とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある組織の共闘要請

「なんだかんだでここまで来ちゃったけど、あそこに入るのって本当に可能か? 」

 

イギリス清教における暗部とも言える『必要悪の教会』管轄下の倫敦(ロンドン)塔まで高杉の『無限移動』でやってきた護たちだったが、来たのは良いが中に入ることができずにいた。

 

別に、警備が厳重すぎるとか、魔術師と出くわしたとかいう訳ではない。そうではなく、当たり前すぎることで護たちは足止めを喰らっていた。

 

「考えてみれば......倫敦(ロンドン)塔は表向き、普段は一般に公開されてるんだったっけ 」

 

ロンドン塔は、中世に立てられた城塞であるが、同時に数々の人々の血を吸った処刑場、牢屋でもある。そんな血なまぐさい城ではあるが、その歴史的価値から世界遺産に登録されていてるため、普段は一般公開されており、世界中から観光客が訪れている。

確かにその血なまぐさい歴史はともかく、歴史を感じさせる外観は多くの人を魅了する。

 

ただし、それはあくまで表向きの話であって実際は現在でも、対魔術サイド専用の牢屋、処刑場としてこの城は使われているのだ。

 

「確か『禁書目録(インデックス)』の頭の中の資料によると、この塔の中の『隠し部屋』にセルフィは捕らえられてるんだよな? 隠し部屋って.......フレイヤ城にあったやつみたいなものか? 」

 

上条の言葉に哀歌は首を振る。

 

「あの城の隠し部屋は純粋に『部屋』だったけど.......この城における隠し部屋とは........『隠し牢屋』と言ったほうが正しい.......表に出せない者達を封じておくための部屋になるから 」

 

この城塞は敷地の中にいくつか建物を備えており、城だけで成りたっている訳ではない。

 

血染塔(ブラッティータワー)、黒塔(ブラックタワー)、ミドル塔、ベル塔、塩塔(ソルトタワー)、ビーチャム塔などの塔と、兵舎、礼拝堂などの施設に加えて、本丸の城にあたる『白塔(ホワイトタワー)』を加えた全てが倫敦(ロンドン)塔となるのだ。

 

「それで、その隠し部屋がこの敷地のどの建物の中にあるかなんだが........そればっかりは禁書目録(インデックス)にもわからないらしい。おそらくイギリス清教にとって不利に成りかねない情報は記憶として残してないんだろうな...... 」

 

 となると、当然ながらこの敷地の中を探し回らなければならないわけだが、あいにくと今は昼間。堂々と探っていれば、不審がられてしまうだろう。もっともイギリス清教も一般人が見学している時間帯に堂々とこの施設を利用するのは避けるだろう。

 

「こうなったら、日が沈むまで市街で待機して、倫敦(ロンドン)塔から一般人がいなくなりしだい先入して調べるしかないな 」

 

高杉の言葉に上条は首を振る。

 

「いくら夜に人がいなくなるからってダイヤモンドとかも展示されてるんだから監視カメラとか防犯装置とか付けてあるんだぜ? そういうのどうするつもりだよ? 」

 

「そこは私の出番よ 」

 

美希は自分の前髪に電気を発生させながら言う。

 

「私の能力を使って、そういった電動式防犯設備は全部無効化できると思うわよ 」

 

「そっか、美希はビリビリの従姉妹で同じ力を持ってたんだっけな 」

 

関心する上条。彼は事実を知らないゆえに軽く言っているが当の本人にとっては重い話である。

 

「よし、そうと決まったらさっそく実行に移そう。閉館時間まで市街で自由行動。なにかあったらすぐに携帯で連絡するように! 」

 

てなわけで、護たち5人は定刻まで時間を潰すことになったのだ。

 

護は哀歌と連れ立って、市街を歩いていた。元の世界では一度も海外にでたことの無い護にとってはイギリスの風景は本気で新鮮だった。

 

「この近くだと、大英博物館があるよね。僕はそことか見学したいな 」

 

「いまだに緊張状態は続いているのに......のんき過ぎない? 」

 

「どの道、焦っても事態は好転しないだろ? 時間までは割り切って楽しもうよ 」

 

そう言った護だったが直後、彼の表情が強張った。哀歌の表情も張り詰めている。

 

2人に緊張をもたらす原因がなにかといえば目の前に広がる風景を見れば分かるだろう。

 

「この不自然なほど無人な風景.....まさか、これは! 」

 

「『人払い』の術式....まさか、もう『必要悪の教会』に悟られたの? 」

 

両腕を竜人に変化させ、警戒する哀歌。

 

最高に、警戒する2人の前に現れたのは...........

