とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある少女の過去回想

「そう...........高杉まで.............」

 

「ええ........ごめんなさい。あなた達ウォールへの借りを返すどころか迷惑をかけてしまって 」

 

「気を落とさないでくださいナタリーさん...........確かに私達にとってはショックな出来事ではあるけど...........それに関してナタリーさんやダビデが気を落とす必要はないです。本来ならナタリーさん達に私たちに協力する義務などないんですから............それにクリスや美希、高杉はそんな簡単に死ぬような仲間じゃないですよ 」

 

哀歌は拠点の1つである第7学区内のとあるホテルの一室で、高杉への応援から戻ってきたダビデとナタリーから事の顛末を聞いた後、落胆し肩を落とす2人にそう言って励ました。

 

「しかしな.........倫敦塔で世話になってからさっぱり俺たちは借りを返せてないじゃねえか..........スイスでの戦闘で少しは返せたのかもしれないが、あの程度じゃ、リーダーを救ってくれたことに対する恩返しとしては全然足りない 」

 

悔しそうにつぶやいたダビデはちらりと横に目をやって呟いた。

 

「それに誰もがあんたのように仲間の悲劇を冷静に聞いてられないしな 」

 

ダビデの視線の先にいたのは、机に突っ伏して嗚咽を漏らすクリスの妹にして吸血鬼のセルティだった。

 

「セルティ、辛い気持ちはわかるけどこういう時こそ頑張って堪えよう?今やウォールの戦力の要は私やあなたのような人外のメンバーなんだから 」

 

哀歌の言葉に伏せたまま僅かに頷くセルティだが、それでも嗚咽を漏らし続けている。

 

励ます哀歌だったが彼女自身も湧きあがってくる悲の感情を抑えきれてはいなかった。

 

何しろウォール結成当初からの古参メンバーである高杉、美希、クリスの三人が短期間に敵に捕らわれたのである。

 

「敵は..........一体何が狙いなんでしょうか?」

 

そう聞いたのは、妹達(シスターズ)を巡る騒乱時に敵として哀歌と戦い、その後間違いに気付きウォールに協力している仏教系の魔術師の大山希だった。

 

ちなみに現在、この拠点にいるウォール関係のメンバーは哀歌、セルティ、希だけである。

 

リーダーである護、及びSASのアウレオルスと咲耶は招待した初春を出迎えるためにSAS事務所にいるためこの場にはいない。

 

「そればかりは推測しかできないけど.............多分奴らが実行しようとしている『人造神計画』とやらの邪魔になる可能性の高いウォールの戦力低下を狙ったのだと思う..........」

 

「でも確かウォールの役割って学園都市と敵対する外部武装組織の掃討じゃなかったですか?あの自称原石の女の子の話だと、計画を計画している勢力は内部の人間達ということじゃなかったですか?だったらそれ専門の暗部組織を狙うのが普通だと思いますけど? 」

 

「確かに普通に考えればそう.........だけどウォールに課せられているとされる役割は表向きでしかないわ...........実際はリーダーである護の判断のもと学園都市内部の者により引き起こされた出来事にいくつもウォールは介入している。敵が目をつけるのもある意味当然よ............それに...........本格的な対魔術戦を経験し、その力を備えた暗部組織はこの街ではウォールしかいない。それさえ潰してしまえば後の組織は恐れる必要がないと判断したのかもしれないわ 」

 

哀歌の言葉になるほどと頷いた希は、ふと思い出したように言った。

 

「この報告を............向こうにいる護さんは........知らないんですよね......... 」

 

彼女の言葉に哀歌は黙って部屋の窓からSAS事務所の方角を見つめるのだった。

 

 

同時刻、護はSAS事務所で佐天と初春を出迎えていた。既に時刻は深夜となっており、窓の外には夜の帳が下りている。彼のもとにはまだ凶報は伝わってきていない。

 

「やあ、久しぶり初春さん! 直接顔を合わすのはグラビトン事件以来だっけ 」

 

「そういうことになりますね...............あの後不思議と会わなくなってしまいましたから 」

 

「確かにそうよね。私とは結構会っていたのに、最近は初春と接点なかったですもんね 」

 

そんな会話をする護は少し緊張していた。その理由は初春の表情である。 彼女の表情にはなにか疑念の色が浮かんでいるように護には思えていた。

 

