「......さん.......まも.....さん 」
ぼんやりとする意識の中で護は懐かしい声、久しく聞かなかった声を聞いた気がした。
そしてすぐにその声の正体に気付いた。護が守ろうとした少女、佐天涙子だ。
「佐天さん!? 」
ガバッとベットから跳び起きてすぐに胸のあたりを中心に激痛が走りまた倒れ込む護の手を佐天は握った。
その女の子の感触に思わず赤くなる護だったが直後に彼女の瞳に涙が溢れていることに気付いた。
「(また佐天さんに心配かけちゃったみたいだな) 」
「護さん私のためにまた無茶をしたんじゃないですか? 」
「いやこれはスキルアウトにやられて 」
「嘘つかないでください! あのカエル顔のお医者さんから全部事情は聞きました! なんでそんな無茶ばっかりするんですか! 」
「事情を聞いた?どこまで? 」
「護さんが学園都市の裏側で組織を率いて活動しているっていうところから学園都市の第1位のレベル5と戦っているとこまで全部です! 」
あの医者いったいどうやってそこまでの情報を?と非常に疑問を覚えた護だったが今は佐天さんに対応しなければならない。
「.......佐天さんはその医者の話を信じるの? 」
「護さんがセブンスミスでの事件の後から何度もいなくなったりアパートの部屋が何日も開けっ放しだったりすることを考えればお医者さんの言うこともあながち嘘じゃないかもと思います 」
護を見つめる佐天の目は本気そのものだ。ふと、護は誤魔化しきれないなと思った。
「ふう........面白いことを言うんだねそのお医者さんは。でもそれは違........」
「それで間違ってはいないのではないか少年 」
突然割り込んできた声に護は全身の筋肉が急激に萎縮する感覚を覚えた。
忘れもしないこの声。今回護が一切刃が立たなかった相手。
錬金術師アウレオルス=イザ―トの声だ。
「そんなに恐れることはない。もう私に黄金練成(アルス=マグナ)は使えん。今は少年の敵ではない 」
「え.......? なんで? 」
「私の黄金練成(アルス=マグナ)は、三沢塾の2000人の生徒を操り、 一斉に詠唱させることで作業効率を極端に引き上げ、僅か半日で発動させたものだ。よってそれら全てを放棄した私には使えんのだ。やろうとすれば100年単位の時間が必要になってしまう 」
護はこんな展開を予測してはいなかった。もしアウレオルスが敵でなくなるのなら確かにありがたい話ではあるのだが、この事象が作品にどんな影響を与えるかは計り知れない。
「あなたはどうして上条の説得に応じたんです?あれだけショックを受け自暴自棄になっていたと言うのに....... 」
「思い出されたのだ。私が彼女のパートナーだったときに願ったことを。私は本来なら彼女が救われたことを素直に喜ぶべきだったのだ。だが自分のしてきたことが全て無にされた感覚に呑まれてしまい........君達を攻撃してしまった。君の言葉は胸に突き刺さった。あの言葉で私は正気に戻れたのだ。感謝する少年 」
アウレオルスの意外な言葉に護は気恥ずかしそうに手を振った。
「そんなに褒めないで下さいよ....... 」
「ところで護さん。今の会話聞いてる限りやっぱり私に内緒で戦ってるんですね? 」
佐天がいることをうっかり忘れて喋ってしまったことに今更気付いた護の額から嫌な汗が流れる。
「仕方ないわね護くんは。でもそんなところも含めてウォールリーダー足り得てると思うけど 」
その女声を聞いて護は思わずカーテンで仕切られている向こう側を凝視した。
「そこにいるのは、クリス? 」
「大正解よ、護くん。いやウォールリーダー 」
護の目の前で向こうからカーテンが開いていきその先にウォール構成員にして学園都市最強の念動力者。クリス・エバーフレイヤ。
「良かった......無事だったんだねクリス 」
「お医者の先生によるとかなり危なかったみたいだけどなんとか大丈夫。でもしばらくは活動は無理みたい 」
「そうか......まあ、アイルランドからこのかた無理してばっかりだったからね.........ここは無理せずゆっくり休んだ方が良いかもね 」
「心配してくれてありがとう。ところで護くん.........またその子の前で自分の秘密を話しちゃってるけど意識してる? 」