 

木製の杖(ステッキ)をついて、学生服の上からフード付きのマントを羽織る少女だった。

 

一瞬場を沈黙が包み込み、一呼吸おいて双方から言葉が飛んだ。

 

「きみ.... 」「あの... 」双方喋りだしたところで重なり再び黙ってしまう。

 

「.......君から要件をどうそ 」

 

「あ......はい。私の名はナタリーと申します。魔術結社『救民の杖』に所属しております。あなたがたに話したいことがあってこんな方法を取らせていただいたことお許しください 」

 

しっかりとしたアクセントの日本語を話す外国人少女 (瞳の色が青であることからの判断) にすこし戸惑いながらも護はナターリーに向き直る。

 

「話したいことっていうのは? 」

 

「はい。あなたたちがやろうとしていることに私達を混ぜていただけないかという話しなんですが..... 」

 

「僕達がやろうとしていること? なんのことかな? 」いくら相手が丁寧な態度で接触してきたとしても、それですべて信頼できるはずがない。ましてや護たちは学園都市の暗部構成員である。

 

「警戒されるのも無理ありません。ですが私はイギリス清教に協力はしていません。だいたい協力しているなら、わざわざあなたたちと接触せずに通報したほうが早いです。私は.....いや、私達はあなた達と同一の場所を狙っているのです.......この国唯一の裏側専用の牢屋を 」

 

裏側専用の牢屋。この言葉が指し示す場所は一つだ。すなわち倫敦(ロンドン)塔である。

 

「な? 僕達はともかく、なんで君達が倫敦(ロンドン)塔を狙うんだ? 」

 

「あなた達と同じです 」

 

「同じ?.....まさか、仲間が捕らえられている? 」

 

ええと頷くナタリー。

 

「あの塔には、私達のリーダーが捕らえられています。私達はそれを取り戻したいのです。その為に『吸血鬼セルフィの奪取』を目指すあなた達に協力させてもらいたのです 」

 

なるほどと護は納得した。

 

リーダーを失った彼らは、それを取り戻さなければ組織として機能しなくなりかねない。だから確実にリーダーを助け出す為に護たちの協力を必要としているのだろう。

 

「もう1つ聞かせて欲しい、僕らの目標をどうやって知った? 」

 

「私達は、世界のあちこちに拠点を持ちます。そのうちの1つ、アイルランド支部からの情報からです 」

 

「たまげたな....... そんなにデカい組織なのか君達は 」

 

護は素直に驚愕していた。もし彼女が言っていることが本当であれば、『救民の杖』はかなりの規模を誇る組織ということになる。それだけの組織は1年か2年で作り上げられるものではない。

 

「私達、『救民の杖』のルーツは十字教における『旧約聖書』、私達ユダヤ教における『聖書』の中に出てくるモーゼの跡継ぎ『ヌンの子、ヨシュア』が率いた『杖部隊(ステッキ・コマンド)』にさかのぼります。この部隊はモーゼの弟のアロンが持っていた『救民の杖』と呼ばれる杖を守護する役目を持った精鋭部隊でした。安住の地、エルサレムを持ってからも部隊は存続し続けました 」

 

ナタリーは、一息ついて話を進めた。

 

「ところがバビロニア帝国という国の侵略を受けてユダヤ人国家の『イスラエル王国』は壊滅。多くのユダヤ人が捕虜となってバビロニアに連れていかれた......これを『バビロン捕囚』と言うのですが、この出来事によって『杖部隊(ステッキ・コマンド)も一時消滅しました。しかし、バビロニア帝国が滅ぼされたことによってユダヤの人々はイスラエルの地に戻ることができました。それに伴い『杖部隊(ステッキ・コマンド)』は復活し、その後、とある男が現れるまで存続し続けました 」

 

「ある男? 」

 

「現在、もっとも多くの信者を抱える一大宗教の教祖さまと言えば分かりませんか? 」

 

もっとも多くの信者を抱える宗教........それを指すのはたった一つだ。

 

「十字教........ 」

 

「ええ、その男を『神の子』と崇める一大宗教の誕生によって『杖部隊(ステッキ・コマンド)を含めた『ユダヤ教』自体が『神の子を殺したものたちの集まり』とされるようになってしまったのです。その為に『杖部隊』のようなユダヤ教を象徴するような勢力は時の十字教各派閥のトップに睨まれ、次々と潰されて行きました。そんな中、『杖部隊』は地下に潜伏し、十字教に対向する為、部隊の組織化を進め、やがて名を『救民の杖』と変えました。幾度となく........特に魔女裁判などを行なう『イギリス清教』、最大宗派である『ローマ正教』と戦い、それを経て『世界最大の魔術結社』と呼ばれるようになったのですが、今から10年ほど前、私達の主力はイギリスで、ある男によって一方的に蹴散らされ、リーダーをさらわれたのです! 」

 

護は首を傾げた。ナタリーが話していたことを信じるとして、それほどまでに巨大な組織の主力を個人で蹴散らすことができる人間がいるだろうか?

