古城内部の一室、隠し部屋にクリスの父、ジェラルド・エバーフレイヤは立っていた。脇に控えるのはエバーフレイヤ家執事『ベネット』。
「まもなくだ......まもなく計画が成就する。時期的には少し早いが『聖騎士団』の手が完全に伸びる前にことは終わらせねばならん 」
「まだ、運命の3女神の特性を持つ者は2人しか集まっておりません。4人目の御息女はいまだに見つかってはおられませんのに...... 」
「かまわん.....たとえ2人でも、クリスの『主導神ダヌ』の力があれば十分に事はたりる....まあ、長期戦はきついがイギリス清教の持つ『遠隔制御霊装』を奪う程度には十分に役立つはずだ 」
この隠し部屋は古くからこの城の内部に作られているもので、数々の戦乱の中、当主を守り抜いた部屋でもある。
「それはそうとして......『侵入者』はどういたします?城内部に『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師複数の侵入を確認しておりますが...... 」
「消せ 」ジェラルドの冷え切った声が部屋に響く。
「アイルランド統一のために戦ってきた我々が『対魔術師戦力』を保持していないはずがないだろうが....『タラニス』戦闘員をすべて出すのだ......やつらを1人残さず始末しろ。指揮はお前が取れ 」
「かしこまりました........儀式の準備を整え次第、私も戦列に加わります 」
一礼して部屋からベネットが出ていき、部屋に静寂が満ちる。
「あいつがクリスを学園都市に送った時はヒヤヒヤしたが、とにかくこれで計画に必要なパーツはすべてそろった。娘たちの体さえあれば計画は実行できる......ふはははは!見ていろイギリス王家よ!我らの絶対的な正義を味あわせてやる! 」
「絶対的な正義......良く言えますね、そんな言葉 」
予想もしない声にバッと後ろを振りかえるジェラルド。その瞳に映るのは.......
「取り返しにこさせてもらいましたよ。さて、僕たちの仲間を返してもらいましょうかね?」
古門 護、高杉宗兵、上条当麻の3人の姿が高杉の瞳に突き刺さる。
「馬鹿な......きさまら、どこからここへ? この場所は通常の方法ではたどり着けない! 」
「あいにくと、こちらにも『魔術の専門家』がいましてね、彼女の力を借りて探り当て、後は高杉の力で瞬間移動すればそれでことは終わるんです 」
護は、自らの右手をジェラルドに向ける。
「ここで終わりにしませんか? あなたの娘、クリスの妹達はいまごろ哀歌と美希が押さえている。あの2人を含めなきゃあなたの計画は実行できないのですよね?だったらこれ以上の戦いは無意味でしかないと思いますけど? 」
「ふん.....知ったような口をきくな小僧。その口ぶりからすると、『聖騎士団』と接触したということか.......なるほど奴ら、かなり正確に俺の計画をつかんでいたようだな。だが、そのすべてが正確なわけじゃない 」
ジェラルドは口元に冷笑を浮かべた。
「わが娘達から聞かなかったのか? 私はあの2人を『蘇生』させたことを 」
一瞬、何を言われたのか理解できない護達だったが、すぐにその言葉の意味を悟る。
「まさか......」
「そうだ......娘達が死んでいようが『女神の素質を持つ体』さえあれば十分なのさ。よってお前達がいくらわが娘を押さえようが、わが計画には影響しない 」
抑え笑いをしながらジェラルドは続ける。
「ただし、私の計画を頓挫させることはできるぞ。なにしろ私の計画はあの2人の体がなければ成立しないのだからな…….完全に消滅されれば私としても計画をあきらめなければならない.......だが、貴様らにそれができるか? わが娘、クリスを取り戻すためにきたお前たちにその妹を殺せるか? 」
