アクセラレータとの戦いから一夜明けた翌日、護を初めとするウォールの残存員と佐天たちSAS、仏教系の魔術師にして聖人と仏の特性を併せ持つ少女、大山希。そして救民の杖からの派遣員であるダビデとナタリーはSAS事務所に集まっていた。
ちなみに結構な重傷を負っていた護だったが、自らが怪我を負っていたにも関わらず治癒魔術を行なった哀歌のおかげで1日でほぼ回復していた。もっとも急を聞いて駆けつけた佐天に潤った目で見つめられ、看病を受けていたせいで若干寝不足気味ではあるのだが。
「みんなに集まってもらったのは言うまでもない。ウォールメンバーである美希、クリスの誘拐事案についてなんだ 」
アクセラレータをめぐる騒動の渦中、ウォールの所有する拠点の1つの警護に当たっていた美希とクリスは突如消息を絶った。
誘拐されたという証拠も確証もないが、護はどこかの第3者が率いる組織の誘拐である可能性を考えていたのだ。
「それについてなんだがよリーダー。下部組織の構成員達も動員して調べてるんが尻尾すらつかめない状況なんだ。SASの2人が共同で捕らえた刀山鞘.....だったか? アイツを尋問しても統括理事の1人、貝積継敏への繋がりしか浮かんでこないし、その肝心の貝積に関しての本人の情報があいまいでね.......もしかすると彼女の雇い主は貝積じゃない可能性も考えられるってとこだ 」
SASの2人、アウレオルスと咲耶が連携して捕らえた自称原石の少女、刀山鞘は現在咲耶が見張りについた状態で事務所の2階の一室で監視されている。美希とクリスのいた事務所を襲った張本人であるという希の話から考えるに彼女の背後にいるのがその第3者と考えられるのだが、当の鞘が戦闘中語ったことを総合すると、その第3者とは統括理事の中でも比較的善人として知られている貝積と言うことになるのである。
だが高杉が言ったように、鞘が持つ貝積に関する認識などが本来の貝積と重ならない部分がある。その点を考慮するとはたしてどこまでが本当なのか疑わしいのである。
「とにかく、今日は登校しなきゃいけない。あまりにも僕自身が登校していないと色々と怪しまれそうだからもう少ししたら僕は同じく補習中で登校しなきゃいけない佐天さんと学校に行くけど、みんなは引き続き捜索を頼む。本当は僕自身が動くべきなのにごめん 」
ちなみに護が補習なわけは様々な事情で受けれなかった試験等をするためである。
頭を下げる護に一同は首をふった。
「リーダーが謝ることじゃねえよ。リーダは俺らと違って表と裏の双方で生きてるんだから 」
「私やダビデは護さんに救われた借りがあります。イギリスでの借りもありますし本来の使命を果たしながら、あなたへの借りも返すつもりです 」
「だから気にしないでくれ。俺達『救民の杖』は全力でサポートするからよ 」
「私は姉さんを取り戻すためだもの、護さんが気に病むことじゃないですよ 」
「私も結果的に命を救われたようなものです……だから協力します 」
高杉、ナタリー、ダビデ、セルティ、希、哀歌は体を休めているため不在だがこれだけの仲間達からの温かい言葉を受けて護は不覚にも涙がでそうになった。
そうして登校の準備を済ました護は佐天と並び立って登校することになった。
それは別に良いのだが、佐天がやたらと引っついてくるのが護は気になって仕方なかった。
佐天のことを護は守りたいとは思っている。作品の中で護が感情移入したキャラでもある。
だが、それだけだ。けして佐天涙子という少女に対して恋愛感情を持っているわけではないと自負している。
そのため佐天が引っついてくるのが恋愛感情からくるものだと推測はできるが、それを素直に受け取ることができない。
それでこの時も護は佐天を手で制しつつ歩き続けた。
「もー、冷たいな護さんは。あれだけ必死に看病したんだから少しくらい甘えたっていいじゃないですか 」
そう口を尖らせて言う佐天に治療の大半を行なったのは哀歌だがなと内心突っ込みながら護は口元に苦笑を浮かべた。
「佐天さんには感謝してるよ。でも甘えるのはもう少し後にしてよ。もうすぐ佐天さんの学校だしね 」
護が言うようにすでに2人は佐天が通う中学校の近くまで来ていた。朝方で人が少ないから良いものを、もし中学生達に見られれば勝手な誤解をされかねない………というわけで護としては早く佐天さんと別行動を取りたかったのだ。
「もう学校付近か.....残念! じゃあ、週末、初春連れてSAS事務所に行きますね 」
「ああ、彼女にもよろしく 」
本来は風紀委員(ジャッジメント)である初春を招くなどあり得ないのだが、今回の件では哀歌の居場所を割り出すのに内密に初春の手を借りた。もちろん事情については、行方不明になった友人の捜索と言う風に偽ったが。
よって暗部組織『ウォール』の意思と言うことではなく、万屋(ヨロズヤ)として表側で機能するSASの事務所を借りて護個人からの感謝の意思の表れとして招くことにしたのだ。
事務所には監禁中の刀山鞘がいるので安全な環境とは言い難いが、彼女には第2人格以上になると狂戦士(バーサーカー)なみの戦闘力を発揮する人造神、火野咲耶が付いており監視を行っている。彼女からはそう簡単にはのがれることは出来ないだろう。
と言うわけで初春を招く用意等も含めてこれからの予定を考えながら歩いているうちに護は高校の前まで到達していたのである。
「1年7組、古門護くん。至急生徒会室まで来なさい。繰り返します..... 」
