく言えるわね! こんなひどいことを見逃せるわけないでしょうが! 」
「まて美琴! この人....木山にもどうしてもここまでしなきゃいけない理由(わけ)があるんだよ! 」
怪訝そうな表情で護を見る美琴。当たり前だ。今目の前にいる元凶をもっとも倒したいはずの護がその元凶を庇う発言をしたのだから。
「木山さん。あなたがここまでして......幻想御手事件まで起こして巨大な演算装置を必要としたのは、生徒たちを救うためなんでしょう? 」
木山の顔が驚愕に染められる。
「知ってます。あなたが所属していた研究機関で行われた実験。『暴走能力の法則解析用誘爆実験』......あなたが一時期担任として関わった『置き去り(チャイルドエラー)』の子供たちは.....その実験の影響で意識不明となり、いまも眠り続けている。あなたはその回復手段を探るために『樹形図の設計者 (ツリーダイアグラム)』を利用しようとしたが......その要求は23回にわたって拒絶され続けた......なんとしても生徒たちを助けるためにあなたが代替の演算装置とするために作ったのが『幻想御手(レベルアッパー)』......確かに無数の人間を利用して作り上げた脳波ネットワークなら、あなたの生徒は助けられるかもしれません。ですが......そのためにどれだけの人をあなたは傷つけてるか分かっています? 」
「なぜだ.....なぜ私の過去をそこまで知っている?だいたいあの実験のことを学生である君がなぜ知っている? 」
木山の顔に驚愕と困惑の色が浮かぶ。木山が隠している事情。それすべてをさらけ出していく目の前のレベル5に木山は恐怖していた。
「そうよ!だいたいアンタがなんでそんなこと知ってるのよ!? 」
驚愕している美琴の方にジェスチャーで後で教えるの合図を送る護。
「さあ? なぜでしょうね? 今あなたに話す義理はありません。 それより答えてくださいよ。どれだけの人をあなたが傷つけたかわかってるか 」
「さっき言っただろう。私は幻想御手にとりこんだ者たちを傷つけはしない。私の為さねばならぬことさえ終われば、全員解放すると..... 」
「それじゃあ、周りの人間は? 」
護は強引に木山の話に割りこむ。
「周りの人間? 」
「そうだ、周りの人間だ 」
護は木山をまっすぐ睨みつける。
「あなたは確かに幻想御手にとりこんだ人間は傷つけないで返せるかもしれない。でも周りにいる人間を傷つけているのを忘れてないか? こうしてる間にもあんたは幻想御手という凶器で倒れた奴らの心をえぐり続けてるんだぜ? 傷つけてないなんて言葉。堂々と言えるわけないだろ! それに今のあんたの姿をみて生徒たちが喜ぶとでも思ってんのかよ? 」
「なに?.....」
「木山春生(せんせい)が傷つけられた自分たちのために、身も心もボロボロにしてその手を汚して、人を外と内の両面から傷つけているなんて......生徒たちが認められると思うのかよ! 」
「く! 」
「こんな方法で助けられたって生徒たちが苦しむだけだ! 生徒たちが望んでいるのはただ一つのはずだろ?木山せんせいと会うことだろ? あんたがこのまま突き進んで、結果として生徒たちを救えたとして、その生徒たちの前にアンタがいなきゃ意味がないんだよ! そして今のまま進んだらあんたは、生徒たちの前に立てない! 」
ここで木山を逃してしまえば、木山はみずからの目標を達成させようと動くだろう。だがそれは何としても止めなくてはならない。護は分かる。学園都市暗部に身を置いている今だから予想できる結末。
「(ツリーダイアグラムに23回拒否されている時点で、木山は学園都市上層部、統括理事会の一部に確実に目をつけられている。もしここで木山が目標を達成してしまえば間違いなく木山は邪魔者として消される。それを避けるためにもここで何としても止めなきゃならない! )」
「もう......おそいんだよ.....第4位。私の手は君の言うとおりすでに汚れきっている、すでに私にはあの子たちの前に立つ資格はない。ずっと昔のあのときですら、本来ならあの子たちの前に胸を張って立てるような人間ではなかった私にいまさらあの子たちの前に立つ資格など...... 」
