とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある広場の大魔術

「降伏しろ哀歌。これ以上抵抗すれば死によってしかウォールの、護の洗脳から解放できなくなっちまうぜ?」

 

哀歌の背後で彼女の背中に銃口を突き付ける高杉の声には一切の迷いは感じられなかった。

 

哀歌はその声からそれを理解し、内心首を傾げた。

 

現在攫われて行方不明になっていた3人はなぜかウォール、及び護を敵視している。

 

だが哀歌の名を憶えていることから、ある程度の記憶や意識は行方不明前と同一だということが分かる。

 

状況から考えられるのは、何らかの方法で3人は部分的に記憶を変化、あるいは削除、追加されているというものである。

 

もし魔術的な方法でそれが為されているとしたら、哀歌にはその変化が見抜けるはずであり可能性としては薄い。となると残るのは科学的な方法、学園都市の先端科学技術や心理系能力(テレパス)を用いた方法である。

 

哀歌は科学サイドの知識でいえば他のメンバーと比較して疎い面はあるものの、学園都市の科学技術を使えば人の人格や記憶も変化可能な可能性は想定できた。

 

さらに今回の敵は外部組織ではなく内部組織、学園都市統括理事の1人の可能性が高い。統括理事ともなればそれらの技術を保有していても可笑しくはない。

 

「私は、高杉やクリスや美希が何と言おうと護の仲間............殺せるものなら殺してみたら? 」

 

哀歌の言葉に溜息をつき首を振った高杉は冷静に引き金にかけた指に力を込める。

 

「じゃあな、哀歌 」

 

その引き金が容赦なく引き絞られようとした次の瞬間だった。

 

突然、哀歌と高杉の周辺から人の気配が消えた。

 

「? 」

 

その変化に高杉が一瞬気を取られた隙をつき哀歌はそのままの位置から高杉に向けて後ろ回し蹴りを喰らわせ後方に派手に吹きとばす。

 

体勢が戻るのを待たず、クリスが念動力によって操る無数のパチンコ玉や美希の放つ雷撃の槍が哀歌に襲い掛かるが、それらの攻撃は突如ぱっくりと口を開けた地面から現れた巨大な掌によって防がれる。

 

「これは、人払い............来てくれたの........? 」

 

「当たり前だろ!俺達救民の杖はまだロンドン塔での恩を返せてねえんだよ! 」

 

地面から掌の後に上がってきたのは、杖を持ち、学生服のような物の上にローブをはおった少年。魔術結社『救民の杖』のゴーレム使い、ダビデだった。

 

「良くは分からんが。助ける予定だった3人が裏切ったのか!? 」

 

「それについては現時点では良く分からない.......今は引き上げて護に報告しなくちゃいけない....」

 

「了解。そういうことならこの3人の相手は俺がするからお前は穴を通ってナタリーと合流しろ!穴の出口で待機しているはずだ! 」

 

「本当に1人で大丈夫?あの3人はかなりの手だれよ? 」

 

「むしろそれならそれで腕が鳴るってもんだぜ。一度本気でウォールの主力とやってみたかったんだ。夢がかなってもう死んでも悔いはないくらいだ!いいから早く行け! 」

 

ダビデの言葉に、彼を見、穴を見、もう一度彼を見つめた哀歌は意を決したように頷くとダビデのゴーレムが出てきた穴に飛び込むように入っていった。

 

人払いによって警察官たちが全員姿を消し、高杉、クリス、美希しか残っていないビル前広場でダビデは薄く笑いながらそのローブの内部から小型の旧式爆弾を取り出し両手に握る。

 

「さあて能力者2人相手は俺でもさすがにきついからな。早めに終わらせて貰うぞ! 」

 

言葉と共に両手に持っている爆弾を放り投げたダビデは同時に腰のチョーク差しから引き抜いたチョークで地面に陣を描く。

 

高速で描かれた陣が光を発し、次の瞬間には陣の描かれた範囲のコンクリートや土くれが剣やら槍やら弓やら旧式銃やらを装備した人造兵士(ゴーレムソルジャー)へと姿を変える。

 

同時に広場の中央付近上空に投げられた爆弾も空中で爆発を起こす。

 

爆弾からまき散らされたのは色様々な着色料。それらが地面に複雑な文様を描きだし、その文様を下から突き上げるように破り、2体の見上げるような巨体のゴーレムが姿を現す。

 

「第1柱、異端神バアルと第2柱、大公爵アガレスだ。この2体だけで敵を相手にするのは久しぶりだが...............72体を繰り出した時より1人1人の魔力は増大している。ただで帰れると思うんじゃねえぞ! 」

 

異端神バアルは、カエル、猫、王冠をかぶった人間の3つの顔を持つ悪魔であり、古代イスラエル王ソロモンが使役したと言われる『ソロモン72柱』と呼ばれる悪魔たちの中で最上位の第1柱とされている。

 

