護たちが現場に到着した時、すでに実験は開始されていた。
アクセラレータに対してミサカ10032号が電撃を浴びせている。
その閃光が闇に包まれている操車場に一時的な光をもたらしている。
「やばい、もう始まってる! ナタリーさん、アクセラレータの意識を少しでもこちらに引きつけておく必要があります。あなたの魔術でできますか? 」
「分かった。やってみます 」
ナタリーはポケットからカードを取り出す。その色は白。
『民草はエジプトより導き出されん、導くは神の力、実行するは天使の加護、天火の柱を持ってして我らを導かん! 』
言葉はヘブライ語の為、護たちはさっぱり分からなかったが次の瞬間護たちは度肝を抜かれた。
突然アクセラレータの足元に魔法陣が現れる。
そのことにアクセラレータが疑問を持つより早く彼に向かって天より火柱が陣に導かれるように一直線に落下し全身を包み込んだ。
凄まじい熱風が周りを包み込む........がアクセラレータには例え魔術であってもベクトルが伴う攻撃は完全には通じない。
一瞬火柱に呑まれたように見えたアクセラレータだったがすぐさまその炎を後方に逸らし、周りに警戒した視線を向ける。
斜め後方に吹き飛ばされた炎は、砂と風と水と火の粉に変わり空中を漂う。
その光景を見てアクセラレータが忌々しそうにつぶやいた。
「なんだァ? なんで反射が正しく働かねえんだァ? 」
周りに苛ついた目線を向けるアクセラレータ。
その視界に護たちは映らない。
よって護たちは次になにをするかを考える時間的余裕がある........はずだったのだが.......
「一方通行(アクセラレータ)! 」
ミサカ19090号が飛び出していってしまったためそんな暇は無くなってしまった。
「くそ、あいつ勝手に飛び出しやがって! 」
ミサカを追って飛び出した高杉が腰に差し込んである機能性炸裂弾射出機を構える。
狙うのはアクセラレータではない。アクセラレータに向かって走るミサカ19090号である。
放たれたのは麻酔弾。
その弾は19090号の全身に命中し一瞬で彼女の意識を奪った。
意識を失った19090号の体に触れて高杉は彼女を戦場から遠ざける。
その一連の行動を眺めていたアクセラレータが始めて動いた。
周りの大気のベクトルを制御したアクセラレータは竜巻のように渦巻いた強風を高杉に向けて放つ。
もちろん、その攻撃は高杉の瞬間移動に避けられないはずがない。
「馬鹿なのか、アクセラレータ! 」
軽くアクセラレータの攻撃を瞬間移動により避けて護のそばに着地する。
「リーダー、あの女は拠点に送っといた。だがこうなった以上アクセラレータとの対決は避けられないぜ 」
「分かっているよ高杉、上条さんがくるまでの辛抱だ。それまで僕らが時間を稼ぐんだ 」
コンテナの影から姿を現した護たち3人にアクセラレータの視線が向く。
「なンだ、なンだ、なンですかァ? 前回俺に敗れた第4位様が敗者復活戦(リベンジ)に来たってかァ? 」
口裂女の如き笑みを浮かべるアクセラレータに護は静かに語りかける。
「確かに僕は一度君の能力の前に敗れた。はっきり言って僕では君に勝てるとは思わない.......だけど、そんな僕でも、戦う力がないわけじゃない。だから僕は......... 」
護は手のひらをギュッと締める。彼とて17歳の少年である。正直怖くないはずがない。だがそれでも護はアクセラレータを真っ直ぐに見つめた。
「再び抗らう。自分の命が尽きるまで君を止めて見せる! 」
「イイねえ.......じゃァ見せてもらおうか! 」
アクセラレータの力はベクトル操作。即ちこの世界の物質の大半に働く普遍的な力である『向き』を操る能力である。
そんな力を持つアクセラレータはベクトルを反射に設定させることで核ミサイルの直撃すら跳ね返す無敵と呼べる防御力を持ちベクトル操作により多彩かつ強力な攻撃を相手を扱う。
そんな学園都市最強のレベル5の戦いはまさしく一方的な虐殺。
