とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある女神の最終切札

護は、三沢塾の正面入り口から正面に目を向けていた。

 

護は三沢塾最上階での闘いで侵入者、火野咲耶を緋炎之護により窓の外に吹きとばしたが哀歌に重傷を負わせ、自分も浅からぬ重傷を負いながらも逃げおおせたような相手がそう簡単に死ぬはずがないという予感があった。

 

そしてその予感は間違っていなかった。

 

「つ! 」

 

真上からの気配に素早く前に前転した護は先ほどまで自分のいた位置に日本刀が突き刺さるのを見た。

 

「やっぱり生きてたんだね。火野咲耶さん 」

 

「確かにあの高さから落ちたら。第2形態の私でも重傷は避けられなかったかもしれませんね。ですが最終態の状態になってしまえばあの程度では傷一つ付きません 」

 

その喋り方に違和感を覚えた護だったが。直後に違和感の理由に気付いた。

 

地面に突き刺さった日本刀を引く抜きこちらに体を向けた咲耶は先ほどと姿が変っていたのだ。

 

言うならば、哀歌が竜人に完全変化した時のような感覚が護の肌に突き刺さった。

 

とは言っても外見はそれほど変わっているわけではない。ロングヘアーはそのままだしその髪、および瞳の色も深紅のままだ。

 

だが来ているのは先ほどまで装着していたプロテクターで所々補強されたスーツではなく、高校で習う歴史の授業の教科書の最初の方、飛鳥時代や平安時代の女の人が着ていそうな服装になっている。その服もやはり深紅。

 

それは護は知る由もなかったが、彼女が哀歌と戦った際に見せた第3段階の姿。彼女の中に宿ると言う『咲耶姫』の具現した状態の姿だった。 

 

「なるほどね......あの哀歌に重傷を負わせたんだから絶対に何か力を持っている人だと思ったけどそういうことなんだ......君は哀歌と同じ人ならざる者なんだね? 」

 

「さすがはウォールのリーダーと言うところかしら。正解よ。確かに私は人ならざる者。正確にはこの国を守る神の一人ね 」

 

「神.....か。僕はウォールリーダーになってから一度だけ神って名乗る人と戦ったけどその人よりはあなたの方がまだ互角にやれそうだ 」

 

「第2形態の火野咲耶を吹き飛ばせたくらいで図に乗らない方が良いですよ 」

 

護の言葉に火野咲耶......いや火野咲耶の中に宿る女神は口元にうすら笑いを浮かべた。

 

「今の私はまさしく人ならざる者。能力を封じられ体内の異能の力も半分以上封じられている今のあなたでは私には勝てないですよ? 」

 

「そう断言もできないと思うけどね。上条当麻がアウレオルスを破れば僕に力は戻る 」

 

護の言葉に咲耶は訝しげな顔をした。

 

「なぜ断言できるの? 」

 

「僕は知ってるからだよ。あの人が必ず勝つことを 」

 

「予言者とでも言うつもりかしら? 」

 

「さあ? どうとでも解釈してくれてかまわないですよ。ただ..... 」

 

護は一拍開けて続けた。

 

「あなたが人外の者、本来この世界の住人じゃない存在なように僕もちょっと変わってるんですよ 」

 

「あなたも人ならざる者とでも言うつもりかしら? 」

 

「そこは想像にお任せします。今はそんな話をしている暇なんてないんじゃないですか 」

 

護の言葉にはっとした咲耶が身構えるより早く護は、緋炎之護を構えながら勢いよく跳んだ。

 

距離は1メートルもない。あっという間に咲耶の前に着地した護は緋炎之護を勢いよく突きいれたが咲耶はその突きいれられた槍をその右手に持つ日本刀で横に払いその狙いをそらせる。

 

予想外の力で槍の狙いを外された護は間髪入れずに緋炎之護を今度は横なぎに払うがその攻撃を咲耶は軽そうに跳び上がって躱す。

 

そのまま3メートル近くの高さまで跳び上がった咲耶はその位置からくるくると前回転しながら護目がけて急速に落下してくる。

 

護が槍を掲げて防御の構えを取った直後、緋炎之護の柄を咲耶の日本刀が切り裂きそのまま護の胸を切り裂く。

 

「ぐわああああ! 」

 

回転力まで利用したあり得ない斬撃術で切り裂かれた緋炎之護は現れた時と同じように空間に溶け込むように消えていく。だが護にはそれを確かめるすべなどなく斬撃時の衝撃に2メートルほど後方に飛ばされ地面を転がって一歩も動けない状態になってから初めて気付いた。

 

「くそ.....緋炎之護.....が.... 」

 

「大口をたたいた割には大したことがないのねウォールリーダ。それが本気かしら? 」

 

満足に体を動かすこともできない護を見て咲耶は残念そうな表情を浮かべた。

 

「あなたの部下の竜人少女はなかなか良い相手だったから。その上司のあなたには期待していたんだけど跳んだ期待はずれだったようね。今の攻撃は本気の10分の1もだしていないのだけど 」