大公爵アガレスも同じく72柱の1人であり第2柱とされている悪魔である。クロコダイルに乗った青褪めた老人が手にオオタカをとまらせた姿で現れるとされている。

 

ダビデのゴーレムも当然ながらその要素を受け継いでおり、バアルは中央に王冠をかぶった老人の、左に猫の、右にカエルの顔を持った3本首の、巨大な剣を構えた姿となっている。

 

また、アガレスは記述と同様に巨大なワニにまたがってオオタカを左腕に止まらせ右手に杖を持った老人の姿となっている。さすがに青褪めた顔までは表現出来ていないが、それ以外は記述通りの姿であった。

 

2体はそれぞれに狙いを定めて動き出す。

 

バアルが狙ったのは美希、アガレスが狙ったのはクリス、そして無数の人造兵士(ゴーレムソルジャー)達は均等な数に分かれて2人に向けて襲い掛かる。

 

高杉は先ほど回し蹴りを喰らわされてふきとび意識を失っている。ダビデにとっての敵はクリスと美希のみとなっていた。

 

足が速く軽量な人造兵士達が次から次へと美希とクリスに襲い掛かるが、美希に襲いかかろうとする者は近づく前に電撃で吹き飛ばされ、あるいは砂鉄の波に飲み込まればらばらにされ、クリスに襲いかかろうとしたものは、その念動力により近づく間もなく吹き飛ばされたり真上から叩きつぶされたりする。

 

はっきり言って人造兵士たちは2人に到達すらできていなかった。

 

だが時間稼ぎと意識をそちらに逸らすことには成功した。

 

2人の意識が人造兵士達に向いている隙をつき、本命であるバアルとアガレスの両ゴーレムが攻撃を仕掛ける。

 

バアルはその右手に握る剣を勢い良く振り上げる。剣先が丸く刺突攻撃を無視した様式となっている斬撃専用の剣でありその刀身には凝った装飾が施されている。名はエクゼキューショナーズ・ソード。その名『処刑(エクゼキューショナーズ)』が示す通り本来は中世ヨーロッパにおいて高貴な者の処刑の為に使われていた剣である。

 

バアルの行動から攻撃を予測したらしい美希は、いまだ周辺に纏わせている砂鉄を一か所に瞬時に集める。

 

次の瞬間、バアルの剣と美希が瞬間的に作り出した砂鉄の剣が激突した。

 

轟音と火花が散る中、美希は信じられないといった声を上げた。

 

「なんで砂鉄で斬れないのよ!? 」

 

美希の砂鉄の剣は高速振動する砂鉄によって鋼鉄や複合装甲すら切断する切れ味を発揮する。

 

だというのにバアルが振り下ろした、土くれから形作られたはずの剣を砂鉄の剣は切断することができない。

 

空中でエクゼキューショナーズ・ソードと砂鉄の剣は拮抗している。それが美希には信じられなかった。

 

剣が切断できないと見た美希は体を直接攻撃するため砂鉄の剣でバアルの剣を押しのけ正面から刺突を仕掛ける。

 

だが、バアルは予想していたかのようにその巨体から想像できないような軽快な動きで体を横にして躱し、その態勢から横薙ぎの斬撃を放つ。

 

イギリス清教の魔術師、シェリー・クロムウェルが使役していたゴーレム・エリスを知っている護がこの光景を見たら目を疑ったかもしれない。彼女が使役していたゴーレムはこんなにも軽快な動きをすることはできず、またこれほどまでの強度を持たなかった。

 

彼女はゴーレムを使役するにあたりヘブライ圏で神殿の守護者とされていたゴーレムをイギリス清教風の解釈を持って十字教における4大天使とむりやり対応させていた。いわばユダヤ・ゴーレムの変化体とでも言うべき存在だったゴーレム・エリスだったが、変化体であるがゆえにユダヤの魔術師たちが受け継いできたゴーレムの技術を完全に再現できていなかったと言えるだろう。ユダヤの魔術結社救民の杖随一のゴーレム使いであるダビデの作りだしたゴーレム達はゴーレム・エリスをはるかにしのぐ性能を持っていた。

 

慌てて砂鉄を横向きに集める美希だが、その量は圧倒的に足りなかった。

 

互いの剣が切れ味で拮抗している以上、その差を決定するのは2つ。重さと大きさである。

 

横薙ぎの斬撃を急いでかき集めた砂鉄による剣で防ごうとした美希だったが、先ほどまでのような巨大な砂鉄の剣を作ることはできなかった。倍近い大きさを誇る処刑用剣(エクゼキューショナーズ・ソード)の横薙ぎの一撃をかろうじて受け止めることには成功したが、その衝撃と勢いを抑えることはできず、彼女の体は後方に吹き飛ばされ一気に地面に叩きつけられる。

 

「美希! 」

 

美希の状況に気付いて彼女の方に向おうとしたクリスだったが、その彼女に向けて狙いを定めるアガレスのその左腕にとまっていたオオタカが突如そのくちばしを開き、鮮血のごとき色彩の光線を放つ。

 

