とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある戦の最終結末

「く! みんな避けて! 」 セルティの叫びに他の4人が反応するより早く宙に浮かぶ棍棒が容赦なく5人の真上に振り下ろされる。

 

振り下ろされた先にいるのは、美希と高杉。

 

「高杉! 」 「分かってる! 」

 

高杉が美希の手を取り、瞬間移動で躱す2人。

 

「面倒な力だな......攻撃が当たらんではないか 」

 

「あいにくとあんたの攻撃を受ける義務なんてないもんでな! 」

 

高杉が放つ拡散弾を不可視の壁で防ぎつつ、ジェラルドは指をパチン!と鳴らす。

 

次の瞬間、突如現れた3つの棍棒が高杉と美希、セルティと上条、ダビデ1人で分散していた5人に振り下ろされる。

 

「起きろ第7柱『伯爵アモン』! 」

 

ダビデの声に応えるように、地中から出た馬鹿でかい手が棍棒を抑える。そのまま地中から這い上がってくるかのように巨大なゴーレムが姿を表す。

 

それと同時に、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって上条とセルティを狙っていた棍棒は打ち消され、高杉と美希を狙った方は虚しく宙を叩いた。

 

「行けアモン! 汝が力を全て用い、我の敵を滅せよ! 」ダビデの言葉に従い、巨大なワタリガラスの顔を持つゴーレム『アモン』がその巨体を揺らしながらジェラルドに向かっていく。

 

「ゴーレム使いだと......そうか貴様が情報にあったユダヤ系魔術結社の構成員か! 」

 

残っている高杉たちを狙っていた棍棒がゴーレムアモンに向かう。

 

「俺オリジナルのゴーレムを舐めるなよ 」

 

その棍棒をアモンは右手に出現させた炎剣で切り裂いた。

 

「あんたのその棍棒。確かにオリジナルのようだが分身させている以上どうしても力は弱くなるらしいな。俺の使役する72体のゴーレムの内の7番めでも切れるほどに 」

 

ゴーレム『アモン』がその口を大きく開く犬歯が煌くその奥から真っ赤な業火が迫ってくる。

 

「そんな単純なことに気づかないのか? それとも気づいてたのに後回ししてたのか? どの道これで1つ分かった。 あんたは倒せるってな! 」

 

イヌとカラスの混じったような叫びと共に『アモン』の口から真っ赤な業火が放射される。

 

凄まじい業火に不可視の壁を作る暇もなく慌てて右に転がるジェラルド。

 

血走った目でダビデを見るが、その使役するゴーレムと共にその場を動かないのを見て、口元を歪める。

 

「仲間を救いにきてその仲間の存在に縛られて思ったように戦えないとは、ちょっとした喜劇じゃないか 」

 

その言葉に怒気を放つ高杉や美希だが、どうしようもできない。ハッタリか本当か解らないが、実際問題クリスは十字架に捕らえられている。もしこの十字架に魔術師であるジェラルドが細工をしていれば近づいた時点でクリスが処刑される可能性も無しとは言えないのだ。

 

「要は近づかなければ良いのよね? だったら! 」

 

美希が上着のポケットから鉄球を出そうとするのをセルティが止める。

 

「まって美希さん。 たとえ父さんがクリス姉さんの十字架になにか細工しているとしても、近づいたら自動的に処刑されるというのはハッタリだと思うわ。だってクリス姉さんを失えば父さんの計画は無意味になってしまうもの。だから父さんも無闇に姉さんは殺せないはず。父さんを倒しさえすれば終わるはずよ 」

 

「ふん、忌々しい娘めもう気づきおったか 」

 

自分からハッタリを認めた上でなおジェラルドは余裕の表情を崩さない。

 

「だが、たとえハッタリだったと分かった所で戦況は変わらない。ここに居る限りな 」

 

「ほざけ! ハッタリと分かった以上貴様を殺して終わりにしてやる! 」

 

ダビデの怒声に同調するかのように雄叫びを上げ、ゴーレム『アモン』が炎剣を持ちながらジェラルドに向かう。

 