「じゃあ、放棄するのか? あんたの役割を。あんたはすでに教師じゃない。俺と美琴にとっては元凶。警備員(アンチスキル)と風紀委員(ジャッジメント)にとっては犯罪者だ。それでも『あの子』たちにとってはあんたは昔も今も『せんせい』なんだよ! 肩書きとか資格とかそんなの関係ないんだよ! あの子たちにとってのあんたが『せんせい』ならあんたはその子たちの『せんせい』であり続けなきゃいけないんだよ! 自分が罪を犯すかわりに生徒を救う。たしかに理由は立派だ。だけどそれは結局、自分が負うべき責任を入れ替えてるだけだ。『せんせい』でありつづける責任を、犯罪を犯した責任に置き換えてるでけじゃないか! 」
「もう、いい。君の意見はもういい。いまさら後悔してももう遅い。たとえ私の選んだ方法が間違っていたとしてもいちど動き出した流れは止められない 」
木山は護の言葉を意見をすべて切り捨てた。その姿はこう告げていた。(もはや、私は止まらない)
「もう、話し合いは終わりだ第4位。ここからは殺しあいといこうか 」
瞬間、木山の右手からすさまじい水流が護に襲いかかる。
「く! 」とっさにGを横向きに変えて増幅させ護は水流を止める。
「第4位を、なめるな! 」
一機に重力を増大させ水流をはじき返す護。
水流を避けるためにいっきに後ろに空間移動(テレポート)する木山を美琴が追撃する。
「あんたに、そんな事情があるなんて知らなかった.....それでも、それが人を傷つける理由になんてならない! 」
雷撃の槍を放つ美琴だったが、木山が作った透明なバリアのようなもののせいで防がれてしまう。
「それは複数の能力を使用して構成された避雷針みたいなものだ! 木山に電撃は通用しないぞ! 」
驚愕する美琴にフォローを送る護。
「まったく.....あきれるほど私について知っているんだな? これはきみからつぶした方が早そうかな? 」
不穏な言葉に身構える護に向けて木山は巨大な火炎を放射する。
「なんど同じ手を使うんだ? 正面からぶつけたってはじき返されることは分かってるのに? 」
再び重力をくわえてはじき返そうとする護。
「ふん.....では、これははじき返せるかね? 」
瞬間護の周囲に大量に現れる空き缶、
「な?! 」
「君の能力『重力掌握』は文字通り重力を操る能力、たしかにその力は絶大だ。だがそれゆえに多方面への力の放出が君には難しいはずだ。なにしろ能力が発現したのがついこの間という話だ。そんな状態で多方面への力の放出のコントロールなど出来るのかね? 」
いま目の前に迫る火炎放射をはじき返すにはそちらに重力を受けるイメージが必要だ。
だが、強めの重力をぶつけるイメージを行うためにはそちらに集中する必要がある。
そんな状況で別の方向から攻撃が加えられた場合、護には手の施しようがない。
やろうと思えばできないことはないかもしれない。
要は全方向にGを放つイメージをしてみればいい話なのだ。だが、ここで無差別に全方向に火炎放射をはじき返すだけの力を持つGを放出してしまえば。
近くにいる美琴まで巻き込んでしまう。
「くそ! 」
歯噛みする護。木山はそんな護に向けてほほ笑みかけた。
「さらばだ、第4位 」奇しくも竜崎が陥った状況とおなじ状況の中、護は爆炎に飲み込まれた。
「古門! 」爆炎に飲み込まれる護を見て絶句する美琴。
その爆炎から飛び出るように衝撃で吹き飛んだ護の体が美琴のそばに飛んで、転がった。
「おや、体は吹き飛ばなかったのか。五体満足でいられるとはやはり第4位というところか......だが、もはや起き上がることはできないだろう。はやく病院に運ばないと手遅れになるぞ? 」
「あんたは......あんたは......いったいどれだけの人を苦しめたら気がすむのよ! 」
美琴の叫びに木山は唇をゆがめた。嘲笑(わらった)のだ。
「私を止めるために立ち塞がったのだ......犠牲は覚悟の上だったんじゃないのか? それとも所詮は世間知らずのお嬢様。『悪は最後には倒される』というヒーローものセオリーでも信じていたのか? 君はまだしらない。この学園都市の闇を。君はまだしらない。自分が『限りなく絶望に近い運命を背負っている』ことを 」