実際の所、初春は護に対して疑問を抱いていた。当初、彼に対しては『佐天さんと親しい上級生のレベル5』程度の認識しか彼女は持っていなかった。

 

だが、その後に起きたいくつかの事件を経て初春は護の正体がなんなのか気になりだしていた。

 

たとえば、グラビトン事件の後の初春の腕をもってしても探し出すことができなかった謎の失踪。木山が引き起こした幻想御手(レベルアッパー)事件での突然の護の介入と同時に発生した警備員(ジャッジメント)派遣部隊の壊滅。

そしてたびたび護の消息が掴めなくなること。これらの疑念材料から初春は護がなにか秘密を隠していると判断していた。同時にそれが佐天にとって危ないことであれば力づくでもそれから離れさせる心づもりでもあった。

 

「とにかくあんまり大したおもてなしはできないけど。とりあえずお菓子とかは用意しといたから自由に食べて 」

 

そう勧める護だが初春は少しも手をつけず、すっと席をたつと護の方を見た。

 

「すいません。すこし2人だけで話がしたいんですけど良いですか? 」

 

その言葉に、初春が何を言おうとしているのかだいたい予想ができた護は目だけで動こうと席を立ちかけていたアウレオルスと咲耶を制し、初春の言葉に頷いて席を立った。

 

2人で別室に向う護と初春を見て、首をかしげる佐天と対照的にアウレオルスと咲耶はたがいに顔を見合わせて肩をすくめた。

 

 

「突然こんなこと言ってすいません..........でも聞きたいんです、護さんは誰なんですか?」

 

初春のストレートな問いに護は内心苦笑しながら、それでも表には出さず答えた。

 

「誰って.........僕は僕だよ。学園都市レベル5の第4位で高校1年の男だよ? 」

 

「そういう意味で聞いたんじゃありません............私が聞きたいのは護さんの裏側の姿です 」

 

その言葉に、もしや気付いているのか?という疑念を抱いた護はそれでも平静を装い言葉を返した。

 

「.............なんのことかな? 」

 

「誤魔化さないでください。私は護さんが行方不明になっていた時から調べてたんです、その後の幻想御手事件の時もずっと..............そうしたら.........」

 

初春は唐突に制服のポケットから1枚の写真を取り出した。どこかに設置されていた監視カメラからかあるいは学園都市製の衛星からだろうか、幻想御手事件の終幕の地となった高架道路が映されている。

 

別にそれ自体は問題にはならない。だが、問題はそこに背中に羽を生やした状態で剣を振るう少女、哀歌の姿が写りこんでいること、そしてその近くの高架へと昇るための階段の位置に護の姿が写っていたことだっった。

 

「この写真をどう説明するつもりなんですか?これを見ると翼を生やした女の子に護さんが呼びかけているようにも見えるんですけど............すぐにデータが削除されてしまったのでこれしか写真は入手できなかったけど、これについてなにか言い訳があるんですか? 」

 

さすがにこれは誤魔化しきれない。そう護は思った。こういった映像や写真はアレイスターらの情報統制によりそのほとんどが削除されていたはずだが、それらを掻い潜ってこの写真を入手したのはさすが初春と言えるだろう。

 

「.................確かにこの写真に写っている女の子とは知り合いだよ。彼女の名は竜崎哀歌。この街の能力者の1人で能力名は『人外変化』。肉体変化(メタモルフォーゼ)系のレベル4だよ 」

 

「そのあたりは私も調べて知っています。でもなんでその人がこの場にいたんですか? 」

 

「..................もうこうなったら仕方ないか!全部話すよ初春さん。この場に哀歌がいたのは僕が君を助けるよう彼女に依頼したからだ 」

 

「え........? 」

 

虚を突かれた表情になる初春に構わず護が言葉を続けようとしたその時だった。

 

部屋をノックもせず、咲耶が蒼白な表情をして入ってきた。

 

「!どうしたんだ? 」

 

「連絡があった...........『宝珠は砕けた』だって 」

 

その言葉に表情を硬くした護は、いまだ呆然としている初春に手を合わせて言った。

 

