とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある銭湯の名物教師

「ボックス......か......  」

 

「私たち以外の暗部組織が、共闘を要請して来るなんてね...... 」

 

突然に、別の暗部組織のリーダーである愛華から接触を受けた護たちは混乱していた。

 

しかも護達は今、それどころではなかったのである。

 

「哀歌、クリスと高杉と美希は? 」

 

「護.....3人はダビデが確保した....でも完全に記憶と意識を改ざんされてる。多分科学的な方法で洗脳されたのよ 」

 

哀歌の言葉に護は唇を噛んだ。ウォール創設時からの古参メンバーの内もはや残っているのは哀歌ただ1人。

 

他の古参メンバーはそのことごとくが学園都市統括理事の一人が率いる人造神達などとの戦いで捕らえられ、なんらかの細工によりウォールに敵対する存在へと変化させられてしまった。

 

現状、ウォールの戦力は、護、哀歌、セルティの3人のみ。協力者として『救民の杖』のダビデとナタリー、仏教系の魔術師の三国希、急を聞いて協力を申し出た人造神の冬木淡雪、SASから火野咲耶、誤解が解け、これも協力を申し出た原石の少女、刀山鞘の5人。合わせて8人である。

 

「現状、禍島冷持が率いる人造神達が何人いるのかや、それ以外の戦力などはさっぱり分からない.....ただはっきりしてるのは、彼らは高度な洗脳技術を持っていること、その戦闘能力は決して侮れるものじゃないってことだ 」

 

「とりあえず人造神達に警戒しなきゃならないけど....そもそも禍島冷持を捕らえることが出来れば一番早いんだけどね 」

 

「それができれば苦労しないんだけどね 」

 

実際、護がウォール下部工作員達を総動員しての禍島冷持の捜索を指示してから既に4時間近くが経過していた。

 

仮にも学園都市統括理事会に席を持つ男である。そう簡単には見つかるとは護も考えてはいない。しかし、仲間達、古参メンバーに関する報告が護を焦らせていた。

 

古強者とでも言うべき古参メンバー達ですら、捕らえられ、洗脳の対象となり、敵と化したのだ。ならば他のウォールメンバーとていつ敵にされてしまうか分からない。早く禍島の動きを抑えなければと護が焦るのも当然といえば当然と言えた。

 

しかし、この時点で護は失念していた。禍島が率いる人造神達からなる集団、『神裔隊』が狙うのはウォール戦闘要員だけなはずがないということを。

 

同時刻、学園都市第7学区、とある銭湯から外に出てきた少女、佐天涙子の前に一人の少女が立ち塞がった。

 

「あなたが佐天涙子ね」

 

「え? 」

 

「ウォールリーダー、古門護が守ろうとする少女。報告は受けていたけど、まさか本当にただの無能力者だったアルか.....だけど、まあ、私らにとっては好都合デスだね 」

 

そういって少女、神裔隊5番隊長アレプーリコスはその顔に狐を模した面を着ける。

 

「しばらく眠ってもらうアルよ 」

 

アレプーリコスはその手に青白く輝く鬼火を出現させる。

 

佐天は身構え、周りに視線を向けるが、あいにく周囲に人影はない。

 

逃げられないことを確認し、佐天は攻撃を受けることを覚悟し、ギュッと目を瞑った。

 

「あれ?佐天ちゃん、なにしてるんですか? て......こりゃあ!そこの発火能力者の子、なにしようとしてるんですかぁ! 」

 

だが、佐天へのアレプーリコスによる攻撃は、浴場から出てきた一人の少女の叫びにより止められた。

 

いや、正確には声の主は少女ではない。なぜなら外見こそ少女であっても彼女は高校の教師を務め、酒もタバコも嗜む、正真正銘大人の女性だからである。

 

そう、その場に居合わせたのは、学園都市7不思議にも認定されている、名物幼女教師、月読小萌その人だったのである。

 

「こ....小萌先生! 」

 

佐天は、幻想御手事件後に使用者を対象に開かれた勉強会に参加した際に、小萌先生と対面し、教育を受けている。その為全く面識がないわけではないのだが、そんなに親しいわけでもなかったので、自分を小萌が覚えていてくれていたことに素直に驚いていた。

 

一方のアレプーリコスは突然の介入者の登場にあからさまに忌々しげに舌打ちをした。

 

「私がなにをしようとあんたには関係ないアルよ。邪魔する気アルか? 」

 

両手に鬼火を出現させ威嚇するアレプーリコスに対して小萌は、その小さな目を丸くして驚き、次の瞬間、佐天の前にアレプーリコスに向かって大きく両手を広げて立ち塞がった。

 

「一度教師として教えたからには、その子は私の生徒なのです!その生徒を傷つけようとする人を前に先生だけが逃げるわけにはいかないのですよ! 」

 

「さっきから教師、教師って.......そのなりをどう見たら大人に見えるアルか!?  」

 

苛立ちの混じる声で叫びながらアレプーリコスはその両手の鬼火を小萌に向けて放った。

 

その鬼火がどのような威力を持つかは、佐天には分からない。だが彼女とて超能力の街、学園都市の学生である。こちらに向けて放たれた鬼火を喰らったら無傷では済まないことは即座に理解した。

 

「ひっ! 」

 

真近に迫る鬼火に佐天は思わず悲鳴と共に目を強く瞑った。

 

「佐天ちゃん......これからの事は、誰にも内緒ですからね....?」

 

そう彼女らしからぬ静かな声で小萌が呟いた次の瞬間だった。

 

