とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある空間の同士討ち

 

「クリス! 」

 

護の呼びかけにクリスが応えることはない。

 

アウレオルスの黄金練成により確定された『護を殺せ』という命令にクリスは逆らえない。

 

自意識があるのか無いのかは分からないがクリスは護に向かってくる。

 

その目には感情がないわけではない。だがそれは護を仲間として信頼しているいつものクリスなら抱きもしないような感情をたたえている。

 

その目に宿るのは明確な殺意。

 

その殺気に押される護とクリスの周囲を突如暗闇が包み込んだ。

 

「(これは........? ) 」

 

護が疑問に思った直後、急速に闇は消えさり目の前にどこまでも広がる白の空間が広がる。

 

「(まさかこれもアウレオルスが作った空間?) 」

 

戸惑う護だったが、今はそれどころではないとクリスに意識を戻す。

 

「護、覚悟して 」

 

クリスは言葉を紡いだ。

 

「私はあなたを本気で殺す 」

 

その言葉と同時にクリスの両手から無数のパチンコ玉が投げられる。

 

「鉄球乱舞! 」

 

無数のパチンコ玉はクリスの意思に従い護に襲いかかる。

 

「くそ......超重力砲! 」

 

重力波を放とうとした護だったがその手のひらから力は放たれなかった。能力が使えなくなっていた。

 

「やば......! 」

 

慌てて何か盾になりそうなものを探す護だがどこまでも何もない白の空間に防ぐための盾になるものなどどこにもない。

 

当然の結果として防ぐ術を持たない護は全身にパチンコ玉を浴びることとなった。

 

身体中に走る痛みに苦痛の声を漏らしながらも護は自分に宿るもう1つの力の名を叫んだ。

 

「緋炎之護! 」

 

もう1つの力はまだ護と共にあった。

 

空間から滲み出るように護の手に握られる緋炎之護を見てもクリスの表情に変化はない。

 

彼女が手を上げると、その動きに応えるかのように何もない空間から巨大な白い杭が現れる。

 

無言でクリスが手を振り下ろすと杭は一直線に護に向かって迫る。

 

「第壱の技、緋炎.....! 」

 

そう言いかけて護は気づいたいつもなら戸惑うことなく放てる各種技を出せない。

 

「(まさかアウレオルスは......緋炎之護の力すらも無効化したのか?) 」

 

そうだとするとこの戦いは明らかに護不利になる。

 

おまけにクリスが手を上げた途端に杭が現れたことから考えるにこの世界は『クリスが護を殺すのに都合の良い空間』のようだ。

 

「くっそぉ!! 」

 

半ばやけくそに槍を突き入れる護。本気で護は死を覚悟した。

 

だが杭は護を貫かなかった。

 

なぜなら護の緋炎之護がそのあり得ない切れ味でもって杭を縦に切り裂いたからだ。

 

「(技は使えないのに緋炎の力はそのまま? これはどういう?) 」

 

護の心の声に応えたのは護に宿る神、ルーだった。

 

「(どうやらあの錬金術師は、あえて緋炎の力は残したらしい。一方的では面白くないとでも思ったのではないか? ) 」

 

その言葉にアウレオルスに対する激しい憎悪が湧いた護だったがその感情をぶつける相手はあいにくここにはいない。

 

「(私の知識を貸そう。それを使って純粋な槍技で戦うのだ) 」

 

「(そんなこと言ったって僕にはクリスを傷つけれない!) 」

 

「(そうか......なら、私が君の体を使う ) 」

 

その言葉に護がなにか返す前に護は自らの体の制御を失った。

 

視界だけはそのままで体だけが別の誰かに操られているかのように勝手に動いていく。

 

「良く見ておけ。躊躇いがなにを招くのかを 」

 

護の声で話したルーはその手に握る緋炎之護を上に掲げぐるりと一回転させた。

 

その動作に首を傾げたクリスだったが直後思わず目を見張った。

 

護、いや護の体を借りたルーが跳躍し一瞬でクリスの前に立ったからだ。

 

そのまま躊躇いなく槍を横薙ぎに振るルーに対してクリスはギリギリの所でバク転しその攻撃を避ける。

 

そのまま連続でバク転し、ルーと距離をとったクリスが手を上げると今度は空中に無数の巨大な十文字の物体が現れた。

 

それはよくよく見ればその側面に刃をもつ物体。十文字型の手裏剣だった。

 

クリスの念動力に操られ、その巨大な手裏剣はその大きさから考えられないようなスピードでルーに対して四方八方から襲いかかる。

 

だがルーに焦りの色は無かった。

 