 

「あなたは.....だれなんだ? 」

 

「さっきも多少は説明したと思うしあなたに教える必要はないのだけど冥土の土産に教えてあげましょう。あなたが察した通り私は人じゃない。この体は人のものだけど、この力や私と言う意識は人ならざる者のものよ。私の名は木花咲耶姫。この国の神話に出てくる女神の1人よ 」

 

「そんな神なんて知らない.....それにこの国の神話の神なんて多すぎて.....ありがたみとか湧かないし.....」

 

「そうね....確かに今は私達のような小さな神はその存在が薄れていると思うわ。なにしろ今の世の中で信仰されている宗教.....3大宗教と呼ばれる十字教、イスラム教、仏教では神は絶対唯一の存在でそれ以外に神はないことになっているものね。 でもそう言った宗教の中にも私達のような小さな神の影は見え隠れしているわ。あなたでも十字教やイスラム教で語られる天使や悪魔ぐらいは知っているでしょう? 」

 

「羽....が生えた天使と....か角が生えた悪魔とか.....なら 」

 

「同じように仏教では地獄の鬼や魔羅(マーラ)、第六天魔王と呼ばれる存在や仏や菩薩と言った神に準ずる存在が語られているわ。つまりどの宗教でも人間ではまねできない力をもつ『何か』の存在自体は否定していないのよ。だいたい十字教では『天使の力(テレズマ)』なんてものの存在が公認されているくらいなのだしね 」

 

咲耶は愉快そうにその日本刀をくるくると回した。

 

「その人間ならざる何かの存在が認められているか認めらていないかの違いはたった一つなのよ。それは積極的に人と関わり人の前に姿を見せるかそうじゃないのかということだけ。私のような小宗派の神は人にとって重要ながら現代ではほとんど意識されないのが特徴なの 」

 

咲耶の言葉に対してもはや護は返すこともできない。いつの間に人払いを使われたのか周りには人影もなく助けが来るとも思えない。

 

「それだから本来は神秘性が増してありがたみがます気がするのだけど。人間はそうは考えないようね.....正確にはこの国に今住む人間だけど 」

 

咲耶はくるくる回していた日本刀を真上にピンと掲げる。

 

「講義はここまでよ。そろそろ終わりにしましょう? 」

 

掲げられた日本刀に炎の色としては濃すぎる深紅の炎が纏っていく。

 

「火照命(ホデリ)、火須勢理命(ホスセリ)、火遠理命(ホオリ)、わが炎を纏いて現世(ウツツヨ)にまいれ! 」

 

咲耶姫の言葉と同時に彼女の周りに突然現れた3つの深紅の炎が人の形をなしていく。

 

その姿は赤き肌をした巨人。

 

護が知るステイルのイノケンティウスのような『人の形をした炎』ではなく『炎が具現化した人間』のような怪物だ。

 

1人は剣、1人は槍、1人は戦斧を持っている。何かの力を使わなくても今の護なら巨人1体の拳の一撃で死にいたるだろう。

 

「私をたった1度ではあったけど吹き飛ばしたことに免じて神の力で殺してあげる。感謝することね。痛みを感じる間もなく死ねるわよ 」

 

彼女の言葉と共に3体の巨人がそれぞれの武器を振り上げる。

 

「そうか..... 」

 

喉の奥から絞り出すような声で護は咲耶姫に向って告げた。

 

「神様ってのは.....弱者ですら.....いたぶ....り殺す.....悪趣味な奴だったんだね 」

 

その言葉には答えず咲耶は右手を上から下におろす。それを合図に振り下ろされた巨人たちの武器が護の体を問答無用で粉みじんに変える。

 

そうでなければおかしかった。

 

次の瞬間咲耶は疑問を覚えた。護にはいま力はない。アウレオルスにより能力は封じられ理屈は分からないが魔術を使った力も現在はほぼ封じているために使用不可能なはずである。

 

ではなぜ目の前の少年は振り下ろされているはずの巨人たちの武器をその持ち主たちごと宙に浮かばせているのか?

 

「なんで.....あなたの.....第4位の重力掌握(グラビティマスター)の力はアウレオルスが封じてる。今のあなたに力が使えるはずはない! なんであなたは力を持っている? 」

 

「.....そんなの.....簡単だよ..... 」

 

相変わらず倒れたまま、それでも視線は目の前の巨人たちから離さず護は答えた。

 

「アウレオルスが上条当麻に負けたから.....だよ。言ったよね上条はきっと勝つって 」

 

正確には上条の演技力に臆したアウレオルスの自滅であり、そのアルス=マグナのの効力喪失は彼自身が招いたものなのだが護はあえてそれには触れない。触れる必要がないからだ。

 

「そして....上条が勝てば僕には.....必然的に能力が戻る。これからが本当の戦いだよ『咲耶姫』さん! 」

 

3体の巨人は一気に高空へと上げられていき、次の瞬間雲の上から地面へと落下した。

 