「確かにそのゴーレムは強い。それは認めよう。だが、ここではそれが頂点となることはない 」

 

ジェラルドの言葉にダビデが首を傾げたその瞬間、突進していた『アモン』を巨大な拳が一撃で吹き飛ばす。その手は巨大ながらゴーレムのような人工の感じを受けない。まるで生き物のような、それでいて生命を感じさせない。そんな妙な感覚を与える腕。その一撃を喰らわせたのは。

 

「邪眼のバロル。 巨人の一族フォモールの王にして。死を司る巨神だ。今の私とやり合うということは、こいつを始めとする神話そのものと戦うことを意味する 」

 

ジェラルドの言葉も終らない内になにもない空間から次々と異形の者たちが姿を現す。

 

「さすがにダーナ神族を再現させるのは難しかったがフォモール神族なら再現はできた。ここで戦う限りお前たちに勝ち目はない。 神族に勝てる人間など現実には存在しないのだから 」

 

神話上でダーナ神族に破れ滅びた筈の者たちが一斉に5人に狙いをつける。

 

「それでも戦うしかない....行くぞ! 」ダビデの声を合図に5人は目の前の敵を潰すため突撃する。仲間を救うという自らが掲げる目的のために。

 

 

 

同じ頃、地下の別の部屋ではアイルランド神話における神であるルーが目の前の光景に戸惑っていた。自分がその全力を持って投げた名槍ブリューナクは間違いなく護に突き刺ささる筈だった。満身創痍の護に力を使う余裕など無く。また避けることも出来ない。間違い無く死ぬ筈だった少年は未だ目の前に存在する。

 

「少年。君はいったい....... 」

 

ルーの言葉に護は答えない。ただ瞳を向ける。その時ルーは戦慄した。護の向けた瞳は真っ赤に染まっていた。充血している目ではない。目の細胞全てが赤の色素をもったかのような瞳。

 

「ウヴォォォォォォ!! 」異次元獣の雄叫びを思わせるような叫びと共に神であるルーの体が一気に後方に吹き飛ばされる。

 

「く!? 」2、3部屋をぶち抜いて吹き飛んだルーは態勢を立て直そうとするが、それよりも早く護の拳が連続して打ち込まれる。

 

神であるルーでもその拳による攻撃をまともに視認できないという状況にルーは混乱していた。

 

しかも、その一撃一撃はルーに物理的のみならず霊的なダメージまで与えているのだ。そんなことはいくら超能力者でも不可能なはずである。

 

「(この少年は学園都市の超能力者だったはず。だが、そうだとするといったいなぜ? )」

 

そこまで考えた所で護が突然攻撃の手を止めた。

 

これ幸いにと離れるルー。

 

護は己の右手でピストルの形を作る。

 

 その先の空気が揺らぎ、妙な黒き光の玉が作られていく。

 

その姿に訝しげな表情を浮かべるルーは直後護の顔を見て驚愕した。

 

彼は笑っていたのだ。

 

ルーがブリューナクを投げるのと護が右手から黒き光線を放つのはほぼ同時だった。

 

ルーが投げたブリューナクと光線がぶつかり合うと思われた時黒い光線と接触したブリューナクの穂先が消えた。そしてそのまま槍自体を消しさったまま光線は突き進む。

 

ルーが高速移動で宙に飛んだのと同時に光線が今までルーがいた場所を消しさり、そのままの勢いのまま地に綺麗な大穴を開ける。

 

しかしそれ以上は続かないらしくそれで終わる。

 

ルーは今の攻撃の正体をすぐに看破していた。

 

護は重力使いである。そして重力により引き起こされるもっとも強力な事象はブラックホールの発生である。

 

本来ブラックホールとは太陽などの大質量の恒星が超新星爆発をした後、自己重力によって極限まで収縮されできるものとされている。

 

だがそのセオリーを目の前の少年は全く無視して小規模ながら形をとったブラックホールを作り出している。

 

それはもはや人の域を超えている。

 

そこまで考えてふとルーは先程護が叫んだことに思い立った。

 