そんな放送が鳴ったのは事件に進展がないまま、すでに5日がすきようとしていたころ、護がいわゆるクラスの3馬鹿トリオ(デルタフォース)と共に昼食を始めようとした時のことだった。
「生徒会から呼び出しなのかにゃー?なにかしたのか古やん? 」
「いや別にこれと言ったことは…….. 」
「もしかして古やん、同居している無口吃音系美少女にあんなことやこんなことを…ゲフ!?じょ……冗談やて古やん本気にすんなや…… 」
若干の殺意と共に重力を纏わせた拳を青髪に浴びせて黙らせ、護は弁当を放置した状態で生徒会室に向った。
ちなみに護は生徒会室に赴くのは初めてである。というか原作で生徒会など出てこないため存在を意識してこなかったが、考えてみればどこの高校にもあって当然なわけで、むしろ今まで気づかなかったのが不自然なのである。
そんなわけで生徒会室の前まできた護がドアをノックしようとした時だった。
「入ってきていいけど。第4位の重力掌握 」
その声に護は思わず全身をびくっとさせてしまった。護にその声の覚えはない。
だがその話し方だけでだれだか分かってしまう。
「入ります…… 」
そういってドアをスライドさせて入った護を待っていたのは、彼の予想通りの人物。
学園都市統括理事の一人、貝積継敏のブレインを務めている天才少女にして護や上条の高校の上級生である雲川芹亜だった。
「えっと……生徒会の皆さんは? 」
「いない。当たり前だけど、あれはアンタを呼ぶために使ったものだけど 」
そう言われて本当にこの人何者だよと思いつつ護は雲川の座る椅子と向かい合う位置に置いてあるパイプ椅子に腰を下ろす。
「それで.....いったい何の用事で貝積のブレインである先輩が僕を呼びだしたのですか? 」
「分かってると思うけどね、あなたの仲間の消息についてだけど 」
その言葉に護の表情が鋭いものとなる。
「あら、そんな顔しないでよ。私はただ今回の誘拐事案に関して私が無関係と言うことを伝えたいだけなのだけど 」
雲川の言葉に護は心中に疑問を抱いた。
ウォールが捕らえた2人の人物、大山希と刀山鞘は両名とも貝積の命令で動いていたことを語っている。その当人の頭脳(ブレイン)といえる彼女が無関係と明言すると言うのはどういうことなのか。
「あなたが全てを把握していると仮定して話しますけど.....僕達が交戦した2人の人物はいずれも先輩の雇い主の名を明言しています。それでも無関係だと言うんですか? 」
「無関係なものは無関係だけど。だいたい統括理事穏健派と認知されているとはいえ私がブレインであるのに暗部に簡単に探知されるようなやり方をするはずないけど 」
雲川の言っていることには一理ある。彼女の言葉は護が大山から貝積の名が出た時点で感じた疑問と同じだった。だが、それだけで結論づけることはできない。
「それじゃあ、先輩が今回の事件に関与していないと言うなら、誰が僕達に妨害を仕掛けてきたというんですか? 」
「それについては情報からの予測として上げるしかないけど。学園都市統括理事の一人、禍島冷持 」
彼女の言葉に護の表情に衝撃が走った。
「禍島.....冷持? 」
「暗部にいながら統括理事の名を全て把握していないというのも笑うしかないのだけど。とにかく私らの、貝積の名をかたっていたのはこの男と言うことで間違いはないのだけど 」
「その男が、僕らに妨害を? 」
「私達の名を語ってたとは言え、確証はない。彼の部下の一人をまあ、ちょっとした茶番で捕らえた時にそう白状したんだけど 」
そこで一呼吸おいて、雲川は机の端に置かれていた一枚のコピー用紙を引き寄せた。
「その彼が所持していたのがこのコピー紙。意味は分かる? 」
そう言われて用紙を覗きこんだ護はそこに書き記されている文章を見て顔色を変えた。
「人造神……計画 」
護たちウォールが介入した事件の一つ、『三沢塾事件』。その時に護達と交戦し、現在は別動班SASの一員となっている少女、火野咲耶は人造神計画というプログラムによって生み出された成功体だった。
「私にはさっぱり意味が分らないので、外部との繋がりがあるウォールのリーダーである君なら分かると思ったのだけど 」
「なるほど、つまりあなたが僕達に介入してきている当人なら、わざわざ手の内をさらけ出すことはしない。それを無関係だと言う主張の根拠とすると? 」
「まあ、そのあたりの判断は君に委ねるよ。正直これだけじゃ怪しすぎるだろうしね 」
そう言うと、雲川は椅子から立ち上がってドアの方にある方に歩いて行った。
「今はとにかく実質的な戦力として強力な君達との戦闘など私は望んでいない。それを知ってほしいのだけど 」
そう言って、雲川は生徒会室のドアを開け去っていった。
部屋を包む静寂の中、護は手元にあるコピー用紙を見つめた。
「禍島冷持、統括理事の一人が絡んでいる可能性のあるオカルト的事案か......またぞろ面倒なことが起きそうだな 」
そんな風に護が新たな事件の予感に頭を悩ませていたころ、学園都市内のとある学区のとある建物の中で、件の統括理事、禍島冷持は一人の男と対面していた。
「お前にはこれからかつての友を敵に回してもらうことになる。覚悟はできているな 」
「はい、覚悟はできています禍島様 」
そう答えたのは年のころ17歳ほどの少年だった。
「私、建雷剣夜初め『神裔隊』全員があなたの指示のもとに動きます。例え敵となるのがかつての友であったとしても 」
少年の言葉に頷いた、禍島はその口に笑みを浮かべながら言葉を発した。
「さて、同志諸君、始めようか。この学園都市の改造を! 」