この時点でアクセラレータと戦うものにまつのは虐殺という終幕しかない。
だが護はそんな流れをこの先も続けさせる気はなかった。
今まさに飛びかかろうとベクトル操作により足元のベクトルを変化させて護に向けて高速で突き進むアクセラレータ。
だがアクセラレータは護に辿りつけなかった。
ズン!という音と共にアクセラレータの体が地面に押しつけられた。
「ゲホ!? 」
自分の身になにが起こったのかを理解できていないらしいアクセラレータが目を白黒させる。
「アクセラレータ。確かに君のベクトル操作、ベクトル反射は最強と呼べる力だよ。正直、僕の技の殆どは君に通じない。なにしろ僕が君に前回出した技は周りの重力を集めて『向き』を変え相手に放つ技だったからね 」
真上からかかる力に地面に縫い止められたかのように動けないアクセラレータに向けて護は目線を向け続ける。
「だけど君の能力にも穴がないわけじゃない。君が無意識に常に設定している反射、これがあるかぎり誰も君に攻撃を与えられない........だけど君は反射に2つの例外を設けている。自分が当たり前に生きる上で必要なもの。即ち酸素と重力だ。君はその例外を操る僕の力で今、地面に縫い付けられているというわけだよ 」
「.......そうか、確かテメエは重力を操るレベル5だったンだよなァ 」
「そうだ、アクセラレータ。今君がその状態から開放されたいなら重力を反射するしかない。だけどそれをしたら君は大変なことになる。そのくらい学園都市最高の頭脳を持つ君なら分かるだろう? 」
「あァ、そうだなァ......だがよ、一つ忘れてンじゃねえのかァ?俺の力はベクトル操作、そしてその力はあらゆるベクトルを観測し、触れただけで変換する能力。 確かに俺は今テメエの力で動けねえが......ベクトルに触れてないわけじゃないンだぜ! 」
次の瞬間、護の周囲の大気がかき混ぜられ、M7クラスの暴風となって護の体を吹き飛ばした。
「な!? 」
中空に吹き飛ばされ、そのまま真っ逆さまに落ちて行く護だが重力操作によりなんとか地面に無事に着地する。
だがそこにアクセラレータがベクトルを操作し放った列車用のコンテナが突っ込んでくる。
「超重力砲(グラビティブラスト)! 」
護が放った重力波がコンテナを吹き飛ばす。だがその隙をついたアクセラレータの拳が真っ直ぐに護の顔を捉える。
「がは! 」
ベクトルを利用した拳の一撃は彼の細身の体から放たれたと思えない重さを持つ。
そのまま吹き飛ばされた護は並びたつコンテナの一つにぶち当たりコンテナの側面にめり込みをつくる。
そのまま地面に崩れ落ちる護を見てアクセラレータは歪んだ笑みを浮かべる。
「まずは1人ってことかァ。さて、次は誰が暇潰しに付き合う気かァ? 」
既に護の重力操作から開放され自由になっているアクセラレータが次に目をやったのは救民の杖のナタリーである。
「第4位は重力操作、そこの奴は瞬間移動系能力者(テレポーター)
、となるとさっきの火柱を起こしたのはテメエだよなァ?どんな理屈かしンねえが反射を狂わせた不確定要素は早めに潰さしてもらおうか! 」
言葉と共にアクセラレータは周囲に積まれている鉄骨に触れる。
その途端、ベクトルを操作された鉄骨が凄まじい勢いでナタリーに襲いかかる。
「エロハが示すは世界樹(セフィロト)の中、その力が示すは太陽、黄金(アカツキ)の光を持って汝が敵を打ち砕かん! 」
彼女が言葉を放った途端、手にもつカードが爆発的な閃光を発する。その光は光線となって直進し、迫る鉄骨を一瞬で消しさった。
当然、その先にいるアクセラレータに光線は向かう。
「ち! 」
舌打ちしつつアクセラレータはその光線を避けるためベクトル操作により背中に竜巻の小型版のようなものを纏わせ宙に舞い上がる。
直後、光線がアクセラレータのいた場所の後方にあったコンテナに直撃し、その側面に大穴を開けた。だが光の効力はそこまでのようで、そこで光は消えた。
アクセラレータは空中に滞空しつつ光を放ったナタリーを忌々しげに見た。
