第22学区は地下に存在する。
合計10層の階層で構成される同学区内で希により研究者が襲われていた以上必ず同学区内に計画の痕跡があると踏んで調査を行った護たちウォールの面々だったのだが..........結果は大外れだった。
苦労して全階層を行き来したにも関わらず、まったく計画の痕跡を掴めなかったのだ。
となると22学区での調査は手詰まりである。
「22学区で手がかりなし......となると別の方法を取るしかないね 」
「具体的にはどうするの護くん? 」
「クリス、今日は何日だっけ? 」
「8月21日よ? 」
「(ということは、アクセラレータと上条がぶち当たるのは今日ということか.........ならこちらが下手に動かなくても計画は潰れることになるな....... そして恐らく上条さんは妹達(シスターズ)と遭遇している或いは遭遇する......) 」
護はズボンのポケットに突っ込んでいる携帯電話を取り出し電話をかけた。
もちろんかける先は上条である。
時間的には上条が下校するだろう時間帯である。
「........ん? ああ、護か? どうしたんだ? てかお前最近登校してないような?」
若干疲れた声で上条は電話に出て来た。
「それは.......まあ、後で話すよ。それより今はどこにいるんだ? 」
「? 学校前の道だけど? 」
「じゃあ今からそこに行くから一歩も動かないでくれよ? 」
「おい? そりゃどうゆう...... 」
上条が何か言う前に一方的に護は通話を切った。
今は一分でも時間が惜しい。早く高杉に上条の所まで移動させてもらわなければならないのだ。
「美希、クリス。今から高杉の協力で僕は上条の所に向かおうと思ってる。それでなんだけど......高杉が不在の間の『拠点』、魔術師の希を監禁している場所の防衛と彼女の監視を頼みたいんだ 」
「高杉の協力が必要だから私達が代わりをしろってのは理解できるけど.......防衛ってなによ? 」
「防衛は防衛だよ.......もしかしたら僕たちは統括理事を敵に回してるかもしれないんだ 」
「統括理事!? 」
「魔術師である希は、自分に計画を妨害するよう依頼をしてきたのは学園都市統括理事である貝積継敏の使者だと言っていたんだ。そして現在僕らは結果的に妨害を行おうとする貝積の行動を妨害している。それを目ざわりに感じれば潰しにくる可能性は否定できない 」
作品の中で暗部組織『グループ』は『ドラゴン』の秘密を知られたくない統括理事、潮岸の妨害を受けていた。
となると自分たちがそういう状況に陥ることも否定はできないのだ。
「そういうことなら承知したわ。アンタが戻るまで拠点はしっかり守っとくわよ 」
「任せといて護くん 」
「サンキュー美希、クリス 」
急いで高杉のいる建物目指して走っていく護。
そんな2人の後ろ姿を見送りながら美希はボソッと呟いた。
「暗部にその身を置く者は誰も信じてはならない........なのになぜあの人は私を信じられるんだろ?本当に不思議ねリーダーは 」
高杉の力で一瞬で移動し目の前に現れた護に上条は当然驚いた。
だがそこはやはり科学の街学園都市の生徒、護が高杉の能力で移動してきたことを説明したことで納得した。
そうして帰り始めた3人だったのだが、そもそもなんで護が上条と行動を共にしているのかと言えば上条と行動を共にしていれば妹達の一人と会う可能性が高いからだ。
「 御坂.....だよな?.....ん?なんだ妹の方かよ。昨日はジュースとノミの件サンキューな 」
案の定、上条が通る帰り道の公園?らしき場所で妹達(シスターズ)と遭遇した。
そこは原作通りであるのだが、本来ならその前に出会うはずの美琴は姿を見せなかった。
そこはやはり改変の影響なのだろうかと不安になる護だったが今はそれどころではない。
「感謝の言葉が目的ではありません。とミサカは返答します 」
そう返す妹達は恐らくミサカ10032号。後に御坂妹と呼ばれることになる妹達である。
もっともアニメで描かれているのと違い、軍用ゴーグルの有無でしか判別できないほど妹達は美琴に似ているため推測でしかない。
「始めまして。君が上条が言っていた美琴の妹さんだね? 僕は古門護。よろしく 」
「こちらこそ。とミサカは返答します 」
「ところでそのネコに餌をやるんじゃないの? 」
「ミサカには致命的な欠陥がありますから。とミサカは説明します 」
「致命的な欠陥.....? 」
首をひねる上条に護が補足説明する。
「発電系の能力者は無自覚に微弱な電磁波を放出してしまうために動物に嫌われやすいんだ。人間には感知できない程度の電磁波なんだけど犬や猫は感知するらしいんだよ 」
「あなたの言う通りです。とミサカは頷いて肯定します 」
と言いながらも頷いていないミサカだがそこについて突っ込んでも不毛なためあえて護は触れなかった。
「このままでは、この子猫は保健所に回収される恐れがあるとミサカは指摘します 」
「まあ確かにそうかもしれないけど...... 」
「保健所に回収された子猫がどんな末路を辿るのか知っていますか? とミサカは問い詰めます 」
淡々と無表情でしかし意思がこもった声で選択を迫られ汗ダラダラになっていく上条を見て護は思わず笑いそうになった。
その後仕方なく上条がその子猫を抱え帰り道を進むことになりようやく上条とミサカ10032号と共にBook onという本屋の前まで移動した時だった。
腰ポケットに入れている携帯が震えてメールの着信を知らせ、護は確認し、瞬時に凍りついた。
