とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある目覚めと進学校

「で........結局、その咲耶姫って奴との戦いには決着が付かず最終的には痛み分けで終わったと? 」

 

「うん......あの女、予想以上に強くて........ 」

 

「そうか.......対魔術戦のエキスパートのお前が苦戦するとは余程強い奴ってことになるな......取り上えず哀歌は休め。その体で無理はしない方がいい 」

 

両手、両足に包帯を巻きつけ体のあちこちにシップを貼っている哀歌はその言葉に頷くと同時に、弦の糸が切れるように気を失った。

 

咲耶姫こと火野咲耶と哀歌の戦いは彼女が語ったとおり痛み分けに終わった。

 

一応哀歌の攻撃は咲耶に少なからずダメージを与えた。

 

だが哀歌も無傷というわけにはいかず全身打撲に酷い火傷を負った。

 

それで生きていられたことがもう奇跡だが哀歌は現場の状況をきっちり伝えた後でようやく気を失ったわけだから大したものだと言えるだろう。

 

「それにしても、分かっていたつもりだったが魔術ってのは侮れねえな.........あれだけの戦闘が全て知覚されていないなんて 」

 

哀歌の話によると、魔術師は魔術と縁がない大多数の人々が暮らす場所では『人払い』という魔術を使って無意識下に干渉することで興味を逸らし、無関係な人間はその地点へ立ち寄らなくなせるらしい。

 

その辺りの理屈は高杉にはさっぱり分からないが、とりあえずあれだけの騒ぎをよくぞ表沙汰にしなかったものだと感心していた。

 

「その侵入者はどこにいっちゃったんでしょうね? 私のサーチ術式にも反応しないんですけど 」

 

そういって首を傾げるセルティは納得いかない表情をしている。

 

「奴だって始終魔術を使ってるわけじゃねえんだから見つからなくても仕方が無いんじゃねえか? 」

 

「それは確かにそうなんですけど私が行ったサーチ術式はその体内のマナを魔術に変化する人間に反応するはずなんですけどそれにすら引っかからないんです 」

 

「そうか.......くそ、リーダーも見つからない上にこんなやっかいな案件をかかえちまうとはな。セルティ、お前はここでサーチを続けておいてくれ。俺はリーダーの捜索に加わる 」

 

「分かりました。気をつけてください高杉さん 」

 

「ああ、だがお前も気をつけろセルティ。リーダーから聞いているだろうが........今この街にはお前にとっての天敵、『吸血殺し(ディープブラッド) 』を持つ少女がいる。けして三沢塾に近づくな 」

 

「分かってます。私たち吸血鬼にとっては致命的な能力の持ち主。近づいてしまえば、自我があっても吸ってしまうのを止められなくなる。そして一滴でも啜ってしまえばその瞬間消滅してしまう 」

 

「分かってるんなら良い。 頼むぜ? お前を失ったらおれはクリスの奴に顔向け出来ない 」

 

そう言い残して高杉は瞬間移動した。だれもいなくなった部屋の中でセルティはぽつりと呟いた。

 

「高杉さん。やっぱり姉さんのこと気にかけてるじゃないですか....... 」

 

 

 

「起きろ、しっかりしろ護! 」

 

自分を揺さぶりながら叫ぶ声に護の意識は強引に現実に戻された。

 

「......... 上条? 僕は、いったい..... 」

 

「さっきインデックスの噛みつきから逃げようとして部屋から出たらお前が倒れてたんだ。それでお前の手当てをしてたんだよ。いったいどうしてあんなところに倒れてたんだ? 」

 

「簡潔に言うと、学園都市レベル5の第1位と戦って負けた 」

 

「レベル5!? てか今さらっと凄いこと言わなかったか? 」

 

 

「いやだから第1位と戦ったんだって 」

 