 

そこまで考えて、ふと護は思い出した。10年前、イギリス、そのキーワードに繋がり、なおかつ個人で組織を相手取れる力を持つ男。

 

「後方のアックア........いや、ウィリアム・オルウェルですね? 」

 

「?.......後方の......かどうかは知りませんが、確かにその男です。イングランド出身の魔術的な傭兵であるその男は我々とイギリス3代派閥の1つ『騎士派』との戦いに介入し、見事に我々を打ち負かしました。 しかし、今、彼はイギリスから姿を消しています。その為、あの男がいない今がチャンスなのです 」

 

かなり、色々と厄介な事になってるな?と内心ため息をついた護だったが良く考えれば、この申し出を断ることもないと思い直した。

 

彼女たちが自分たちを利用したいのは間違いないだろう。

 

だが、彼女たちとの共闘はこちらにとっても有難い話である。

 

ラミアは『自分たち、十字教徒に救う事は出来ない』と言っていた。だがナタリーたちは、ユダヤ教だ。その枠には縛られない。

 

「わかった......その申し出を受けるよ。その変わり、君たちが知っている情報を提供してほしい、後から仲間を集めてまた会いたいから集合場所を決めてくれないか? 」

 

「分かりました......では夕方5時に喫茶店『カバラ』にきてください。場所は×××です 」

 

ナタリーは一礼して最後にこう言った。

 

「本当に噂に聞いたとおり、善人なんですね.....正直、感動を覚えました 」

 

それだけ、言いのこして、ナタリーの姿は暗がりに消え、再び目の前の景色に人が戻ってきた。

 

「ねえ、護。奴らを信頼して良いの? 罠かもしれないよ? 」

 

「大丈夫だよ。たとえ罠だったとしても哀歌がいるから 」

 

護の言葉に赤面し、下を向く哀歌。そんな姿に微笑しながら護は市街に広がっている仲間たちへと連絡を取る為無線機に手を伸ばした。

 

数時間後、護たち『ウォール』メンバーは集合場所に定めた大英博物館の前に来ていた。この非常時で無ければゆっくり見学していきたいところだが、今はそうはいかない。

 

「つまり、その『救民の杖』って組織も俺たちと同じ目的で動いてるっつーことか 」

 

「しかしね?、アンタ、良く申し出を引き受けたわね。これが罠だったらどうするのよ? 」

 

「罠だとしても、自分達『ウォール』なら食い破れると信じてる 」

 

護は、上条に視線を向けた。

 

「上条.......ここから先はきっと厳しい戦いになる。正直、全員が生きて帰る保障なんてない。それでも来てくれるか? 」

 

「そんなの決まってんじゃねえか。友人(ダチ)の頼みをそう簡単に断れるかよ。それに俺の右手が必要なんだろ?だったら行くしかねえよ 」

 

上条の言葉に、やはり主人公は違うな.....と感じさせられた護だった。

 

「護.....嫌な感じがする。ここから離れた方が良い 」哀歌に唐突にそう言われ、周りを見渡す護だったが目の前の光景におかしな所は特にない。

 

「どうしたんだよ哀歌? 」

 

「誰かが魔術を発動しようとしてる、それもかなり大掛かりな術式を......禁書目録(インデックス)がいれば何の術式か解けるのだけど 」

 

「大掛かりな術式? 」そう護が呟いた直後だった。

 

ぱっくりと地面が口を開け、その場の全員を飲み込んだ。

 

「は? 」 「え? 」「なに? 」「うそ? 」「きた! 」

 

それぞれ声を上げながら、5人は地のそこに落ちて行った。

 

 

「ん......つてて.....痛っいな......みんな無事か? 」

 

「私は大丈夫 」

 

「私も大丈夫よ 」

 

「俺とこいつも大丈夫だ 」

 

「高杉のおかげで助かったぜ....... 」

 

どうやら全員、無事だったようである。

 

護は痛む頭を振りつつ、現在の状況を確認する。

 

どうやら自分たちはかなり地下奥深くに落ちてしまったようで上にある穴から見える光はかなり遠い。

 

