Muv-Luv〜wing of white steel〜   作:lancer008

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第七十七話

「昨日の作戦により我が統合軍はクーデター以来となる大損害を被りました。詳細については戦術航空団は1個中隊とイージス隊1機が撃墜、その他の機体は小破もしくは中破、衛士13名が戦死、5名が軽傷です。第1戦術機甲大隊は小破もしくは中破が10機、3名が軽傷。第2戦術機甲大隊は小破もしくは中破が7機、大破が3機内1名が重体、2名が重軽傷。第3戦術機甲大隊は中破が6機、大破が5機、4名が重体内2名が意識不明。戦術機部隊は幸いにも戦死者は出なかったものの機体の損傷が激しいものもあるので整備を最優先にします。デルタ大隊ですがまだ報告をもらっていませんので山城准佐、報告をお願いします。」

 

山城「アクロススカイの損害は軽微ですが、月面基地防衛戦で使用したデストロイド隊は5分の1が中破以上、衛士は13名が重軽傷。ファング隊は6機小破、12機中破、2機の内1機が撃墜、もう1機は大破。2名戦死、14名が重軽傷。アームズ隊は3機撃墜、3名が戦死。バイパー隊、6機中破、1機撃墜。アーチャー隊は損傷無し。先程話した通りデストロイド隊では機体が5分の1となる24機が中破、衛士13名が重軽傷。それに加え突入部隊として参加した衛士とアクロススカイ戦闘員は合計で16名が戦死、30名以上が重体ならびに重軽傷を負いました。デルタ大隊からは以上です。」

 

「月面基地の被害は既に手元の資料でわかる通りです。」

 

全員から深い溜息が出た。

 

「月面基地はもう無理か……………。司令、ご決断を。」

 

「デルタ大隊と特殊作戦部隊に通達、現時点をもって月面基地を放棄、統合軍基地へ帰投せよ。」

 

その場にいた全員に衝撃が走ったが、ただ1人納得出来ない者がいた。数十秒間の沈黙が終わった時、

 

上総「ちょっと待って下さい‼︎我々、デルタ大隊が命を懸けて守った月面基地をBETAに明け渡すのですか⁉︎」

 

「山城准佐、気持ちは分かるがこれ以上は損害を出したくない。」

 

上総「ですが!」

 

ここで黒鉄が口を開いた。

 

黒鉄「山城准佐、これ以上この月面基地を守っても無意味なんだ。既に月面基地の90%が使用不能に陥り、軌道降下兵団も壊滅した。」

 

上総「そんな事は分かってます。私が言いたいのは!」

 

黒鉄「あのクソ野郎どもにタダで明け渡すとは言ってない。司令、反応弾の使用許可を、使用目的は月面基地の破壊です。」

 

司令は少し考える素振りを見せたが伊藤の方を向き、

 

「伊藤少佐、すぐに出撃できるとしたらどのくらいだ?」

 

伊藤「我がセイバー隊とナイトメア隊の2個小隊です。」

 

「セイバー隊から2機、ナイトメア隊1個小隊を連れ月面基地へ向かってくれ。反応弾の使用弾数は各機2発。それでも完全に破壊出来ない場合はアクロススカイと搭載部隊の全火器を使って完全に破壊せよ。デルタ大隊は戦術航空団が到着するまでの間、戦死者の遺品を回収せよ。」

 

各部隊長は頷いた。

 

「では、これにて終わります。黒鉄中佐、伊藤少佐、山城准佐は別件がありますので残って下さい。」

 

他の部隊長は早々と出て行った。

 

「国連軍横浜基地A-01部隊として今作戦に加わっていた上岡 蒼紫大尉についてです。戦死に基づき階級については二階級特進で良いのですが何分、国連軍の特殊部隊にいたため遺族の方には戦死と通知できませんが統合軍としては統合軍内の別の部隊にいたとして通知を出したいのですが?」

 

黒鉄「構わないと思うが司令からの許可は?」

 

「既に下りています。」

 

黒鉄「なら構わない。他にはあるか?」

 

「司令からこれを使って早急に全衛士で訓練を行ってほしいそうです。」

 