ん?と後ろを振り返った護はとても不機嫌になっている佐天さんを視界にとらえた。
「佐天さん? 」
「ここまで暴露しちゃった以上素直に認めた方が良いよ思うよ? 」
無責任に煽るクリスにそれでも暗部の人間か!と怒鳴りつけたくなる護だったが、たしかに事態がここまで来てしまった以上全部ウソだと言う手は使えないだろうと判断するしかなかった。
「はあ......佐天さん、黙っていてごめん。お医者さんが君に話したことは全部本当だよ 」
「どうして黙ってたんですか 」
「それを言ったら佐天さんを危険にさらせてしまうと思ったからだよ。それに裏側の闇で活動することになった僕に佐天さんが関わって同じ闇に呑まれないようにしたかったから 」
「事情も分からずただ待っているのも辛いんですよ! 」
そう言われて護は、原作の中で美琴が重傷の上条に放った言葉を思い出した。
『人がどういう気持ちでアンタを待っているのか、そいつを一度でも味わってみなさい!病院のベッドに寝っ転がって、安全地帯で見ていることしかできない者の気持ちを味わってみなさい! 』
その言葉はまさしく今の佐天さんの心境を端的にあらわしているように護は感じた。
「そう......だよね。今までごめん佐天さん 」
「もうそれは良いですよ護さん。ただ一つお願いしても良いですか? 」
「なに? 」
「護さんの手助けをさせてもらえないですか? 」
その言葉に護とクリスはほぼ同時に聞き返してしまった。
「「いま、なんと? 」」
「護さんの手助けをさしてもらえないかと聞いたんですけど」
「ええと.......それはつまり.......」
「護さんが率いている組織の一員となって手助けしたいということなんですけど 」
ストレート過ぎる返答に護は思わずクリスと顔を見合わせた。
「それについてはすぐに答えられない。仲間とも話合わないといけないから1週間だけ待ってくれる? 検討はするから 」
護の言葉に若干不満そうな佐天だったが一応頷いたので護は深く安堵した。
その後、今度は初春や美琴と共に見舞いに来るといって佐天は帰っていき、護とクリスはお互いベットの上に横たわりながら今後について語り合うことになった。
「護くんとしてはどうしたいのよ彼女のこと 」
「僕はできればあの人を危険な目にあわせたくはない。でもここまで知られちゃった以上佐天さんはこの件に関しては一切退かないかもしれない 」
「それだけじゃないわ。私達ウォールの敵対組織が佐天さんと私達のつながりに気づけば彼女を狙う可能性がある。これは彼女を強引にでも私達のメンバーにして守るしかないんじゃない? 」
「とは言っても暗部に佐天さんを入れるのは........それに佐天さんを枷として利用しているアレイスターが許可するかどうか........ 」
「それだったらあえて表向きは暗部ではなくすれば良いんじゃないかな 」
「え? 」
「それについては私から話そう少年 」
いままで黙って2人の会話を聞いていたアウレオルスが口を開いた。
「今現時点で私はローマ正教を敵に回しているため迂闊にローマ勢力圏の中を動けない。同じように君達が倒した私の協力者だった少女.........火野咲耶も同じく事情は良く分からないが今はこの街にいる必要があるそうだ。そこで提案なのだが..........その佐天という子と私に火野咲耶を合わせた別動班を作ったらどうだろうか? 」
アウレオルスの意外な提案に護は驚いた。
「今の私は黄金練成こそ扱えないが私のダミーが使っていた瞬間錬金(リメン=マグナ)などの通常の錬金術は扱える。火野咲耶という少女の実力については君が一番知っているはずだ。我々なら君の言う少女を守りつつ別動班として動くことができると思うのだが 」
「なんで僕達と戦ったあなたが協力しようと思ったんです? 」
「必然......君達との戦いで気付いたのだ。彼女の過去のパートナーの1人であり今は彼女の記憶の中には残っていないにも関わらずたった一つの誓いの為に今も彼女を守り続けているあの神父のように私も影であの子を守り続けるべきなのだとな。今彼女は学園都市で保護されている。であれば私もこの街で彼女を守る必要がある。そこで街に残る代償として君に協力させて貰いたいのだ 」
「アウレオルスが残る理由は分かったけど火野咲耶の方は? 」
