倫敦(ロンドン)塔でようやくクリスの最後の妹セルティに出会えた護たち。だが、これで解決とはならない。この塔からセルティを連れ出さねば、クリスを助けることはできないからだ。
「おい、護! 塔の周りに敵が集まり始めてる。早く逃げないとマズイぞ! 」
隠し部屋の入り口で見張りをしていた高杉が叫ぶ。
実際、血染め(ブラッティ)の塔(タワー)の周辺には、事情を察知した必要悪の教会(ネセサリウス)の魔術師たちが集まり始めていた。
「哀歌たちの陽動も限界か.........高杉! お前の『無限移動』で飛ばせるのは何人だっけ? 」
「触れなきゃ飛ばせないから、頑張って2人が限界だぜ? 」
とっさに考える護。2人が飛ばす限界なのなら、まず飛ばすべきはセルティである。問題はセルティと共に行くべき2人目を誰にするかだ。
「この場合は上条さんに行ってもらうべきかな....... 」
上条は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』という強力で摩訶不思議な力を持っている。だが、そんな力を持っていても、あくまでも上条は民間人である。
だが、おそらく上条は残ることを決めてしまうだろう。困っている人をほおっておけないのが彼の性格なのだから。
「(だが、上条さんを万が一にも死なせるわけにはいかない。それがアレイスターから課せられた任務でもあるからな )」
護が無理にでも上条たちを飛ばそうと、高杉に呼びかけようとした瞬間だった。
隠し部屋の入り口付近で凄まじい爆発音が響き、同時に護たちのいる牢屋に高杉が瞬間移動してきた。
「さすが高杉! 護の考えを読んでベストタイミングでかけつけるとは! 」
「馬鹿か美希! んなわけねえだろ。入り口に来やがったんだよ、例の赤髪神父が! 」
赤髪神父と言われて、連想されるのはただ1人しかいない。
「高杉! 上条とセルティをラミアさんの修道院に飛ばせ! 早く! 」
護の声に急かされるように、高杉の両手がセルティと上条に片手づつ触れられる。
「おい、護........ 」なにか言いかけた上条に向けて護は頭を下げた。
「ごめん、上条 」
瞬間、吸血鬼セルティと上条は倫敦(ロンドン)塔から姿を消した。
「おやおや、また君たちかい? まったく何度僕の前に敵として現れるつもりなんだ? 」
隠し部屋に堂々と入ってきた赤髪神父こと、ステイル=マグヌスは護たちを一目みるなり言葉を吐き捨てた。
「インデックスの件で君たちには借りがあるから戦いたくはないんだが........なぜ、こんな大それたことをした? 返答しだいでは......... 」
懐に入れてあるルーンのカードを取り出し、真上に掲げるステイル。
「君たち相手でも容赦なく燃やし尽くす 」
轟という音と共に業火が部屋を赤く染める。
「まってくれステイル! こんな事をしたのはインデックスにも関係しているからなんだ! 」
護の言葉ステイルの眉がピクリと動く。
「どういうことだ? 」
「僕の仲間が巻き込まれた問題が、インデックスにも関係してたんだよ! 」
一部始終を話す護。話を聞いたステイルは苦々しい表情を崩さないまま告げる。
「あの子の為に動いているというならば、僕は君たちを処断できない。僕が最大主教(アークビショップ)に事情は説明しておく。君たちはこの塔の裏口から脱出しろ。僕が案内する。そこの魔術結社の奴らも一緒にだ。本来なら、灰にするところだが、今回はそうするわけには行かないからな 」
ステイルの厚意 (インデックスが絡んでいるからだが)に素直に感謝し護たちは、塔の外に出る為、ステイルの案内で裏口に向かう事となった。
そのころ、陽動をかってでた哀歌とダビデはいまだ奮闘していた。
「火竜の怒りは大地を焦がす! 」哀歌の叫びと共に彼女の手から業火が火炎放射器のように放たれ、無数の魔術師たちの体を焼く。
