「はぁぁぁ.......なんか色々ありすぎて心が追いつけてないかも....... 」
護は身体測定を終えた後、第7学区の街中を散策していた。
思ったより早く身体測定が終わってしまい暇を持て余すこととなった護はすぐにアパートには戻らずに、当初の予定だった散策をすることにしたのだ。
「しかし.......僕たちの世界にあった作品なんだから当たり前といえば当たり前かもしれないけど、なんか、現実と非現実がまじりあってるなこの街は...... 」
護はすでに大体の建物や店を見て回ったが、なんだかハイテクすぎてどう扱えばいいかわからない電化製品を扱う店から、そもそもこの作品世界のことを扱っていた雑誌を扱う店まで......元の世界にあるものも、こちらの世界にしかないものも複雑にまじりあっている。
「でも、今ではどちらが『現実』になるんだろ.....目に入るこの世界は今の僕にとってはたった一つの確かめられる『現実』だ......でも、この現実を認めたら僕は......戻れないような気がするんだよな.....だって認めることになっちゃうんだ。この世界が僕の生きる世界だって...... 」
すでにこちらの世界に来てしまってから、3日目になる。
3日もさめない夢はあるのか。
いやそれ以前にここまではっきりとした夢などあるのか。
試しに頬をつねってみてその痛みが本物だということを認識する。
「うう.....ほんとにどうすれば...... 」
ずっと考え事をしていると無性に甘いものが食べたくなった。
昔何かの番組で、疲れた時は糖分を摂取するとよいと言っていたことを思い出した護は、さっき通りかかった広場にクレープ屋台があったことを思い出しそこに向かった。
「さて......クレープも食べ終わっちゃったしこれからどうしようかな.....」
護は広場のベンチで1人座り込んでいた。
いまがまだ平日の午前ということもあり学生の姿はほとんど見えない。
広場には全くと言っていいほど人はいなかった。
「これから、家に帰って昼食にしようかな.....せっかく探索して料理屋も見つけたんだからそこで.....ってそうだ財布持ってきてないんだ.....どのみち、一度はアパートに戻らなきゃいけないか・・・・ 」
がっくりと肩を落とした護はふと自分の手に目をやった。
「重力を操る力か.....あの先生は力の使い方はこれだけじゃないとか言ってたけど.....そもそも重力の仕組み自体よく知らないしな......今のところ分かってるのは縦向きにかかる重量の強さを変えることができるってこと。じゃあ、想像するだけで力を使えるなら......横向きに重力をかけることはできるのかな?」
護は周りに目をやり人がいないことを確認してから、ベンチの横に置かれたごみ箱を目の前に置く。
「あれに横向きの重力をかけるイメージをする....... 」
護がイメージをかけた途端、ごみ箱は右からかかった強力なGにより吹っ飛び......広場の近くの銀行店の窓に直撃した。
「あっちゃあ、やっちゃったよ!」
頭を抱える護。
それと同時に気づいたことも1つあった。
(あのごみ箱、僕が一瞬力を使っただけで飛んで行って窓ガラスを割って止まった。もし僕がイメージした瞬間から自分で止める意思を持つまでGがかかり続けるならあのごみ箱はばらばらになるまで横にすすみ続けたはず。つまり力が働くのはイメージしている時だけということになるのか...... )
「おい!誰だごみ箱を投げたのは!」
店長らしき茶髪男のどなり声が響く。
ここで知らぬふりをしてにげだすという手もあったのだが、良くも悪くも正直な性格の護は素直に自首してしまい、その後、午後3時までの4時間、店の片付けと店長の説教、そして店の雑用の三重苦を味あわされることとなった。
「つ....つかれた....もう、動けない..... 」
なんか色々と雑用を押しつけられそれを全部こなすのに3時までかかったしまった護はさっきの広場の別のベンチに座り込むなり、即、意識が薄れてきた。
考えてみれば朝もそんなにご飯を食べていないし、昼も昼飯抜きで作業したせいで、ほとんど腹に食べ物が入っていない.....だが、それ以上に疲労が急激な眠気を引き起こしていた。
「ほんとは.....さっさとアパートに戻るのが一番なんだけど....もうげんか...zzzzzz.... 」護の意識は深い闇の中に落ちて行った。
夢の中で護は逃げていた、たくさんの同年代の子供たちと一緒に。
夢の中で護は6、7歳程の姿になっていた。
必死に逃げ続ける。
周りの風景は見えない。
ただ前に向かって走っている。
だが周りの子供たちは次々と後ろから迫ってくる強大な化け物の手でつかまれ、消えていく。
そしてついに、自分ひとりになった。
もう、おしまいだ.....そう思ったときに『あの子』が現れた。
緑の服に身を包み、悲しげにほほ笑む少女。彼女は右手を一振りするだけで化け物を倒した。
その圧倒的な強さで、護を救ったた少女はそのまま護を守ってくれた。
「一緒に逃げよう? 」そういって護の手を引き駈け出した少女。
護を守り、励まし、勇気づけ、ともに泣いてくれ、ともに笑ってくれた少女。
その少女は、護のために.........
