Muv-Luv〜wing of white steel〜   作:lancer008

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第七十四話

蒼い炎を纏った機体が戦場を飛び回り、赤く大きな波を押し返そうとしていたが優に1万を超える戦車級の数に徐々に押されつつあった。そんな中でも幾筋もの光の線が発せられ戦車級に命中した。

 

「—————————!」

 

「—————長!—————です!」

 

「中佐————、今すぐ——————。」

 

その機体に向けて通信が入っていたが搭乗している衛士には聞こえていなかった。だが徐々にではあるが聞こえ始め、その発している言葉の意味を理解しようとしていた。

 

「中佐、撤退完了です!今すぐ退いて下さい。」

 

「隊長!」

 

搭乗していた衛士は意味を理解した。そして我に返り、

 

黒鉄「ランサー1、了解!これより最終防衛ラインまで撤退する!」

 

黒鉄は全速力で撤退した。その瞬間、黒鉄が先程までいた地点に多数の光が降り注ぎ大爆発を起こし周辺にいたBETAを飲み込んだ。爆炎は黒鉄をも飲み込もうとしたが間一髪のところで避けることが出来た。

 

黒鉄「全機、前方に向け全力攻撃始め!」

 

最終防衛ラインにいた全ての機体が黒煙の中にいるだろうBETAに向け攻撃を開始した。アクロススカイからの攻撃も続き、地表に響く振動は無くならなかった。数分後、攻撃が止んだ。煙が晴れたのを確認し黒鉄達は前方を確認すると大小様々なクレーターがあり、BETAの死体が多数転がっていた。

 

「周囲に反応無し。」

 

艦長「終わったか。艦長より全員に達するここに戦闘の終了を宣言する。動ける機体は重傷者の運搬を医療班は受け入れ準備だ。1人でも多く救え!基地の制圧状況は⁉︎」

 

「現在、再制圧中です。完了したのは格納庫とその周辺のブロックのみです。」

 

艦長「急がせろ。軽傷者は基地内で治療。後部銃座のデストロイド隊を生存者の捜索にあたらせろ。何処かに生き残っている者がいるかもしれん。」

 

「了解。通達します。」

 

黒鉄は月面基地の格納庫に降り立った。機体から降りようとした時、“WOWS"のメンバーが駆け寄ってきた。地面に足をつけ歩こうとした時、突然身体の力が抜け倒れそうになった。すんでのところでランサー2が受け止めた。

 

「中佐、大丈夫ですか⁉︎」

 

黒鉄「すまない。」

 

「あそこに座りましょう。」

 

黒鉄、治療スペースとなっている場所に腰を下ろした。医療班から酸素マスクを借りゆっくりと深呼吸をした。

 

黒鉄「俺はどのくらい戦闘をしていた。」

 

「2分程です。」

 

黒鉄「そうか。(ようやく反撃が始まろうとしているのに身体が限界だとはな。)アクロススカイに連絡してバトルスーツを送ってもらえ。到着次第、装備し基地内の再制圧開始する。」

 

「中佐、その身体では無理です。休んでたほうが。」

 

黒鉄「大丈夫だ。このぐらいで弱音を吐いていたら、何もできなくなるよ。」

 

「なら、30分程は休憩して下さい。制圧はそれからです。」

 

 

 

 

 

 

地球、舞鶴港

 

ナイトメア隊が続々と停泊していた空母に着艦を始めていた。周辺にいた者は何事かと思いながらナイトメア隊を見ていた。その中にも上丘がいた。

伊藤は空母“翔鶴”に着艦した。すぐに指令室へと赴き基地へ連絡を入れた。

 

伊藤「セイバー並びにナイトメア隊全機、舞鶴港に到着。目標は全て破壊しましたが一個中隊を失いました。現戦力でも戦闘は行えますので空母にて待機します。」

 

伊藤は連絡を終え甲板に上がった。着艦作業は終わり甲板には誰もがいなかった。伊藤は煙草を吸おうと火をつけようとした時、懐に入れといた電話が鳴った。

 

伊藤「上丘かどうした?」

 

上丘「少し話せませんか?」

 

伊藤「いいぞ。どこでだ?」

 

上丘「なら帝国海軍の戦術機母艦“大隅”に来てくれませんか?乗船許可はとっておきます。」

 

伊藤「わかった。今から向かう。」

 

 

 

戦術機母艦“大隅”

 

伊藤は上丘がいる後部デッキへと向かっていたが始めて乗艦する艦だっため道に迷っていた。乗員に聞こうとしたがほとんどのものが寝ていた為、聞くことも出来ずにいた。すると通路の奥から歩いてくる人がいた。伊藤は目を凝らしてみると知った顔だった。

 

白銀「あれ?伊藤少佐こんなところで何してるんですか?」

 

伊藤「良いところにきた白銀少尉。ちょっと道に迷ってしまってな後部デッキにはどう行けばいいんだ?」

 

白銀「俺もこれから行くところなので案内しますよ。」

 

伊藤「頼む。」

 

伊藤は白銀の後を追った。案内され後部デッキに行くとそこには上丘と伊隅がいた。結構長い間、待っていたらしく2人は伊藤を睨んだ。伊藤は恐る恐る左腕に着けていた時計を見ると先程、電話をしていた時間から1時間が経っていた。伊藤は理由を説明し頭を下げた。

 

上丘「少佐、遅いです。」

 

伊隅「伊藤少佐、迷うなら艦に乗艦する前に連絡を下さい。それより白銀、いつまでここにいるきだ?」

 

白銀「邪魔ですか?伊藤少佐を案内したついでに一緒に話しを聞こうと思ったんですが?」

 

上丘「白銀、お前も混ざれ。どうせ作戦前のブリーフィングで話すことになるんだ。少佐、今回の戦闘での被害はどれくらいですか?」

 