自分の正面に来た手裏剣を横薙ぎに振るった十文字槍の両枝の内の右枝の刀の部分を突き刺すことでとらえ人間として出せる最大出力の筋力でもって360度全ての方向から迫って来た手裏剣を弾き飛ばしたのだ。それだけの荒技をやって両枝の刀が折れなかったのは、それが異能の力によって生み出されたものであるからだろう。

 

周りに迫っていた手裏剣を全て弾き飛ばしたルーだがクリスの念動力が働いている限り、手裏剣はまた向かってくる。周りに向かってくる手裏剣がない一瞬を突いてルーは右枝に刺さったままの手裏剣を満身の力を込めて槍を振るいクリスに向けて放った。

 

予想外の行動にクリスは念動力を使って迫る手裏剣を止めにかかるがそのせいでルーへの注意が一瞬薄れてしまった。

 

当然ながらルーはその隙を見逃さなかった。

 

再び跳躍したルーはそのままの勢いで真っ直ぐクリスに向かう。

 

だがクリスまでの距離はそう簡単には縮められない。クリスからすれば迫る手裏剣を止め再びルーに向けて放つくらいの時間の余裕がある距離だ。

 

だがルーはクリスにそれだけの余裕を与えるつもりなど毛頭なかった。

 

ルーは宙を跳びながら緋炎之護を大きく後ろに引いた。そう、投擲の構えをとったのだ。

 

クリスがその構えに気付いた時にはもう遅かった。

 

ルーがその構えから全力で放った緋炎之護はクリスに迫っていた巨大な十文字手裏剣を貫通し、その先に立つクリスの胸を容赦なく貫いた。

 

「か......は....!? 」

 

胸を貫かれたクリスは信じられないような目で自分の胸に突き刺さっている槍を見つめる。

 

槍はクリスの右胸を貫通して背中まで抜けていた。この状態ではクリスはマトモに呼吸はできない。

 

そのまま2、3歩後ろに下がった後グラッと体が揺れ後ろに向けて倒れていった。

 

その倒れかけた体をルーが支え、その胸から槍を一気に引き抜く。その体を走るのは凄まじい激痛のはずだがクリスは声を発することができない。

 

「もう戦いは終わった。この体君に返そう 」

 

ルーが中に戻り護に体の主導権が戻された。その瞬間護の瞳に涙が溢れた。

 

護がこの世界に来て始めて流した涙だった。

 

「こめん.......許してくれクリス.......僕は君を傷つけた..... 」

 

涙の雫がクリスの端正な顔に落ちていく。

 

涙を流す護に対してクリスは震える口を動かした。

 

その口の動きはこう言っていた。

 

『ありがとう』

 

その言葉を口を動かして伝えたクリスはそのままゆっくりと目を閉じた。泣き続ける護の腕の中でクリスの体から力が抜けていく。

 

その首が力を失い、護の胸板に首が倒れかかる。全身から完全に力が抜けて、体が一気に重くなったように感じる。先程までなんとか聞こえて来た心音はもはや聞こえず、抱きかかえるその体は体温が下がっていく。クリスは護の腕の中で死んだ。

 

クリスが死んだのと同時に、2人を閉じ込めていた白の空間は消え去り護は元の三沢塾の一階に戻った。

 

もう護は自分の腕の中で冷たくなっているクリスを見ながら泣いてはいなかった。護はこの状態になったクリスを救う為の方法を考えていた。

 

「クリスを.....助ける。クリスを助ける。クリスをクリスをクリスをクリスをクリスをクリスを...... 」

 

ブツブツと独り言を呟きながらも護はある人物にメールを送っていた。

 

その文面はただの1文、「三沢塾、仲間を助けてくれ 」それだけだった。

 

クリスを床に寝かせ、護は階段を上へ上へと上がっていく。

 

外は既に夜の帳が降りている。

 

時間的には上条とステイルがアウレオルスの前にたちインデックスが既に救われていることを説明しているころだ。

 

クリスを自分の力で救えなかった以上、護にできることは1つしかない。アウレオルスに対抗できる唯一の仲間。上条当麻をなんとしても助け、アウレオルスを倒す手助けすることである。

 

「待っていろよアウレオルス。僕がいる限り上条さんを殺らせはしない。上条さんならクリスの敵をきっと討ってくれる。上条さんはお前よりずっと強い。その強さを思いしれ 」

 

護か目指すは最上階、アウレオルスがインデックスと共に原作ではいた場所だ。おそらく姫神もそこにいるだろう。

 

なかば壊れたような心を抱えながら、護は階段を一歩一歩上がりアウレオルスのいる最上階までの道のりを進んでいった。

 

同時刻、とある大病院で一人の医者が携帯に来ていたメールを一読して微笑んだ。

 

「僕を誰だと思っている? 」

 

 

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