とある世界の重力掌握   作:烈火信仁

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とある女性の開始号砲

「愛華さん……無事につけた…….かな 」

 

学園都市の一角を一人の少女が歩いていた。

 

しみひとつない白肌が特徴的である、中学生くらいの外見のその少女は、歩きながら何気なく後ろを振りかえり、そしてため息をついた。

 

「やっぱり……来ますよね…… 」

 

立ち止り後ろに明確に向き直った少女は、後ろに迫っていた誰かに告げた。

 

「陰から私を…….鹿角を見張らずに姿を見せてください。『カウンター』の人 」

 

その言葉に応えるように、建物の陰から一人の男が姿を現した。

 

現れたのは、そのあたりのどこにでもいそうな学生服を着こんだ高校生だった。

 

目立つのはその長身である。ゆうに180㎝は超えている。

 

「はずれだよ。俺は『カウンター』じゃない……まあ、賛同者だからあながちはずれちゃいけどよ 」

 

男は鹿角を舐めるけるように上から下まで眺めて微笑を浮かべた。

 

「信じらんねえな。報告には合ったけど井坂先生がこんな華奢な敵にやられたなんて 」

 

「あなたは、井坂久美子の関係者なのですか? 」

 

「まあ、教え子ってやつさ。もっとも俺が『カウンター』の賛同者なのはまったく別の理由からだけどな 」

 

「それは…….. 」

 

「お前に語る義理はねえ…….さっさと死にかけてくれんなら冥途の土産に、教えてやるよ! 」

その言葉に鹿角が身構えた直後、男が片手で無理やり持ち上げた自動販売機が鹿角に向かって放り投げられた。

 

「! 」

 

迫る自販機に向けてとっさに右手を向ける鹿角、その手が突如純白の光に包まれ、次の瞬間、その光が一筋の光線となって自販機を飲み込み消滅させる。

 

「報告に合った通りだな。それがお前の持つ能力ってやつか。本当、ウォールには多種多様な能力者がいるもんだな 」

 

「あなたは思い違いをしています…….この鹿角は、『ウォール』のメンバーではありません 」

 

「なに?」

 

「私は『ボックス』……暗部間抗争の鎮圧を目的とする組織の一員です 」

 

その言葉と同時、再び鹿角の右手より純白の光線が男に向けて放たれる。

 

「チッ! 」

 

舌打ちしながら横に転がるように体を投げ出して光線を回避した男は、避けた先にあった2台のスクーターを両手で持って勢いよく投擲し、ほぼ同時に近くにあった縦長の道路標識を地面から引き抜いて片手に握った。

 

「ボックスだろうが、ウォールだろうが、あの男…….古門 護に協力するやつらはみんな、おれの敵だ! 」

 

迫るスクーターを再び光線で消し去る鹿角だが、その間隙を突いて男は勢いよく横なぎに道路標識を振りぬいた。

 

振るわれた標識は鈍い音と共に見事に鹿角の身体を捉え、勢いよく華奢な彼女の身体を吹き飛ばす。

 

「ぐ…….か…….は! 」

 

勢いよく壁に激突し、そのまま地面に崩れるように倒れこむ鹿角。頭部からの血で顔を朱に染めている様は、誰がどう見ても重傷である。その上決定的なのはその身体的欠損であった。腹部に標識による一撃を食らったのだから当然といえるが、そこにはむごい裂け傷ができていた。その上、おそらくとっさに腕でガードしようとしたのだろう彼女の右手は第一関節から上がちぎれ飛んでいた。

 

「お前の負けだ。ウォールに協力したことを後悔しながらあの世に行け 」

 

そのまま標識を振り下ろそうとしたところで男は一つの違和感に気づいた。

 

「(ちょっと……待て) 」

 

確かに男は鹿角に重傷を与えたはずだった。実際問題鹿角は顔を血で濡らして横たわっている。ダメージは間違いなく受けている。

 

「(なのに…..だ、なのに、なんで!) 」

 

「疑問に……思われている……顔ですね……逢坂慶次……さん? 」

 

「! 」

 

まさか、横たわる鹿角に喋るだけの気力が残っているなど考えもしなかった慶次は思わず身構えた。

 

「なぜ、おれの名を? 」

 

「最初から……知っていました。あなたの名も、そしてあなたの能力『空想質量(ウェイトレス)』についても 」

 

「な? 」

 

「レベル4に分類される能力で…….分類的には念動力に位置する力…… 」

 

明らかに重傷なはずのその身体を動かし、少しふらつきながらも、頭から相変わらず血を流しながらも、鹿角は立ち上がる。

 

「兄が……警備員に属していて…….その兄を古門護による警備員部隊の虐殺……『高架事件』で失ったことで、『カウンター』の賛同者となった…….そうですよね? 」

 

「なぜだ……? 」

 

「私がそれを知っていることがですか? 」

 

「違う…….それ以前にお前は『何』だ!? 」

 

「何……ですか? 」

 

首を傾げる鹿角に、慶次は信じられないものをみる目で見つめながら言葉を紡いだ。

 

「傷口から血の一滴すら流さないものを『人間』に思えるかってんだよ! 」

 