「それは彼女自身に聞くと良い 」
アウレオルスが目くばせする方に護の視線が移るがそこには病室のスライド式のドアがあるだけだ。
「いないけど? 」
「そのドアの向こう側でさっきから彼女は待っている 」
なに?と驚愕した護の前で扉が横にスライドしていき、開ききった扉の前に件の火野咲耶の姿が現れた。
その両脇にはウォールメンバーの御坂美希と高杉宗兵が付いている。
「美希! 高杉! 無事だったんだ! 」
「そこのアウレオルスの偽物と交戦していて連絡できなかったんだ。すまんリーダー 」
「結構苦戦したのにまさか偽物(ダミー)だったとはね。あとでアウレオルス本人から聞いて卒倒するかと思ったわよ 」
苦笑しつつ語る2人の姿に安堵しながら護は目の前の火野咲耶に意識を向けた。
その姿は護と戦ったときとは大きく変わっており、ロングヘアーはショートヘアーになっており、赤髪は黒髪になっており体の各所に取り付けられていた深紅のプロテクターは外され、今は入院服を着ている。
その瞳に護と戦った時のような好戦的な光はないように見えるが、哀歌に重傷を負わせたような相手。しかも言うならば今回の事件の苦戦の原因を作った黒幕的な存在相手に警戒しないわけがない。自然と護の体に緊張が走った。
「心配しないでウォールリーダー。今の状態の私には能力は一切使えないです 」
そんな護の気持ちを察したのか咲耶は遠慮がちに言った。
「どういうことなの? 」
「私が能力を使うには第2段階に変化しないといけないんです。通常の状態、つまり今の状態の私は民間人となんら変わらないんです。多分街の不良程度にもやられちゃうと思います 」
そう咲耶は言うが、仲間を殺しかけた相手にそうやすやすと心を開けるわけがない。
「たとえ君の言うことが本当だとしても、僕は君を信用できない。君がしたことによってクリスは『僕』の手で死にかけ哀歌は重傷を負った.......それになんで君が敵だった僕に協力するんだ? 」
咲耶は無言でうつむいた。
だがしばらくして意を決したように顔を上げて話し始めた。
「護さんの仲間を傷付けたことは一方的に私が悪いです.........本当にごめんなさい! 」
そういって頭を下げた彼女の両目から涙があふれてきたのを見て護は困惑した。声の調子やしぐさ。そしてその表情は本当に本心から悔み後悔しているように見えたからだ。
「私はただこの街で再開されようとしている計画を止めたかっただけなんです........」
「計画って.......お前の中にいるっていう別人格みたいな奴が言ってたやつのことか? 確か人造神計画とか.......」
「その通りです高杉さん。ウォールリーダーをはじめとした皆さんがみたとおり私は神の力をもつ人間なんです。そしてそんな力を持つ人間を作り出すための計画が『人造神計画』という名なんです 」
「その人造神計画とやらを吉沢大学が行ってたってのか? じゃあ研究所が突如廃墟になったのはおまえさんが? 」
「ええ、そうです 」
「じゃあお前はあそこで生み出されたのか? 」
「いいえ、違います。私が生み出されたのはここじゃない。場所は正確に覚えてはいないけどここじゃないどこかだと思います。山の中にある研究所でした 」
高杉と咲耶の会話を聞いていた護が口を開いた。
「それじゃあ、なんで付属研究所を廃墟にしたの? 」
「そこでも研究がおこなわれていたからです。それも言葉では語れないようなむごい研究を行っていたからですよ 」
「それを止めるために研究所を襲撃して廃墟にしたと? じゃあ、なんで壊滅させたはずの研究所にまた来たの? 」
「それは.......この街でもう一度研究が再開されようとしていたからです。私のかけがえのない相棒(パートナー)を利用して 」
「相棒......というと、つまり君以外に存在する人造神の一人ということなのかな? 」
「ええ、彼も人造神の1人。そして私を研究所から連れ出してくれた仲間なんです 」
「その相棒さんがなんでその計画を再開した奴らに利用されようとしているんだ? 人造神というからには君と同じような力をもつ存在なんだろ? 敵に利用されるなんて 」
「彼は自分から彼らに協力してるんです 」
「ちょっと待て! 」
高杉は思わず声を張り上げた。話が良く理解できなくなっていたのだ。