まるでビデオ映像の巻き戻しのように放たれたはずの鬼火がアレプーリコスの両手に戻り、消えた。

 

それどころか、何時の間にかアレプーリコスは狐の面を外してしまい、みずから懐にしまってしまっていた。

 

「?......なにが起きたあるか? 」

 

「簡単なことですよ.....あなたが人造神だというのなら、私の名前、月読小萌から、なにが起きたのか察することができるはずなのですよ 」

 

小萌の言葉にアレプーリコスはしばし思考を巡らせ、直ぐにその推測に思い当たり息を呑んだ。

 

「まさか.....あなたが『創生の4神

』......日本神話に登場する月と暦を司る神、月読! 」

 

「その通りですよ。そこまで知っているなら分かっていますよね?あなたじゃ私には勝てないということは 」

 

普段の彼女なら絶対に浮かべないような嗜虐的な笑みを浮かべる小萌に本能的な恐怖を感じたのかアレプーリコスは後方に下がろうとする。

 

だが、その身体が動くことはなかった。なぜなら動こうとしたアレプーリコスの全身に突然、複数の刃物で切り刻まれたような無数の傷が現れたからだ。

 

 

「ぐわあァァァ!!?? 」

 

「自分で言っておいて忘れたんですか?月読は、月と暦を司る神だって。暦とはすなわち時、時間のことです。あなたが人造神なら、『なんらかの原因で命を奪われた』はずですよね?その時まであなたの時間を遡らせてもらいました 」

 

「馬鹿な.....『時神』の.....力アルか?......こんな化け物が野放しにされているなんて.....無茶苦茶アルよ..... 」

 

「その無茶苦茶が起きてしまうのが学園都市なのですよ。さて、仕上げをしますよ 」

 

そう言うと小萌はゆっくりとアレプーリコスに近づき、倒れて身動きできない彼女の身体に手を置いた。

 

「な.....なにする気アルか....? 」

 

「直接触れなくても時神の力は使えるんですけど、触れていた方がより確実に使えるんですよ。今からあなたを人造神になる以前のあなたに戻してあげます 」

 

次の瞬間、アレプーリコスの身体中に刻まれていた無数の切り傷は全て消え去り、ボロボロの布切れを重ね合わせたような服がアレプーリコスの身体を覆った。

 

その身長も縮み、髪も伸び、元のアレプーリコスからはかなり姿が変わる。もう、お面も消えている。

 

「血の気が.....戻ってる.....こんな事って...... 」

 

「先生に出来るのはここまでです。あなたはもう人造神ではありません。これからどう『人間』として生きるかはあなた自身が決めてくださいね? 」

 

某然と座り込むアレプーリコスに背を向け小萌は、佐天に向かって歩いて行く。

 

「小萌先生......先生は、いったい 」

 

「先生は人間ですよ、そしてこの学園都市の教師ですよ佐天ちゃん。今の先生は、自分の教え子たちの生活を守れれば、それで充分です。それ以上は望みません 」

 

「佐天ちゃん。さっき言いましたよね。これからの事は誰にも内緒って....... 」

 

佐天の目の前まで来た小萌は、その小さな手を佐天に向けて差し出す。

 

その行為に自分も先ほどの少女のようになにかをされると思った佐天は思わず目を瞑った。

 

「先生は佐天ちゃんを信じるのです。佐天ちゃんが苦しいと言うなら、佐天ちゃんの時間を遡らせて記憶を消しても良いのですけど、先生としては教え子達に力は使いたくないのですよ 」

 

思いがけない言葉に佐天は目を見開き、小萌を見つめた。

 

小萌に救われた一連の記憶は消す事ができるなら消した方が良い。それは佐天にも理解できていた。つい先日にも護自身の口から、護たちウォールと対立している存在として人造神と呼ばれる存在があることを聞かされていた。

 

詳しい事情は分からないが、小萌自身も自分が、その人造神だと明言している。

 

佐天がその事実を知っているのは、小萌にとっては良い事ではあり得ない。しかも現在佐天は学園都市暗部で活動する組織と関わりを持っているのだ。

 

佐天が万が一にも小萌の秘密を、そちらに漏らしてしまえば、小萌は間違いなく暗部の人間に目を付けられる事になるだろう。

 

だが、と佐天は心の中でその考えを打ち消した。

 

恐らく、それら全てを承知の上で小萌はわずか数日担当しただけの佐天を教え子として守る為に、その力を佐天の前で行使したのだ。

 

そして、佐天を信じると。教え子に力を使いたくないと悲しげに言う小萌に対して記憶を消して欲しいとは、佐天には言えなかった。

 

さらに、それ以上に佐天は、このわずか数分間の間に自分を巡って繰り広げられた一連の出来事を忘れたくなくなっていたのだ。

 

「分かりました。小萌先生の秘密は絶対に守ります。小萌先生の力の事は誰にも喋りません 」

 

佐天の言葉に小萌はニコッと少女らしい笑みを浮かべ、改めて佐天に右手を差し出した。

 

その意図が分からず首を傾げる佐天に笑みを浮かべたまま小萌は銭湯を指差しながら言った。

 

「先生が奢りますから、もう一度お風呂に入りましょう。さっき動いたせいで汗をかいてしまったのです 」

 

「はい、小萌先生! 」

 

普通の日常に戻ったことを認識させる小萌の言葉に佐天も、満面の笑みを浮かべて応えたのだった。

 

もちろん、銭湯に入る前に、2人が風紀委員(ジャッジメント)に路上に倒れている幼女がいるという一報をいれた事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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