念動力を使って止める間もない速度で迫る光線をクリスは辛うじて避けるが、オオタカは次から次へと光線を放ってくる。

 

それらをなんとか避けながらクリスは術者であるダビデを探す。

 

しかしそんな暇を与えないようにするかのようにアガレスはその巨大な右手に握る杖をクリスに向けて叩きつけてくる。

 

その攻撃を防ぎ、また押し返し、避けてとしているうちにクリスはアガレスの正面の位置に来ていた。

 

「こうなったら直接........! 」

 

クリスはその念動力の全てを前に立つゴーレムにぶつけるべく精神を集中させる。

 

その時だった。

 

「準備完了ってとこか 」

 

突然アガレスの背後から現れたダビデが、その手に握る光り輝くチョークを真上に向けて放り投げる。

 

空中に放り投げられたチョークは突如爆発し、5つの閃光を放つ。

 

放たれた5つの閃光はそれぞれまるで吸い寄せられるように、クリスを遠巻きに囲むように彼女の周囲5か所に着弾する。

 

次の瞬間、先ほどオオタカが放った光線と同色の光の線が地面に巨大な逆五芒星を描きだした。

 

「これは.........!? 」 クリスが異変を感じて動きだすより早く、アガレスがその右手に持つ杖を勢いよく投擲する。

 

まっすぐ飛んだ杖は五芒星の中心に突き刺さる。その瞬間逆五芒星が凄まじい光を放った。

 

「創作術式、五芒大激震(レイダット・アマダ―)! 」

 

ダビデの叫びにクリスが身構えた直後、五芒星に囲まれた地面が大きく振動した。

 

いや、実際にはそう感じたのはクリスだけだったろう。なにしろ五芒星から1キロも離れていない位置にいるダビデは平然と立てているのだから。

 

「アガレスがもつ伝承の1つにはこういったものがあるんだよ。すなわち地震を起こす能力を持つってことだ。もっとも悪魔そのものではない偽物(ゴーレム)に本物(アガレス)そのままの力を再現させるのには無理がある 」

 

五芒星の中にいるクリスにはダビデの言葉を聞いている余裕はなかった。もはや立っていることもできず地面にへたり込んでいる。

 

「そこで可能な限りオリジナルに近づけるために俺が考え出したのがこの術式だ。その逆五芒星の中にいる者は疑似的に悪魔の支配地域に居る者と同等の存在と認識されるようになっている。当然悪魔の支配地域は地獄だ。そして、その地獄で、認識されない支配地域において、当然ながらそこの住人の存在は現実世界、人が暮らす物質世界からは切り離されることになる.......もっとも純粋かつ大量の魔力が必要なんで地面に立つゴーレムをアガレス1体にしなきゃいけない欠点があるけどな! 」

 

彼の言葉を証明するようにすでに広場にバアルと人造兵士たちの姿はなく、ただ崩れた砂や石、コンクリートなどが散らばっているだけとなっている。

 

クリスの視界を閉ざすように五芒星の輝きはさらに激しさを増し、それと同時に彼女を襲う揺れも激しさを増す。

 

「その結果としてその五芒星の中だけで内部にいる人間だけがアガレスの能力を疑似的に再現した幻覚............人間の五感を誤認識させる術式の効果を受けることになるわけだ...............描け! 」

 

ダビデの言葉に導かれるように鮮血のごとき色彩の逆五芒星がさらに広範囲に広がる。その大きさはすでにビル前広場を覆うほどとなった。

 

その星の中心点で何事もないかのように平然と立つアガレスの背中に立ちダビデは高らかと宣言する。

 

「地獄の東方大公爵!従えし31の軍団の待つ深紅の地獄にいざまいらん! 」

 

ダビデの叫びに応えたアガレスが星の中心に突き刺さる杖を引き抜いた瞬間、ビル前広場は凄まじい深紅の閃光に包まれた。

 

それが消えた後、もはやビル前広場には巨大な五芒星の形をした穴しか残っていなかった。

 

 

その様子を某ビルから眺めていた剣夜はため息をついて、呟いた。

 

「さすがに、ただの能力者で魔術師に抗するには無理がある.......か 」

 

携帯を取り出しリダイヤル機能で相手を呼び出しながら剣夜は、すこし口元を吊り上げて笑みを浮かべる。

 

「だけど...........すでに調整済みの仲間を助けてどうするつもりなのかな?見物だね古門護 」

 

そう言った後で剣夜は少し表情を曇らせた。

 

ぽつりとまるで後悔を述べるかのように聞こえるか聞こえないかの細い声で彼は続けた。

 

「足掻いてみせろ..........かつての僕がそうしたように 」

 

呟いた直後にリダイヤル機能で呼び出した相手と繋がった剣夜は電話の相手、学園都市にいる仲間に言葉を放つ。

 

「禍島様のご指示が出た。我ら神裔隊は4番隊を除く全隊が本計画のために動く。始まるよ...........学園都市を、ひっくり返そう 」

 

 

 

 

 

 

 

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