「なんだァ、お前は? 」
「私の名は美希。あなたが殺しまくってる妹達(シスターズ)の姉に当たるかしらね 」
「姉?.......なるほど、お前もこのクソ気持ち悪いクローンどもの1人か。それにしちゃあ、やたらと感情表現が豊かだな 」
「私は彼女たちとは別ラインで生まれたからね。 当然ながら感情表現能力は他の妹達(シスターズ)と比べて豊かよ 」
美希は、その右手に握っていた複数のパチンコ球を空中に放り投げる。
「無駄話は命取りよ、第1位! 」
空中で超電速射によって放たれた複数のパチンコ球は音速を超える速度で砂鉄の壁をぶち抜いてアクセラレータに向けて突き進む.......が、常時全方向にベクトル反射を適応させているアクセラレータに通じるはずもなく、その全てが反射され、美希の後方にある地面に大穴を開ける。
「そンな程度じゃ、相手になンねえぞ? 」
「まだ私は全ての手を使っちゃいないわよ? 」
ニヤリと笑う美希は能力で砂鉄を操作する。そう、アクセラレータを囲む砂鉄の壁を。
アクセラレータの目の前で、彼を囲む砂鉄の壁が一斉に崩れ、彼からすこし離れた複数の場所。合計6箇所に纏まって展開する。
その動きに訝しげな視線を向けるアクセラレータに向けて、美希は歪んだ笑みを向ける。
「喰らいなさい、第1位 」
6箇所に展開した砂鉄の球から一斉に高速振動する砂鉄の塊、すなわち砂鉄弾がアクセラレータに向けて撃ち込まれる。
当然の如く、アクセラレータのベクトル反射に美希のこの攻撃は通用しない。
放たれた砂鉄弾は即座に反射され、渦を巻いて纏まっている6箇所の砂鉄球に直撃し、その中に『戻っていく』。
つまり、放たれ反射されても砂鉄球はダメージを受けず連射し続けられるのだ。
「てめえ......なにを企んでやがる? 」
「アンタに答える義務がある? 」
あいかわらず歪んだ笑みを浮かべ続ける美希。だが状況は良くはない。実際美希の攻撃は未だアクセラレータには一発も当たっていない。
にも関わらず美希の顔から笑みは消えない。まだ余裕を持っている。
「ねえ、第1位。 アンタ、灯台元暗しっていうことわざ知ってる? 」
「それがなンだってんだ? 」
「つまり、人は意外なほど自分の足元に転がる危険や罠に気づかないってことを言いたいのよ。ちょうど今のあなたがそうだから 」
美希の言葉にアクセラレータがなにか言葉を返そうとするが、それはなされなかった。
なぜならアクセラレータの立つ位置の周囲が突然切り取られアクセラレータの体はぽっかり開いた穴から地の底に落ちて行ったからだ。
美希が狙っていたのはこれだった。第1位のレベル5のアクセラレータに正面から攻撃しても力負けするのは火を見るより明らかである。
そこで美希はあえて派手な攻撃を連続して加え、そこにアクセラレータの意識を向けさせつつ密かに砂鉄を操ってアクセラレータの保護膜の恩恵を受けない足元の地面を狙ったのだ。
念のためにアクセラレータが落ちていった穴の内部に砂鉄を流し込み蓋をする美希。
「早くここを逃げましょう護。あの1位相手じゃ、私がした抑えも時間稼ぎにしかならないわ 」
「確かに第1位相手に、今の状態では不利だぜリーダー。 ここは引き上げてウォールの全員で対策を立て直した方が良いと思うぜ? 」
「まあ、確かにな。 話してる間にもまた来そうだし.....よし、総員A10に移動し集結だ! 」
そう言って、動こうとした護の腕を哀歌が掴んだ。既にその容姿は普通の少女に戻っている。
「護、私が時間稼ぎになる。あなたの技での効果を見る限り、多少にせよあの反射に異常を起こさせることができるのは魔術攻撃しかない。完全変化......私の第3変化を使ってアクセラレータを足止めしてみるわ 」
「無茶だ! たとえ魔術攻撃を使っても、あの第1位には通じなかったんだぞ! 」
「護の攻撃はね。だけど人の魔術と人外の魔術は違うでしょ?私なら効くかもしれない 」
「だけど......! 」