「行け! 我が兵士たち! 汝らが敵は目の前だ! 」律法学者(ラビ)、ダビデの指示の元、次々と現れる石造りの兵士たち、ゴーレムたちがプロの魔術師たちに次々と襲い掛かる。
護たちの突入時から見事な陽動を行っている哀歌とダビデだったがそろそろ、その陽動も限界に近づきつつあった。
「おい、怪力女! 敵の戦力が『血染めの塔(ブラッディ・タワー)』に向きつつあるぞ! そろそろ陽動も限界じゃないか? 」
ゴーレムの兵士たちに絶え間無く指示を出しながらダビデが叫ぶ。
「確かに陽動はもう無意味........本来は護たちの協力に向かうべきだけど.........この状況では向かえない............. 」哀歌がそう言うのも当然で、ダビデと哀歌の周辺を二重三重に魔術師や騎士たちが囲んでいる。
どうやら急を聞いた『騎士派』の人間も駆けつけてきたようだ。
「ダビデ.......あなたは、ゴーレムを使役できるのだから、地に逃げることはできる? 」
突然の哀歌の問いかけに虚をつかれつつもダビデは首を縦に振る。
「確かにできるが.......なぜ、そんな事を? 」
ダビデの言葉に哀歌は薄く笑う。
「あなたを巻き込みたくないから.......これから私の力を全力で行使するわ......でもこの力は制御がききにくい、だから、あなたにこの場にいてもらっては困るの...... 」
「しかし、それを言うなら護たちは....... 」
「大丈夫..... 」
哀歌は血染めの塔を見つめ言う。
「護の気配はもう倫敦塔(ロンドン)塔から離れてる、他の仲間の人たちも......だから心配はいらない..... 」
そう言われてもまだ納得のいかない表情をを浮かべるダビデに向けて、哀歌は右手の親指を立てグーサインを作る。
「大丈夫よ.....私は普通じゃない.....『怪物(モンスター)』はそう簡単には倒れないから。だから早くこの場から離れて 」
ダビデは哀歌を見、包囲する魔術師たちを見、もう一度、哀歌を見て、くそ!と吐き捨てた。
「いいか! 絶対に死ぬんじゃないぞ! 戻ったらお前に聞きたいことは山ほどあるんだからな! 」
それだけを言い、ダビデは地に新たな文字を書く。それと同時に生き残っているゴーレム兵士たちに最後の命令を下す。
「せめてもの助力だ! 我が兵士たち、勇敢なる少女の為に、己が全てを持って敵に向かえ! 」
その声を合図にダビデの真下に穴が開き彼を飲み込み。無数のゴーレム兵士たちが、魔術師たちに突っ込んで行く。
哀歌はダビデの厚意に感謝しながら、これから使う自分の力について心を揺らしていた。
「(本能に負けず『竜崎哀歌』として力を制御できるのは、持って10分、それを超えれば私は私でなくなる....... それだけは絶対に嫌だ。私は『人間』でいたいのだから..... ) 」
前方を見つめる哀歌。突入したゴーレムたちは次々と魔術師や騎士たちに倒され土塊と化していく。おそらく後数秒としないうちに自分に彼らの矛先が向けられるだろう。
「護たちが逃げれて良かった。逃げていなければ、きっと私が力を使うのを止めようとするからね。それに私が『怪物(モンスター)』となって敵を倒すところを護には見られたくない......護には『人』として見てもらいたいから 」
哀歌を中心になにか大きな力が広がっていく。その透明な力を感じ、思わず哀歌を見つめる包囲者の耳を哀歌の言葉が打つ。
「我が呪われた血よ! 深き深淵より目覚め、忌むべき力で敵を討て! 」
次の瞬間、哀歌を中心に莫大な閃光と衝撃波が放たれ、包囲者たちの視界を奪う。
霞む視界になんとか哀歌を捉えた包囲者たちは絶句した。もはやそこに少女は存在しなかった。
かれらの目に映ったの神話に出てくる存在。勇者たちに打ち倒される存在。規格外の怪物。
驚愕に瞳を開く包囲者たちに、怖るべき怪物がその牙を剥いた。