Muv-Luv〜wing of white steel〜 作:lancer008
12月26日
アクロススカイと戦術航空団第1部隊は統合軍基地に帰投した。アクロススカイはそのままドック入りし損傷箇所の修理に入った。
黒鉄は艦を降り、伊藤とともに車に乗り国連軍横浜基地へと向かった。
その道中、
伊藤「本当に渡すのか?」
黒鉄「あちらから許可が下りればな。」
伊藤は深い溜息をついた。
伊藤「進藤から聞いたぞ。ラー・カイラムを破壊したそうだな。」
黒鉄「ああ。流石に堪えたよ。」
伊藤「俺よりもお前の方が付き合いが長かったからな。」
黒鉄「ああ。」
伊藤「再建はするのか?」
黒鉄「今は無理だ。この状況が続くようなら戦術機開発に予算と資源をまわした方がいい。再建はそれからでも出来る。」
そうこう話しているうちに横浜基地に到着した。基地内に入りあるブリーフィングルームに行き中に入った。中に入ると伊隅と突撃前衛を務める早瀬 水月中尉と迎撃後衛の宗像 美冴中尉がいた。
伊隅「お久しぶりです。黒鉄中佐。」
他の2人も自己紹介をし敬礼した。
黒鉄も敬礼を返し自己紹介をした後、本題に入った。
黒鉄「沙霧少佐の遺品だ。許可が下りるなら彼女に渡したい。」
伊隅「遺品の内容は?」
黒鉄「ノーマルスーツのヘルメットだ。回収出来たのはこれだけだった。」
早瀬「ヘルメットてことは遺体も回収したんですか?」
黒鉄「いや、機体の回収作業中に宙に浮かんでいるのを回収班が見つけた。回収班の話だとコックピット部分は酷くやられていたとの事だった。」
伊隅「わかりました。遺品はこちらで預かります。作戦が終わってまだ間もないのである程度時間が経ったら彩峰に渡したいと思います。」
黒鉄「わかった。」
黒鉄はヘルメットが入った箱を伊隅に渡した。
続けて黒鉄は伊隅に尋ねた。
黒鉄「伊隅大尉、上岡の遺品を貰いたい。」
伊隅「良いですがどうなさるのですか?」
黒鉄「親族に渡す。我々の方では預かっておけないのでな。それと伊隅大尉、一つお願いがある。」
伊隅「何でしょうか?」
黒鉄は統合軍が使っているハンヴィーで第2帝都東京を走っていた。助手席には統合軍制服を着た伊隅大尉が座っていた。
伊隅「黒鉄中佐、一ついいですか?」
黒鉄「何だ?」
伊隅「佐渡島上陸前日に上岡少佐本人から聞いたのですが。家族は全員、本土防衛戦時に亡くなったと聞いたのですが?」
黒鉄「その通りだ。」
伊隅「ならこの遺品は誰に?」
黒鉄「相手側の親にだ。上岡から許嫁がいた事は聞いているだろう?」
伊隅は頷いた。
黒鉄「上岡とその許嫁は幼馴染で相手側の親も上岡の事を小さい頃から知っているとの話だった。」
伊隅「その話は誰から?」
黒鉄「ブレイド2から聞いた。ブレイド2と3は上岡が斯衛にいた時の部下だ。」
それから20分後には目的地に着いた。
目的地は周りを塀で囲まれた大きな屋敷だった。表札には「剣崎」と書かれていた。
黒鉄と伊隅が塀の中に入ると1人の男性が庭の手入れをしていた。その男性は黒鉄と伊隅に気付くと、
「何か用かね?」
黒鉄「日本帝国統合軍所属、黒鉄 達海中佐と申します。剣崎 宗輔さんはいらっしゃいますか?」
「私が宗輔だが。」
男性が宗輔と名乗ると黒鉄は手に持っていた鞄から封筒を取り出し男性に渡した。
宗輔は封筒を開け中身を確認するとゆっくりと瞼を閉じた。そして、目を開け黒鉄を見た。
宗輔「どうぞ上がって下さい。」