伊藤「月面基地の復旧は未定、艦もやられた。軌道降下兵団は壊滅、戦術機はあるが衛士がいない。デルタも20名以上が戦死、重軽傷者はその倍だ。アルファは一個中隊が全滅。」

 

上丘「だいぶやられましたね。ブラボーの方は?」

 

伊藤「作戦前だからな出撃許可が降りなかったんで被害は無し。」

 

上丘「もう、ぼろぼろですね。」

 

伊藤「伊隅大尉、もしもの場合の応援は不可能になった。言い訳ではないが、アルファは対光線種で殆ど動けない。ブラボーは橋頭保確保やハイヴ侵入口の確保。デルタは今も月面、機体のほとんどが整備により出せない。」

 

伊隅「黒鉄中佐の隊は?」

 

伊藤「また無理をし過ぎたようでな。機体の方は軽い整備と補給だけでいいんだが……………。」

 

上丘「それだけ凄まじい戦闘だったんですか?」

 

伊藤は頷いた。

 

伊藤「部隊を後退させるために限定的にだが、“n_i_t_r_o”を使用したようだ。」

 

上丘「使用時間は?」

 

伊藤「2分弱。」

 

伊隅「たった2分ですか?」

 

伊藤「そうだ。ここに来る前、黒鉄から連絡が来てな。“n_i_t_r_o”を使えるのは後1回のみ。これ以上使った場合、今度こそダメになると。」

 

上丘「それまでは俺たちで何とかするしか無いと?」

 

伊藤「普通の戦闘は行える。運命を変える決戦までは俺たちで支え合うしかない。」

 

伊隅「決戦とは?」

 

伊藤「オリジナルハイヴ最深部『あ号標的』。BETAが俺たち統合軍に対処する為、新種を生み出したように遅かれ早かれ今回の作戦に参加する新型兵器に対して新たなBETAが生まれる。その前に叩く必要がある。」

 

伊隅「ですが今すぐとは?」

 

伊藤「年内中には攻撃する。それが統合軍だけであっても。」

 

上丘「それは決定事項ですか?」

 

伊藤「そうだ。前々から決まっていた事だ。もし統合軍に対処する為のBETAが出てきた場合は、次の足掛けにならないよう早急に叩くと。」

 

上丘「ならブレイド隊を統合軍に戻して下さい。仲間が戦っている時にただ見ているのは腹が立ちますからね。」

 

伊藤「わかった。」

 

伊藤は持ってきていたタブレットを伊隅に渡した。それには心神の追加兵装の一覧が写真付きで映っていた。

 

伊藤「上丘、伊隅大尉、必要な兵装や装備がある時は遠慮無く言ってくれ。」

 

上丘「なら荷電粒子ライフルの拡張マガジン、グランドパックにて装備される装甲内搭載型マイクロミサイルを全機分。折曲式長長距離荷電粒子ライフルを三丁。」

 

伊隅「ウィングパックを全機分。グランドパックの腕部、背部バルカンを。これの荷電粒子系はありますか?」

 

伊藤「試験型だがな俺的には実弾をお勧めする。実弾型なら補給も可能だ。荷電粒子系はいい兵装だが補給がきかないのが難点だ。それでもいいか?」

 

伊隅「構いません。」

 

伊藤「わかった。直ぐに手配する。」

 

上丘「白銀、お前は何かいるか?」

 

白銀は伊隅が持っていたタブレットを借り兵装を見た。

 

白銀「この大型対艦刀て何ですか?」

 

伊藤「荷電粒子系の大型刀だ。本来は両手持ちだが片手でも使用可能だ。ただ、その場合は機体の出力を変える必要がある。」

 

白銀「可変機の兵装は付けられないんですか?」

 

伊藤は少し考え、

 

伊藤「付けられないこともない。何が欲しい?」

 

白銀「黒鉄中佐の機体に装備されている荷電粒子系の剣です。あれがあれば刃こぼれもしませんし長刀と比べて軽い筈です。」

 

伊藤「使い捨てになるが大丈夫か?」

 

白銀「大丈夫です!」

 

伊藤「わかった。船が出港した後、内の整備員が乗艦してくるからどこに装備させるかは話あって決めてくれ。伊隅大尉、あとで新種のデータを送っておく。今回の戦い気を付けろよ、何があるかわからない。」

 

伊藤はその場を去ろうとした時、伊隅から止められた。

 

伊隅「少佐、風間には会っては行かれないんですか?」

 

伊藤「今、会ったら俺も風間も未練が出来てしまうだろ。それにこの作戦が終われば、また会える。」

 

伊藤は空母“翔鶴”に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

月面基地

 

黒鉄は休憩を行った後、部隊員とともに基地の制圧作業を行なっていた。突発的な小規模な戦闘はあったものの着々と制圧していった。

月面基地周辺ではデストロイド隊が生存者の捜索にあたっていた。そんな時、基地の東側を捜索していた分隊から報告が入った。

 

「こちらデストロイド7-9、戦術機を発見した。これより回収作業に入る。」

 

「こちらデルタ1、付近に衛士は確認できるか?」

 

「確認出来ません。コックピットはレーザーで撃ち抜かれています。」

 

「部隊番号は確認出来るか?」

 

「確認しました。1-1、照合しました。………第1軌道降下兵団……団長狭霧 直哉大尉の機体です。」

 

「了解しました。機体の回収をお願いします。」

 

「これより回収す……………。んっ‼︎デルタ1へ!生存者発見!繰り返す生存者発見!医療班を待機させてくれ!」

 

「こちらデルタ1、生存者の数は⁉︎」

 

「生存者者は1名!手足を欠損している模様、これより搬送する!」

 


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