とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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死からの目覚めと最終特性

「ねえ、君はだれなの? 」

 

静かな静かな夜の湖畔。焚き火に照らされながら聞く少年に緑の少女は静かに答える。

 

「私にもわからない…….. 」

 

少年は黙って湖畔を見つめた。

 

「じゃあ、なんで僕を助けたの? 」

 

緑の少女は首をかしげてしばし悩む。

 

「私にはできなかったから….. 」

 

その少女の言葉の意味を少年は知らない。それでも隣の少女の憂いは感じた。

 

「私はここにいる理由がない…….なのに、君を助けて………ごめんね、巻き込んじゃって 」

 

「心配しないで? 」

 

少年は笑顔を見せる。

 

「僕が、君がここにいる理由になるから 」

 

少年の言葉に少女はふっと表情を和ませる。

 

「ありがとう 」

 

 

 

少年と少女はいつまでも静かな湖畔を見つめていた。

 

 

 

 

「………..僕………は…….いったい……. 」護はふと意識を取り戻した。

 

「たしか、あの時……. 」

 

フレイヤ城の隠し部屋で、護はエバーフレイヤ家執事のベネットと戦った。そして戦闘のさなか、ベネットのもつ『報復者(フラガラッハ)』に胸を貫かれ、そのまま地に倒れ伏せ意識を失った。意識を失う直前に誰かの言葉を聞いた気もするのだが、ぼんやりしていて思いだせない。

 

「ん?……..護が起きた! みんな来て! 護が起きた! 」聞き覚えのある声に目を向けるとそこには美希がいた。

 

「美……..希…..? 」「良かった…….もしかしたらアンタがこのまま目を覚まさないのじゃないかと思ったわよ 」

 

安堵のため息をつく美希。どうやらよほど心配させてしまったようだ。

 

「護……..良かった……. 」

 

駆けつけてきた哀歌も安堵の声を漏らす。心なしかその瞳がうるんでいる。

 

「しかし良かったぜ。俺の右手もほとんど役に立たないまま、お前達が死んじまったら後味悪すぎるもんな 」上条も安堵のため息を漏らした。

 

「あのさ………ここは、どこ? 」

 

護の問いに答えたのは、いつの間にか護のベットのすぐ横まで来ていたラミアだった。

 

「ここは『聖騎士団』が管轄する修道院付属病院よ。あなたはベネットととの戦いの後、ここに運ばれて治療を受けてたの。正直危ないところだったわ…….結果的には高杉って子も合わせて2人とも一命を取り留めれて良かった…… 」

 

「あの……..僕って…….そんな重傷だったんですか? 」

 

「大変な重傷よ。なにしろ心臓を剣で刺し貫かれたんだから。しかも神話級の『霊装』でよ? これで重症にならないはずないでしょう? 実際、あなたは一度『死んだ』のよ? 」

 

「へ?……….死んだ!? 」

 

「ええ…….確かにあなたは一度死んだ……..でも、おかしなことがおきたのよ…….戦場に乱入してきた少女…….フードかぶっていたから声からの推測だけどあなた達と同じくらいの少女があなたに触れた途端にあなたが息を吹き返したのよ! そのままその子は高杉君にも触れて息を吹き返させた……..そしてそのまま、あなた達を狙っていた『タラニス』戦闘員達を手を振るだけで『斬り捨てていた』わ。まるで見えない斬撃を放つかのように 」

 

ラミアは呆れたように首を振る。

 

「あれは紛れもない『蘇生能力』ね……人間でそれをやるのを私は初めて見たわ………そいえばその子ね、あなたが目を覚ましたらこう伝えって言い残した言葉があるわ…….『この世界は大変ね 』だって。後、名前も教えてくれたわ…….『ミストラル』って名だそうよ 」

 

「ミストラル…….. 」

 

護はミストラルの言葉の意味を考えていた。

 

『この世界は大変ね 』その言葉が示す『この世界』とは護がいる『とある』世界を指示しているのか、それとも単に魔術サイドの世界のことを指しているのか。

 

もし『とある』世界を指しているのだとしたら、ミストラルは自分と同じく『異世界』から来た人物と言うことになる。

 

「その子はどこに行ったんですか? 」

 

「さあ、気が付いたらいなくなっていたという感じね…….煙のように消えてしまったわ 」

 