「お前をその研究者達の研究施設から逃したその相棒さんがなんでその敵に協力してるんだ?話がおかしいだろ! 」
「私にも分からないんです。ただ様々の所から伝わってくる情報を集めると近々彼を利用して人造神計画に関わるあることを始めるという可能性が浮かび上がってきたんです。だから私はこの街に来たんです。彼らがそのなにかを行おうとしているという情報があった吉沢大学付属研究所跡に........ですがその情報は誤りでした。あそこは本当にただの廃墟だった。そこでもう一つ行われる可能性のある施設として挙げられていた三沢塾に向ったんです。そうしたらそこはすでにアウレオルスさんが制圧していた。私はアウレオルスさんに接触し恐らく来るであろうあなた達の情報を伝えました。私は三沢塾の占拠状態をできるだけ長く続けておきたかったんです 」
「だがそれは僕達により阻止されてしまった........」
「はい。でもかえって良かったのかもしれません。あの一件で三沢塾は閉鎖に追い込まれたそうなので彼らの計画を一時的にせよ頓挫させることができたわけですから 」
咲耶はそこまで話しおえて護の瞳をじっと見つめた。
「ですが私の相棒がやつらの手にある限り、彼らはまた計画を再開させようとすると思います。そしていまその組織はおそらく学園都市内部にいると思います。だから私はまだこの街にいなければいけないんです。でもこの街にいるには理由がいる。だから護さんの手伝いということでウォールに協力させて貰えないかと思うんです 」
一気に喋った咲耶に対して護はしばし無言だった。
数刻後に護が口にしたのは重い言葉だった。
「僕は君の策略によって仲間を失いかけた.......そんな僕が君に守りたいと願った人のお守を任せられると思う? 」
その言葉に咲耶は下を向いた。護の言葉はその通りだったからだ。
「復讐は先見の明をなくさせる 」
突然クリスが放った言葉に全員の視線が彼女に向いた。
「この言葉はフランスの英雄、ナポレオンの名言よ。それともう一つ。賢者は敵にさえも愛情を注ぐので、敵はその支配下にはいる。これはあるチベットの高僧の言葉よ。護くん、リーダーであるあなたの気持ちは良く分かるわ。だけど現時点ではあの子を守るためには咲耶さんの力が必要よ........彼女は敵だった。そして今ももしかしたら敵かもしれない。だけど今護くんが復讐の気持ちを抑えて彼女の要件を受ければ良い結果が待ってるかもしれない。それにかけてみない? 私はそれにかけたいと思う 」
クリスの言葉に咲耶は祈るような眼で護を見つめる。
護は咲耶を見、クリスを見、高杉や美希、アウレオルスをぐるりと見て一息溜息をついた。
そして咲耶の方を真っすぐに見た。
「分かったよ。今は君を信じる。僕が守ろうとしている佐天さんを守ってほしい。ただ君が再び僕らの敵となった時には.......君を僕は絶対に許さないと心に留めておいてほしい」
護は右手を咲耶に向けて差し出した。
「有難うございます! 」
差し出された手に咲耶も顔全体で喜びを表しながらその手を握った。
のちに裏側では『ウォールの別働隊』として表では『学園都市最高の万屋(よろずや)』と知られることになるSAS (佐天、アウレオルス、咲耶のイニシャルから取られた)はこの時産声を上げた。
そんな風に護を中心と人々の間で話が交されていたころ、学園都市の学区の内の一つ、元々未来的な学園都市内部の学区の中でも特に未来未来な場所と称される地下学区第22学区で1人の男がとある建物の中、壁際で震えていた。
男の視線の先には法衣である袈裟(けさ)を纏った少女がいる。
黒の長髪に黄色の瞳の少女の手には数珠で鞘が巻かれている一振りの太刀が握られている。
強い瞳で見つめる少女に対して男は腰から拳銃を抜き放ち彼女に向けながら叫んだ。
「俺を殺せば、この街全てを敵に回すことになるぞ! 」
その言葉に少女は薄く笑うと一言返した。
「そんなこと......百も承知 」
彼女はおのれの持つ刀の鞘に手をかけた。
それを見て拳銃の照準を彼女の頭に向ける男の耳に少女の言葉が突き刺さる。
「数珠丸よ、邪を.....祓え! 」
建物内に男の叫びと銃声がこだまし、その銃声は1発で途切れた。
その建物から銃声が響くことは二度となかった。