宗輔は玄関の戸を開け黒鉄たちを家の中へと入れた。応接室に通されると座るよう促され黒鉄と伊隅は椅子に腰を掛けた。
黒鉄は懐から名刺を取り出し宗輔に渡した。
宗輔「統合軍ですか。初めて聞く名前ですな。」
黒鉄「新設されたばかりなので知らないのも当然だと思います。」
宗輔「蒼紫殿もこの軍に所属を?」
黒鉄「はい。」
宗輔「蒼紫殿の最後は?」
黒鉄「衛士として立派な最後でした。」
そして上丘がどうのようにして戦死したのかの話しになった。殆どが機密事項になる為、正確な事は言えなかったものの宗輔は真剣な眼差しを黒鉄に向け話しを聞いていた。
伊隅はそんな中、迷っていた。自分も何かしらの発言をした方が良いのかと。
黒鉄「私が知っているのはここまでです。後のことは伊隅大尉が。」
伊隅「はい。紹介が遅れて申し訳ありません。日本帝国統合軍デルタ大隊第1部隊ブレイド隊副長をしております伊隅 みちる大尉であります。」
本来は国連軍所属だが特殊部隊ということもあり、今回は統合軍所属ということで黒鉄と取り決めを行なっていた。
伊隅も話し始めたが黒鉄はあることに気づいた。先程まで真剣だった宗輔の目が今は、疑いを持っているものに変わっていた。黒鉄は少し考え、
黒鉄「伊隅大尉、ちょっといいか?」
伊隅「はい。大丈夫です。」
黒鉄「剣崎さん、話しを中断させてしまって申し訳ない。もしこれから聞くことを他言無用にするなら真実をお話しします。」
宗輔「やはりですか。伊隅さんの話を聞いていたら黒鉄さんとは違う事をおっしゃていたので。蒼紫は本当にBETAと戦って戦死したのですか?」
黒鉄「はい。伊隅大尉、詳細を頼む。」
伊隅「まだ私は副司令の方から許可を貰っていません。」
黒鉄「大丈夫だ。俺が責任を持つ。それに統合軍からはある程度までの情報開示許可が出ている。」
伊隅「わかりました。上岡少佐は佐渡島での戦闘中、機密保持の為、自爆しました。」
宗輔「自爆ですか。自爆を、自爆をしなけばいけない理由があったのですか?」
伊隅「人類の切り札ともいえる機体の情報を敵に奪われないためです。」
宗輔「納得するしかないのでしょうな。黒鉄中佐、少し2人でお話したいことがあります。」
黒鉄「伊隅大尉、先に車で待っててくれ。」
伊隅「わかりました。」
伊隅は敬礼をし退室した。
暫くすると宗輔が口を開いた。
宗輔「黒鉄中佐、この遺品は受け取れません。私がどういう理由でここに暮らしているのかわかるでしょう。」
黒鉄「存じています。だからこそ受け取って頂きたい。」
黒鉄は立ち上がり、頭を下げた。
宗輔「わかりました。」
宗輔は遺品を受け取り中身を見た。すると一筋の涙を流し俯いたまま歯を食いしばっていた。
黒鉄「では、失礼します。」
黒鉄が退室しようとした時、
宗輔「伊隅大尉が蒼紫と最後に言葉を交わした方ですか?」
黒鉄は頷き退室した。車へと向かい乗車すると横浜基地へと車を走らせた。
横浜基地に着き伊隅が降りようとした時、黒鉄は伊隅にある物を渡した。それは月面基地での戦闘記録とそれを元にして作られたシミュレーションのデータだった。
黒鉄「やり方はブレイド2が知っている。もし聞きたいことがあったら連絡してくれ。」
黒鉄は伊隅を降ろし統合軍基地に向かった。
統合軍基地にある会議室ではデルタ大隊の第1から第5までの隊長が集まり会議をしていた。そこに遅れて黒鉄が入室した。会議の内容は、機体の補充、今後の対BETA戦略、それに伴う新兵装の開発だった。