だが、落ちた場所はえらくスペースがあり、また舗装された道のようになっている。まるで人の手によって作られたかのようだ。

 

なんというか、巨大な地下トンネルにいるような感じを受ける場所である。

 

「とにかく、この道を進んで出口を探そう。息が続く以上、どこかに入り口か出口があるはずだし 」

 

そう言って、歩き出そうとした護だったが直後、周囲の壁に異変が起こった。

 

「!? なによこれ? 」

 

周りの壁のあちらこちらに突然、血で塗りたくったような真っ赤な『???』という文字が現れたのだ。

 

「この文字は! みんな早くこの文字を消して! 」

 

慌てて叫ぶ哀歌だったが少し遅かった。

 

ボコッと壁の一部が、人形になり、壁から独立して動き出す。

 

その手に土塊から形作られた剣が握られている。

 

そんな奴らが周囲の壁から次々と湧き出してきた。

 

「こいつら、まさか......ゴーレムか? 」

 

「多分.......でも、こんなタイプはみたことがない 」

 

前方に迫りゴーレムの一体が、土塊から作られたライフル銃をこちらに向けた。

 

「まずい! 」とっさに右手から『超重力砲(グラビティブラスト)』を放ち、その一体を含めて前方のゴーレムをまとめて吹き飛ばした護だったが、敵は四方八方にいる。

 

周りに展開しているゴーレムからの一斉射撃が始まった。

 

哀歌が拳で頭を砕き、高杉が放つ機能性炸裂弾がゴーレムたちをまとめて吹き飛ばし、美希が放つ鉄球が10体まとめて粉々にし、上条の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』がゴーレムをただの土塊に戻しても.......敵の数は一向に減らない。

 

「くそ! 真の意味でゴーレムを無に帰せるのは上条だけだ。こいつらを倒すには術者を倒さないと! 」

 

とはいっても周囲を完全に、ゴーレムの群れに囲まれている状態ではどうしようもない。

 

「なら、俺の能力を使って前方限定だが道を開くか? 殺すことはできんが、時間稼ぎにはなるぜ 」

 

高杉が機能性炸裂弾射出機をゴーレムたちへ向けながら言う。

 

「いや、高杉の能力を使うとしてもこいつらを転移させる場所がない! ここは美希に頼もう 」

 

護の言葉に首を傾げる美希。

 

「美希! ここは地中だ、砂鉄を操って360度全方向に展開させてくれ! 前方以外の全ての方向で盾代わりに利用する! 」

 

「なんで前を開けるんだ? 」

 

上条の問いに護は自分の右手を振りながら答えた。

 

「あいつらにこの能力をぶつけてやる為さ。それに、哀歌の攻撃を当てる為でもある 」

 

そんなことを話している間にも、ゴーレムたちは距離を詰めてくる。

 

「行くわよ! 砂鉄展開! 」

 

瞬間、ぞわっと地面が動いた。地中に含まれる無数の砂鉄が美希の意思により、周囲に展開される。

 

「よし、こんどは僕らの番だ! 哀歌! 前方の敵を一掃するよ! 」

 

「分かった! 『竜の息吹(ドラゴン・ブレス)』! 」

 

「『超重力砲(グラビティブラスト)』!」

 

哀歌の前方に現れた魔法陣から放たれる強烈な光線が、護の超重力砲により信じられくらいの速度に加速し、一瞬で前方のゴーレムたちを消滅させる。

 

「今だ! 走れ! 」護の叫びを合図に、5人は一斉に前に向けて走り出す。

 

壁から湧き出してくるゴーレムたちを周囲の砂鉄で防ぎながら全力で走る5人。

 

どれだけ走ったろう。ふと気がつけば5人はおかしな空間にたどり着いていた。気付けばゴーレムたちの姿も見えない。

 

「あいつら.....諦めたの? 」

 

展開していた砂鉄を解除し、周りを黒く染める美希。

 

「いや、こんなところで奴らの攻撃が止むなんて不自然だ。きっと理由がある 」

 

そう言う護に、上条が声をかける。

 

「多分、あれが理由じゃねえか? 」

 

上条が指さす先、そこには1人の老人が座っていた。

 

漆黒のローブに身を包む、黒ヒゲの老人。

 

彼はその皺の刻まれた顔をこちらに向ける。

 

「ようこそ、儂の神殿へ 」

 

「あなたは誰? 」

 

哀歌の問に老人は簡潔に答える。

 

「『律法学者(ラビ)』だよ。アイルランド聖教に雇われた、祖国を裏切った哀れな老人さ 」

 

 

 

 

 

 

 

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