黒鉄の元にある書類が通信員から届けられた。

 

黒鉄「これは?」

 

「分析班が一連のBETAの行動を元に作った新たな訓練用プログラムです。」

 

上総「それなら全部隊長がいた時に話した方が良かったんじゃないの?」

 

黒鉄は書類の中に目を通していき、軽い溜息を吐きながら。

 

黒鉄「いや、このプログラムは統合軍や他軍では勝てないが、俺たちは勝てるということか。」

 

伊藤も渡された書類を見た。

伊藤「そういうことか。」

 

上総「どういうことよ?」

 

黒鉄「今までの対BETA戦略は通用しなくなるという事だ。」

 

黒鉄は持っていた書類を上総に渡した。

 

黒鉄「了承した。だが訓練をするのは統合軍基地に帰投してから行う。今は休むことが先決だ。伊藤、地球軌道上にあるフォールド・ブースターを使え。BETAが来る前にさっさとずらかるぞ。」

 

伊藤「話は終わりだな。これより出撃準備に入る。デフォールド次第、連絡を入れる。」

 

伊藤は部屋から退室した。黒鉄も上総を連れ格納庫へと向かって行った。

格納庫へ着くと第6部隊を除く全部隊長を召集した。

 

上総「戦術航空団が到着するまで月面基地の破壊作業を開始します。破壊場所は作戦指令室、格納庫、艦船用ドック、弾薬庫、各砲台。やり方は貴方達に任せるわ。」

 

進藤「折角守ったところを自ら破壊することになるとは。」

 

狭間「文句を言っても仕方ないでしょう。ラー・カイラム級2隻はどうしますか?」

 

黒鉄「…………それは俺がやる。他を頼む。」

 

狭間「わかりました。振り分けはこちらで行います。」

 

黒鉄は進藤に後のことを頼み自室へと向かった。自室にある机の前に行き、ある写真を手に取った。そこに写っていたのはラー・カイラム級とノーマルスーツを着た黒鉄と伊藤、他数名だった。黒鉄は写真を悲しむように見た。

 

黒鉄「(今度は自らの手で沈めることになるとはな。あいつらに申し訳がたたないな。)」

 

黒鉄は元いた世界で部下と乗艦していた艦を失った。その時に乗っていたのがラー・カイラム級3番艦ロー・アイアスだ。第2次ネオ・ジオン抗争終盤に就役し、黒鉄と伊藤が所属していた地球連邦軍外郭部隊ロンド・ベル隊デルタチームの旗艦である。ただし、この記憶はすり替えられた記憶であり、事実ではないが本人にとっては本当の記憶でもある。

 

黒鉄は格納庫に行き自身の機体に乗り込んみラー・カイラム級2隻の元へと向かった。既に他の破壊場所では作業が実行され閃光が絶え間なく上がっていた。2隻の元に辿り着くとファンネルを展開しロングメガバスターを構えた。

 

黒鉄「すまない……………。」

 

黒鉄は謝罪の言葉と同時にロングメガバスターを機関部に向け撃った。同様にファンネルも艦全体に命中するよう撃ち続けた。撃ち始めてから数十秒後、2隻ともに大爆発を起こし、黒鉄はそれを敬礼しながら眺めた。周辺にいた衛士も同じだった。

 

黒鉄はアクロススカイへと帰投した。機体から降り整備員に何も伝える事なく無言で自室へと向かった。

自室へと向かうと扉の前に上総が立っていた。

 

黒鉄「どうした?」

 

上総「何も。ただ貴方が心配になっただけよ。」

 

黒鉄「そうか。」

 

黒鉄は扉を開けると上総に入るかと尋ねた。上総は部屋に入り近くにあった椅子に座った。

 

黒鉄「伊藤が到着次第、撤退する。それまでに第3部隊以外は全て収容しといてくれ。」

 

上総「そんな事、言われなくてもわかってるわ。私が心配しているのは貴方の事よ黒鉄。一人で全部を抱え込まないで私にも話したらどう?」

 

黒鉄「そうだな。」

 