上総「黒鉄中佐、機体の補充は可能ですか?」
全員が黒鉄の方に顔を向けた。
黒鉄は首を横に振り、
黒鉄「デストロイドならまだしもジェスタは無理だ。腕部、脚部の部品はまだ残っているが本体となれば話しは別だ。あの機体は元々、原型機とは仕様も外見も大きく違う。」
進藤「黒鉄中佐、少しいいでしょうか?」
黒鉄「何だ?」
進藤「以前、製造プラントから回収してきたエンジンとジェスタ型2機は今どこに?」
黒鉄「エンジンは斯衛軍と共同開発を行っている新型戦術機に。ジェスタは転換訓練用にだ。」
進藤「そのジェスタは使えないのですか?」
黒鉄「使えるが俺たちが使っているジェスタとは能力値が全然違う。俺たちが使用しているのは一つの能力に特化した機体だ。もし補充機として使用するなら俺はお勧めはしない。」
黒鉄は続けて、
黒鉄「全員に話しておかなければならない事がある。これは山城准佐も知らない事だ。本日14:00を持って戦術航空団とデルタ大隊を統合し機動部隊として再編する。」
黒鉄を除く全員が驚いていた。
上総「理由は?」
黒鉄「両部隊の戦力低下だ。特にデルタ大隊に関しては約3個中隊を失った。」
上総「それだけで統合するの?戦術航空団と私たちの機体では仕様がまるっきり別物なのよ!それは貴方が一番知っているじゃない!」
デルタ大隊に所属する部隊長の面々は驚きを隠せないでいた。いつも冷静に物事を判断し指示を行う上総がここまで感情をあらわにすることが。
それは黒鉄も同じだった。黒鉄も元はナイトメアのパイロットでありデルタ大隊の隊長でもあった。
黒鉄「そんな事は分かっている。」
黒鉄は落ち着いた様子で話し始めた。
黒鉄「機体、衛士の補充が未定である以上、このままにはしておけない。いつBETAが再上陸してくるか、わからないんだ!」
その場にいた全員がわかっていたことだ。だが抵抗感もあった。今までデルタ大隊単独で戦闘を行い勝利を収めてきた。そこに他部隊が加われば足並みが揃わなくなるのではないかと。
ここで1人の部隊長が黒鉄に質問をした。
進藤「黒鉄中佐、それは“命令”ですか?」
黒鉄「………命令だ。」
進藤「わかりました。今回の再編の件、了承します。自分は軍人です。上官の命令に従うのが義務です。」
葛木「自分も進藤中尉と同じです。」
狭間「同じく。」
山谷「自分も。」
上総「受け入れるしか無いわね。」
上総は少し考え、
上総「黒鉄中佐、貴方の部隊も加わって下さる?」
黒鉄「上の連中に掛け合ってる最中だ。うちも可変機であるが戦術航空団に比べて機動力は無い。拠点となる筈だったラー・カイラム級も無いしな。」
葛木「独立して動くには拠点となる所が必要てことですか?」
黒鉄「そうだ。アクロススカイならばVFとYF、MSどちらも運用出来る。今まで行えなっかた作戦も行えるようになるしな。」
上総は突然、口を開き、ここにいる誰もが思い掛けない言葉を聞いた。
上総「黒鉄中佐、もし加わったら搭載部隊の指揮官やって下さる?」
黒鉄は少し考え、
黒鉄「考えとくよ。」
とここでノック音が鳴り、黒鉄は入室を許可すると坂井が入って来た。
坂井「黒鉄中佐、伊藤少佐から電話が来ています。」
黒鉄「ああ、わかった。」
黒鉄は会議室から出て事務室へと向かった。その道中、ズボンのポケットから携帯を取り出し起動すると伊藤から10回以上の電話が掛かってきていた。
黒鉄は事務室に行き電話に出ると相手は伊藤だった。