そうなのである。確かに鹿角は頭部から血を流していた。しかし、それだけだったのである。片腕を切断され、腹部を切り裂かれているにも関わらず、彼女はその傷口から一滴の血も流していなかったのである。

 

「ああ……確かにそうですよね……本来ならそっちを異常に思うものですよね……最近は当たり前になりすぎて自分でも忘れてました 」

 

そう言いながら鹿角はそのちぎれた腕をゆらりと上に掲げる。次の瞬間、彼女のちぎれた右腕より上の空気がゆらりと揺れた。そして次の瞬間、ちぎれた筈の彼女の腕が再生した。

 

「なに!? 」

 

「ちなみに、これは私の持つ能力による現象じゃありません。これは私の能力を最大限に活用するために私の身体に加えられた……技術です 」

 

よく見れば腹部の裂傷もすでに消えている。

 

「どういう…….ことだ……貴様の力はいったい!?」

 

「負荷反光(ウンデリヒト)……それが私の力です 」

 

答えが返ってくるとは、考えていなかった慶次は静かな口調で言葉を放った鹿角に疑問を覚えたが次に彼女が放った言葉に戦慄した。

 

「暗部組織に属する私が……敵に能力を名乗ることが……何を意味するかは分かりますよね? 」

 

分かる、分かってしまう。なぜなら、先ほど自分が似たような台詞を彼女に向けて放ったばかりであるから。

 

「感謝します……そしてごめんなさい……私は、あなたに『攻撃されなければ』戦えなかったから 」

 

慶次をまっすぐ見据える鹿角、その身体を先ほど彼女の右手から放たれた純白の光が包み始める。

 

「やらせねえよ!攻撃! 」

 

その叫びと同時に、おそらく事前に周囲に展開していたのだろう、どこからか放たれた弾丸が四方八方から鹿角に襲い掛かる。

 

だがしかし、その攻撃は鹿角にダメージを与えはしなかった。なぜなら放たれた弾丸は彼女に到達する遥か手前で向きを変え、それを放った当人たちを撃ち抜いたからだ。

 

6か所でほぼ同時に響いた誰かが倒れる物音に、慶次の顔から血の気が引いていく。

 

「おい……どういう……ことだよ? 」

 

「簡単な話です…….あなたが仲間を後ろに控えさせていたように……私も、契約を結んだ協力者に念のため行動を共にしてもらっていたのです 」

 

そんなことを語る、鹿角の背後にどこから現れたのか人影が立った。その肩には今時、学園都市(このまち)ではお目にかかることも困難だろう軍用小銃(ボルトアクションライフル)がかけられている。

 

「奴の相手は私がする……鹿角、あなたは水無月と合流するのだ。まだここで、あの程度の能力者相手にその力をつかってはいけない 」

 

「でも…… 」

 

「今優先すべきは……こちらよりも『神裔隊』のほうだ。警備員を主体とするこっちは、まだアレイスターの権限で抑えられるが、『神裔隊』はそうもいかない 」

 

「スオミさん……分かった…….後をお願いします 」

 

身体を包み始めていた光を消した鹿角は、慶次に背を向けスオミと呼ばれたヨーロッパ風の顔だちをした女性に頭を下げながら全力で走りさった。

 

慶次はそれに追撃をかけることができなかった。あるいはすることを失念していた。

 

彼の注意は新たに現れた敵、スオミに向けられていたからである。

 

ヨーロッパ風の顔だちをし、白人特有の白い肌に碧い瞳、そして肩にかかる程度の純白の頭髪をしているスオミ。歳は20代前半ほどに見える。

 

なにより特徴的なのは、その服装である。彼女が着込んでいるは上から下まで白一色の雪原迷彩を施されたギリースーツだったのである。

 

「お前……なんだ、その恰好? 」

 

「私が私であるための……証しだ 」

 

次の瞬間、彼女はその肩に下げていたライフルを一挙動で正確に構え、その引き金を引いた。

 

銃声と共に音速で放たれた弾丸は一瞬でスオミと慶次の距離を詰め、容赦なく、彼の心臓部を撃ち抜いた。

 

「な……」

 

がくっと膝から崩れ落ちた慶次が最後に見た光景は、再びそのライフル銃を正確に構え、こちらに向けているスオミの姿だった。

 

次の瞬間、放たれた銃弾に頭部を貫通され、慶次の意識はその使命と共に完全に刈り取られた。

 

動かぬ骸とかして地面に横たわる慶次に目を向けながら、スオミはそのライフル銃を再び肩にかけてため息をついた。

 

「結局……私は……何も変わってはいないということか…….だが、私にはこれしかない 」

 

慶次の遺体に背を向け、空を見上げるスオミ。その視線の先にはおそらく『カウンター』の差し向けたものであろう。武装を施された輸送ヘリが迫っている。

 

「さてと……『ボックス』があっちに専念できるように、わたしが『カウンター』をひきつければな 」

 

確実にこちらを射程に捉えたであろうヘリの側面の扉があき、内部から電動式の多銃身機銃、いわゆるガトリング銃が姿を現す。

 

「さあ、来い。カウンター! 」

 

銃声は同時に響いた。それは暗部組織『ボックス』と報復組織『カウンター』の戦いの始まりを告げる号砲であった。

 

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