『僕が来たことが.....この世界をこうしてしまったのなら....僕が責任を取らなきゃならない 』

 

この言葉を文字通り受け取るとしたら目の前の少年は『この世界の住人』ではないということになる。

 

ルーは直感した。この少年は異世界からの来訪者ではないかと。

 

異世界でどんな存在であったかは解らないが、今の少年は明らかに人間の定義から外れている。

 

そして、今の護には、なにかをしようとする意思が感じられない。ただ『目の前の敵に対し力を行使する』という本能のようなものに従い、力を解放させているに過ぎないのだ。

 

このまま放置していれば少年はこの世界の全てにとって害悪となり、世界を牛耳る者たちによって排除されてしまう。

 

それを止める方法はただ1つ。護が備える霊的及び科学的力の核を強力な力で押さえ込みコントロールすることである。

 

それによって今回のような瀕死になったときの暴走を抑えられれば護はまだこの世界で生きられる。

 

だが潜在的ながら強力な護の力の核を抑え、コントロールするのは並み大抵のことではない。

 

それをすることは、人には不可能だ。そう人には。

 

 

「私なら、恐らく少年の核を制御できよう。だがその行為は主人に対する反逆を意味している 」

 

護が連射するいくつものブラックホールをかわしながら、ルーは呟きつづける。

 

「だが、そもそも私は祖父を殺し、一族を滅した反逆者である罪人.....主人への反逆は私の運命(さだめ)なのかもしれん。ここで彼と出会ったこともまた運命なのかもしれんな。彼の中に生き姿なき神となることは私にとって最良の選択なのだろう。私はこの姿を保ちすぎた 」

 

ルーは己の周囲に護により消されたはずのブリューナクを複数出現させる。その数8本。

 

「封じよ! 」

 

ルーの声に応じ8本の槍が稲妻に転じ護を囲むように周囲8箇所に突き刺さる。

 

その途端、8本の槍から8つの真紅の光が伸び護の動きを抑える。

 

ルーは、自らの体を輝かせ、自分の体を目的に最適なように変えていく。

 

「少年。 今のままの君ではこの世界で生き続けるのは不可能だろう。だから私が手を貸す。君が元の世界に戻れるまで私が君を支えよう。だから君は君の信義を貫き通せ。クリスを助けるのだろう? 」

 

聞こえるはずもない問いを呟き、ルーは自らの体を真紅の光玉に変える。

 

そのまま光玉は真っ直ぐ護に突き進み護の体に入り込む。

 

一瞬、顔を歪め雄叫びを上げる護だがそれはほんの一瞬だった。

 

護の目を染めていた赤は消え、『古門 護』が戻ってくる。

 

「いったい......僕は...... 」

 

護は周りを見渡し、自らに止めを刺そうとしていたはずのルーの姿を探すがどこにも姿を確認できず首をかしげる。

 

その護の肩がポンと叩かれた。

 

慌てて後ろにふりかえる護の目に映るのは執事長ベネット。

 

「なぜ、その姿に? まだ僕に止めを刺してもいないのに..... 」

 

「あなた様は、気づていらっしゃらないのかも知れませんが、私とルーとコインの表・裏のような物でございます。私はエバーフレイヤ家によって神であるルーに付属された『作られた人格』なのです。いわば私は本来姿を持たない神の『器(うつわ) 』と言えるでしょう。そしてルーがその器から離れあなたの中に入ったことによりわたしの存在意義はなくなったのでございます 」

 

ベネットはゆっくりと右手を上げる。その途端、彼の右手にフラガラッハが現れた。

 

「ここで私の役目は終わります 」

 

その言葉を合図にベネットはフラガラッハを振りかざし護に斬りかかる。

 

その時、護の右手はとつぜん槍を握った。真紅の槍。その槍の名はブリューナク。

 

驚く間も無く、まるで操られているかのように腕が動きブリューナクを突き出す。

 

突き出されたブリューナクはフラガラッハを貫通しベネットの体に突き刺さる。

 

「なぜ...... 」

 