なにを?と言い返そうとした美琴だったがその言葉は出なかった。なぜなら、目の前の木山春生の胴体に穴が開いたからだ。
「な......に? 」後ろを振り替える木山。その先にあるのは道路沿いに建つ一軒のビル。
「まさか.....狙撃手.....警備員(アンチスキル)か....... 」
「そこの君! ただちにその場から離れなさい! これより警備員による鎮圧作戦を開始する。一般人ははやく現場から離れなさい! 」
突然響くアナウンスが木山の推理が正しいことを証明した。
「な! 鎮圧って...... 」
戸惑う美琴の口がいきなりふさがれた。
「ん!? 」
いつの間に近づいたのか覆面姿の警備員が美琴の口を布のようなもので押さえている。とたんに急速に視界が狭まり意識が遠のいていく。
「(これ、昏倒効果のあるガスがしみこませてある!)」
眠気に逆らおとするが、あえなく美琴の意識は闇へと沈んでいく。
闇に沈んでいく美琴の耳に最後に響いたのは無情な声。
「これより、容疑者木山春生を射殺します! 」
無数の銃声と爆発音が響きわたるのを確認したところで美琴の意識は唐突に途切れた。
「う......ここは....... 」
唐突に視界が開き、まぶしいばかりの光に目の前が真っ白になる感覚を覚える美琴。光りが収まり天井が見えるようになって自分が病院にいることを意識する。
「あれ? 私、確か...... 」
木山との戦闘の最中、突如木山を警備員の弾が貫き、その直後、背後に近寄っていた警備員に口をふさがれ、意識をなくした美琴だったが。それでは病院にいるわけがわからない。
「なんで、病院(こんなとこ)に.....とりあえず起きて.....っつ! 」
起き上がろうとして全身に走った痛みに思わず倒れ伏す美琴。
「おやおや、まだ起きるには早いと思うよ? 」あきれ顔で近づいてきた男を見て美琴の表情が固まる。
「リアルげこ.....じゃなかった、古門の担当してた医者よね? 」
「古門....ああ、彼か。そうだね、ついでに言うと今回も彼の担当をしているよ。私は複数の患者を担当することも珍しくないんでね 」
「古門は無事なんですか?! 」
「他人の心配より少しは自分を心配したらどうかね? 全身打撲にいくつかの裂傷による大量出血で一時は危篤状態だったんだよ? 」
カエル顔の医者の言葉に驚きを隠せない美琴。
「私、そんな重傷だったんですか? 」
「まあ、たしかにね。それでもあの現場から生還できただけ君はましかもしれないよ 」
へ?と困惑の表情になる美琴。その美琴にカエル顔の医者は一枚の写真を見せた。
「これが君がいた現場の今の姿だ 」
カエル顔の医者が見せた現場は、まさしく天災級の破壊が引き起こした地獄絵図と化していた。
美琴と護が戦っていたあの高架道路。
それを含む現場一帯が巨大な穴となっていた。
さらに遠巻きに離れていた警備員の装甲車や特殊車両がフレームが完全にゆがんだ状態で廃墟となったビルに突っ込んだり、橋の上から落ちて転倒したりしている。
「これ、いったい..... 」
「彼の仕業だね 」
「彼って..... 」
「きまってるじゃないか.....古門 護くんだよ..... 」
そんな馬鹿なと美琴はその言葉を否定しようとした、だがあの場にいたのは警備員たちと護と美琴、そして木山春生だけ。自分にはあんな光景は作り出せない。木山にも可能とは思えない。警備員など論外だ。となると.......
「いくらあいつでも、こんなこと....... 」
「彼の能力は重力を自在に操ること.......だったね?かれはあの場でその力を全力で使用したようだね......木山春生が射殺されようとした瞬間だったそうだよ..... 」
そうしてカエル顔の医者は当時の状況を語りだした。
「これより容疑者、木山春生を射殺します! 」
無線で報告を終えた警備員の狙撃手はレンズの十字に木山の頭を重ねた。その時だった........
