とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある術師の擬似魔術

アクセラレータとダビデの戦いは激しさを増していた。

 

アクセラレータにとって自分と接戦を演じる相手と戦うのは久しぶりであり、すこし歓喜が混じっている様な表情を浮かべながらベクトル操作による攻撃をかけていく。

 

一方のダビデにしても、科学側にしろ魔術側にしろ72体のゴーレムによる同時攻撃を相手に互角以上の戦いを展開する相手との戦いに高揚感と興奮を感じていた。結社一のゴーレム使いである彼はまた生粋の戦闘狂でもあるのだ。

 

「ゴーレム72体の攻撃でも潰れんか。こいつは大した大物だぜ.......こいつ相手にはむしろ数で押さない方が良いかもな 」

 

ダビデは別に吸血鬼や人造神のような人外の存在ではない。よって体内で精製するマナには限りがある。72体もの擬似悪魔(ゴーレム)を同時に使役する状態をいつまでも維持できる訳ではない。

 

つまり、長期戦はダビデに不利なのだ。ゴーレム72体を同時に操る術式『72柱の巨魔 』はダビデが扱う術式の中でも最強の威力を誇る。擬似体とは言え悪魔をモデルにしたゴーレムの力はは絶大でありそれの集団攻撃は今まで結社の敵としてダビデの前に現れた者をただ1人の例外を除いて叩き潰してきた。

 

だがそんな強大なはずの攻撃が目の前の敵、アクセラレータには通じない。いくらゴーレムがその巨大な拳を振り下ろそうが、それぞれの悪魔を象徴する魔術攻撃を加えようが、その全てが例外なくアクセラレータの斜め後方にそらされてしまう。

 

「(........あいつがなんらかの力を使ってるってのは理解できるんだが........狙いを逸らす力とかか?だがそれなら『全ての攻撃を斜め後方に逸らす』意味が分からねえ.......それにウォールの瞬間移動野郎とナタリーを狙った時の攻撃は『狙いを逸らす力』で出来るものとは思えない............くそ!科学側についての知識なんてそうあるわけないだろうが........分る事は、こいつが能力者の中でもかなりの実力者だろうってことだけか.....) 」

 

アクセラレータに対する考察を行いながらダビデは72体にアクセラレータの意識が向いているのを確認した上で懐から取り出したチョークで地面に紋様を描く。

 

「神(ヤハウェ)を信じぬものは地に飲まれん。かつての反逆者共と同様、永久(とわ)に奈落のそこに封じられんことを! 」

 

ダビデの叫びと共に地面に描かれた文字が光を放つ。

 

刹那、文字が描かれた地面を起点にアクセラレータが立つ場所にまで地面に一直線にヒビが入る。

 

アクセラレータが首を傾げた直後、彼の足元の地面がパックリと大きく口を開いた。

 

そのままアクセラレータの体は奈落の底に向けて自然落下する......訳がなく背中に発生させた小規模の竜巻のようなもので滞空した。だが、直後アクセラレータの表情が曇る。

 

「これは......下から引力が? 」

 

「その通り、悪魔が住まう地獄が地下にあると仮定し、擬似悪魔たちをその象徴として地下に一定の位置に配置することで発動する。ユダヤの神、ヤハウェに逆らった反逆者や異教の者を神が地の底に落としたという逸話を元にした術式さ 」

 

引力という下向きのベクトルを操作して上向きにしようとしているにも関わらず、能力を使った干渉が出来ないという異常事態にアクセラレータの額を汗が流れる。それは端的に彼の焦りを示していた。

 

アクセラレータが焦るということは色々と珍しい。だがもちろんダビデにそんなことが分るはずがない。

 

「くそがァ!? 何をしやがったァ! 」

 

既に体の半分以上を穴の中に吸い込まれている状態で怒りの叫びを上げるアクセラレータだが、いくら声を荒げようが穴からの引力は弱まることも消えることもない。強くもならず弱くもならず一定の強さの吸引力を発生させる穴にアクセラレータの体はゆっくりとしかし確実に吸い込まれていく。

 

「じゃあな、最強の能力者 」

 

彼の言葉と共に、ついにアクセラレータの体は全て、穴に飲み込まれた。

 

それと同時に2つに別れていた地面は引かれあうようにくっついてもとの形を成す。

 

 

静けさが戻った操車場でダビデは周囲に目をやり、コンテナの影からこちらに視線を向けているミサカ10032号に気づいた。

 

「(あれは......この騒動に巻き込まれた一般人か? どこかで見たような顔つきをしているが......) 」

 

彼が妹達(シスターズ)について多少なりと知識を持っていれば、ウォールメンバーである美希に容姿が似ていることに気がついただろう。

 

だがダビデは科学側についての知識に明るくはない。

 

よって当然ながらその事実に彼は気づく事はなかった。

 

「大丈夫か? さっきの戦いに巻き込まれなかったか? 」

 

「ミサカは大丈夫です.....とミサカ10032号は返答します。なにより実験に参加していたのは私なのです。とミサカは事実を宣告します 」

 

思わぬ言葉にダビデの顔に動揺の色が広がった。

 

「お前が実験の参加者? そりゃあどういう....... 」

 

「気を抜くなダビデ! 」

 

ダビデの声は、途中で途切れた。

 

彼の声を遮ったのは、アクセラレータとの戦いで吹き飛ばされていた護だった。

 

「お前、無事だったのか! 安心しろ、あの能力者は擬似地獄に落とした、当分上がってはこられない! 」

 

「あの規格外のレベル5に常識は通用しないんだ!彼が、アクセラレータが本気を出せば、魔術ですら破られる可能性も.....! 」

 

そう護が言いかけた時、唐突に地面が揺れた。

 