以前のアクセラレータなら敵の攻撃をわざわざ避けようなどと考えもしなかっただろう。
だが数週間前の第4位との戦いの際に、突如現れた奇妙な少女にアクセラレータはベクトル反射を素通りする攻撃で一方的に倒された。
今も下でカードを構えるナタリーはその時の少女ほどではないがベクトル反射に異常をきたすような攻撃をしてくる。よってアクセラレータはナタリーの攻撃を避けたのだ。
上空のアクセラレータと下のナタリーの視線がぶつかり合う。
刹那、アクセラレータは自らを覆う保護膜に触れている大気のベクトルを操作する。
ナタリー周辺の大気が揺らぎ、その全てのベクトルがアクセラレータの手中に収まる。
「ヒャハハ! 吹き飛べ! 」
アクセラレータの奇声にナタリーが身構えた直後、彼女の体は一瞬で遥か高空に吹き上げられた。
「畜生! 」
ナタリーが魔術師とは言え、そんな高さから落ちれば確実に死ぬ。そう高杉が考えたのは当然だった。
無限移動により空中にいるナタリーをお姫様だっこする高杉。
だがそれで助けられたわけではない。なにしろまだ周辺の大気はアクセラレータに支配されたままなのだから。
アクセラレータの力によって巻き起こされた幾つもの巨大な竜巻が四方八方からナタリーを抱いたままの高杉を襲う。
瞬間移動で避ける高杉だが移動した先にも直ぐに竜巻が迫る。地面に着地しても逃げられない。このまま逃走しようにもリーダーを置き去りにしたまま逃げるわけにはいかない。
しかもアクセラレータは少しでも距離を置こうとする高杉をあざ笑うかのように背中に小規模の竜巻のようなものを作り出し距離を詰めながら竜巻をぶつけてくる。
つまり逃げられないのだ。高杉の『無限移動』は正確な位置と座標が分かればその距離を無視して移動できるが、その為には精密な座標計算が必要になる。
だがナタリーを抱えた状態で、それもアクセラレータの攻撃を避ける為に常に瞬間移動をしなければならない状態での長距離移動用の座標計算は殆ど無理である。
よって高杉はひたすらアクセラレータの攻撃を避けるしかない状況に陥っているのだが......
アクセラレータがそんな高杉の隙を見逃すはずがなかった。
竜巻の攻撃ばかりを想定していた高杉はアクセラレータが移動しつつ触れていた鉄骨をベクトル操作して高杉に向けて放ったのを見て慌てて瞬間移動する。だが移動した高杉の目に映ったのは視界一杯に入る巨大なコンテナ。
アクセラレータは高杉の瞬間移動の行動パターンから移動の未来予測地点を計算し、そこに向けて強風でコンテナを吹き飛ばしたのだ。
高杉に避ける術はなかった。
刹那、突然高杉達の頭上を何かが舞い、地面で炸裂する。炸裂した何かが消えた後に残ったのは奇妙な文字。
その直後、突然声が響いた。
「アモン! 」
その声が響いた瞬間、地面から壁が湧き出す様に現れた。
いや、それは壁ではない。巨大な土人形の体である。
「おい、学園都市最強の能力者。うちのメンバーが世話になったな 」
高杉達の後方から聞こえて来た声にアクセラレータが訝しげな目線を向ける。
「だれだァ、てめえは 」
アクセラレータの言葉に少年は口元を吊り上げて笑みを浮かべる。
「律法学者(ラビ)、ダビデだ。そこの奴の同僚さ。悪いが貴重な組織の人材を殺させるわけにはいかねえんだ 」
前方でいくども続く異常事態に半ば混乱するアクセラレータ。
そんなアクセラレータに後方からも異常事態が襲いかかる。
「第壱の技、緋炎斬波!」
声とともに放たれた緋色の炎はアクセラレータに届く事は無く保護膜に触れた瞬間、斜め後方にそれて行く。
だがその攻撃は間違いなくアクセラレータのベクトル反射に異常をきたしていた。
「この声は......第4位......まさか、あの時の? 」
いつものふざけた調子の言葉使いが消えているアクセラレータに向けて、ボロボロの体を動かし立ち上がった護は己の武器、アクセラレータに唯一対抗できる自らの力、緋炎之護の切っ先を突きつける。