グッと口ごもる護。確かにここでクリスの妹達を消滅させてしまえば、クリスの心にどんなダメージを与えてしまうかわからない。だがここでジェラルドの計画を止めなければ自分たちを信じ送りだしたクリスの母ラミアに申し訳が立たない。
「古門。こんな奴に選択肢を限定される必要なんてねえよ。用は俺達がこいつを倒せばそれで解決ってことじゃねえか 」
上条の言葉にはっとする護。いつの間にジェラルドに2つの選択肢しか解決策がないように誘導されかかっていた。
「その通りだぜ護。こいつさえ倒せばすべてが終わる。クリスのためにもお前に希望を託したラミアさんのためにも絶対にこいつを倒して俺たちの仲間を.......クリスを取り戻そう! 」
そう。自分達『ウォール』の仲間。学園都市の闇の中で共に戦ってきた仲間。暗部組織構成員として生きることが良いことだとは言わない。それでもこんな所で『道具』として利用されるよりはずっとましなはずだ。
「ああ。取りもどそうクリスを。元凶倒してすべて終わりにするぞ! 」
護は差し出した右手に重力を纏わせる。同時に自らにかかる重力を極端に減らし護は面目の前の敵に飛びかかる。
「重力拳(グラビティック・アタック)!」重力により極端に重さがプラスされた拳がジェラルドの顔にめり込む。
そのまま軽く5メートル吹き飛び壁にめり込むジェラルド。
「ぐふ......きさま、その能力......なるほど噂に聞いた『重力掌握(グラビティマスター)』とやらか......重力を操るとは、全くなめた力を持っているものだな 」
「なぜ、僕の力を? 」
「逆に知らん方が不自然だと思うがな......貴様、自分がイギリス清教に危険視されていることを知らんのか?我々『タラニス』はイギリスと戦い続けている組織だぞ? イギリス内部の情報をある程度つかんでいないはずがない。 禁書目録を守護するためとはいえ、貴様が東洋の聖人や天才と呼ばれた魔術師を倒したことがどういう意味を持っているかぐらい考えれば分かるはずだ 」
その言葉は護にとって衝撃的だった。イギリス清教を敵に回した?
一瞬思考停止状態に陥った護に向けて、ジェラルドは突如出現させた2振りの剣を向ける。
「甘い.......甘すぎるぞ『重力掌握(グラビティマスター)』! 」その剣から猛烈な光の波が放たれる。
「この技は.....あの時の! 」聖騎士団の砦での戦闘の時、グランが放った技。
「ヌアダの剣......お前たちはどうやら知っているようだが......こいつは量産型(コピー)ではないぞ?本物(オリジナル)だ! 」
放たれた光の波は凄まじい勢いで壁を吹き飛ばす。
「さあて.....全面戦闘の始まりだ! 」その言葉を合図に、隠れ部屋の外に配置されていた『タラニス』戦闘員が一斉に護達に襲い掛かる。
通常なら、ここで護達は終わっていただろう。魔術の専門家である哀歌は『地下壕』で戦闘中で禁書目録(インデックス)は『聖騎士団』に保護されているため魔術に対抗できる人間が上条だけでは勝ち目は薄い。だが、ここで思わぬ助っ人が入った。
「わが手には炎、その形は剣、その役は断罪! 」突如、猛烈な火炎が今まさに飛びかかろうとしていた『タラニス』戦闘員達を吹き飛ばす。
その炎を放った本人は、護達を見て、面倒そうに舌打ちした。
「やれやれ、本来なら君たちを助けるつもりなんかなかったのにねえ。僕と言う奴はよほどのお人よしのようだ 」
護は眼を疑った。そこに佇むのはイギリス清教の魔術師、ステイル・マグヌスだったからだ。
「なぜだ? なぜイギリス清教の人間がそこの能力者を守る? 敵視していたはずではないのか! 」
「僕だってこいつを助けるつもりなんて毛頭ないさ.......だが、あの子の体を苦しめていた魔術を取りのぞいてもらったのは事実だし......なにより禁書目録(インデックス)が彼らを慕っている以上......僕は彼女の笑顔を守る必要があるんでね 」