「ごめん。また後日しっかり全てを話すから今日は勘弁してほしい。あと............僕について調べていたのなら大体分かっているとは思うけど.............自分が風紀委員(ジャッジメント)であることを認識したうえでもう1度よく考えてほしい 」

 

そう言って部屋を護が去った後も、初春はしばし無言で考え込んでいた。

 

 

「.............ということは古参メンバーが哀歌を除いて壊滅ってことなんだね? 」

 

「そういうことになる..............どうするの? 」

 

「とにかく今から拠点(そちら)に咲耶を連れて向うよ 」

 

哀歌との通話を終え携帯をポケットに入れた護は、後ろについてきている咲耶を振り返った。

 

「人造神計画..............君を生みだし、そして君が止めようとした計画が動き出したみたいだよ 」

 

「はい............ごめんなさい............」

 

「なんで君が謝るんだよ? 」

 

「私が初めての成功体となったからあの人たちはきっと味をしめて計画を続けたんです............私さえいなければ.......」

 

「さすがに自虐すぎるよそれは.........悪いのは計画を発案した禍島っていう統括理事だよ.」

 

護の言葉に咲耶は首を強く振った。

 

「違います!あの時、彼が一緒に私を連れ出して真実を告げられた時に死を選んでいればこんなことには...........」

 

その言葉に護は1つ気づいたことがあった。

 

「今、彼が一緒に連れだしてって言ったよね?その彼って誰? 」

 

「それは.............」

 

言葉に詰まる彼女になにか隠したいことがあるのだろうと察した護は、彼女の中の別の咲耶に問いかけることにした。

 

「言いにくかったら第2人格とかに話してもらえば良いんじゃない? 」

 

「それで良いですか..........? 分かりました 」

 

そう言って咲耶が目をつぶった瞬間、髪の毛がふわっと浮き上がり閃光を発したと思ったら次の瞬間には黒髪から深紅の赤髪に変っていた。

 

そして目を開けた咲耶の瞳は深紅の色に変っていた。彼女の持つ人格の中の1つ、俗に第2人格と呼ばれる攻撃的な2人目の咲耶へと変化したのだ。

 

「笑止................本人格に配慮してぇ...........私を表に出したのは『私達』を研究所から連れ出した男の名前を聞きたいからぁ?一応、私も人並みに心に傷を負ったりするんですけどぉ? 」

 

「だったらもう少し口調を直した方がよいと思うよ?」

 

呆れつつ言った護に口元を尖らせてぶーぶー文句を言った咲耶だが、彼女とて事態の深刻さが理解できぬわけではないらしく口調はそのままであるが『そのこと』について話し始めた。

 

「主人格の言った『彼』っていうのはぁ、同じ研究所で生み出された人造神の成功体のことなんだぁ。その彼はねぇ、たった一人で研究所にいた全職員、及び武装警備員、視察に訪れていた組織幹部を全て殺害し、同じく成功体だった『火野咲耶』、つまり私たちを連れて研究所から逃げ出したのよぉ 」

 

「その彼も人造神の成功体.............しかも1人でそれだけ大勢の人を倒すということは、かなりの実力者ってことだよね? 」

 

「そりゃあ強かったわねぇ。戦闘力は下手したら第3人格すら超すんじゃないかしら..............後頭も切れる奴だったわぁ 」

 

第3人格とは神である咲耶姫のことを指す。竜人である哀歌と互角の戦いを繰り広げ、彼女に傷を負わせた人格でもある。その彼女より強いかもしれないとなると咲耶の言う『彼』は人造神の中でも最強クラスと言えるだろう。

 

「それで..........その彼は、いまはどこに? 」

 

「..............行方知れずになってるのよぉ...............もうかれこれ40年前だったかしらねぇ? 」

 

さりげなく言った咲耶だったが護は当然その言葉を聞き逃さなかった。40年前?