「これは....私の希望でもあるのです。私がお使えしたエバーフレイヤ家第1継承者であるクリス様の為に動きたい気持ちもありましたが、私は......あくまでも器。ルーがジェラルド様に......忠誠を誓う以上私がクリス様をお救いすることは不可能でした。ですが.........今ならそれが出来ます 」

 

ベネットは、その震える右手で執事の燕尾服のポケットからなにかを取り出す。

 

その小さな箱のような物の名はオルゴール。

 

その蓋がひとりでに開き、メロディが流れ出す。そのメロディはモーツァルトの『鎮魂歌(レクイエム) 』

 

「私があの方にしてあげられる最後の御奉仕がこれです........護さま。約束してください.......クリス様をこれからもずっと『仲間』として守ってくださると.....お願い致します..... 」

 

その言葉がベネットの最後となった。その体が地に倒れ伏せ、その魂を送るレクイエムが悲しき音色を響かせる。

 

「なんで.....こんな,...僕にどうしろって言うんだよ.....自分だけでは仲間の1人も救えない僕に.....そんな約束果たせるわけがない......なんでこんな風に終わらせちゃうんだよ! 」

 

護の叫びに答える声はなく、ただ悲しげなレクイエムの音色だけが流れ続けた。

 

 

時間を遡ること数分ほど前、護以外の5人はジェラルドの使役する神話上の怪物たちと戦闘を続けていた。

 

「消えされ怪物! 」

 

美希が放つ『超電速射(レールバルカン) 』が一度に複数の巨人の頭を貫き絶命させる。

 

だが倒したそばから新たな巨人が空間から滲み出るように現れる。

 

「これじゃあ....きりがないじゃない! 」

 

「まったくだぜ! いったい何体倒せば良いんだよ!? 」

 

「喋っている暇があったら戦え! 」

 

ため息をつく2人をダビデが怒鳴りつける。

 

彼はすでに10体以上のゴーレムを同時に操って戦っている。

 

その操るゴーレムたちは獅子奮迅の戦いぶりを見せ、巨人たちを始めとする怪物たちと互角の戦いを演じているが、ダビデの魔力も無限ではない。

 

現にゴーレムたちの動きは鈍り始めていた。

 

対照的に魔力を気にする様子もなく、怪物たちを倒しているのはセルティ。

吸血鬼であるセルティは不死である為に生命力を変換させてつくられる魔力が涸渇することがない。

 

セルティは魔力を利用することによって元より人離れししている吸血鬼の身体能力をさらに強化しその細い腕から放つ一撃で、自分の数倍もある怪物たちを軽く吹き飛ばし、倒した巨人が持つ巨大な武器を振るい怪物たちをまとめてなぎ倒している。

 

また、上条も自らに襲い掛かる怪物たちの攻撃をぎりぎり避けながらその右拳の一撃でダメージを与え倒していく。

 

だが、5人の奮戦にも関わらず邪眼のバロルを始めとする怪物たちの数はなかなか減らない。むしろ増えている。

 

「ふはは無駄無駄! ここにいる限り儂の倒すことなど不可能! せいぜいあがけばよいわ! 」

 

「抜かせ、この空間に仕掛けがあるのなら壊せば良いだけの事だ! おいイマジンブレイカー! どこでも良いから触れてみろ! 」

 

「お......おう! 」 ダビデに応え、足元の地面を護が触った瞬間だった。

 

なにかがはじける様な音と共に上条が触れた一定の地面にヒビが入り陥没していく。そしてそれと共に怪物をかたどったらしき銅像が飛び出し空中で砕け散る。

 

「そうか.....父さんはこの空間の真下に神話を象徴するものを配置することで、この部屋を小規模な神話世界にしていたんだわ! 」

 

「ということは、上条の右手で破壊して行けばいいんじゃねえか! 」

 

「ふん、この部屋の構造に気がつきおったか。だが気づいたとしてどうすることもできはせん 」

 

ジェラルドが指を鳴らすとクリスの周囲から滲み出すように槍を構えた巨人が左右に現れ十字架につけられたクリスにその槍先を向ける。

 

「次に破壊行為にお前たちが及べば、この娘(こ)は死ぬぞ 」

 