あまりの揺れにダビデも護も、そしてミサカ10032号まで思わず地面にへたり込んでしまった。そんな立つ事もできない状態の3人の前で地面が地層ごと爆発するように吹き飛んだ。

 

とっさに重力による壁をつくり、吹き飛んで来た様々な凶器を防いだ護はその爆煙の先に見たくない人物の影を見た。

 

「いやァ、死ぬかと思った。何ですかァ?あの意味不明な能力は? 俺の力による干渉を防ぐなんて、どんな自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を作り上げてんだァ? 」

 

まるっきり巫山戯ているような、口調でアクセラレータは語る。

 

「このアクセラレータを相手にして、ここまで戦ったことは褒めてやるよ。だが、ざンねんながらここまでだ 」

 

「なにを馬鹿な! 俺の『72柱』は健在なんだぞ? 擬似地獄を崩された程度で俺の力は消えはしない! 」

 

ダビデの声に応えるように地下の配置から解かれた72体のゴーレムが次々と地の底から湧き出るように姿を現す。

 

「所詮、振り出しに戻っただけだろうが、能力者! 」

 

ダビデの叫びと共に既に地表に現れているゴーレムたちが一斉にアクセラレータに襲いかかる......はずだった。

 

だがその攻撃がアクセラレータに届くことはなかった。なぜなら攻撃が届くより先に地上に現れていたゴーレム全てを旋風が吹き飛ばしたからだ。

 

「言ったはずだぞ!いくら攻撃しても........」

 

「再生するから大丈夫ってかァ? 」

 

アクセラレータの言葉に訝しげな表情になるダビデだが、その疑問にアクセラレータが答えるわけもない。

 

次の瞬間、足元の運動量のベクトルを操作したアクセラレータが高速で一番近くにいるゴーレムに向けて駆けた。

 

アクセラレータの平屋くらいは軽く吹き飛ばしそうな旋風攻撃を受けてもゴーレムは完全には破壊されておらず再生を始めている。

 

だがアクセラレータがそのゴーレムの表面に触れたとたん変化が起きた。先程まで再生していたはずのゴーレムが逆に凄まじい勢いで崩壊し、やがでバラバラになった。

 

「再生が、働いていない? なにをした! 」

 

「あァ?単純な事だ。お前の操る人形の『再生』は確かに面倒な力だが、よく見りゃァ、一定の向き(ベクトル)によって再生活動を行ってることが分かる。なら話は簡単だ.....『再生』のベクトルを逆にしちまえば、人形は『崩壊』するってことだろォ? 」

 

その言葉にダビデの顔を驚愕の色が染めた。

 

自分のゴーレムが一度に崩壊に追い込まれ、内部の制御装置であるジェムまで一緒に崩壊させらた以上、ゴーレム使いであるダビデは全ての手を縛られたのと同じだ。

 

思考停止に陥るダビデに向けてアクセラレータは矛先を変え突っ込んで来ようとする。

 

「緋炎之護! 」

 

緋炎を纏いし十文字槍を構え、護はアクセラレータに向けて駆けた。

 

自分の技を封じられ呆然としているダビデに向けてアクセラレータの手が伸びようとしていた。その手がダビデに触れてしまえば、一瞬でダビデの全身の血流は逆流し即死にもなりかねない。

 

その悲劇は間一髪の所で護が緋炎之護をアクセラレータに突き入れたことで回避された。

 

だが当然ながら邪魔されたアクセラレータの方は黙ってはいない。刹那、運動量のベクトルを操作したアクセラレータの蹴りの一撃がとっさに槍を横向きに構えて防御の体勢をとった護の体を吹き飛ばした。

 

受け身の体勢をとる暇もなく地面に叩きつけられ呻く護に向けて上空に飛び上がったアクセラレータが飛び蹴りの体勢で突っ込んでくる。

 

「つ!緋球爆散! 」

 

護の叫びと共に突如槍の穂先に出現した緋色の炎球が爆発し、その衝撃波で護はかなり強引にアクセラレータからの攻撃を避けた。

 

だがアクセラレータの攻撃はそれで終わりではない。飛び蹴りによって先程まで護が居た場所にクレーターを作り上げたアクセラレータだが彼はそこで攻撃の手を緩めたりはしない。

 

すぐさま護がいる場所に高速で迫って来た。

 

護は体内に宿る神、ルーの助力によって限界まで高められている筋力を使い一気に真上に飛び上がりアクセラレータの攻撃を避けるが、そこにアクセラレータの追撃が来る。

 

ベクトルを操作された風が暴風と化し、容赦なく護の体を振り回す。強風に翻弄される護に向けてアクセラレータは引き千切られたレールを次々と放つ。

 

一方の護は落下しながら緋炎之護で片っ端から放たれて来るレールを両断していたが、そこでアクセラレータから予想外の大物が放たれた。

 

「馬鹿な!? 」

 

馬鹿なもなにもアクセラレータの力から言って可能なことではあるし、理屈的には理解できないこともないのだが、アクセラレータはコンテナを護に向けて放ってきた。

 

空を重く切り裂きながら、その巨大さからはあり得ないはずのスピードで迫るコンテナ。それに対して護は当然ながら護は回避行動をとったのだが直後、ある事に気づいた。

 

避けられた筈のアクセラレータの顔に笑みが浮かんでいる事に、そして自分が避けるために移動した場所の正面に、正確に2つ目のコンテナが迫っていることに。

 

「しまっ....!緋炎剛壁! 」

 

とっさに護が叫び、炎の壁が彼の前に現れた直後、2つ目のコンテナが容赦なく炎の壁を突き破り彼の体に直撃した。

 

 

 

 

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