 

「ちょっと待って!今僕の聞き間違いじゃなければ君、40年前がどうとかいわなかった?」

 

「言ったけどそれがなにか? 」

 

「いや、なにか?じゃないよ!君の言うことが正しければ君の現在の年齢と一致しないんだけど!?」

 

信じられないという視線を向けながら息を切らして喋る護に咲耶は冷たい目線を向けつつ言葉を返した。

 

「主人格が話したと思うんだけどぉ...........人造神のベースになるのは死体なのよぉ?死体が年を取ると思う? 」

 

そう言えばそんな話を聞いていたな...............と思いながら護はやっちまったという表情になった。

 

「ごめん。今のは僕が悪かった 」

 

「分かればよいのよぉ 」

 

偉そうに言った咲耶は、話を続けた。

 

「多分、40年ほど前だったと思うけどぉ................一度数万人規模の敵に追い詰められたことがあったのよねぇ。もちろん私たち人造神の成功体の力を持ってすればぁ............切り抜けられないことはなかった。なにしろ人造神の力はその名の通り抽象的な神に等しいのだから................だけどその時は事情が違ったのよねぇ 」

 

「事情? 」

 

「その時、私たちは50人ほどの民間人と行動を共にしていたのよぉ。私たちだけなら切り抜けられないことはなかったけど、なんの力も持たない民間人も一緒では自分たちの力をフルに使うことは不可能だったの......下手したら私たちの戦闘で共にいる民間人を傷付けてしまうかもしれない............その危険から私たちは自分の能力の制限を迫られ..............結果的に追い詰められてしまったのよぉ........ 」

 

「だけど君は生きて今、ここにいる 」

 

「そう...........その時に、私は力の全力を持ってその場を切り抜けることができた。だから今、ここに立っていられるわぁ.................でもその代償は大きかった............」

 

そこでいったん会話を区切った咲耶はしばし空を見上げて沈黙した。

 

その姿に護は、咲耶の言う彼になにかあったのだろうと直感した。

 

やがて、再び顔を護に向けた咲耶の瞳は涙に潤っていた。

 

「敵の眼を引き付けるために『彼』は、わざと敵の真っ只中に突っ込んでいって派手に陽動を行なったのよぉ。わざわざ敵の攻撃に当たって、相手に『こいつなら殺せる』と思わせてまで............. そうやって敵の大半を彼が引きつけてくれたことで民間人のほとんどはその場を逃げ出すことができ............民間人という枷がなくなった私も、その力を持って追手を蹴散らしてその場から逃げだせた....................でも『彼』はそれっきり消息が掴めなくなった...............その時の敵のデータベースに侵入してまで調べて..............今までの40年間調べ続けていたけど行方は分からないままだった..................でも、最近になって1つ可能性が浮上したのよぉ...........彼は私たちを生んだ『人造神計画』..............それに関係するなにかに彼が巻き込まれている可能性が 」

 

「それが君がこの街に来ることに繋がったってわけだね 」

 

護の言葉に咲耶は頷いた。

 

「それで、その彼の名前ってのは? 」

 

「剣夜よ。建雷.........剣夜 」

 

 

 

そんな会話が成されていたころ、学園都市内のとある学区のとある施設の中で高杉は目を覚ました。

 

「ここは.......... 」

 

体を動かそうとするが、なにやら鉄製の拘束具のようなもので全身を拘束されており全く身動きが取れない。

 

ならばと、瞬間移動を行おうとした高杉だが、次の瞬間鼓膜が破れそうな奇妙な音が耳に飛び込んで、能力使用のための演算ができない状況に陥った。彼は知る由もなかったが、その音は能力者の演算を妨害する周波音を発する特殊機器、キャパシティダウンによるものだった。

 

「無駄だよ..........いくら抵抗しても君はもはや籠の中の鳥だ..........」

 

耳を抑えもだえる高杉に向けて、しわがれた老人の声がかけられる。

 

「すでに確保してある2人は『調整済み』だ。君もすぐに終わるだろう 」

 

そう話しかけて、老人はにっと口元を歪めた。

 

「もっとも、今の状態の君にこの声は届かんだろうがね............初めろ 」

 

老人の言葉にこたえて、2人の黒服の男がいまだ悶えている高杉が拘束されたままになっているタイヤ付きの台を奥の部屋に運んでいく。

 

それを見送った老人は、電動車いすのスイッチを操作し、その部屋の別のドアに向いながら腰のポケットから小型の携帯電話を取り出し、口元に寄せた。リダイヤル機能で一瞬で相手を呼び出し、それを告げる。

 

「禍島だ...........神裔隊総員に告ぐ...........これよりオペレーション・ウォール・ブレイカ―を開始する..........各員は速やかに所定の任務を遂行せよ 」 

 

 

 

 

 

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