「父さんには、姉さんは殺せない! 計画の実現の為には姉さんが....... 」

 

「そう、主導神ダヌの特製をもつ『体』がな 」

 

ジェラルドの言葉にセルティの表情が強張る。

 

「まさか....... 」

 

「そうだ。前にも話したと思うが儂の計画に必要なのは女神の素質をもつ娘たちの体だ。 生きているにこしたことはないが別段それに拘ることはない 」

 

ジェラルドはその目線をクリスに向ける。

 

「いっそ、ここで貴様らの目標を砕いてやろうか 」

 

左右にたつ巨人が槍を大きく後ろに引いた。勢いをつけ敵を完全に絶命させる為に。

 

「クリス! 」高杉が飛び出そうとするが間に合わない。誰にも止められぬままクリスが殺されようとしたその瞬間だった。

 

とつぜん、部屋のどこからともなくメロディーが流れ出した。悲しくも厳かなそのメロディーの名はレクイエム。

 

ガキン! という鈍い音と共にセルティが投げた巨大な斧が槍を構える巨人の一体の体を両断した。

 

「覚悟! 」巨人が倒れてできた空白を突き、セルティは真っ直ぐジェラルドの元に突き進む。

 

「こしゃくな娘が! 」

 

その人外じみた威力を誇る拳を不可視の壁で防いだジェラルドはその手にもつ本物の神剣であるヌアダの剣をセルティに向ける。

 

「終わったな、我が娘よ 」

 

「そうね.....終わったわ。 父さんの計画がね! 上条さん! 地面を殴って! 」

 

セルティの叫びに、ジェラルドが目を見開くが、構わず上条は地面を叩く。

 

その途端、叩いた箇所に出来たひび割れが瞬く間に部屋全体に広がり、次々と陥没し、象徴物が砕け散る。

 

「バカな.....いったいなぜだ! なぜ象徴が全て崩される! たとえ『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の力をもってしてもこの部屋全ての象徴を破壊するなど不可能なはずだ! 」

 

「その理由、教えようか? 」

 

突然響いた声に、体を震わせ上を見上げるジェラルド。その目線の先、天井をぶち破って降りて来たのは『ウォール』リーダの護だった。

 

「バカな.....貴様はベネットと当たったはず。あいつと戦って貴様のような若造が勝てるわけがない! 」

 

「ああ、確かに僕はあの人には勝てなかった。 だがあの人は最後の最後に僕を殺さずクリスを助けることを選んだんだ。あの人はあんたへの義務より美希への忠誠を選んだんだよ! 」

 

「ふざけるな!たとえそうだとしても、いったいなぜ象徴をすべて破壊できた? 」

 

「あんたも聴いたはずだ。 流れ出したレクイエムを 」

 

「それがなんだと....... 」

 

「そのメロディーが、この部屋の地面に存在する象徴をラインで繋いだんだ 」

 

「なに!? 」

 

「執事長であるベネットは、あんたにこの部屋の準備を任された時、密かに細工を行っていたんだ。わずかな可能性を考慮して 」

 

ベネットが行った仕掛けについて護は知ることはできない。だがベネットと表裏の関係だったルーと一体化している事で護にはその全てが理解出来た。

 

「ベネットは直属の執事としてクリスに仕えていた。 そして一連の騒動の中でもクリスだけは救いたいと願っていた。だけど執事長という立場にたちあんたへ仕える義務をもつ以上その気持ちを封じ込めるしかなかった 」

 

だがベネットは護との戦いのはてにルーが護の中に生きることを選択したのを見てその意思を変えた。

 

「事態が、ジェラルドの計画にとって不利に進もうとしている今なら自分が守るべき人を救える。ならばそれを実行しようと ベネットは決意した」

 

そして、僅かな希望をもって用意していた仕掛けを発動させた。自らの死という引き金を引いて。

 

「この部屋の地下の象徴物たちは、一つ一つが独立して構成されていた。だから上条のイマジンブレイカーでもその全てを無効化するのは無理だった。だがそれが魔力的ラインで繋がれてしまえば上条の力で一撃で無効化できるんだ。そうでしょうジェラルドさん? 」

