とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある女神の過去履歴

 その少女は、生み出された存在だった。

 

「君の名は火野咲耶だ。分かるかい? 」

 

「ひの....さきや? 」

 

「そうだ、火野咲耶だ。私達の大切な子供だ 」

 

「たいせつな.....こども? 」

 

「そうだ、絶対に絶対にお前を離しはしない。お前はずっと私達と共に有りつづけるんだ 」

 

少女はその言葉を無邪気に信じた。

 

少女が幼い時を過ごしたのは大きな研究所だった。もっとも少女はその建物を研究所と理解していたわけではなく『大きなおうち』と思っていた。

 

無邪気に成長していく少女に対して大人達が掛ける言葉は彼女にとってとても温かで少女は満ち足りた日々を送っていた。

 

そんな少女が一つ不思議に思っていたのが、時折研究所を訪れる大人達が彼女の『お父さん』や『お母さん』たちに怒鳴っていくことだった。

 

成長するにつれ彼女はその大人達の怒声の中に自分の名が混じっていること。そして自分に関することで『お父さん』達や『お母さん』達が怒鳴られていることを理解した。

 

自分が何か悪いことをしたのだろうか、どうしてあんなに怒られなきゃならないのか、それを少女は知りたくて知りたくてたまらなかった。

 

 そんなある日、少女は毎度のようにやってきた『お父さん』や『お母さん』に怒鳴り散らす大人が敷地内の物置に入っていくのを見て後を追った。少女はいままで一度もそこに入ったことはなかった。少女にとってその物置は全く未知の世界だった。

 

物置に大人が入っていたのを確認した少女はずっとまった。出てきたところを捕まえて話を聞くつもりだった。どうして自分のことで『両親』達を怒鳴るのかと。

 

だが中に入っていたその大人はいつまでたっても出てこなかった。

 

しびれを切らした彼女は物置の戸を開けた。次の瞬間彼女は誰かに突き飛ばされた。

 

「!! 」

 

突き飛ばされた衝撃で思いっきり腰を強打して悶絶する少女の耳に今まで聞いたことのない声が聞こえてきた。

 

「ごめん。大丈夫だった?」

 

その声に顔を上げた少女は絶句した。

 

目の前に立っていたのは自分と同じくらいの年齢で、その顔と着ている作業員風の服は血で染まっていて、その右手が剣のようになっていて、その剣のようになった右手に先ほど物置に入っていた大人を串刺しにしている少年だったからだ。

 

絶句する少女の顔を見て少年はにこっと笑った。

 

「君の顔を僕は知ってる。君は僕を知らないだろうけどね。さあ一緒に行こう。『敵』はもう始末した。後はここの『父さん』達や『母さん』達の目を盗んで逃げればいい 」

 

「その.....服についているのは血? なんで....どうして.....その腕は? 」

 

少女の問いに少年は不思議そうに首をかしげた。

 

「どうしてって.....僕らはそんなものだろ?....もしかして君は自分が誰なのかを知らないの? 」

 

「私が誰か? 」

 

「そうか.....ここの『父さん』や『母さん』は君を普通に育ててきたんだね。なら知らないのも無理ないね 」

 

「なによ、何の話! 」

 

「君は人間じゃない 」

 

少年の口から発せられた言葉に少女は全ての時間がとまったように感じた。

 

「僕も君も造られたんだ、ここにいる『父さん』達に『母さん』達に 」

 

少女が何か言う前に少年はことばをつづけた。

 

「僕たちは『人造神計画』によって造られた人造人間の内の1人。そしてその計画の数少ない成功した個体なんだ。成功ってのはこの場合自意識を……つまり心を持っていて自分で考えて行動できて『力』を持っている個体のことだけど僕と君はそれなんだよ 」

 

「訳分からない! 私は家に帰る! 」

 

混乱しながら駈け出そうとする少女の手を少年の左手が掴んだ。

 

「! 離して! 」

 

「今戻れば君はきっと『父さん』達や『母さん』達に殺される。僕は君を死なせたくない 」

 

「そんなはずない!人を殺した人なんかより私は『両親』といる方を選ぶ! 」

 

かたくなに彼を拒む少女に対して少年は静かに告げた。

 

「じゃあ、目の前に立っている大人たちは何をしてるの?」

 

その声に前を見つめた少女は絶対に認めたくない光景を目にした。

 

昨日まで自分にいつものように優しく接してくれていた『お父さん』達や『お母さん』達がこちらに銃口を向けていた。

 

「なんで? なんで?なんで!?」

 

「試作体20001号、その子に『話した』のか 」

 

「真実を知ることがいけないことだと言うの?『父さん』達 」

 

「ここで計画を破綻させるわけにはいかないのよ。もしあなた達をここから逃してしまうような事態になるのならその前にあなたごと咲耶も消す。まだ目覚めていない咲耶なら私達でも何とか殺せるわ 」

 

殺すという言葉が大人達の口から出てきたのが咲耶には信じられなかった。

 

「これで分かったろ? ここの大人たちはみんな僕達を試作体として見てる。人としては見ていないんだ 」

 

「嘘....嘘よ! 」

 

現実を認めなければその苦しみを認めなくて済む。咲耶はその現実から目をそむけることで心を保とうとしていた。

 

だが現実は残酷だった。

 

「撃て! 」

 

どの大人が言ったのかは分からない。だがその号令のもと彼女が慕っていた『お父さん』や『お母さん』達がその手に握る拳銃が一斉に火を噴いた。

 

彼女は目を閉じた。

 

その人生の最後まで彼女は目をそむけようとしていた。

 

「目をそむけても何も変わらないよ 」

 

そんな少女に少年は言った。

 

「残酷な現実なんて 」

 

少年は前を強く見据える。

 

「自分の手で切り裂くんだ! 」

 

刹那、少女の目の前で奇跡が起きた。

 

迫ってきた拳銃弾を目の前の少年はその剣に変化させた両腕ですべて切り落としていたからだ。

 

「馬鹿な.....試作体20001号、貴様は目覚めていなかった失敗作だったはず。なぜ力を使える? 」

 

「いつ僕が力を使えないって言った? アンタたちが勝手に失敗と判断しただけじゃないか 」

 

「それでは.... 」

 

「うん....『父さん』達や『母さん』達程度では僕を殺せないよ 」

 

少年は右手の腕剣の切先を目の前の大人達、研究者達に向ける。

 

「でも『両親』たちの体を切り刻むのはさすがに気が引けるから別の方法で倒させて貰うよ 」

 

少年のその言葉に研究者たちは次に何が来るのかと少年の方に全神経を集中する。

 

だがその警戒していた攻撃は彼らが予想していた正面からではなく。空からやってきた。

 

突然湧き出した雷雲から研究者達の頭上に向けて、落雷が襲ったのだ。

 

その直撃を受けた研究者達がどうなったかは言うまでもない。

 

その落雷の衝撃で気絶した咲耶を背負い少年は堂々と正門から研究所の外に出た。

 

「さてと.....行こうか。外の世界へ 」

 

この時から少女と少年の逃走劇は始まった。

 

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