着信したメールの発信元はクリスの携帯電話。
そこにはただ一文だけが記されていた。
『拠点が襲撃受けた』
「こいつは.....! 」
驚愕する高杉と護は同じ気持ちだった。
もしやと思いクリスと美希を残してはおいたが本当に襲撃してくるとは正直考えていなかったのだ。
「高杉、今すぐ戻ろう。ごめんね美琴の妹さん、最後まで一緒には帰れない 」
「いえ、こちらこそついて来ていただいて有難うございました。とミサカは返礼します 」
「じゃあ急ごうぜ 」
「ああ頼むよ高杉 」
急いだ様子の高杉が護に手を触れると彼ごと護の姿は消える。
文字通り一瞬で拠点まで戻った護たちの目の前に広がっていた光景は彼らの予想を裏切るものだった。
「襲撃を受けたにしては被害が少ない...... 」
「ああ、だが美希の姿もねえぜリーダー 」
「確かクリスも拠点に戻っていたはず........なのにいない 」
どういうことだ?と首をかしげる護と高杉の2人。
そんな2人の後ろでドアがいきなり開かれた。
「!! 」
「!? 」
慌てて後ろを振り返る護と高杉。その視界に入ったのは........手を膝にやりながら荒い息をつきやっと立っている三国希だった。
「まさか......手前の仕業か! 」
殺気立つ高杉を護が手で制する。
彼女が犯人の可能性もゼロではないが、だとしたらこの場に戻っている理由が分からない。
「希さん......いったい何があったんだ? 」
「ここが襲撃されて......あなたの仲間2人が応戦して........私にも最低限自分の身を守るようにと数珠丸を渡して........私はクリスというメンバーに携帯電話を渡されてあなたにメールを送るように言われて......あの拠点から離れつつメールを送った.......それで今様子を見るために戻ってきたのよ 」
「その襲撃した奴は誰なんだ? お前の仲間か? 」
高杉の問いに希は首を横に振った。
「私の仲間じゃないわ。少なくとも私に見覚えは無かった。パーカーを着た10代の女の子だった 」
「女の子? 」
「うん......突然ドアが切断されて内側にたおれて.......パーカーを着た女の子が入ってきて......その女の子は長い髪の毛を宙に浮かばせていたんだけど........その内のいくつかの髪の毛の纏まりが急に光を反射して光る刀の刀身みたいに変化して....... とっさにクリスっていうあなたの仲間が部屋にあった机を不可視の力で投げつけたんだけど一刀両断にされて........顔色を変えた2人は私を外に逃がしたの 」
「そして戻ったら2人の姿は無く、代わりに俺たちがいたってことか......... くそ、誰なんだその女の子は? うちの美希とクリス2人を相手取るなんて....... 」
「とにかく一度メンバーを集めなきゃいけない。高杉、お前はセルティに連絡してくれ。僕は哀歌に電話する 」
ウォールの主要メンバー2人が敵と遭遇し消息不明になった。
これは2人が攫われた可能性を示している。
となるとこれを仕掛けてきた何者かが何らかの形で接触してくるはず。
そうなった場合、バラバラに分散しているのは得策ではない.......そう考えての護の判断だったが少々遅かった。
「リーダー.......セルティに繋がらねえ 」
「もしもし? 哀歌? 」
「護.....! 私は敵と交戦中.......! ここは私で何とかするから護は早く上条当麻の所に行って! 敵は彼を知って....... 」
哀歌からの電話はそこで切れた。
通話が切れた携帯電話を持ったまま立ち尽くす護。
「リーダー.......どうする? 」
「とにかく......哀歌との最後の通話記録から哀歌の居場所を探ろう。あの哀歌はそう簡単にはやられないはずだ.......だから知人の協力を借りて居場所を割り出す 」
「知人? 」
「別働班SASの中にはそういった事について天才的な友をもつ人がいるんだよ 」
「割り出して......どうするんだリーダー? 」
「本当は僕自身が助けに向かいたいけど、哀歌の言っていた事が正しいなら上条が危ない可能性があるから僕は彼の所に戻るよ。高杉また送りを頼む。それが終わったら高杉だけSASに向かって欲しい 」
「SASへ? 」
「哀歌の方に増援が必要だからね 」
そうして護たちが自分たちを狙う敵を探り出そうとしていたころ....... 狙われた当人である哀歌は襲撃者である少女と戦っていた。
奇しくも2人が戦っていたのはアクセラレータと上条がぶつかり合うことになる操車場であった。
「ツ!.....せや! 」
廃材となって処分待ちの廃車を勢いよく投げつける哀歌だが目の前の少女は自分の髪が変質した刀で自分の手前で迫る廃車を切り捨ててしまう。
「大した怪力.....でも私にその攻撃が届くことはないから 」
「あなたは......誰? 」
「私は刀山鞘(トウセンサヤ) ......この街で保護されている原石の1人だから 」
「やけに......素直に話すのね.......」
「だって聞かれたってここであなたを倒せば問題ないから 」
その言葉に身構える哀歌。
現状、敵は良くは分からないが髪の毛を刃物のように変化させて戦っている。
哀歌は普段大抵の刃物使い相手なら竜人化した状態の両腕のみで対処しているが目の前の少女の理屈が分からない力で作られている刃物にそれで通じるかは分からない。
となるとこちらも得物を使うしかないわけだが........