「いやじゃねえよ! ただでさえ一人で一国の軍隊を相手に戦えるのが護たちレベル5だろ?その第1位ともなれば最強の能力者ってことじゃねえか! そんな奴とぶち当たるなんて無謀なことしてる時点で信じらんねえけど、その相手と戦って生きのこってられてることの方が一番信じらんねえ....... 本当になにがあったんだよ! 」

 

「僕も良くは覚えていないんだ。第1位のアクセラレータには僕の重力掌握(グラビティマスター)は通じなかった。その後戦いの最中に体に激痛が走って気を失ったからなんで助かったのかは本気で分からないんだよ」

 

実際は自らの体に宿るアイルランドの神、ルーの力を借りて発動させる特殊な槍『緋炎之護 』を使って戦いもしたのだが、そこについては護は意図的に触れなかった。

 

「.......まあ、覚えてないってんなら仕方ないけどよ。護、お前無茶ばかりしすぎだぜ? アイルランドでも俺は遠ざけて自分だけ強敵と戦ってたよな。少しは俺も一緒に戦わせろよ。お前は凄い能力を持ってるけどさ、俺だってこの右手に『幻想殺し(イマジンブレイカー) 』っていう力を持ってんだ。戦うことはできる 」

 

「上条....... 」

 

上条の言葉にほろりとしかけた護だったが直後にその表情が凍りついた。

 

「とぉぉぉぉまぁぁぁ! 」

 

護の治療の為に晩飯を待ちに待たされたインデックスがその犬歯をむき出しにして上条の頭に噛り付いたのだ。

 

「不幸だぁぁぁぁ!! 」

 

絶叫を発し、痛みにインデックスを頭に齧りつかせたまま床を転げ回る上条を見ながらシュールな光景だなこれ......と冷静に考える護であった。

 

 

『....... ところで護、今日インデックスを狙った赤髪神父.....ステイルっていう奴が現れたぜ 』

 

インデックスの噛みつきからなんとか解放され、護が部屋から緊急搬送した冷凍食品の山 (解凍済み)により上機嫌で夕飯にありつくインデックスに若干恨めしげな視線を向けながら上条は小声で話し始めた。

 

『ステイルが? なんの用事だったんだ? 』

 

『本人の話によると、三沢塾っていう進学校に女の子が監禁されていて、その子は『吸血殺し』という能力を持っている。そして現在その三沢塾を掌握しているのが錬金術師であるアウレオルスっていう奴で、監禁されているその子を助け出すのに協力しろってことだった 』

 

成る程と護は思った。この辺りは作品の流れ通りだ、違いといえば上条が記憶を無くしていない為にステイルとの会話が違和感無く行われていることくらいだ。それと........

 

「なあ上条、スフィ........いや、捨猫を今日見たりしなかったか? 」

 

「? いや、見てないけどな? 」

 

「そうか....... 」

 

この世界の時系列では本来この辺りで登場するはずの子猫。スフィンクスが登場していない。それ自体は小さな変化かもしれないが示すものは重大だ。かつてのセブンスミストの時と同じ現象、時系列の改変現象。

 

それが作品の中のキーイベントにまで影響するようになっては護の持つ作品知識など役にたたなくなってしまう。

 

『上条はステイルの要求には応えるつもりなのか? 』

 

問われた上条は頭をかきながら、答えた。

 

『ああ、俺にできることならやりたいし女の子が監禁されてるなんてこと放っておけないしな 』

 

上条は作品知識の通り、三沢塾に向かう。それは流れ通りに行けばアウレオルスとの対決に繋がる。

 

作品知識の通りに物事が進むなら上条は最終的にアウレオルスに打ち勝つ。

 

だがすでにスフィンクスの未登場という小さな改変が確認されている以上、その展開が改変される可能性を否定出来ない。

 

『ところでステイルとは何処かで待ち合わせしてるのか? 』

 

『いや......そういえば一緒に行くとはいったけど何処で待ち合わせとかしなかった......しまった..... 」

 

頭を抱える上条だったがそんな上条の肩を護は優しく叩いた。

 