『超重力砲(グラビティブラスト)!』無線機から突如少年の叫びが響いてきた。
なんだ?と首をかしげた狙撃手は直後に気づいた。この声は、学園都市第4位の声であることを。
次の瞬間、狙撃手が潜んでいた建物は狙撃手もろとも崩壊した。
「きみ! いったいなにを!? 」驚き、抑えようとする警備員の隊員を『吹きとばして』護は起き上がる。
「落ち付け! 何をしてるかわかってるのか! 」慌てて銃を向け威嚇する警備員に護は視線を向ける。
瞬間、隊員たちは戦慄した、護の眼が真っ赤に染まっている。
「止まれ! 」一人の隊員が上空に威嚇射撃を放つ。
だがその放った銃弾はいったん上に上がった後、倍のスピートで『放った本人に命中した』。
「な!? くそ、かれも敵対者とみなす!射撃せよ! 」
隊長らしき男の隊員の指示のもと、警備員の一斉射撃が護を襲う。だがその銃弾は届かない。護から放たれる強力なGは弾を押し返すと同時に重力の波となって隊員たちを吹きとばす。
上空のヘリに乗る隊員は驚愕していた。いままで倒れていた少年が急に妙な攻撃でビルを崩壊させ、さらに銃を向けた警備員たちを文字通り『吹き飛ばした』のだ。
「こちらD1、こちらD1、これより上空からの援護射撃を始める! 」
そう無線にどなった直後、パイロット席かの機長が悲鳴のような声をあげた。
「どうした! 」
「あの少年が!あの少年が装甲車を吹き飛ばした直後にこちらに目線を向けました。あきらかに狙ってます! 」
「ただちに退避しろ!ビル一戸破壊するレベル5だ。むやみに近づくな! 」
慌てて高架道路から遠ざかろうとするヘリ。高架道路の下では遠巻きに警備員の部隊と装甲車。さらにどこから出てきたのか、学園都市製の高性能ヘリ通称『六枚羽』が上空を旋回しつつ少年を狙っている。
「あんなものまで、持ち出すか?! 」
少年1人に対してオーバーキルすぎないかと思ってしまうのはやはり彼が『能力者』ではないからだといえよう。彼はレベル5のもつ意味をしっかり理解していなかった。
高架の下で無言で佇む護。その瞳は真っ赤に染まっているが、そこにはなにも映っていないかのようにその包囲の輪を狭めつつある部隊や、上空のを舞うヘリに対して何の反応も示さない。
最初に攻撃を仕掛けた警備員部隊を吹きとばしはしたものの、その後は行動をおこさない。
「なにを考えてる? だが今がチャンスだ。意識を失っているうちに木山を処分しろ! 」
先ほどの攻撃の余波を受け気絶している木山に近づこうとする隊員たち。
その途端、護が動いた。
「ウウォオオオオオオオオオオアァァァァァ!! 」喉をひきさかんばかりの獣じみた叫びに隊員たちの動きが止まった次の瞬間だった。
上空を舞っていた戦闘ヘリ、六枚羽を含む、無数のヘリがすさまじい速度で地面に叩きつけられた。
「!! 」驚愕する隊員たちだが状況を冷静に確認している暇などなかった。なにしろ次の瞬間、彼らの体は真上から『押し潰されていた』からだ。
装甲車や特殊車両に乗っていたものは車両ごと、生身の者はそのまま全身にかかった異常な圧力によってただの肉塊となった。無数のシミが道路に広がり、包囲しつつあった警備員部隊は壊滅した。
「地獄だ...... 」
後方に控えていた予備部隊を率いる隊長はおのれの不運を呪っていた。
「後方待機と言われたから、戦闘はないと思ってたのにこれじゃああんまりだろうが! 」
嘆く隊長だが、死んでいった隊員たちに対してあまりにも失礼な発言に部下の副隊長がいさめる。
「隊長。そんなことでは、死んでいった仲間が浮かばれません! 予備部隊としての務めを果たしましょう! 」
「馬鹿野郎! 六枚羽まで潰した化け物相手にどうやって戦うつもりだ! 」
「無理を承知で突撃するしかありません! 全部隊前に!特殊音波発射装置搭載車を先頭に進め! 」
隊長を無視する形で副隊長は命令を出した。
特殊音波装置搭載車は、実は先ほどの部隊も装備していた。だが、ろくに使用する前に装甲車とともに飛ばされてしまったのだ。特殊な音波によって能力者の能力の使用を妨害するこの車両は、もはやこの戦いの切り札となっていた。
「目標(ターゲット)は自分か木山が攻撃されるまでは、行動を起こさない!ゆっくりと距離を詰めろ! 」
部隊は特殊音波装置搭載車を先頭に少しずつ、護に近づいていく。
「いまだ! 音波発射! 」有効距離まで近づいた複数の車両から、強力な音波が護に向けて放たれる。
「グ!?ウォオオオオオオ!! 」再び咆哮とともに重力がかかるが、隊員たちを外れて近くの建物を倒壊させる。
「効果ありです! 」
「よし、今のうちに作戦を達成するぞ! 」
一気に士気をあげた隊員たちが木山の確保と、護の処分に動き出そうとした瞬間だった。
「ん?」隊員たちが最初に感じたのは妙な浮遊感だった。
まるでプールの中で浮かんでいるような。そして足が地面から離れ、体が空中に上がる。
特殊車両も装甲車も浮かんでいる。そうこれはまるで『無重力』そう言い終わる前に隊員たちを支えていた地面ごと彼らがいた一画が空高く舞い上がった。
地球には引力、つまり重力が働いている。本来かかっているその引力より軽い引力の場所が現れればどうなるか、その場所にすさまじい上昇気流が発生しその場にあるものをすべて根こそぎ上に持ち上げてしまう.......