そう咲耶姫の頭上へと。

 

「消えよ! 」

 

咲耶姫の言葉により彼女の真上に落ちてくる寸前に3体の巨人の姿は消える。

 

「重力鉄槌(グラビティックハンマー)! 」

 

護が握りこぶしを振ると同時に咲耶姫を真上から異常な重力が叩きつぶしにかかる。

 

「私を.....舐めるな! 」

 

だが咲耶姫はその重力による重圧からなんとか横に逃れ即座に日本刀を構える。

 

「神名解放! その有りし姿を具現せよ! 」

 

彼女の言葉と共にその手に握る日本刀が光に包まれ閃光を走らせる。

 

「く!? 」

 

そのまぶしすぎる光に思わず手で目をかばった護だったが光はすぐに消えた。

 

その先にあった光景に護は目を見張った。

 

彼女が持っていたはずの日本刀は巨大な大剣に姿を変えている。

 

禍々しい深紅の大剣。全長3メートルをこす巨大な凶器の刀身が光を反射し輝く。

 

「この得物の名は天之尾羽張(アメノヲハバリ)。日本神話に登場する最上級の神具。わが父大山積神(オオヤマツミ)の属神である山津見八神を生んだ炎の神、火之迦具土神(ヒノカグツチ)を殺した剣。炎の神の体を切り裂いたことでこの剣は単なる神剣というだけでなく炎をつかさどる特性も手に入れた。あの日本刀はこれを隠すための偽装にすぎないわ。神さえ殺せるこの剣を止めることはできるかしら? 」

 

「なるほど、それが切り札ってわけか 」

 

「それはあなたが判断しなさい。とにかくこの剣による一撃を喰らって.....」

 

咲耶姫は天之尾羽張を護に向けて水平に構える。

 

「ただ済むとは思わないことね! 」

 

刹那、一瞬という言葉では表現できない速度で咲耶姫の体が移動し、瞬時に護の目の前に移動する。

 

これを護は避けることは事実上不可能だった。すでに護の体は限界を超えていた。能力が戻ったとはいえ先ほどの斬撃をもろに受けた護の体に蓄積しているダメージはすでに人間の許容量を超えている。

 

立って能力を使用するだけでやっとな護に攻撃を避けられるはずがない。

 

だが護の顔に絶望はなかった。目の前の敵に間違いなく殺されるであろう状況で護は唇を歪めて笑いを作っていた。

 

そのことに違和感を覚えた咲耶姫だったがそこで攻撃を止める道理はない。

 

炎を纏った大剣が、今度こそ護の体を切り裂くべく横になぎ払われた。

 

だが、振り抜かれたその剣が護を切り裂くことはなかった。

 

その剣が護に届くか届かないかのギリギリのところで突きだされた右手が剣を止めていた。

 

あらゆる異能を問答無用で打ち消す右手。その右手に宿る力は『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』。

 

「悪い、護。アウレオルスの説得に時間がかかっちまった 」

 

その力を持つ者はこの世でただ一人、その名は上条当麻。

 

右手に接触した途端、天之尾羽張は姿を崩し元の日本刀に戻っていく。

 

「馬鹿な..... 天之尾羽張を無効にした? その右手.....その力は.....まさかここまでとは... 」

 

「火野咲耶だったよな.....神様だか何だか知れねえが他人を利用して傷付け、その上俺の親友を傷付けて、必死に姫神を救うおうとした人間を殺そうってんなら......まずは、その幻想をぶち殺す! 」

 

その言葉と共に繰り出された上条の拳は、神である咲耶姫の顔をクリーンヒットした。その拳の勢いに押され咲耶姫の体は地面に倒れる。

 

それと同時に彼女の姿が変わっていった。

 

古風な和服の姿から、細めの体を赤色のプロテクターで部分的に装甲したスーツを着た黒髪のショートヘアーの少女の姿へと変わっていく。

 

そのままどっさと地面に倒れた彼女は身動き一つしない。

 

恐らく意識を失っているのだろう。

 

「上条、お前腕を失わなかったのか..... 」

 

「? 何言ってんだよぴんぴんしてるぜ。お前の言葉がけっこう効いたみたいだ。最終的にアウレオルスが自分から術を解いて.....思い出すのも嫌な姿になっていたステイルとかも元に戻った 」

 

「そうか..... 」

 

護がこの戦いで避けたかったのは、話の大筋の流れが不確定要素の存在により改変されてしまうことだった。

 

だが結果的に護はアウレオルスが上条の切断された右腕から生えた竜の顎に呑みこまれ記憶をなくすという事実を改変してしまったことになる。

 

アウレオルスは記憶を失っておらず、上条も右手を切断されてはいない。

 

それがどう影響してくるかは護にも予想できなかった。

 

そして護の思考はそこまでが限界だった。

 

「おい....しっかりしろ.....? ま....も..... 」

 

だんだんと遠くなっていく上条の声を聞きながら護は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

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