『安心しろ上条。ステイルの居場所の検討はつく。今すぐ外に出てそこに向かおう。インデックスになんかでごまかして 』

 

『なにで誤魔化すんだよ? 』

 

『それはなゴニョゴニョゴニョ........ 』

 

『! そんな事本当に良いのか? 』

 

『ああ、インデックスを守る為ならこのくらい構わない 』

 

ゴニョゴニョと内緒話を終えた2人はぐるりと首を回してインデックスを見る。

 

「! いったいどうしたのとうま?まもる? 」

 

「なあインデックス。一つ頼みごとがあるんだけど良いか? 」

 

「? 」

 

「夜ご飯、護や護の友達とか招いてパーティーにしようって話になったもんで俺らはその友達呼びに行くんだけどインデックスは部屋で待っててくれないか? 」

 

「なんでわたしだけおいてけぼりなのかな? 」

 

「護の奴がパーティー用のご飯盛り合わせセットを頼んでくれたんだけど誰かが家に残らなきゃそれが来たとき受け取れないからインデックスに頼みたいんだよ 」

 

「ご飯盛り合わせ!? わかった!まつんだよ! 」

 

「念の為に言っとくけど頼みものが来たからといって自分で全部食べちゃうのはなしだからね? 」

 

なんで分かった!? という顔するインデックスだったが、口元からよだれを垂らしているんでは思考などだだ漏れも当然である。

 

「とにかく絶対に部屋から動くんじゃないぞ? 」

 

念を押されてうんうん頷くインデックスを残し上条と護は部屋を出た。

 

「で.......なにやってんだお前 」

 

部屋を出た上条の第一声がこれである。

 

まあ部屋の前に例の赤髪神父、ステイル=マグヌスがいたのだからその反応も当然かもしれないが

 

「なにってルーンの刻印を貼り付けてるだけだが? 」

 

「人ん家の軒先に貼り付けるのはなぜかと聞いたんだが? 」

 

「あの子を守るためさ、まったく世話が焼けるよ 」

 

本当に面倒くさそうにペタペタとルーンの刻印を貼り付けて行くステイルだが作品知識をもつ護からすればその内心はバレバレてある。

 

「ステイルってインデックスが好きなのか? 」

 

護の言葉にそれまで冷静に刻印を貼り付けていたステイルがかカー!と顔を赤らめた。

 

「な、なにを言うんだ君は! 」

 

あれは護衛対象であってけして恋愛対象として見ているわけでは........と言い訳をするステイルを見て、この人はこの人で素直じゃないな?と思う護だった。

 

「君はアウレオルスを知っているのか? 」

 

護がその名を出したとき当然ながらステイルは驚いた。

 

「うん。チューリッヒ学派の錬金術師でローマ正教の隠秘記録官(カンセラリウス)って役職に就いていた人なんだよね? 現在はそのローマ正教を裏切り三沢塾で吸血殺しこと姫神秋沙を確保してそのまま占拠してるとか 」

 

「君は相変わらず地獄耳だな。その通りだよ。まあ、アイルランドや我がイギリスで暴れまわったことを考えれば当たり前か......... ところで今回はお仲間たちとは一緒じゃないのか? 」

 

「そう言えばまだ連絡していない! 上条、携帯貸してくれないか? 」

 

「お、おう 」

 

ちょっと驚きながらも、携帯を差し出す上条。それを受けとった護は自分の無事をリーダー代理をしているであろう高杉に送りセルティを除くメンバー全員の集合を指示した。

 

メールはすぐに返ってきた。内容は要約すると『無事なのは良かったが、メンバー全員の集合は難しい。とにかく俺とクリスと美希が向かう。哀歌は現在動くことは難しい 』というものだった。

 

哀歌の身が心配だったが、今は三沢塾への対処を急がなくてはならない。上条は行動が可能なメンバーだけでも三沢塾にくるよう指示を出した。

 

約30分程後、護たちウォールの行動可能なメンバー4人とステイル、上条を合わせた6人は問題の三沢塾の前まで来ていた。

 