 

「なぜだ?......なぜ貴様がそこまで知ってる。なぜそこまで語られる!? 貴様は部外者。とつぜん介入してきた余所者のはずだ! なぜ? 」

 

「僕の中に教えてくれる存在がいるからだよ。ベネットと共にあったもう1つの存在が僕を救い。僕に事実をすべて教えてくれた 」

 

「まさか、ルーか? そんな筈はない奴は私たちに仕える義務があった。貴様などにつくはずがない! 」

 

『私が仕える義務があるのは、エバーフレイヤ家にだ。 ジェラルド、お前にではない 』

 

突然声が変わった護にジェラルドはもちろん周りで見守る5人も十字架から解放され意識を取り戻したクリスまでもが目を見開いて見つめる。

 

『お前がここまで来るのになにがあったかを私は理解している。お前の行動にある意味では正当性があることも 』

 

「理解しているなら、もう1度私に仕えなおせ! 」

 

『家族の全てを、イギリスと祖国の争いの中で失い。その復讐の為にお前は戦ってきた。そしてその中でエバーフレイヤの血を引くラミアと出会い、お前は彼女と結ばれエバーフレイヤの当主となった 』

 

「そうだ! 私は当主だ! よって貴様は私に仕える義務がある!」

 

『確かにお前が目指した復讐は当然とも言えるしだれにもお前を悪と断じることはできない。ただお前は一つやってはならないことをした 』

 

「なんだと? 」

 

『エバーフレイヤの人間に刃を向けたことだ。エバーフレイヤの血を引く娘たちを計画の為に利用しようとし、感づいた2人の娘を手にかけた。私はエバーフレイヤ家に仕える義務を持つ。お前のした事は私を敵に回すことだった 』

 

「なんだと!? 」

 

『だが私はそれでもお前を止めなかった。お前を止めようとする者たちが止められるかを見極める為に。 だがそれは叶いそうになかった。それで私は姿を現した。 今私が宿るこの少年のまえに。 そしてお前が疑わぬようお前を倒そうとしていた少年を消した上でエバーフレイヤ家への義務を果そうとしていた 』

 

「ならなぜ殺さなかった! 」

 

『少年を止める必要が生じたからだ。殺すのではなく止めて助けることを選択したのだ 』

 

「なぜだ? 」

 

『それを話す義理などない。それに私との会話に集中する余裕などあるのか? 』

 

「なんだと? 」

 

『そろそろお前の部下たちを倒したお前の妻が仲間と共にくる頃ではないか 』

 

その途端、天井に無数の穴が開き、そこから次々と聖騎士団と救民の杖のメンバーが降りてくる。その先頭は聖騎士団団長のラミア。

 

「ジェラルド。あなたの計画はもうお終いよ。神話の加護をなくした今のあなたではもう私達と戦うことも逃げることもできない。 もうここで終わりにしましょう 」

 

「君も私を悪と見なすのか、君は私の事を一番理解してくれていたじゃないか! その君でさえ今の私を悪と見なすのか!? 」

 

「私は確かにあなたを理解してた。だから一緒になって戦ってあなたと結ばれた。でもあなたは変わってしまった! 私が知っているジェラルドは他人を自分の道具のようにはけして扱わない人だった! あなたは復讐の為に変わってしまった。私の愛したジェラルドはもう遠い昔に消え去ってしまった! 」

 

ラミアはその手に持つ槍を握り締める。

 

「私はあなたを愛した。理解したつもりでいた。だけど私ではあなたの復讐の感情をあなたの心の傷を癒せなかった。あなたの気持ちを気づけなかった。だからこの結末を招いた責任は私がとる。 私があなたを殺す 」

 

ラミアは右手に持つ槍。グングニルの槍先をジェラルドに向ける。

 

「さようなら、ジェラルド 」

 

突き出されたグングニルはジェラルドが構えたヌアダの剣を砕き容赦なくジェラルドの体を突き抜け背中まで抜けた。

 