その結果が、写真にあった大穴である。
「で....その後、彼は気を失って倒れた。木山も同じだ。そしてここに運ばれてきた。あの破壊の中心にいただけあって重傷だったが何とかしたよ。しばらくリハビリは必要だろうけどね。それより不思議なのが、彼に関することが全くと言っていいほど取り上げられていないことなんだ。警備員のほうでもすさまじい被害を与えた張本人だというのに、なにも罪を問いに来ない。おかしな話だよ 」
美琴は黙り込み、思考を巡らしていた。
この医者の話が本当なら、護はなんだかとんでもない奴ということになる。第3位である美琴を超えるような実力を持つ怪物。だが、美琴の知っている古門 護に人が殺せるとは思えない。
現に憎んで当然の木山に対しても、最後まで話し合いに徹しようとしていた。その護が警備員を惨殺。とても信じられない美琴だった。
黙り込んだ美琴を見て、ため息をついたカエル顔の医者は、むりはしないようにねと言い残した後、思い出したようにこう言った。
「ああ、そうそう、動けるようになっても当分彼の個室にはいっちゃだめだよ? あれから、彼の友人という少女がずっと付いているんだ。入るのは無粋だろ? それとこちらはすこしリアルな話だ 」
一呼吸置いて、カエル顔の医者は美琴にとって衝撃的な琴を告げた。
「本来は話すべきではないことかもしれないけど......学園都市統括理事会の一人がここ数日見舞いに来てるんだよ 」
統括理事会は学園都市の上層部。統括理事長の下にある組織だ。そんなトップの人間がレベル5とは言え、つい数ヶ月前にこの街に入った人間に何の用だというのだろう?
困惑する美琴に、カエル顔の医者はやんわりとくぎを刺す。
「今は、関わらないほうがいいと思うよ? へたすると君まで飲み込まれるかもしれない 」
へ?と向き直る美琴だったがカエル顔の医者はそそくさと部屋を出てしまっていた。
「統括理事会...... 」
誰もいなくなった個室で美琴を思案を続けた。
そんな美琴の部屋の向かい側の病室で、無数のチューブを体につながれ、ボンベを口に装着され、無数の電極コードにつながれた状態でベットに横たわる護のそばに二つの人影があった。
1つは少女の影。もう1つは初老の男性の影。
「しっかりしろ護君 」
初老の男は実に残念そうな声でこういった。
「まだまだ、君は私にとって必要だ。わざわざ『来てもらった』意味がなくなる 」
意味ありげなセリフに少女、哀歌が訝しげな視線を送る。
だが男は気にするそぶりもなく、ドアから出て行こうとする。
「目が覚めたら少年に伝えておいてくれ。学園都市統括理事会の剣崎達也が君と会いたがっていたとな」
そのまま、どうどうと部屋を出ていく剣崎。だが哀歌の眼にはなぜか剣崎の向かう先が先の見えない漆黒の闇に見えていた。
「護を、あんな所にはいかせない.....すでに闇に落ちていても、これ以上深みには堕とさせない。だから起きて?護..... 」
もう何度目になるであろう、護の額の汗をぬぐいながら、哀歌は空を彩る星座に祈りをささげた。