「(正直、毎回、破壊大剣を使うのは........リスクが高いのよね....... ) 」
哀歌の得物であり切り札とも言える破壊大剣(ディストラクションブレード)は威力は絶大なのだがそれは出現させるたびに周りに余波を撒き散らすので毎回軽々しく使えるものではないのだ。
哀歌は己の右手を宙に掲げる。その動作に鞘 が首を傾げた直後哀歌の口から詠唱が流れた。
「聖なる龍は加護を授ける。しかして両の腕は抵抗の証、龍の加護はそこに宿らん! 」
次の瞬間一瞬で哀歌の両腕を不思議な武器が覆った。
金色に光輝き篭手の部分に龍が彫られているそれは剣身が篭手と一体化した攻防一体の剣。
17世紀から19世紀にかけてインドで使用された剣、パタである。
「?......いったいどこから? 」
目を丸くして驚く鞘はどうやら魔術を知らないらしい。
哀歌はその両腕に装着したパタを目の前でクロスさせる。
「あなたがいったいどんな力を持ったいるか分からないけど.......簡単に私を倒せるとは思わないことね 」
哀歌はその両手の刀をハサミのように構えながら鞘に向けて駆け出した。
「(あの髪を変質させた剣......刃物の切れ味はかなり鋭い..........だけど魔術的な武器に対してはどうかしら? ) 」
哀歌が突き入れる2本の剣を鞘は前で結んである髪の毛を変質させた刀で止めた。
「私の髪刀で......斬れない? 」
驚く鞘に向けて哀歌は続けざまに斬撃を浴びせかける。
だが鞘の方もそれまでのように何でも切り裂くことこそ出来ないものの哀歌の様々な方向から仕掛けられる高速の斬撃をいくつもの変化させた髪刀で防ぐ。
このままでは平行線のまま進むと考えたのか鞘は哀歌が2本同時に振り下ろしたパタを2つの髪刀で受け止め同時に残りの髪の毛を纏めて作り上げた巨大な杭を哀歌に向けて突き入れる。
ズゴン!という鈍い音と共に哀歌の体が吹き飛ばされ3メートルほど先の地面を転がる。
痛みは想像を絶した。
「う.......があぁぁぁぁ!? 」
激痛にのたうつ哀歌に向けて一歩一歩進みながら鞘は呟く。
「別に私にあなた達を殺す意思はないから。ただあなた達ウォールの主要メンバーを捕らえて善人のあなたのリーダーと交渉したいだけだから。だからいい加減抵抗しないでほしい 」
「........... いったい誰の....... 」
「既にあなたのリーダーは推測しているかと思うけど、学園都市統括理事の貝積継敏だけど 」
その言葉に哀歌はようやく納得がいった。
衛から携帯でその可能性があることを伝えられていたからである。
「どうするの?私としては早くこの役目を終わらせたいんだけど 」
ついに倒れる哀歌の前に立った鞘は変化させた2ふりの髪刀をその喉元に突きつける。
「どうするの?チェックメイトだけど 」
「ふ......それはどうかしらね? 」
「?どういうつもりか分からないんだけど 」
「あなたは大事な事を忘れてる......あなたは個人として戦っている。だけど私たちウォールは集団よ? これが意味することが分からない? 」
「まさか...... 」
その言葉に周囲に警戒の視線を走らせる鞘。
その時目の前にいたずの哀歌の姿が消えた。
いや、正確には消えたのではなく周囲を突然覆った暗闇に包まれたのだ。
「笑止.......散々、弄んでくれたじゃん統括理事の犬 」
その暗闇の中から滲むように人影が現れる。
真紅の長髪に真紅の瞳、要所にプロテクターを取り付けた防刃防弾スーツを着るその少女の名は..........
「私と互角だったあの子を、あんた程度にやられるのは嫌なのよね?とにかく暫くここでつきあってもらうわ。言っとくけど断るのはなしね。もし断ったら........ 」
轟!と彼女の右手を覆う装甲腕の周囲を炎が覆う。
通常の炎とは違う真紅の炎。
その光景に額に汗を流す鞘に向けて咲耶は言葉を投げかける。
「この火野咲耶が燃焼させちゃうぞ? 」
闇は既になく、2人がたつのは真っ白な空間。
その無の空間で少女と少女の短く長い戦いが始まった。