「うあぁぁぁ!! 」大声をあげて飛び起きた護に、まわりのベンチに座る学生たちからの痛い視線が飛んできて思わず身が縮む思いをする護。
だがそれよりも護の頭を占めていたのはさっき見た夢のことだ。
(あの、女の子.....誰なんだ?......)
護は夢の中の少女に覚えはない。
というより起きてみるとなんだか記憶があいまいでどんな顔をしていたかなどの肝心なところがあやふやなのだ。
(でも、なぜか懐かしい感じがする夢だった....どうしてだろ.....? )
頭をひねっても、なんら浮かんでこない。護はとりあえずこのことを考えるのはやめることにした。
「いま、何時だろ....って3時30分?まだ30分しか寝てなかったのか 」
まだ少し体はだるいが寝る前ほどではない。
家に帰るくらいの体力は回復したと感じた護はとりあえずベンチから起き上がろうとした......だが、次の瞬間背後から聞こえた爆音が護の行動を停止させた。
「んん!?いったい何が.....ってあれは!」
先ほど自分が迷惑かけた銀行店のシャッターが無残に爆破され3人組の強盗が外に出てきている。
「この場面....レールガンの一話であったやつだよな......たしかこの後、黒子が二人倒して、美琴が一人を車ごと超電磁砲(レールガン)で吹っ飛ばして......じゃあ、ここは大丈夫か 」
ほっと安心して立ち去ろうとした護だったが、ふと大事なことを思い出した。
「そういや、黒子や美琴のほかに初春と佐天さんもいるんだった!たしか初春はバックアップに努めていて、佐天さんは、男の子を...... そうだった!」
そう、佐天は強盗の一人がさらおうとしていた男の子を助けようとして一人で強盗のところに向かいけがを負ってしまうのだ。
「いくら、原作介入してしまうとしても....どうしてもそれだけは避けたい..... 」
実はというと、と禁、レールガン両シリーズのファンである護が作中、どうしても納得できなかったのがこのシーンだった。
そうしなければ美琴が介入するきっかけを作れず面白くなかったのかもしれないが、かといって無能力者である佐天さんがけがを負わなくてもよいはずだと護は思っていた。
なにも佐天さんが傷つかなくても黒子が最初から3人いっきに倒せばいいのに.....という理不尽な考えまで浮かんでくるほどだった。
実際は、警告されていたにも関わらず行動したのは佐天なのだから、怪我した責任は彼女自身にあるのだが......そういった理屈を踏まえていても納得できなかった。
なぜなら佐天さんはもっとも読者である自分に近いと感じていたからだ。
特殊な力を持たない、なにか特別な技能を持つわけでもない、生まれが特別なわけでもない、『普通』の少女。
そんな子が傷つくのを護は納得できなかった。
「だけど.....ここで動けば....原作へ介入すれば、もう後戻りはできなくなる......この世界で起こるすべてのことに巻き込まれる立場になってしまう..... 」
護の前に用意された選択肢は2つきり。そして時間はそうないし、待ってはくれない。
「それでも、構わない。だれが、何の目的で僕をこの世界に送ったかなんてわからない 」
護は唇をかむ。
「だけど、目の前で起ころうとしていることが分かっている以上....それを見ないふりできるような器用さは僕にはないんだよ!! 」
あまりにも幼稚な言い訳、あまりにも無責任な言い草、だがなんであれ護は選んだのだ。この世界を新たな『自分だけの現実』とすることを........