「ここが三沢塾か......... 」

 

当然ながら護は三沢塾を生にみるのはこれが始めてなので、その大きさに圧倒されていたりする。もとの世界でも一般人でしかなかった護にとって進学塾と言われて思い浮かぶのは中ビルの3階に作られたものがせいぜいである。

 

「ねえ、一つ聞いていいかしら? 私たちは護からの情報で三沢塾に少女が捕らえられていることも錬金術師とかいう種類の魔術師が現在そこを掌握していいることも知っていたわ。でもあなたはどうやって知ったの? 」

 

疑わしげにステイルを見る美希にステイルはジロリとした視線を向けながら答えた。

 

「簡単なことだよ。なにせその情報を伝えて来たのはこの街のトップである統括理事長(アレイスター)たからね 」

 

ステイルのその言葉にクリスが驚愕した表情を見せた。

 

「統括理事長は魔術師であるあなたに直接協力を要請したの?それじゃあ統括理事長は....... 」

 

クリスの言葉に高杉は頷いた。

 

「魔術師を、より正解には魔術サイドの存在を知っているってことになるな 」

 

「科学の象徴みたいなこの街のトップが魔術サイドの事を理解しているってのはある意味不気味だわ。まるでなんでも理解しているみたいじゃない 」

 

美希の言葉はそのまま当てはまる。少なくともこの街で起きる出来事に関してならアレイスターは全てを把握しているだろう。

 

魔術サイドの事をアレイスターが知っていることに仲間たちは驚いているが護には動揺はない。なにしろ護は彼の正体を知っているのだから。

 

「(まあ.......だからと言ってそれをここで皆に話すわけにはいかないよな......そんな事をしたらそれこそこの作品世界の流れが予測できなくなってしまう) 」

 

「雑談はそろそろ終わりにしてくれないか。僕としては早く仕事を終わらせたいんだが 」

 

ステイルのやや苛立った声に護は意識を引き戻された。

 

「ああ、ごめんステイル。みんな分かってると思うけど当初の作戦通りには行かなくなってる。つまり学生として進学塾に潜入する策は取れない。だから正面から殴り込みをかけるしかないんだ 」

 

「いきなり戦闘を始める気かよリーダー? 内部には学生もいるだろう。見つかれば面倒になるぞ 」

 

「いや、大丈夫だよ 」

 

護は自分の頭の中にある知識から引っ張り出した映像を再生し1人頷く。少なくとも流れとおりなら、今のままこの世界が進んで行くなら護の知識は活用できる。

 

「今のままなら大丈夫だよ。中の学生に恐らく僕たちは認知されない。侵入者である僕たちはね 」

 

頭に疑問符を浮かべる仲間たちに構わず護はステイルを見る。

 

「そういう魔術がないわけでもないんだろステイル 」

 

「無いわけではないとは思うけど君はなんでそれがこの建物に仕掛けられてると思うんだ? 」

 

「勘ってやつだよ。勘 」

 

適当に答えて護は今度は仲間たちを振り返った。

 

「良いかみんな。今回の敵はこれまで戦った相手と比べても群を抜いた強さを持つ難敵だよ。ウォールリーダーとして指示する。全ての責任は僕が取る。目標(ターゲット)、アウレオルス=イザートを確認したら即座に攻撃してほしい。それによって三沢塾が多少壊れる程度なら僕の権限で許可する 」

 

ウォールメンバーが頷くのを確認し護はステイルの肩をポンと叩いた。

 

「陽動は僕たちウォールがする。ステイルは当初の目的を優先して行動してほしい。それと、アウレオルスに対抗できる可能性を持つのはこの中では上条だけだよ。だから彼を無下に扱わないようにね 」

 

怪訝な表情をしたステイルだったがあえて聞き返そうとはしなかった。

 

「よしみんな行こう。ここに囚われている少女を助けるために! 」

 

護の声と共に学園都市暗部組織ウォールは三沢塾へと潜入を開始した。

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