死に纏わる伝承につながるグングニルの特性によって刺さった箇所から強烈な勢いで老化が始まっていく。

 

すでに体の4分の3以上が老化しているジェラルドの口が僅かに動いた。しゃがれて途切れ途切れだかジェラルドはこう言い残したのだ。

 

『ラミア、すまん 』

 

それがエバーフレイヤ家当主であり魔術結社『タラニス』のリーダであったジェラルドの残した最後の言葉となった。

 

ついに全身が老化し、干からびたミイラのようななったジェラルドの体は次の瞬間には砂となり空中を流れていく。

 

それを漠然と眺める護の服の裾をだれかが引いた。

 

引いたのは、クリスだった。

 

十字架から解放された時のままの微妙にあちこちを強調した儀式めいた服装のままクリスは護に飛びついた。

 

「!? ちょ、ちょっと! 」

 

「ありがとう護くん! 私なんかの為に傷つきながら戦い続けてくれたんだよね? 本当にありがとう! 私、どうやってこの恩を返せば良いか迷っちゃうぐらいなのよ? 」

 

年頃の男子にとって異性からのこういったアプローチは強烈なことこのうえない。護ももちろん例外ではなく一瞬完全に硬直状態に陥ってしまったが、いそいで話題を変えることでなんとかそれから脱出した。

 

「でも、僕はクリスの父さんを結果的には殺すきっかけを作った。 いくら悪人だったとしてもあの人はクリスの肉親だった。ごめんクリス 」

 

「いいの......護くん。 私は確かに父さんを尊敬してたし、父親として愛していたわ。父さんも私を愛してくれていたと思う。でも父さんは私を計画の為に利用しようした。 それは悪い事でしかないわ。 だがら父さんがいなくなるのは寂しいけど私は護くんを憎んだりはしない 」

 

「ごめん.......そういえばどうするんだ? 僕たちは学園都市に戻ればおそらく『ウォール』としてまた活動することになるけどクリスはもう暗部組織用員となる必要はないはずだろ? 」

 

護は一体化したルーからクリスが学園都市暗部に入った理由を知らされていた。

 

父親であるジェラルドの影響下からクリスを逃がす為に学園都市と交渉したラミアに学園都市から亡命の条件として暗部の人間になることがあったのだ。

 

「私は、これからも護くんや仲間と一緒に『ウォール』の一員として一緒に戦うつもりよ。 だって仲間だもの 」

 

「本当それで良いの? 」

 

「うん 」

 

「ありがとう........ じゃあ、戻ろう。 僕達『ウォール』のあるべき場所へ! 」

 

護の言葉に、高杉と美希は拳を上げて応えクリスは大きく頷き立ち上がる。

 

その後、旅館で療養していた哀歌とも合流し、再びアイルランドに戻った護たちは残り1日しかない退座期間の中でクリスやラミアの案内でやっと旅行を満喫することができた。

 

そして出発の日、空港で護たちは思わぬ同伴者がいることを知る。

 

「セルティが学園都市に!? 」

 

「ええ、あの子あっての希望なの。後は私としての都合もあるのだけど 」

 

そう申し訳なさそうに言うラミア。

 

「ここアイルランドで母さんと一緒に暮らすのは私が吸血鬼である以上難しいの。 私は迷惑かけたくないからどこか十字教の影響が少ないところに行きたいんだけど、どうせ逃げるなら姉さんと一緒のところが良いの 」

 

「それで学園都市とコンタクトをとって許可されたのよ。特例としてね、その代償は暗部に入ること。その暗部組織の名は『ウォール』。向こうから直々に指定されたわ。あなたたちってあの街のトップから気にいられてるのかしら?

 

「じゃあ、セルティは僕達『ウォール』のメンバーとなって学園都市に来るんだね。 なんか女子の比率の方が大きくなってきているような...... 」

 

そんな護の呟きは誰にも聞こえることなく、ウォールは新しいメンバーを抱えて学園都市に戻ることとなった。

 

この先、自分たちをまつさらなる騒乱をこの時、護たちは知るよしも無かった。

 

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