「離せ!」「だめー!!」
佐天は強盗犯から子供を取り返そうと、必死で子供をつかんでいた。
もとより体格や力が違う男相手にかなうはずがないことくらい分かっている、それでもこの子がさらわれそうなのを見つけた時、頭で『私にもできることはある』と思うより先に体が動いた。
「くそ!」男が前蹴りの構えをとる。「!!」思わず身構える佐天。だが、男の蹴りが放たれることはなかった。
「な....なんだこれ.....足が....上がらねえ! 」
「女の子相手に何やってるんだ、あんたは 」
「んん!?」
強盗犯の男は前から平然と歩いてくる少年にいぶかしげな目を向ける。
「なんだ、てめえは 」
「古門 護。3日前、この学園都市に編入になった者だ」
「ホウ....要するに新参者ってことだ.....なんだこの能力は? 」
「さあね....何て呼ばれることになるのかは僕も知らない......まあ、それなりにかっこいい言葉にはなるんじゃない?なにしろレベル5の力だからな! 」
「レ....レベル5だと!3日前に入ったばかりの新参者がレベル5だと?なめんじゃねえ! 」
「それじゃあ、見せてあげようか?レベル5の力を 」
「ん?.....なんだ? 体が重い..... 」。
「重力だよ。僕の能力は、重力を自在に操る力。きみがどう動こうと勝ち目はないよ。」
「なめんなよ.....クソガキ....! 」
男は必至で動こうしているようだが上からかかるGによってその場に縫いとめられているかのように一歩も動けなかった。
男が動けない状態なのを確認した上で護は先ほど自分の力を試していたときに考え付いた技を試してみようかと考えた。
だが今の自分では一度に重力を使用した技を複数使うのは難しい。
ここでこの技を試そうとすれば男の動きを止めている重力の増加を解かねばならない。
だがそれでも決着をつけるため護は重力の増加を解いた。
ぜいぜいと荒い息を吐いてへたり込む強盗の男を見つめながら、護は自分の掌を前に突き出し、周りに普遍的に存在する重力をその掌に集めるイメージを行う。
その途端護の周囲半径1メートルの空間の重力がほぼ一瞬で護の掌の前で無色透明な力の塊となった。
一瞬で重力を抜き取られ無重力状態になった護の周囲の空間は圧力が0の真空となる。
よって無重力になった空間にあった空気は近くの重力がある空間すなわち護のすぐ周りに流れ込みその空気に運ばれて小石なども護の周辺で渦巻く。
その姿に銀行強盗の男は自分では勝てないと悟ったのか慌てて腰を上げバンに向かおうとする。
「直接重力の塊をぶつけたら下手したら強盗を殺してしまう......だったら..... 」
護は男がバンへとたどり着く前に彼に当たらない角度に掌を構えた。
護が狙ったのは強盗たちが乗ってきた車だった。
「超重力砲(グラビティブラスト)
! 」
護の声とともに護の掌にためられた重力の塊が車に向かって放たれ、その側面に直撃する。
刹那、車は轟音とともに車体をゆがませて吹き飛び、はるか先の路上で横転して大破した。
その光景に声もあげることもできずに腰を抜かしている強盗たちを黒子が素早く拘束しているのを見て護は安堵のため息をついた。
群がって一部始終を見ていた、ギャラリーから歓声がわく中、護は子供を抱いたままぼうぜんとしている佐天のもとに駆け寄る。
「佐天さん。大丈夫?」
「へ?はい、私は大丈夫ですけど...... 」
「自分に能力がないからダメとか思わないでよ? 」
思わぬ言葉に佐天は思わず護を見つめた。
「佐天さんが子供を助けようとした時のあの行動は、そうそう誰かがマネできるもんじゃないよ。僕があの場所にいて、こんな能力を持っていってもきっと動けなかった.....すごいよ佐天さんは 」
「あ.....あの....」
佐天はまだよく状況を理解できていなかった。
「どうして、私を助けてくれたんです?」
この質問に護はしばし沈黙し、やがて思い切ったようにこう言った。
「なにか特別な理由があったわけじゃない。ただ、君が傷つくのを止めたかった 」
一瞬、その場のときが止まった....ような気がした。
「あの....それって...... 」
佐天が何か言おうとした時だった。
「佐天さん!」
遠くから美琴が走ってきた。
「まずい!彼女の性格上、間違いなく勝負を仕掛けてくるにきまってる。ここは逃げるしかない!」
猛ダッシュで人ごみの中に突入し、姿を消す護。
佐天は、護が消えた人ごみをみながらぽつんとつぶやいた。
「古門 護さん.....か.....にしても、なんで私の名前を知ってたのかな?」