ステイルがかつて記憶を失う前の禁書目録(インデックス)にした誓い。
『安心して眠ると良い。たとえ君は全て忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れずに君のために生きて死ぬ 』
「本来なら、アイルランド聖教からの依頼で神裂と一緒に『地下壕』で待ち伏せする予定だったんだけど、直前に『隠し部屋』の存在が伝えられたから探していたんだが......まさかここで厄介な顔と会うとはね.....正直想定外だったけど、結果的にはこれで良かったかもしれないな.....ジェラルド・エバーフレイヤ、あなたを倫敦(ロンドン)塔までお送りしましょう。下手な抵抗はよしてください 」
ジェラルドは思わぬ展開に呆然とした様子で硬直していたが、すぐにステイルをにらみ返した。
「はたして、君達総出で戦って我々『タラニス』をつぶせるかな? アイルランド最大の魔術結社でもある我々をなめてもらっちゃこまる 」
「僕が、いままでいったい幾つの魔術結社をつぶしてきたと思う? 今、僕は最高に怒りを覚えてるんだ......あの子を狙う君にね 」
ステイルの言葉に押されるように後ずさりするジェラルドに向けてステイルはルーンカードを突きつける。
「灰は灰に、塵は塵に、吸血殺しの紅十字! 」ステイルの両手から放たれる2本の炎剣をジェラルドはかろうじて避ける。
だが、当然ながら背後に控える『タラニス』戦闘員全員が避けられるわけはなく、多くの戦闘員が業火に焼かれ、炭化した死体となって転がる。
「くそが......たかが1人の魔術師如きにわが計画を潰されてたまるものか! おい!ベネット!ここはお前に任せた! 奴らを食い止めるのだ! 」
自らも剣をふるい戦っていたベネットはジェラルドの言葉に静かに頷き。ステイル達に向き直った。
隠し部屋に複数あるらしい脱出口に向かうジェラルドに向けて放たれるステイルの炎剣をベネットは水流を纏わせた剣で強引に切り裂き消滅させる。
「大変申し訳ありませんが……..旦那さまからのお達しでここから先にあなた方をお通しすることができないのですよ 」
ベネットは悲しげな視線を護達に向ける。
「わたくしとしては本来あなた方と戦いたくはなかった。しかしエバーフレイヤ家に仕える身である以上、主の命令には従わなければないのでございます 」
ベネットはおのれの持つ剣に目をやる。
「この『報復者(フラガラッハ)』も、もうずいぶん働きました。正直、この戦いを最後にしたいのでございます......お覚悟ください、御一同様。手加減はいたしませぬので! 」
アイルランド神話における伝説の武器の一つ『報復者(フラガラッハ)』。その剣が光を発したかと思うと、複数の光の剣が空間から滲みだすように現れる。
「この剣は、どんな鎧でもどんな鉄でも打ち砕き、貫通するのでございます。形こそ光でも切れ味は同じ......さて、この全てを受け止められますかな? 」
ベネットの言葉を合図に宙に浮かぶ複数の光の剣が一斉に護達に向けて襲い掛かる。
ステイルはとっさに炎剣で光の剣の一本を防ぐが、そのすきを突いて別の剣が彼のわき腹をかすめる。
「グ......! 」苦痛に顔をしかめるステイルに3本目の剣が襲い掛かるが、「ふん! 」という掛け声と共に護が振るう剣が光の剣を弾き飛ばす。
護が持つのは『ヌアダの剣』の量産品(コピー)の1つ。『タラニス』戦闘員がもっていたものだ。
護達が戦ったグランは右腕を『銀の腕』とすることで『ヌアダの剣』を自在に扱っていたが、どうやら『銀の腕』とは腕を覆うガンドレットのようなものだったらしい。つまりグランは嘘をついていたわけだが........