「これ以上、やらせはしないよアクセラレータ。まもなく僕達の切札が来る、それまで付き合ってもらうよ! 」
「切札だァ? いったい何を言ってやがる? 」
「それについてはすぐ分かるさ。今は........ 」
護の十文字槍にダビデのゴーレムアモン、2つの異質な武器がアクセラレータに向けられる。
「お前の力で対応しきれない異質な攻撃に注意を向けるべきだぜ! 」
護の言葉を継いだダビデの手が振り下ろされアモンの開かれた口から凄まじい業火が迸る。
それをベクトル反射で反らすアクセラレータに向けて護が緋炎之護を構えて突っ込む。
「第伍の技、緋龍炎撃! 」
勢いよく振られた緋炎之護から炎の龍が放たれたる。
アクセラレータは前回の戦いでこの攻撃を反射膜を持ってしても受け流せずダメージを負っていた。
よってこの攻撃が放たれたとたん顔色を変えた。
アクセラレータに制御されたままの大気が渦を巻き巨大な竜巻となって緋龍と衝突する。
凄まじい轟音と熱波が周り一帯に広がり、衝撃波が積んである鉄骨を吹き飛ばし、巻きこまれないようアクセラレータの注意から逃れた高杉が遠距離瞬間移動を行った。
近距離で同等の熱量を纏った衝撃波を受けた護とアクセラレータだが、アクセラレータが保護膜の加護によりそれらを全て弾いたのに対して護は通常の衝撃波にアクセラレータが反射した衝撃波が加わり凄まじい力に押され勢いよく後方に吹き飛んだ。
だがアクセラレータにそれを追撃する余裕はない。背後から業火を浴びせ続けている鳥頭のゴーレムがいるからだ。
「なめンじゃねえぞォ! 」
返し刀.......いや、この場合は返し拳でベクトル操作により加速した右手をゴーレムにぶち当て全身にヒビを走らせバラバラにするアクセラレータ。
だが武器を破壊されたダビデに焦りはない。
それに違和感を覚えた直後、アクセラレータは背後で響く音に戦慄した。
慌てて後ろを振り返るアクセラレータの前で自分が崩したはずのゴーレムがズズズズ と音を立てて再生していく。
「生憎だが、ゴーレムは壊しても壊しても再生する。そう簡単に倒せないぜ。さて、今回は本気を出すぜ? 」
刹那、ダビデは巨大な火薬玉のようなものを取り出した。
導火線のようなものの付いた古典的なそれに火をつけ放り投げる。
なんらかの爆発攻撃かと警戒するアクセラレータだが直後に首を傾げた。
確かにダビデは火薬玉を放り投げた。だがその投げた向きはほぼ真上。明らかにアクセラレータに向けて投げてはいない。
その上、ダビデ本人は火薬玉から逃れるように後方に走っている。
アクセラレータが見上げる前で火薬玉は爆発した。
刹那、その火薬玉から飛び出したのは無数の子弾、正確に言えば特殊なペイント弾である。
地面で間隔を開けて71箇所に着弾したペイント弾がはじけ地面に文字を現出させる。
「あの文字......さっきの!? 」
アクセラレータが警戒し身構えた直後71箇所の文字が描かれた場所から71体の巨体が湧き出してきた。
「さて、そんじゃ楽しんでもらおうかぁ。この『72柱の巨魔』で 」
その昔、エルサレムにソロモンという王がいた。
このソロモン王はエルサレム神殿を築く際、神から授かった指輪を使って72体の悪魔を使役し神殿を完成させたという。
ダビデの術式はこの伝承をベースにしている。
即ち現れた71体のゴーレムと最初に出現したゴーレムアモンはそれぞれソロモンが使役したといわれる悪魔の象徴を刻み込まれた擬似悪魔と言うべき存在なのだ。
結社随一のゴーレム使いであるダビデ。その彼が使役する巨大な擬似悪魔達がアクセラレータの前に立ちはだかる。
「さあ、饗宴(パーティー)の始まりだ。とくと味わえ! 」
ダビデの叫びと共にゴーレムたちが一斉にアクセラレータに襲いかかった。
妹達(シスターズ)を巡る一連のながれは既に原作の流れから、少なくともこの時点では外れていた。
原作ではこの時点ではあり得なかった魔術(ダビデ)と科学(アクセラレータ)の邂逅。
これが何を示すのかを知るのはただ神のみ。