黒鉄も椅子に座り話し始めた。

上総は黒鉄が別世界の人であったことは知っていたが詳しくは知らなかった。何故なら伊藤も同じく話そうとはしなかったからだ。所属していた部隊名を教えることはあったがどんな部隊でどんな任務についていたかは教えなかった。上総は初めて黒鉄から聞いた話に息を飲んだ。

上総は信じられないでいた。いつも冷静沈着で戦闘や作戦指揮を行ない、いつも明るく部下に接していた黒鉄が自身の拳を握りしめ感情を露わにしていたからだ。そんな黒鉄を見た上総はどんな言葉を掛けるべきか悩んだ。すると上総は椅子から立ち上がり黒鉄の正面から手を回し優しく抱きついた。

 

上総「貴方はもう罪を償ったじゃない。この世界に来てから多くの人を救ってきた。それに黒鉄は日本帝国統合軍の特殊部隊長じゃない、そんな顔してたら部下にも他の部隊の衛士にも影響を与えてしまうわ。黒鉄、一緒に乗り越えて行きましょう。私はあなたの……………。」

 

上総は途中で口を噤んでしまった。今度は今まで黙っていた黒鉄が口を開き、

 

黒鉄「その先は分かっているよ。ありがとうな上総、俺の為に。」

 

黒鉄は上総にキスをした。そして部屋の中では衣服が擦れ合う音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、統合軍基地では伊藤を隊長とする月面基地派遣隊が発進の準備を終え待機していた。伊藤は不在の間を坂井に頼み、発進許可を待った。

許可がおりるとすぐに機体を加速させ宇宙向かって飛んでいった。宇宙まで上がると目標地点にてフォールド・ブースターを装備し月面基地へとフォールドを開始した。

 

月面基地に着くと停泊していたアクロススカイから反応弾を受領し取り付け作業を開始した。その間、黒鉄に会おうと思い自室へと向かおうとしたところ進藤から呼び止められた。

 

進藤「今はやめといた方がいいですよ。山城准佐も黒鉄中佐と一緒ですし。」

 

伊藤は進藤が言った意味を理解し、格納庫内で進藤と話すことにした。

 

伊藤「ある程度の破壊作業は済んだのか?」

 

進藤「はい。重要な区画に関しては跡形もなく。」

 

伊藤「なら、俺たちの役目は仕上げということか。」

 

伊藤は何かを思い出したかのように、

 

伊藤「ラー・カイラム級はどうした?」

 

進藤「2隻とも黒鉄中佐が跡形もなく破壊されました。」

 

伊藤「そうか…………。こっちの準備は出来たのか?」

 

進藤「ええ、出来ました。命令があればすぐにでも開始します。」

 

伊藤「なら今すぐにでも始めてくれ、爆破範囲外まで行けばこちらも放った後、すぐにフォールド出来る。」

 

進藤はインカムを手に取り、

 

進藤「了解しました。ではこれより月面基地に向け攻撃を開始します。

 

何故、進藤が攻撃命令を出しているのかというと上官である上総から頼まれ、指揮権を一時的に行使しているからである。

 

アクロススカイや甲板にいたデストロイドから多数のビームやミサイルが放たれ月面基地に絶え間なく降り注いだ。至る所で閃光や爆発音が鳴り響いき徐々に基地という形が無くなり始めた。月面基地の設計は、戦艦の主砲でも耐えられるよう設計されており簡単に破壊されることはない。

伊藤は機体を動かし発艦準備にかかった。

 

伊藤「全機、発艦後、編隊を組み射程内まで前進する。前進後、反応弾を発射、全速でアクロススカイに向かいフォールドでこの宙域を離脱する。」

 

「破壊状況を確認しないんですか?」

 

伊藤「確認してもしなくても。もうあの基地は使えない。デルタ大隊には悪いが俺たちもさっさと帰って休むぞ。」

 

 

 

 

このやり取りから数分後、計12発の反応弾が発射されその全てが月面基地に命中、統合軍基地ではすぐに衛星から撮った画像を解析したところ月面基地があったとされる場所は跡形もなく無くなっていた。

 


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