「何はともあれ......これを使えば科学サイドの僕でもある程度戦えるわけだ 」
もちろんプロの魔術師でもない護に『ヌアダの剣』を使った魔術は扱えない。だがただの武器として『ヌアダの剣』を扱うことはできる。さらに『神話級の武具を扱えるだけの筋力を授ける』特性を持つ『銀の腕』を利用すれば今まで実現不可能だった技を実現することができる。
「前回もそうだったけど、僕の能力は魔術攻撃に対して効きにくい面がある。でも魔術的武器を能力で強化した攻撃なら、多少は効くはずだ! 」
剣を高々と掲げた護を警戒し、剣を構えるベネットだったが次の瞬間、凄まじい衝撃が彼の持つ『報復者(フラガラッハ)』に走る。
「!! 」その勢いに押されて剣を構えたまま後ろに飛ばされるベネット。前方に佇む護はすでに剣を水平に構えている。
その攻撃を視認させない一撃。護は『ヌアダの剣』の上からの斬撃に強力なGを加えることによって音速を超えるスピードで剣をふるい、凄まじい衝撃波を前方に放ったのだ。
通常、音速で腕を振るなどすれば腕の方が耐えきれず吹き飛んでしまう。その上人間の筋力ではそもそも音速を超える速度で剣をふるうなど不可能である。護の能力を使えば可能かもしれないが、腕はあくまでも人並みである。しかし『銀の腕』を使えば、それらのリスクを魔術的な効果によって克服できる。
「まさか......量産品(コピー)を利用するとは.......いやはや考えもしませんでした。ですが、所詮量産品は量産品。本物(オリジナル)にはかないませんぞ? 」
殆ど一瞬と言っていいほどのスピードで護の前に立つベネット。その剣が護の首を飛ばそうとするが、間一髪で高杉が護に触れて瞬間移動する。
「おや......他の方々に倒されてはいませんでしたか 」
「生憎とな。おたくの戦闘員は全員潰させてもらった......次はあんたの番だぜ 」
「はたして、そううまくいきますかな? 」
にやりと笑うベネットに悪寒を感じ、下がろうとする高杉だったが、直後体がベネットの方向に吸い寄せられるのを感じた。いや、正確にはベネットにではない『報復者(フラガラッハ)』に吸い寄せられているのだ。
「神話では敵対者が自ら刺さりに来ると記される力ですが.....さすがにそんな力はないのです.....ただ相手を自らの近くに寄せる力として強力な吸引力を発動できるのですよ 」
ベネットがつきだす『報復者』に向けて一気に高杉の体が吸い寄せられ......当然の結末として高杉の体を『報復者』が貫いた。
高杉の口から血が噴き出し、背まで貫通した剣からは真っ赤な滴が地に落ちる。どこからどう見ても致命傷だ。
ベネットがゆっくりと剣を抜くと同時に高杉の体が地面にドウと倒れる。
「高杉! 」護が駆け寄ろうとするがその前に『報復者』の刀身を血で真っ赤に染め上げたベネットが立ちふさがる。
「まだ戦いは終わっていないですよ? 次はあなたの番でございます 」真っすぐに突き出される『報復者』を『ヌアダの剣』で受け止めようとする護だったが、所詮は量産品(コピー)。本物(オリジナル)の一撃を受け止められるはずがなかった。
容赦なく『ヌアダの剣』を砕いた『報復者』が護の胸を刺し貫く。
不自然なほど痛みを自覚できなかった、ただ体の力が抜け、呆然と自分の胸に刺さる剣を見つめ、護は一気に地面に倒れ伏せた。
まだ、この場にはステイルと上条がいる。彼らだけに戦わせるわけにはいかない。そう思うのだが体が言うことを聞かない。
「大丈夫か! しっかりしろ! 」上条が高杉を揺すっているらしい、だが直前に上条の声が、いや気配が消えた。どうやら瀕死の高杉が上条をどこかに瞬間移動させたらしい。
とにかくこれで、無駄死にが出るのを避けることはできた。もっとも自分たちも無駄死にしそうな身で偉そうなことは言えないのだが。
ステイルはプロの魔術師だ。形勢が悪いことを悟れば逃げ切ることもできるだろう。とにかく自分達の役目は終わりということだ。
「(人生の終わりを異世界で迎えるなんてな......ていうか、ここでのことが全部夢で死んだら元の世界に戻れたっていうオチにならないかな......) 」
もはや視界はかすんで、ほとんど何も見えない。すでに体の感覚のほとんどは消えうせ、死に向かって進んでいるのが分かる。
その時、ふと護の耳元で言葉がささやかれた。
「死なないで...... 」
聞き覚えがない、だがどこか懐かしい声。
「助けに来たよ......約束、忘れてないよね? 」
優しい優しい少女の声。この声を確かに護は聞いたことがあった。
その耳に響く風の音。
再び少女の声がした。
「今度はあなたを絶対助けて見せるから! 」
その声を聞いた直後、護の意識は暗闇に沈んでいった。