「あの1位は学園都市という科学サイドのトップを象徴する怪物よ。怪物と当たるのは怪物が良い。 それにリーダーにはウォールの皆と共にいる義務がある 」
「それなら、なおさら..... 」
「現実を見て!今の状況じゃあどうやっても生贄がいるのよ。 護は優しすぎる.....暗部に生きる組織のリーダーとして、もう少し冷徹に、部下の1人くらい非情に見捨てるような思考を持ちなさいよ! 」
哀歌の言葉に、護は唇を噛むが、噛んでなにか状況が変わるわけではない。
「.........分かった。逃げることにするよ 」
その言葉に安堵の表情を浮かべる哀歌に護は続けて告げる。
「ただし逃げるのは哀歌だ 」
哀歌が問い返す前に護は手に握りしめている緋炎之護の石突で哀歌のみぞうちをつく。
「! 」
驚愕に目を見開きながら、意識を失っていく哀歌に護は告げる。
「ごめん哀歌。 僕は暗部にいても闇にも悪にもなりきれない半人前だよ.......だから僕には哀歌を生贄にするほど非情にはなりきれない 」
護は空気を読んで、行かずにまっていた高杉に手で『連れていけ』というサインを送り、高杉は一瞬迷う素振りを見せたが即座にグーサインを送り護の前に倒れる哀歌を抱えて瞬間移動する。
高杉が瞬間移動した直後、まるで図ったかのように砂鉄の蓋を突き破りアクセラレータが地の底から復活する。
「おやァ? お仲間には見捨てられたかァ? 」
「そういう風にしか考えられないのか。 哀れだな第1位 」
護はアクセラレータに本当に哀れみの目線を向ける。
「過去にあった何かを恐れて、人を傷つけるのを恐れて、最強になれば周りに利用されて誰かが傷つくのを無くせる。そう思ってるのなら大間違いだ。この都市(まち)は、アレイスターはそんな考えが通用する相手じゃない! ますます人を傷つけることになるだけだ! 」
「知ったような口をたたくンじゃねえ! 」
激高し、近くに積み上げられていた鉄骨を次々と飛ばすアクセラレータ。
「第弐の技、緋炎乱舞! 」
護の叫びに答えて、槍の刃が緋炎に包まれ光を放つ。
迫る鉄骨をまるで踊るように槍を振るって切り捨てる護。
切り捨てられた鉄骨の切断面は真っ赤に加熱している。高熱を発する槍の刃に焼き切られたのだ。
アクセラレータの放つ鉄骨を全て切り裂いた護は続いて新たな言葉を紡ぐ。
緋炎之護が護の手の中で凄まじい閃光を発しながら緋炎を纏わせ巨大な姿を作り上げる。
「なんだと? 」
アクセラレータが見上げる先にあるのは、まさしく炎龍。緋色の炎に形作られたこの世のものならざる怪物だった。
「第伍の技、緋龍炎撃! 」
創造者の言葉に従い、巨大な龍が疾風の如く、凄まじい勢いでアクセラレータに襲い掛かる。
辺り一体に響き渡る轟音と龍の咆哮が鳴り響き、土煙と閃光が
広がる。
「ぐ.....かはっ! 」さすがにアクセラレータも今回は反射をもってしても防ぎきれなかったらしく口から地の塊を吐き出し、荒い息を繰り返している。
だが、それでもまだ立ち続けられていること。それ以前に生きていられることが彼の能力の高さを簡潔に示している。
周りの地面が完全に焼き払われている中でアクセラレータは立っている。
「まったくまだやる気なのかい。今ので最強にも防げない分野があることは分かったろう 」
「うるせえ! 無駄口たたいてんじゃねえよ! 」
怒りのこもった叫びを放つアクセラレータだが、その手が微妙に震えているのを護は見逃さなかった。その震えが示すのは怯えかはたまた武者震いか。
「強がっても、僕の攻撃を今の君では防げない。なんならもう一度喰らわせようか? 」
護の挑発にアクセラレータは地面を踏み鳴らすことで答えた。踏み鳴らした箇所から地面がささくれ立ち、いっきに護の足元まで迫る。
「第参の技、緋球爆散! 」
真上に跳躍した護が呟くと共に現出した緋球が炸裂し衝撃波で護の体を宙高く舞いあげる。
「第弌の技、緋炎.....! 」