伊藤「黒鉄、よくも置いていったな。あと伊隅大尉に渡したデータ、これでいいのか?」
黒鉄「何が入ってた?」
伊藤「データはバジュラとの最終決戦と星一号作戦が入ってた。」
黒鉄「それでいいんだ。バジュラはともかくA-01の力なら星一号作戦ぐらいは生き残れると思ってな。それに星一号を生き残れないようならオリジナルハイヴ攻略は無理だ。」
伊藤「お前が言いたいこともわかったし、何でこのデータなのかもな。」
黒鉄「もう言う必要はないな。ナイトメア隊の方はバジュラだけで充分か?」
伊藤「ああ、今あいつらに必要なのはあいつらが一番わかっている。」
黒鉄「わかった。迎えの方なんだが?」
伊藤「こちらから連絡するからその時で頼む。ある程度出来るようになるまで見ていきたいからな。」
黒鉄「わかった。」
黒鉄が電話を切ろうとした時、伊藤は黒鉄を呼び止め、
伊藤「伊隅大尉の事だが、相手側は知っているのか?」
黒鉄「ああ、知っている。連れて行ったのもその為だしな。」
伊藤「俺から話しておくぞ。」
黒鉄「頼む。」
黒鉄は電話を切り会議室へと戻った。上総にもデルタ大隊用のシミュレーションデータを渡し部屋を出て行こうとしたが山谷から呼び止められた。
内容は、飛行仕様を第1部隊と同じ近接・空挺仕様に変更してほしいとの事だった。
黒鉄「出来なくもないが理由は?」
山谷「飛行級が出現した今、強行偵察はほぼ不可能になりました。それに我々の腕ではあの距離での光線を避けるのは誰一人としていません。これ以上続けたらいたずらに死人が増えるだけです。」
山谷は続けた。
山谷「これからの作戦、ハイヴ攻略が主となる筈です。その時一番必要なのは近接仕様です。空はナイトメア隊が確保し、陸は我々の役目だと思っています。黒鉄中佐、再編成はその為でしょう?」
黒鉄「あぁ、そうだ。だが第4部隊は陸には降ろさせない。機体の装備変更は必要だが第4部隊には再編成後、アクロススカイの直掩機として動いてもらう。」
山谷「ですが⁉︎」
黒鉄「今まで空で戦ってきた者たちがいきなり陸で戦うのは酷だ。少しずつ慣れてもらう。」
山谷「わかりました。」
山谷は納得しきれない様子だった。同部隊にいた殆どの者が前線で戦い散っていった中、自分達は後方からの攻撃や一撃離脱が主だったからだ。山谷が黒鉄に向けて言葉を発しようとした時、進藤から止められた。
進藤「山谷、この艦は俺たちの家だ。誰かが守ってやらないと、この大隊の中で空中戦に一番強いのは第4部隊だけだ。山谷中尉、この艦を頼む。」
山谷は自身の運命を決めたのか大きく頷いた。
黒鉄「先程も山谷から出たように我々の主な作戦内容はハイヴ攻略だ。その為に各部隊の装備を変更する。各部隊長はこれから行うシミュレーションを使い自分達にどんな装備が必要なのか案を出して貰いたい。」
黒鉄を除く全員が頷いた。黒鉄はシミュレーションデータの使い方の説明を行い、その後部屋を出た。
少し時間は戻り、伊藤が黒鉄とデータの内容確認を終えた後、伊藤は伊隅達にシミュレーターに乗るよう促した。
伊藤「今から行うのは俺が前々世界にいた時に起こった醜い戦争の最終決戦だ。もし途中で具合が悪くなったりしたらで出て来ても構わない。最初だからな。」
白銀「すいません。質問いいですか?」
伊藤「なんだ?白銀。」
白銀「作戦名とかってはあったんですか?」
伊藤「作戦名は“星一号作戦”、地球人の運命を掛けた戦いだ。その眼に焼き付けろ。」