ミストラルと名乗る少女。彼女がなんとなく護達を助けるとは思えない。なにかしら理由があるはずである。だが現時点では護にそれを確認する手段はない。

 

「(今は、この騒動を終わらせることが先か……..だが、執事である『ベネット』にも敵わない今の状況で…….どうやってクリスを救いだせばよい?)」

 

現状、クリスの身柄はジェラルドのもとにある。哀歌と美希が戦闘の末に抑えたクリスの妹達も戦闘のさなかに現れたベネットが奪ってどこかに消えた。その上、今の状況では次にジェラルド達がどういった行動をするのかが分らない。

 

「今回逃がしてしまったのは残念だけど、実は解決手段がないわけじゃないのよ 」

 

ラミアの思わぬ言葉に全員の視線が集中する。

 

「どういうことですか? 」

 

「あの人の計画は、クリスに宿る『主導神ダヌ』の特性を利用し、『運命の3女神』の力を解放して、イギリス王家の禁書目録用の『遠隔制御霊装』を奪うというものだったけど、実際それは今の時点では不可能だったのよ 」

 

ラミアはため息をつきつつ話を進める。

 

「『運命の3女神』の力を利用するためには、当然その女神の特性を持つ者の体が必要になるわ。そして女神の特性は1人につき1神しか備わらない。この意味が分る? 」

 

『運命の3女神』というのは、当然ながら『運命をつかさどる3人の女神』のことを指す。つまり、女神の特性は1人につき1つしか備わらないとすれば『運命の3女神』の力を利用するためには3人の『女神の特性』を持つ人間が必要となるはずなのである。

 

「あの時、クリスの妹だと名乗ったは2人だけ………じゃあ、まだもう1人、クリスの妹で女神の特性を持った奴がいるってことですか! 」

 

「ええ、その通りよ。クリスにはもう1人の妹セルティがいるわ。そして彼女さえこちら側にあればあの人の計画を阻止することも可能なの 」

 

「じゃあすぐにそのセルティって子を探して保護すれば………. 」

 

「ええ、保護できればね……… 」

 

保護できればといういう言葉に護は少しいやな感じを覚えた。この口ぶりは不確定要素があるということを意味している。

 

「保護できればって………保護できない理由でもあるの? 」

 

美希の問いにラミアはすこしうつむきつつ答える。

 

「あるのよ…….. 」

 

絞り出すようにラミアが出した答えは。

「あの子は、吸血鬼になっているのよ 」

 

その言葉に頭の上に疑問符を浮かべる美希と上条。一方哀歌は事態の深刻さを理解したらしく溜息をついた。

 

「保護できない理由が分かった………アイルランド聖教所属の立場とすれば『悪魔』の一種とされる『吸血鬼』を……..身内から出すわけにはいかない………出してしまったのなら関わってはいけない……….だから確保できない………そういうこと? 」

 

哀歌の言葉に頷くラミア。

 

「本当なら……..そんな建前を気にしている場合じゃない……..そんなこと分かり切ってる……それでも今の私には『立場』があるわ…….大勢の部下を預かる『騎士団長』として軽率な行動はできないの……….たとえそれが私の子に関することであったとしても 」

 

ラミアはこの事件の中心にかかわる『組織』の一員であり、組織にとって益になる範囲であれば自分の娘を助けるために『個人的な』行動を許される。

 

だが教会の定めたタブーを破っての行動は許されない。

 

「だから、セルフィを保護することは私達『十字教』の人間には無理……….本当に迷惑かけるけどあなたたち『科学サイド』の人間にしかあの子を保護することはできないの 」

 

「つまり、僕たちにクリスの最後の妹……..セルティさんを保護してほしいということですね?では、最後に一つだけ聞かせてください………セルティさんを保護することが、どうして『タラニス』の計画を阻止することにつながるんですか? 」

 

「さっき話したようにセルティは『3女神』の最後の一人……女神『モリガン』の特性を持っているわ……『モリガン』は『3女神』の内でもっとも力を持った神とされ……神話によってその姿を変える三相一体の女神でもあったの。豊穣の女神である『乙女アナ』。永遠に生命を生み出す『母神バブド』。幻影の女王、死母神である『老婆マハ』の三相を持っているとされているわ…….このうちの『ハブド』と『マハ』の名はあなたにも覚えがあるんじゃない? 」

バブドとマハ。この2つの女神の名を確かに護達は耳にしていた。なにしろその名は、クリスの2人の妹達が持つ女神の名であるのだから。

 

「つまり、神話によって差はあれど、モリガンは他の2人の女神より上位に立っているの。よってモリガンの特性を使えば他の2人の女神の特性が使われるのを止めることができるのよ 」

 

確かにモリガンが上位の神であるなら、他の2神を止められるだろう。だがここで一つ疑問が残る。クリスはまだ敵のもとにあるのだ。つまり……….