護の言葉はそれ以上、続かなかった。突然全身にくまなく均等に走るように奇妙な激痛が襲ったからだ。
「ぐわぁぁ!? 」
痛みに絶叫し、空中でバランスを崩した護の体はそのまま重力に引っ張られ地面に容赦なく叩きつけられる。
それでも死なずにすんだのは緋炎之護の加護があったからだと言えよう。とは言っても死なずにすんだというだけで護は重傷だった。
「デかい力ほど暴走した時のリスクもデかい.....今のオマエはまさしくその典型例ってわけだ 」
地面に倒れ伏す護をみて笑みを浮かべつつアクセラレータは護までの距離を一瞬で詰め、衝突の衝撃でさけた皮膚の傷口に指を差し込んだ。
怪訝な目線を向ける護にアクセラレータは愉快そうに告げる。
「さあて、問題です。オマエの体の血を全部逆流させたらどうなってしまうでしょォ? 」
護は半分赤く染まる視界に捉えているアクセラレータの言葉に全身の毛が逆立つような錯覚を覚えた。この言葉はすこし内容が違うがシスターズの一人を殺すさいにアクセラレータが放った言葉である。つまりアクセラレータは明確に護を殺すつもりなのだ。
「(こいつは、本気でマズイ.....だけど、体....が.... ) 」
完全に意識朦朧としている護を見て歪んだ笑みを浮かべたアクセラレータはベクトル操作によって目の前の不可思議人間の生命を絶つはずだった。
その時、アクセラレータは奇妙な風を感じた。自らの足元から風がふいて来ているのだ。だがはたして風が『下から』吹くものだろうか?
アクセラレータが疑問に感じた次の瞬間真下から吹いた強烈な風がアクセラレータの体を上空に舞いあげた。
いかなるものでも通さないはずのアクセラレータのベクトル反射の膜を素通りして。
「(いったい、どうなってやがる?) 」
自らの能力は消えていない、なのになぜ風は膜を素通ししたのか。背中からベクトル操作で作り出した小さな竜巻のようなものを使って上空に滞空しながら周りを探すアクセラレータはその視界に奇妙な少女を捉えた。
なんというか印象を一言で表すとすれば『緑』と即答されそうな少女だ。上から下まで見事に緑だ着ている服装だけでなく髪の毛も、よく見れば瞳までグリーンだ。
「(また、第4位のお仲間か? )」
思案を巡らすアクセラレータだったが、それは続かない。なぜならまるで目の前の少女の腕に合わせるかのようにアクセラレータに向けて緑色をした風が竜巻のようになって向かってくるからだ。
向かってくる竜巻に対して働くはずの反射はここでもなぜか機能しない。もろに竜巻に巻き込まれたアクセラレータはそのまま、さらに高空に舞いあげられる。
もはや呼吸をすることもキツイはずの高度でも少女は平然としている。
言葉を発することもできないアクセラレータに対して少女はなにかを告げた。竜巻内部の轟音の中でも不思議なことにはっきり聞こえた。
「最強の意味をもっと知りなさい第1位。いまのあなたでは、永久に最強にはなれない 」
なにかを問い返す前に竜巻の中に突っ込んで来た少女の拳がアクセラレータの首筋をうち、彼の意識を奪い。
2人を包んだままの緑の風はそのまま地面に向かい、静かに着地する。
意識を失ったアクセラレータを地面に寝かせ、少女は瀕死で横たわる護の方に向かう。
「古門護。学園都市第3位の『重力掌握(グラビティマスター) 』。こちらではそう呼ばれてるみたいね 」
聞こえるはずもないのに少女は護の体に右手を触れつつ囁き続ける。
「やっとあなたに会えた。やっとあなたを見つけ出せた。だから私はもう迷わない。たとえ貴方が全てを忘れているとしても私はあなたの為に生きて死ぬ。だから、こんな所で死なせはしない 」
少女の手が緑色に淡く光り、触れられた箇所の傷が癒されていく。
「あなたは私を信じた。私を変えてくれた。だから私は、ミストラルはあなたを救う。それがたとえ、かつてのあなたじゃないとしても 」
太陽が沈み暗闇に包まれた橋下に淡い緑の灯火が静かに静かに灯り続けた。