護は、あれはてた廃墟に佇んでいた。ここになぜいるのかを護は知っていた。
向こうから、化け物達が迫ってくるのが見える。その後ろには、兵隊達まで。
佇む護の横に立つ少女はいう。
『自分にはどうしても出来なかった 』
護がなにかをいう前に、少女は黒い空をバックに飛び上がる。
止めようと必死に伸ばす手を少女は、届くのに握らなかった。
そして、敵の群れに正面から突っ込む直前、護の方にゆっくり振り返り言った。
いつもと同じ、悲しげな微笑みを浮かべながら、こう言った。
「忘れないで、生きていればかならずまた会える。だから、私のこと忘れないで 」
止める間も無かった。
彼女は、敵の群れに正面から突っ込み、そして.........護の意識はそこで途切れた。
「う........ここは......? 」護の眼に最初に入ったのは、天井に無数に張り巡らされたパイプ。
「いったい........僕は.......... 」
セブンスミストで佐天を無理やり逃がし、爆発物である人形を真上からからかけたGで覆うように地面に押さえ込んだ護だったが、いきなり力を使い過ぎた反動か.........
頭を激痛が走り、力のイメージを最後まで保てず、結果的に僅かながら爆発エネルギーを逃してしまい、その時のエネルギーをモロにくらった護は吹き飛ばされ意識を失った。
そして、気がついたらここにいる。暗くて不気味な部屋。体を起こし見渡してみて、この部屋がなんなのかを理解する護。
「ここは.......そうだ。だけどどうして....... 」
「興味深いな。ここの事も知っているのか、少年」
広い空間全体に均等に広がるような声。その声を放ったのは.......
「学園都市、統括理事長.......アレイスター・クロウリー...... 」
「ほう、やはり知っているか........さすがは『異世界』の人間だよ護くん 」
アレイスターの言葉に護は思わず身を震わせた。
「私が君の存在に気づいていないとでも、思っていたのかね。分かっていたさ、君が最初に現れた時から今まで私は君を見ていた」
護はすっかり失念していた。この世界に入り込んだ不確定要素を、アレイスターが放っておくはずがなかった。
「プランの障害になる可能性がある僕を、消すつもりなんですか」
護の言葉に、アレイスターは苦笑したようだった、すこし含み笑いの入った口調で続けた。
「それなら、わざわざ君をここには呼ばない。暗部組織に君を殺させてたよ。ましてやレベル5になど任命しない。」
「じゃあ、何故!」
「魔術、この言葉を君は知っているはずだ」
護の中で時が止まった。
「いや、悪いけど知らないです」
「嘘は良くない」
即座に否定された護。だが、そこで折れる護ではない。
「なにを、根拠に魔術を知ってるというんですか!」
「土御門..........彼の名を見たときの反応は、面白かった。 」
「さらに、君は意識していたか知らないが『幻想殺し(イマジンブレイカー)』。これついても君はなにか知っている素振りを見せている。それが根拠だ」
護は自分の能天気さを呪った。あまりにも不用心すぎた、だがアレイスターは何をさせるつもりなのだれう。
「納得して、もらえたかな?」
護はかなわない事を悟った。
「ええ、確かに僕は魔術の事は知っています。そして、この後、起こる事も」
「在るていど予言できる.......だね」
「はい........」
護には、アレイスターの考えが理解出来なかった。いったいなにをさせる気なのか.....
「君には、してほしい事がある。まずは私の指揮下で、新たな暗部組織を動かすリーダーになる事。そして、もう1つは........ 」
ここで、アレイスターは一度区切り、強調するようにこう言った。
「幻想殺しの監視、及び守護をしてもらいたい。未来を知る君なら、彼に起こることもわかるはずだ.......」
「それを断ったら........」
「あまり、お勧め出来ないね。君のためにも、そして君が守ろうとした少女のためにも」
守ろうとした少女。それが誰をさしているかは明白だ。
「佐天さんを人質にするのか.......」
「君が素直に動けば、なにも起きない。それだけのことだよ」
アレイスターは、もう1つ。思い出したように付け加えた。
「そうそう、君が率いる暗部組織にやってもらうのは、街の中、外での外部組織の討伐だよ。チーム名は『ウォール』。壁という意味だ」
アレイスターは、目の前で唇を噛む護に最後の問いをかける。
「さあ、どうする?『重力掌握』」
佐天は、護のアパートの側を歩いていた。こうしていればそのうちに彼が帰ってくると信じたかったのだ。セブンスミストで護が消えてから1週間。
護の行方はまったく分からず、初春が教えてくれた、アパート前にきてみても、護は帰ってこない。
こうして、毎日通って、落胆して帰る。それが日課となりつつあった。
「なんで、なんで、あの人が残ったんだろう......力がある護さんだけなら逃げられたのに、どうしてあんな終わり方にしちゃうのよ!後で会おうっていったのに、どうして消えてしまったの? お願い、姿を見せてよ........」
下を向き、涙を流す佐天。つい先日知り合ったばかりの相手に涙を流す不思議さを思いながらも、佐天は涙を止められなかった。
「佐天さん!」ビクッと佐天の肩が上がった。この声は、そして自分を『佐天さん』と呼ぶ男性は1人しかいない。
「護さん!」向こうから走ってきた護は、息をぜいぜい切らせつつも、佐天のほうを真っ直ぐ見つめた。
「ごめん、心配かけて......2度とあんな思いはさせない」
「私のことばかり考えないでください。自分のことも考えてくださいよ。護さんが傷付くのは、私は嫌です.......」
佐天の言葉に頷きつつも、心の中で手を合わせる護。
(ごめん。佐天さん。僕が傷付くのは避けられないかもしれない。だけど.......)
護は心に決める。
(たとえ、どんな闇に落ちようと、佐天さんだけは守り通す)
護は、学園都市の闇に飲み込まれながら、自分の意思を貫きとおすことを決めたのだった。
その結果。たとえ、この世界で死ぬこととなっても.......