 

「『主導神ダヌ』の特性を持ったクリスの体が敵の手にある以上、たとえモリガンの特性を使って一時的に2人の女神を止めたとしても無意味になるのではないですか? 」

 

いくらモリガンが他の2神より上位の立場に立つとはいえ、さらに上位の女神であるダヌには勝てない。

 

「確かに『主導神ダヌ』の力を使われればモリガンでは抗しきれない……..でもね、モリガンには他と一風変わった……..それでいて決定的に違う『特性』があるの。その『特性』は、『戦いの結果と死を予言する』というものなの…….神話では戦いの前に死んでいく兵士の血に濡れた衣服を川で洗うことで結果を知らせると言われているわ。用は民間伝承における『死神』などの原型なのだけど『予言』するというよりは『宣告』すると言った方が近い………..女神モリガンはその戦場のおける戦いの結果と人の生き死にを自在に操れる……..そう考えてくれれば良いわ 」

 

もし、モリガンにラミアの言う通りの力があったとすれば、それを特性にもつセルフィはまさしく最強と言える。ただし、強大な力には必ず代償がつくものである。

 

「その代わり……..代償として、その特性を発現させた時点でその人間の寿命は止まってしまう……..発現したままの姿でとどまり続ける。それは不老不死ではなく、ただ定められた寿命が来るまで同じ姿なだけ……… そして特性を利用するためには自らの血液を相手に付着させなけらばならない。戦場で『死ぬ前』のはずの人物の衣服がなぜ『血まみれ』なのか………考えれば当たり前でその血とは『モリガン』自身の血なの。すなわちモリガンは自らの血で相手の衣服を濡らすことによってその所有者の生死を操ってるのよ。また、一番強力な特性………『戦いの結果を宣告する』という能力は発動できるのは1回だけ。その能力は、第一に『戦場』でなければ発動できない。第二にその『宣告』は特定の人物に特定されるわけではなく戦場にいる全員に適応されれてしまう。それもその1回のために記憶、性格、力、能力、そう言ったものをことごとく失うことになる………… 利点もある代わりに危険な特性であることは間違いないの 」

 

「その代わり上手くいけば、その特性を使ってジェラルド達『タラニス』の計画を十分に阻止できる。ですよね? 」

 

頷くラミアを見て護はふっと口元を緩ませる。

 

「分かりました。あなたの代わりに僕と哀歌と美希で行ってきます…….本当なら高杉の奴持つも連れて行きたいけど………あいつはまだ寝てるみたいだし…….. 」

 

「「ちょっとまったぁ!!」」ここで2人の声が重なったのを聞いて首をかしげる護。この場に男は上条と自分しかいなかったはずなのだが?

 

「俺だけ置いていくってのは薄情だぜリーダー。俺は『ウォール』のメンバーなんだ。厄介事には最後までついていく 」

 

「俺もついていくよ。俺の『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』がどこまで役に立つかは分からないけど………『禁書目録(インデックス)』を助けるためにも元凶倒さなきゃいけないわけだしな 」

 

高杉と上条の2人の参加によって、セルフィの捜索隊は数を増やすことになった。

 

「それでセルティって子はいったいどこにいるんですか? 」

 

護の言葉にラミアは部屋にかけられている世界地図の一角を指し示す。その指の先あるのはアイルランドの隣の島国。すなわち………

 

「グレートブリテン北アイルランド連合王国、イギリスにセルフィはいる……..正確にいえばイギリス清教、第零聖堂区『必要悪の教会』管轄下の倫敦(ロンドン)塔にね 」

 

その言葉が意味するのは……….

 

「つまり………. 」

 

哀歌がその言葉の意味をストレートに言い表す。

「私達にイギリス清教と……..真正面からガチンコをやれっていうの? 」

 

 

 

 

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